ステンレススクラップは、同じ「ステンレス」でも含有するニッケルの量によって取引価格が数倍変わる金属くずです。ニッケルを含むSUS304が1kgあたり200円前後で取引される一方、ニッケルを含まないSUS430は鉄くずと同水準の価格で扱われることも珍しくありません。しかも両者は見た目がよく似ており、磁石による判別にも例外があります。分別の精度がそのまま売却額に跳ね返る素材といえます。
この記事では、ステンレススクラップの定義、種類ごとの特徴と価格差が生まれる理由、判別の方法、発生源、買取相場を左右する要因、産業廃棄物として処理が必要になるケースについて詳しく解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、鉄を主原料とする製品・設備の廃棄や資源循環を起点に、サーキュラーエコノミーへの移行を支援するサービスです。 廃棄物を国内製鉄所等へ還流させるクローズドループの構築など、カーボンニュートラルや循環型社会の実現に向けた取り組みを、コスト削減と両立する形で支援します。ステンレスを含む金属スクラップの回収・再資源化スキームを検討したい場合にはぜひご相談ください。
1.ステンレススクラップとは|金属くず・鉄くずとの違い

ステンレススクラップは、法令上の区分と取引実務上の扱いが一致しない素材です。ここでは、定義と位置づけを整理します。
(1)ステンレススクラップの定義
ステンレス鋼とは、鉄を主成分とし、クロム(Cr)を10.5%以上含む合金鋼です。クロムが表面に不動態皮膜と呼ばれる薄い保護層をつくることで錆びにくくなる性質を持ち、JIS規格では「SUS」の略号が付されることから「サス」とも呼ばれます。
一方で、実務の場面では「ステンレススクラップ」という呼び方が一般的です。行政文書では金属くず、リサイクル業や取引の場面ではスクラップという使い分けがされており、指しているもの自体は同じです。金属くずとスクラップという呼称の違いについては、「産業廃棄物の鉄くずとは?マニフェストや買取時の注意点、リサイクル」で整理しています。

(2)鉄くず・非鉄金属くずとの位置づけの違い
ステンレススクラップは、鉄をベースとしながら、取引上は非鉄金属くずに近い扱いを受ける特殊な位置づけにあります。
| 鉄くず | ステンレススクラップ | 非鉄金属くず | |
|---|---|---|---|
| 主成分 | 鉄 | 鉄(クロム10.5%以上を含有) | 銅、アルミ、鉛など |
| 価格の決まり方 | 国内の鉄スクラップ相場 | ニッケル国際相場の影響を受ける | 各金属の国際相場 |
| 価格水準の目安 | 数十円/kg | 鋼種により鉄くず並み〜その数倍 | 素材により大きく異なる |
| 選別の方法 | 磁力選別が有効 | 磁石では判別しきれない場合がある | 比重・色調・分析 |
(3)有価物として扱われる場合と産業廃棄物として扱われる場合
ステンレススクラップは、取引の実態によって有価物と産業廃棄物のどちらにもなり得ます。
2.ステンレスの種類と分類|価格差が生まれる理由

ステンレススクラップの価格差は、金属組織の系統とニッケル含有量によって決まります。
(1)オーステナイト系とフェライト系の違い
ステンレス鋼は金属組織によって分類され、スクラップの価格を左右するのは主にオーステナイト系とフェライト系の違いです。
| オーステナイト系 | フェライト系 | |
|---|---|---|
| 代表鋼種 | SUS304、SUS316 | SUS430、SUS410 |
| ニッケル | 含む(おおむね8%以上) | 含まない(含んでもごく微量) |
| 磁性 | 常態では非磁性 | 磁性あり |
| 別称 | 18-8ステンレスなど | 18クロム、クロム系など |
| スクラップ価格 | 高い | 鉄くずと同水準になることが多い |
JOGMEC資料では、ニッケル需要の約7割がステンレス鋼向けとされ、世界のステンレス鋼生産量は2020年の5,100万tから2024年の6,300万tへ増加しています。インドネシアのフェロニッケル輸出量も同期間に290万tから970万tへ伸びています。ステンレス向け需要の大きさは、ニッケル市況がSUS304などのスクラップ査定に波及しやすい構造を裏付けます。ただし、2025年値は1~9月実績を基にした見込みで、地域区分や出所も年により異なります。
(2)主要な鋼種ごとの特徴
実務で扱う機会が多い鋼種は、以下のとおりです。
| 鋼種 | 主な成分の目安 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SUS304 | クロム18%・ニッケル8% | 最も流通量が多い汎用鋼種。18-8ステンレスとも呼ばれる | 厨房機器、建築金物、タンク、家庭用品 |
| SUS316 | SUS304にモリブデンを添加 | 耐食性が高く、塩分や薬品に強い。SUS304より高値 | 化学プラント、船舶、医療機器 |
| SUS310 | ニッケル含有量が高い | 耐熱性が高い。ニッケル分が多いため高値で取引される | 熱処理炉、高温設備 |
| SUS430 | クロム18%・ニッケルなし | 磁性あり。18クロムとも呼ばれ、スクラップ価値は低い | 家電外装、内装材、一般什器 |
| SUS410 | クロム13%前後・ニッケルなし | 13クロムとも呼ばれる。磁性あり | 刃物、タービン部品 |
ステンレス製品には、「18-8」「18-10」「18」といった表示が刻印されている場合があります。18-8はクロム18%・ニッケル8%を意味しSUS304を、18-10はSUS316を、単に18とあるものはニッケルを含まないSUS430を指すのが一般的です。単に「STAINLESS」とだけ表示されている製品も多く、その場合は表示から鋼種を確定できません。
図表では、建材用ステンレスの代表鋼種について、Cr・Ni・Moの重量比と用途を対比しています。ASTM 430相当はCr16.5%でNiの記載がない一方、304相当はCr18.1%・Ni8.1%、316相当はCr17.2%・Ni10.1%・Mo2.1%です。ニッケルやモリブデンの有無が鋼種別評価を左右するため、刻印確認と材質別保管の根拠になります。ただし、表はEN規格の建材向け代表値であり、JIS鋼種の保証値ではないため、刻印不明品は成分分析が必要です。
(3)種類の見分け方と誤判定のリスク
現場での判別方法は、刻印の確認、磁石による選別、成分分析の3段階です。
刻印が読み取れる製品であれば、前項のとおり表示から鋼種を推定できます。刻印がない場合に広く使われるのが磁石で、オーステナイト系は常態では磁石につかず、フェライト系・マルテンサイト系は磁石につくという性質を利用します。
この性質が問題になるのは、多くの買取事業者が磁石につくステンレスを鉄くず扱いで受け入れる運用を採っているためです。加工によって磁性を帯びたSUS304を「磁石についたからSUS400系」と自己判断して仕分けると、本来200円/kg前後で売れるはずの材を鉄くず単価で手放すことになります。逆に、SUS430をSUS304として申告すれば、受入時の検収で減額や引き取り拒否につながります。
3.ステンレススクラップの発生源・具体例

ステンレスは耐食性が求められる用途で広く使われており、発生源は多岐にわたります。
(1)厨房機器・什器
業務用厨房は、ステンレススクラップの代表的な発生源です。
(2)建築設備・外装
建築分野では、手すり、笠木、グレーチング、車止め、門扉、エレベーターの内装パネル、屋根材、配管などにステンレスが使われています。
(3)化学プラント・食品プラント設備
耐食性が求められるプラント設備は、ステンレスの使用比率が高い領域です。
(4)自動車・医療機器部品
自動車では、マフラーや排気系部品、燃料タンク、装飾部材などにステンレスが使われています。排気系にはSUS400系の使用も多く、鋼種の混在が前提となる領域です。
(5)工場・工作機械部品(加工くず・ダライ粉)
製造現場では、旋盤やフライス盤による切削加工でダライ粉(切粉)が継続的に発生します。
4.ステンレススクラップの処理方法

ステンレススクラップの処理は、再資源化が基本となりますが、状態によっては産業廃棄物としての処理が必要になります。
(1)リサイクル処理(回収・再資源化)
ステンレスは、繰り返し再生利用が可能な素材です。
単一素材として溶融再生が容易であり、含有するニッケル・クロムに資源価値があることから、早い時期からスクラップの回収市場が形成されてきました。
ステンレス協会の資料では、ステンレスはスクラップとして80〜90%が回収されており、回収したスクラップはほぼ100%再生可能であるとされています。また、ステンレス鋼原料の約60%にリサイクルスクラップが使用されているとされます。使用済みのステンレスが新たなステンレス鋼の原料へ戻る循環が成立していることを示す数値です。なお、これらは協会が公表する目安値であり、個別のスクラップの受入可否や再生率を示すものではありません。実際の扱いは、鋼種、異物の混入状況、油分や付着物の程度によって変わります。
ステンレススクラップは、ステンレス製造工程で発生する工場スクラップ、加工・組立時に発生する加工スクラップ、使用後に排出される老廃スクラップに分けられます。このうち事業所から排出されるのは主に加工スクラップと老廃スクラップであり、加工スクラップのほうが鋼種が明確で異物が少ないため、条件が整いやすい傾向があります。
金属資源全体の循環の考え方や、鉄系素材における循環利用の仕組みについては、以下の「鉄のサーキュラーエコノミー|事例や鉄鋼製品一覧、リサイクル性も」記事で解説しています。

(2)産業廃棄物として処理が必要なケース
有価売却が成立しないステンレスは、産業廃棄物として適正に処理します。
環境省の令和5年度実績では、産業廃棄物の金属くずは排出量の95.4%が再生利用、1.6%が減量化、3.0%が最終処分です。金属くず全体では再資源化が中心である一方、すべてが有価売却・再生に回るわけではないことを示します。異物の複合化、油・薬品の付着、少量・遠隔地などによって逆有償となる場合は、産業廃棄物ルートへ切り分ける必要があります。なお、ステンレス単独の統計ではなく、鉄・非鉄を含む「金属くず」全体の推計値です。
5.ステンレススクラップの買取・価格相場

ステンレススクラップの価格は、鋼種と市況、そして状態によって決まります。
(1)価格相場の目安と最新相場の確認方法
ステンレススクラップの買取価格は、鋼種によって大きく異なります。
相場感を継続的に把握したい場合は、買取事業者が公表する日次・週次の価格情報や、後述するLMEのニッケル価格推移を定点観測する方法があります。
(2)価格を左右する要因
ステンレススクラップの価格は、以下の要因の組み合わせで決まります。
- ニッケルの国際相場:ニッケルを含む鋼種の価格に直結する
- 鋼種:ニッケル含有量が多いほど高値になる
- 形状・寸法:長尺材や大型で解体が必要な材は減額されやすい
- 異物の付着:油、塗料、保温材、コンクリート、樹脂被覆などは減額要因
- 異種金属の混入:鉄、真鍮、プラスチック等のダストが多いと減額
- 数量:まとまった数量が確保できるほど条件が整いやすい
なかでも影響が大きいのが、ニッケルの国際相場です。
LME(ロンドン金属取引所)のニッケル価格は、2026年に入ってからおおむね1万6,000〜1万9,000ドル/トン台のレンジで推移しました。5月初旬に1万9,000ドル台をつけた後、6月には月間で二桁の下落を記録するなど、短期間での変動が生じています。ステンレスの取引ではこの変動が「ニッケルサーチャージ」として価格に反映される仕組みがあり、スクラップの買取価格も同様に影響を受けます。なお、ニッケル価格はインドネシアの供給政策、為替、金融政策など複数の要因で動くため、将来の水準を見通すものではありません。売却時期の判断材料として参照する場合も、直近の実勢価格を業者に確認することが前提になります。
形状面では、1m以上の長尺材は解体物扱いとなり単価が下がる運用が一般的です。大型で現地解体が必要な設備では、さらに減額幅が大きくなります。切断してから搬入するか、解体費を差し引いた条件で引き取ってもらうかは、自社の作業負担と単価差を比較して判断します。
プライマリー・ニッケル需要は2021年の278万tから2024年の334.7万tへ増加し、2025年は360.1万t、2026年は382.4万tと予測されています。一方、需給余剰は2022年の9.9万tから2026年の26.1万tへ拡大する見通しです。需要増と同時に供給過剰が進む構図は、ニッケル相場が一方向に動かないことを示し、ステンレススクラップの売却時には直近見積もりが必要である点を補強します。2025・2026年はINSG予測であり、実績値ではありません。
(3)買取不可・減額となるケース
以下に該当するステンレススクラップは、買取が困難になるか、大幅な減額の対象となります。
- 異種金属との溶接一体化:鉄やアルミ等と一体化した製品は分離コストが上回る
- 保温材が付いたままの機器:風呂釜、タンク、配管などは鉄くず扱いとなる運用がある
- 油汚染:切削油や薬品で汚染された材は洗浄コストが発生する
- 樹脂被覆材:被覆の除去に専用設備が必要となる
- 化学物質・放射性物質による汚染:法令に基づく特別な処理が必要で、通常の流通に乗らない
- ダストの多い混合材:鉄、真鍮、プラスチック、木材、コンクリート等の混入が多いもの
これらのうち、保温材の撤去や長尺材の切断、鋼種別の仕分けは、排出側の準備で解消できる項目です。一方、溶接一体化や汚染に該当する材は、産業廃棄物としての処理を前提に検討することになります。
6.ステンレススクラップの処理・売却時の注意点

ステンレススクラップの取引では、単価の高さゆえの注意点もあります。
(1)無許可業者への委託リスク
産業廃棄物として処理を委託する場合、委託先が必要な許可を保有しているかの確認が前提になります。
(2)マニフェスト制度と有価物取引の違い
ステンレススクラップは、取引形態によってマニフェストの要否が変わります。
図は、産業廃棄物の排出事業者、収集運搬業者、処分業者の間で、紙マニフェストまたは電子情報がどのように交付・回付・報告・保存されるかを示しています。排出事業者は処理を委託した後も、運搬・処分の終了まで一貫して把握する仕組みです。したがって、逆有償のステンレスを産業廃棄物として委託する場合はこの管理が必要ですが、有価物として直接売却する取引とは区別されます。図は一般的な制度概要であり、個別案件の契約形態や運搬区間により実務上の確認事項は変わります。
(3)分別精度がもたらす価格・環境面のメリット
ステンレススクラップにおいて、分別精度は売却額に直結する管理項目です。
ここまで見てきたとおり、SUS304とSUS430では単価が数倍異なり、異物やダストの混入は減額要因になります。混載のまま持ち込めば、多くの場合は低いほうの評価に引きずられます。逆に言えば、排出時点の運用を整えるだけで条件を改善できる余地が大きい素材です。
7.まとめ
ステンレススクラップは、廃棄物処理法上は金属くずに区分される一方、取引実務では非鉄金属に準じた単価で扱われる素材です。価格を決めるのはニッケルの含有量であり、SUS304のようなオーステナイト系と、SUS430のようなニッケルを含まないフェライト系とでは、数倍の価格差が生じます。
判別においては、刻印の確認、磁石による選別、成分分析という順序が基本になりますが、オーステナイト系も加工によって磁性を帯びる場合があるため、磁石だけを根拠に仕分けると誤判定のリスクがあります。売却か産業廃棄物処理かの判断も、鋼種、数量、異物の混入状況、そのときのニッケル相場によって変わります。まずは自社の発生源ごとに鋼種と発生量を把握し、複数の事業者から直近の条件を確認したうえで判断してください。
サーキュラーエコノミーへの移行を進める上では、自社の資源循環の実態を把握し、具体的なスキームを設計することが重要です。ステンレスを含む金属スクラップの回収・再資源化を通じて、コスト最適化と資源循環の両立を検討したい場合は、五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」にご相談ください。









