TNFDに関する日本企業の対応を把握することで、自然関連リスク・機会への対応状況や開示の方向性を整理できます。この記事では、TNFDに対応する日本企業をAdopter・Early Adopter・Forumの分類で整理し、上場企業の事例を業種別に整理したうえで、全体動向と検討ポイントを解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物・資源フローの精密な分析を起点に、自然資本への負荷低減を数値化し、開示の信頼性を高める構造変革を強固に支援します。TNFD対応で持続可能な競争優位を確立したい場合には、ぜひご相談ください。
1.【2026年】TNFD対応の日本企業|Adopter・Early Adopter・Forum
ここでは、2026年時点でTNFDに対応している日本企業とその対応の方向性をご紹介します。
※本章で紹介する企業は代表例であり、すべての該当企業を網羅したものではありません。
(1)TNFD Early Adopterの代表企業
TNFD Early Adopterとは、TNFD最終提言(v1.0)の公表を受け、2024年1月のダボス会議に先立ち、TNFD提言に沿った情報開示を行う意思を表明した企業・金融機関を指します。
2024年1月10日までに世界全体で320社がEarly Adopterとして登録されており、日本企業は80社が参加しています。
参考:https://www.wwf.or.jp/press/6039.html
①三菱UFJフィナンシャル・グループ

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、経済活動と自然資本の関係を依存(利用)と影響(排出)の両面から捉え、自然資本への影響を踏まえたリスク管理と事業判断を体系的に整理しています。
投融資先の事業に対しても、自然資本や生物多様性への影響を特定・評価するプロセスを導入しており、環境・社会リスクを踏まえたファイナンス判断を実施しています。さらに、自然資本の保全に資する事業への支援と、負の影響の回避を両立する方針を掲げ、自然関連リスク・機会を経営戦略に位置づけています。
②キリングループ

キリングループは、TNFDを含む複数の国際フレームワーク(TCFD・ISSB等)に基づき、気候変動・水資源・生物資源などの環境課題を統合的に整理し、環境経営情報として開示しています。TNFDが提示するLEAPアプローチを用いて、バリューチェーン上の自然資本への依存や影響を特定・評価し、具体的な地域(例:農園)での分析や取り組みを開示していることも特徴です。
ガバナンス面では、上図の通り、取締役会を中心とした監督体制のもと、サステナビリティ委員会やリスク・コンプライアンス関連の委員会が連携し、環境課題を含む経営判断に反映する体制が構築されています。
(2)TNFD Adopterの代表企業
TNFD Adopterとは、TNFDの最終提言を支持し、自社の事業活動が自然資本に与える影響や依存度、およびそれらに伴うリスクと機会を正式に開示することを宣言した企業です。
先ほど紹介したEarly Adopter(2024年1月までに表明)の募集期間終了後も、TNFDの公式サイトを通じて随時登録が行われており、TNFD Adopterの日本企業の登録数はさらに拡大しています。
①日本トムソン株式会社

日本トムソン株式会社は、TNFDが推奨するLEAPアプローチに基づき、評価範囲の設定(Scoping)・自然との接点の特定(Locate)・依存・影響の診断(Evaluate)といったプロセスを通じて、バリューチェーン全体における自然資本への依存と影響の分析を実施しています。
さらに、現時点では主にLocate・Evaluateまでの分析結果を開示し、今後はリスク・機会の評価(Assess)および開示準備(Prepare)へと段階的に進める方針が示されています。
取締役会の監督のもと、環境委員会・サステナビリティ委員会・リスク管理委員会などの体制を通じて、環境・自然関連課題を経営上のリスクとして管理する仕組みが構築されています。
②日本航空

日本航空は2023年3月にTNFDフォーラムへ参画し、同年8月にはTNFD提言に基づく先行開示を実施、その後TNFD Adopterとして登録されており、TNFDの4つの柱(ガバナンス・戦略・リスクとインパクト管理・指標と目標)に沿って情報を体系的に開示し、自然関連リスクを経営課題として位置づけています。
分析面では、TNFDが推奨するLEAPアプローチを採用し、バリューチェーン全体における自然資本への依存と影響を特定したうえで、リスク・機会の評価を行っています。特に航空事業を中心に、事業活動と自然との接点を網羅的に整理しています。
ガバナンス面では、上図の通り、取締役会を頂点とした体制のもと、サステナビリティ推進会議や各種委員会が連携し、自然関連課題を経営判断およびリスク管理に反映する仕組みが構築されています。
(3)TNFD Forum(賛同企業)の代表企業
TNFD Forumとは、TNFDのビジョンを支持し、自然資本に関する枠組みの構築や議論に参画する企業・団体によるグローバルな賛同組織です。
開示を公約(コミットメント)したAdopterとは異なり、情報開示の義務は伴いません。主な役割は、TNFDが提供する最新情報の収集、評価手法(LEAPアプローチ等)の検討、および業界内でのベストプラクティスの共有です。
①伊藤忠商事

伊藤忠商事は、TNFDの理念に賛同し、2022年6月にTNFDフォーラムへ参画しています。その後、TNFD提言に沿った情報開示を進める企業としてAdopterにも登録されています。
分析面では、TNFDフレームワークを踏まえ、事業ポートフォリオ全体を対象としたスコーピングを実施し、自然資本への依存や影響が大きい領域を特定しています。そのうえで、依存度・影響度の評価手法を検討し、事業ごとの特性に応じたマッピングを行うなど、段階的な分析を進めています。
さらに、一部事業ではLEAPアプローチに基づく詳細分析を実施し、自然関連リスクと機会の特定まで踏み込んだ検討が行われています。
②キヤノン

キヤノングループはTNFDフォーラムに参加し、自然資本や生物多様性に関する情報開示の推進に向けた活動を支援しています。また、TNFDフレームワークに沿った情報開示の強化を今後進める方針を示しています。
取り組みの内容としては、「ネイチャーポジティブ」の方針のもと、水・森林・生物を主要な領域と位置づけ、事業活動と自然との関係性を踏まえた生物多様性保全活動を展開しています。これにより、自社の事業活動が自然資本に与える影響と、自然資本への依存の双方を踏まえた対応が進められています。
2.TNFDに対応している上場企業の事例
TNFDに対応している上場企業の事例を把握することで、各業種における自然関連リスク・機会の捉え方や、開示・分析の進め方を具体的に整理できます。ここでは、金融・製造・建設・情報通信などの業種別に、TNFDに対応している上場企業の取り組み事例を紹介します。
(1)金融(銀行・保険・証券)
①東京海上日動

東京海上グループは、TNFDレポートにおいて、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つの枠組みに沿って情報開示を行い、自然関連課題を経営レベルで管理しています。例えば、気候変動による台風の強度や頻度の変化が保険金支払いに与える影響を数値で試算するなど、自然リスクを具体的な財務インパクトとして把握しています。
さらに、自然の機能を活用したリスク低減策として、グリーンインフラの効果も分析対象とし、自然資本を活かしたリスク管理の可能性も検証しています。
②三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、TNFD提言に基づく分析と開示に加え、自然資本の保全を実体として推進する取り組みも併せて展開しています。代表的な事例として、神奈川県伊勢原市に約220haの森林を「SMBCの森」として保有し、生物多様性の保全や水源涵養、CO2吸収機能の強化に取り組んでいます。
この取り組みでは、間伐や植林による適切な森林管理を行い、生態系の回復と維持を図るとともに、森林由来のJ-クレジット創出や環境教育の実施、森林資源の活用を通じて地域社会への価値提供も進めています。
(2)総合商社
③住友商事

住友商事は、2022年にTNFDフォーラムへ参画し、2024年には取締役会決議を経てTNFD Early Adopterに登録しています。そのうえで、TNFD提言に基づく情報開示を実施しています。
総合商社として多様な事業ポートフォリオを持つ特性から、事業活動と自然資本との関係性を整理し、自然資本の保全・回復に向けた取り組みを事業戦略と連動させています。
④丸紅

丸紅は、2022年にTNFDフォーラムへ参画し、2024年1月にはTNFD提言に賛同したうえでAdopterに登録し、フレームワークに沿った情報開示を実施しています。TNFDとTCFDの両フレームワークを踏まえた統合的な情報開示を進めており、気候変動と自然資本の相互関係を前提とした分析・開示の高度化を図っています。
財務的な重要性に加え、自然資本や生物多様性への影響という観点も含めた「ダブルマテリアリティ」に基づく評価を採用し、開示に反映していることも特徴です。

(3)製造業
⑤NGKグループ

NGKグループは、TCFDの開示目的として、事業と自然との関係性を明確化し、自然への依存・影響およびリスク・機会の重要性を把握したうえで、ステークホルダーに対して積極的に情報を開示する方針が示されています。
分析対象はグループ全体の事業に加え、生産拠点ごとの地域特性も考慮されており、優先地域の特定や水資源など重要テーマの詳細評価が進められています。
⑥三菱電機グループ

三菱電機グループは、TNFDが推奨するLEAPアプローチを活用し、事業活動と自然環境との関係性を整理したうえで、自然資本や生態系サービスへの依存・影響、さらに自然環境の変化によるリスクと機会を一連のプロセスで評価しています。
開示内容は、TNFDの4つの柱であるガバナンス・戦略・リスクとインパクトの管理・指標と目標に沿って整理されており、自然関連課題を経営上の重要テーマとして位置づけています。
(4)エネルギー・インフラ
⑦関西電力グループ

関西電力グループは、物理的リスクと移行リスクの両面からシナリオ分析を実施し、豪雨や暴風による設備損傷、規制強化によるコスト増加などを具体的に想定したうえで、財務影響を試算しています。
分析では、TNFDが推奨するLEAPアプローチに基づき、ENCOREなどのツールを活用して自然資本への依存と影響を事業別に評価しています。評価結果はヒートマップとして整理され、水資源や生態系サービスへの依存度の違いを可視化しています。
⑧ENEOSホールディングス

ENEOSグループは、事業活動が自然資本に与える影響を評価する枠組みとしてTNFDフレームワークを活用し、その結果は事業戦略や意思決定プロセスに反映され、具体的な保全目標の設定や管理にも活用されています。
例えば、経団連生物多様性宣言やBusiness for Natureの提言への賛同、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)への参加など、国際的な枠組みに沿った取り組みを展開しています。
(5)食品
⑨森永乳業グループ

森永乳業グループにおけるTNFDの分析面では、グループ全体の主要調達品目の中から、自然資本リスクが高いコーヒー豆とコーヒー製品に対象を絞り込み、サプライチェーン全体における依存と影響を詳細に評価しています。さらに、調達から製造までのプロセスについて、環境負荷や水使用量などを多段階の取引先まで遡って分析しています。
コーヒー豆の調達や製造に関するリスクについては、財務インパクトの試算も行われており、売上規模に対する影響を具体的な数値レンジで整理しています。
⑩アサヒグループ

アサヒグループは、バリューチェーン全体における自然への依存・影響を特定しており、TCFDとTNFDを統合した分析プロセスを採用し、「対象設定 → 依存・影響の特定 → リスク・機会の評価 → 対応策の検討」という一連の流れで、自然資本に関する経営判断を行っています。
さらに、これらの分析結果はエンタープライズリスクマネジメントに組み込まれ、自然関連リスクを経営リスクとして特定・評価し、対策の策定およびモニタリングが実施されています。
(6)建設
⑪竹中グループ

竹中グループは、TNFD Adopterとしての開示に加え、建設事業に特化したシナリオ分析と実証フィールドでの取り組みを組み合わせることで、自然資本への対応を事業レベルで具体化しています。
実装面では研究開発拠点における森林・生態系の保全活動や、グリーンインフラの開発・検証を進めており、分析結果を実際の建設・都市開発プロジェクトに反映する体制が構築されています。
⑫積水ハウス

積水ハウスは、TNFDに基づく開示に加え、生物多様性の回復を具体的な住宅・都市開発の価値へ転換することで、自然資本を事業戦略に組み込む形で関与しています。
自然資本への対応を単なるリスク管理にとどめず、事業機会として位置づけていることが特徴です。具体的には、在来種を活用した植栽を行う「5本の樹」計画を推進し、都市部における生物多様性の回復と住宅価値の向上を同時に実現する取り組みを展開しています。
(7)小売・流通
⑬セブン&アイ・ホールディングスグループ

セブン&アイ・ホールディングスは、TCFDとTNFDを統合した報告書を公表し、気候変動と自然資本を一体で分析・開示する体制を構築しています。
分析面では、小売業として自然資本との関係性が大きい商品に焦点を当て、コーヒー豆や米などの重点原材料を対象にLEAPアプローチを適用しています。調達地域ごとの生物多様性との関係を評価し、優先的に対応すべき地域やリスクを特定しています。
⑭三井倉庫ホールディングス

三井倉庫グループは、物流事業および不動産事業とその関連領域を対象に、自然資本への依存度と環境へのインパクトを整理し、リスク・機会の特定を行っています。
分析手法としては、TNFDが推奨するLEAPアプローチを採用し、自然との接点の特定から依存・影響の評価、リスク・機会の抽出までを段階的に整理しています。
(8)情報通信
⑮KDDI 株式会社

KDDIは、通信事業者としては国内で先行して開示を行っており、自然資本と事業の関係性を整理した情報開示を進めています。
分析面では、基地局やデータセンターなどの通信インフラを対象に、拠点ごとの自然環境との関係を評価しています。具体的には、各拠点周辺における希少種や外来種の生息可能性などを分析し、土地利用や設備設置が自然へ与える影響を把握しています。
また、事業活動による主なリスクとして、基地局建設や通信設備設置に伴う土地改変を特定し、環境配慮型の設計や施工によって影響の低減を図る方針が示されています。

⑯ドコモグループ

NTTドコモグループは、通信インフラに紐づく具体的な拠点データを活用した分析と、TNFDフレームワークに沿った体系的な情報開示を組み合わせる形で関与しています。開示内容は、ガバナンス・戦略・リスクと影響の管理・指標と目標の4つの柱に沿って整理されています。
また、重要課題として「保護価値の高い土地の開発」「周辺生態系への影響」「資源採掘」を特定し、それぞれのリスク・機会が事業に与える影響を評価しています。
3.事例からみた日本企業におけるTNFD対応の全体動向

本章では、これまでに取り上げた企業事例をもとに、日本企業におけるTNFD対応の共通傾向を整理します。
(1)LEAPアプローチを基盤とした分析の標準化
事業拠点やサプライチェーンの位置情報と生物多様性に関する地理データを照合するLocate、依存関係や影響を整理するEvaluate、リスクと機会を特定するAssess、対応方針へと接続するPrepareというプロセスに沿って、LEAPアプローチが実施されています。
あわせて、地理情報の活用や調達先まで含めた把握を通じて分析精度を高める取り組みが進められており、これらの分析結果はリスク管理や戦略検討へと接続される形で活用されています。
(2)バリューチェーン全体での依存・影響評価の実施
自然関連リスクと機会は、原材料調達から製品の使用・廃棄に至るバリューチェーン全体に分布するため、上流から下流までを対象とした評価が実施されています。調達段階における土地利用や水資源、製造工程での排出、製品使用時の環境負荷など、各工程ごとに依存関係と影響を整理することが分析の前提となります。
また、サプライチェーン全体を一律に評価するのではなく、環境負荷や地域特性を踏まえて重要領域を特定し、優先的に管理する手法が採用されています。
これにより、影響の大きい原材料やリスクの高い地域に対して重点的な対応が可能となり、調達方針やサプライヤー対応へと反映される形で活用されています。
(3)財務影響の可視化とリスク管理への統合
TNFD対応の最終的な到達点は、企業の財務健全性に直結する経営リスクおよび機会として評価することにあります。
水資源の枯渇による操業停止リスク、自然再生に関する法規制導入に伴う追加コスト、あるいは認証原材料への切り替えによる調達コストの変動など、具体的なシナリオを想定した財務インパクトの試算が進められています。
また、これらの評価結果を既存のエンタープライズ・リスクマネジメントの枠組みに統合し、取締役会による監督体制の下で管理する体制構築が一般的です。
科学的根拠に基づく指標(KPI)と目標を設定し、進捗状況をモニタリングすることで、自然資本への対応を経営のレジリエンス強化や資本市場における非財務価値の向上へとつなげることが可能となります。

(4)TCFDとの統合による開示・分析の高度化
TNFDは、TCFDと同様にガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つの構造で整理されており、両枠組みを統合した形での開示・分析が進められています。気候変動と自然資本は相互に影響し合う関係にあるため、両者を横断的に評価する前提で分析プロセスが設計されています。
(5)事業・拠点単位での具体的な分析への深化
自然関連リスクと機会は地域特性の影響を強く受けるため、水ストレスが高い地域の拠点や、生物多様性に配慮が求められる調達先など、リスクが顕在化しやすい地点を特定し、個別に評価する手法が採用されています。
また、製品・サービス単位でのライフサイクル全体を対象とした評価を行い、原材料や設計段階を含めた依存関係と影響の把握が進められています。これにより、拠点ごとのリスク対応や製品設計の見直しなど、具体的な施策へと接続する形で活用されています。
4.まとめ
各社の事例からは、LEAPアプローチに基づく分析の実施、バリューチェーン全体での依存・影響評価、財務影響の整理とリスク管理への統合、TCFDとの一体的な開示、事業・拠点単位での詳細分析といった共通の対応が確認されます。
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