リジェネレーションとは?サーキュラーエコノミーとの違い、導入事例

欧米の先進企業を中心にリジェネレーションの事業への組み込みが進んでおり、規制強化や投資家の視点からも、対応を迫られる場面が増えています。この記事では、リジェネレーションの意味・定義サーキュラーエコノミー・サステナビリティとの違い国内外の具体的な導入事例について解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物分析を起点に、単なる処理を超越した地域や生態系への貢献を収益化する循環モデルへの構造変革を強固に支援します。サステナビリティのその先、社会から真に求められる再生型経営を実現したい場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.リジェネレーションとは?語源・英語の意味からわかりやすく

まずは、語源・英語表記という言葉の成り立ちから丁寧に読み解き、リジェネレーションが本質的に何を意味するのかを明らかにします。

(1)リジェネレーションの意味と定義

リジェネレーションとは、自然・社会・経済における失われた機能や資源を、元の状態に戻すだけでなく、より良い状態へと積極的に再生・回復させることを指します。

日本語では再生と訳されることが多いですが、現状維持や悪化の抑制をゴールとするのではなく、系全体の機能・活力を能動的に高めていくという点が特徴です。

この概念はもともと生物学の領域で使われており、トカゲが尻尾を再生するような現象を指す言葉として発展してきた背景があります。その後、この「自己回復・自己増殖する力」という本質的な意味が転用される形で、農業・都市開発・ビジネス・金融など幅広い分野へと広がっていきました。

参考:Regeneration Japan|一般社団法人リジェネレーション・ジャパン

(2)リジェネレーションの英語表記について

リジェネレーションは英語で “Regeneration” と表記します。語源はラテン語の”regenerare” で、”re-“(再び)と “generare”(生む・創造する)に分解できます。

つまり言葉の成り立ちとしては「創造をやり直す」というニュアンスを持っており、単純な「修復」とは異なる積極性が語源レベルから読み取れます。

日本語では「リジェネレーション」と「リジェネラティブ」が混在して使われていますが、英語としては同じ概念を指しており、文脈によって品詞が変わるだけです。

参考:企業はリジェネラティブな未来をどう描けるか。「三井化学フォーラム」で見た脱プラの“先”

(3)ビジネス・環境文脈における使われ方

リジェネレーションという言葉は、ビジネスや環境の文脈では「自然・社会・経済のいずれかを積極的に再生・回復させる取り組み」を指す言葉として使われています。ただし分野によってその対象と意味合いが異なるため、文脈を押さえて理解することが重要です。

分野リジェネレーションの対象従来アプローチとの違い
農業・食糧土壌・生物多様性・生態系機能農薬・化学肥料の削減にとどまらず、農地が生態系として自律回復することを目指す
都市・建設地域インフラ・自然環境・コミュニティ単なる再開発ではなく、人と自然が相互に作用しながら活力を生み出す都市を設計する
ビジネス・経営事業構造・自然資本・社会資本サーキュラーエコノミーを包含しつつ、自然・社会資本の回復まで射程に入れた事業転換を目指す

このように、リジェネレーションは特定の業界や手法に限定された言葉ではなく、自然・社会・経済を一体として捉え直すための思想的な枠組みとして機能しています。

参考:リジェネラティブな社会への変革加速に向けた声明「Regenerative Cities Manifesto」を発表|東京建物

2.リジェネレーションが注目される背景

リジェネレーションが注目される背景には、従来のサステナビリティやサーキュラーエコノミーの取り組みだけでは対応しきれない課題が顕在化してきたという現実があります。ここでは、リジェネレーションが注目される背景について解説します。

(1)既存のサステナビリティの限界

CO2排出量の削減再生可能エネルギーへの移行廃棄物の削減といったサステナビリティの取り組みは、2000年代以降、企業経営における重要テーマとして定着してきました。しかし、一方で地球規模の環境指標は改善どころか悪化を続けています

たとえば、WWFの「生きている地球レポート2022」によると、1970年から2018年の間に野生動物の個体数が平均69%減少したことが報告されています。

引用:https://www.wwf.or.jp/activities/lib/5153.html

こうしたデータは、現行のサステナビリティアプローチが悪化の速度を緩めることはできても、失われた機能を回復させるには至っていないことを示しています。こうした認識が広がる中で、リジェネレーションは次のフェーズの概念として位置づけられるようになっています。

【事例】ネスレ:再生農業による食糧システムの回復
世界最大の食品企業であるネスレは、単なる環境負荷の低減を超え 「再生農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー)」へと舵を切っています。 2030年までに主要原料の半分をこの手法で調達することを目指し 土壌の健康回復や生物多様性の保全、水循環の改善に注力しています。 単なる宣言に留まらず、数千億円規模の投資を通じて世界中の農家に対し 技術支援や資金援助を行い、サプライチェーン全体の生態系を再生しています。 この取り組みは、気候変動への耐性を高めると同時に、農家の生計をも支援し 次世代へ豊かな自然資本を繋ぐ、まさにリジェネレーションの先駆的事例です。
参考:環境再生型の食料システムを大規模に推進|ネスレ

(2)欧州規制と国際基準への適応

欧州を中心とした規制の動きは、日本企業のサプライチェーンにも直接影響を及ぼすレベルに達しています。
例えば、CSRDは、EUにおけるサステナビリティ情報開示を大幅に強化する制度であり、対象企業の範囲拡大開示内容の高度化が特徴です。従来の非財務情報開示指令(NFRD)と比較して、より詳細かつ体系的な情報開示が求められます。

この情報開示は欧州持続可能性報告基準(ESRS)に基づいて行われ、環境・社会・ガバナンスに関する幅広い項目について、定量・定性の両面から報告することが必要とされています。また、ダブルマテリアリティの考え方に基づき、企業が環境・社会に与える影響と、これらが企業財務に与える影響の双方を評価・開示することも求められます。

この結果、欧州規制は単独企業の対応にとどまらず、サプライチェーン全体での情報収集・管理体制の構築を前提とした対応が求められる枠組みへと拡張されています。

参考:https://www.ey.com/content/dam/ey-unified-site/ey-com/ja-jp/technical/ifrs/ifrs-insights/2026/documents/ifrs-2026-02-13-csrd-jp.pdf

【事例】横河電機:ダブルマテリアリティと貢献量の可視化
横河電機は欧州規制を見据え、事業が環境・社会に与える影響と 財務への影響を両輪で捉えるダブルマテリアリティを実践しています。 特に計測・制御技術を活かし、自社のみならず顧客の現場における 二酸化炭素排出の削減量を「貢献量」として定量化している点が特徴です。 この透明性の高いデータ開示は、欧州持続可能性報告基準が求める インパクト評価の先駆けであり、投資家からも高く評価されています。 サプライチェーン全体のガバナンスを強化するためデジタル基盤を整え 単なる規制対応を超えて、持続可能な社会を計測する仕組みを構築しました。 社会課題の解決を企業の成長エンジンに変える、高度な開示モデルといえます。
参考:6つの貢献分野とサステナビリティ目標|横河電機

(3)資源枯渇リスクに向けた自衛

企業が自衛の観点からリジェネレーションに向き合わざるを得ない状況も生まれています。
世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2024」では、今後10年間における主要リスクとして、異常気象や生物多様性の損失と並び、天然資源の不足が上位に位置付けられています。

引用:www3.weforum.org/docs/WEF_The_Global_Risks_Report_JP_2024.pdf

このような構造のもとでは、資源の再生・循環を前提とした取り組みが事業継続や供給安定性に直結する取り組みとして位置付けられ、自社の供給基盤そのものを維持・強化する必要性に直面しています。

参考:https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Global_Risks_Report_JP_2024.pdf

【事例】ユニ・チャーム:紙おむつ水平リサイクルによる資源再生
ユニ・チャームは、森林資源に依存する従来のビジネスモデルを脱し 「使用済み紙おむつから紙おむつを作る」世界初の技術を実現しました。 独自のオゾン処理プロセスにより、排泄物に含まれる菌や汚れを 完全に除去し、新品同様の衛生的なパルプを再生することに成功しています。 この取り組みは、単なる廃棄物削減に留まらず、限りある森林資源を 新たに消費しない「資源の自給自足」を可能にする画期的な挑戦です。 自治体と連携した回収システムの構築を通じて、地域の循環型社会を育み 資源枯渇リスクを回避しながら、地球環境を再生する基盤を築いています。 将来の資材不足を見据えたこの自衛策は、循環型経済の理想を体現しています。
参考:ユニ・チャーム:使用済み紙おむつのリサイクル(RefF)

(4)長期的企業価値に関する定義の変化

環境に関する取り組みは、企業価値の評価において考慮される対象にもなっています。
気候変動自然資本の劣化といった環境要因は、企業の将来収益や投資リターンに影響を与える要素として位置づけられており、企業価値はこれらを含めて評価される考え方へと変化しています。

実際にGPIFは、長期的な収益を確保するためには、財務情報に加えてESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務要素を考慮することが必要であると位置づけています。

また、持続可能な経済社会の実現は、市場全体の成長を通じて長期的な投資リターンの向上につながると整理されています。

参考:https://www.gpif.go.jp/esg-stw/project_report/esg_factors.html

【事例】SOMPO:社会的インパクトを軸とした価値再生
SOMPOホールディングスは、気候変動を最大のリスクと捉える一方 「社会的インパクト」の創出を、長期的な企業価値向上の核に据えています。 単なる保険金支払いを超えて、災害の被害を最小限に抑える「適応」や 地域のレジリエンスを再生する事業を、新たな収益源へと進化させています。 また、インパクト加重会計などの手法を用いて非財務価値を定量化し 社会の豊かさを増やすことが、自社の支払いリスクを低減するという 「社会と企業の相乗効果」を、経営戦略として明確に描きました。 環境・社会課題の解決を、保険業の枠を超えた事業ポートフォリオへと 繋げることで、持続可能な未来を再構築する独自の道を切り拓いています。
参考:サステナビリティ|SOMPOホールディングス

3.リジェネレーションとサーキュラーエコノミー等との違い

リジェネレーションを理解する上で避けて通れないのが、サーキュラーエコノミーやサステナビリティとの関係性です。

(1)リジェネレーションとサーキュラーエコノミーの違い

リジェネレーションとサーキュラーエコノミーは、どちらも従来の線形経済モデルからの脱却を目指す概念として語られることが多く、混同されやすい関係にあります。しかし両者の目的と射程には明確な違いがあります。

リジェネレーションサーキュラーエコノミー
目的自然・社会・経済の積極的な再生資源の循環・廃棄ゼロ
アプローチ失われた機能を回復・強化し、系全体を健全な状態へ向かわせる資源を循環させ、廃棄を出さない仕組みをつくる
対象範囲自然資本・社会資本・経済資本を包括主にモノ・資源・製品の流れ
ゴールの水準現状を超えて、より良い状態を能動的につくり出す現状の悪化を止め、資源を無駄にしない
自然資本への関与直接的(生態系の回復・強化を目的に含む)間接的(廃棄削減による負荷軽減)

資源を循環させるサーキュラーエコノミーは、自然と社会を再生させるリジェネレーションを実現するための重要な手段のひとつに位置づけられます。

【事例】ユニリーバのリジェネラティブ農業への転換
ユニリーバは「持続可能性」を一歩進め、自然環境を能動的に改善する「再生」へと舵を切っています。 2030年までに150万ヘクタールの土地や森林、海洋の再生を支援することを掲げました。 特に原材料調達の根幹となる農業において、土壌の健康回復や生物多様性の向上に注力しています。 単に環境負荷を抑えるだけでなく、水質の改善や農家の生計向上を同時に目指す点が特徴です。 具体的には、世界中の農家と提携し、土壌を耕さない不耕起栽培や被覆栽培の導入を進めています。 こうした取り組みにより、大気中の炭素を土壌に閉じ込め、気候変動への直接的な対策としています。 企業が自然資本に投資することで、事業のレジリエンスと地球の再生を両立させる先進的な事例です。
参考: ユニリーバ:自然の保護と再生(英語)

(2)リジェネレーションとサステナビリティの違い

リジェネレーションとサステナビリティの両者の関係は、サステナビリティがリジェネレーションの前提条件として機能するという形で整理できます。

リジェネレーションサステナビリティ
目的失われた機能・資源を積極的に再生・回復させる現在の状態を維持し、将来世代への影響を最小化する
アプローチ系全体の機能・活力を能動的に高めていく環境負荷を減らし、現状の悪化を抑制する
ゴールの水準現状を超えた、より良い状態を目指す現状維持・悪化の抑制
自然資本への関与生態系の回復・強化を直接の目的とする生態系への悪影響を減らすことを目的とする
時間軸回復・再生のプロセスを積極的に設計する長期的な持続可能性を前提に現在の行動を最適化する

サステナビリティは「現在の世代のニーズを満たしつつ、将来の世代がそのニーズを満たす能力を損なわない発展」という定義を起点に広く普及してきました。しかしその本質は「現状を維持する」ことにあり、すでに損なわれた自然・社会機能の回復までは射程に入っていません

【事例】ロレアルによる自然資本の能動的な回復
ロレアルは持続可能な開発を超え、地球の限界を尊重する「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」を推進しています。 その中核として、損なわれた生態系の修復を目的とした「ロレアル自然再生基金」を設立しました。 この基金は一億ユーロという多額の資金を投じ、海洋保護や森林再生などのプロジェクトを支援しています。 単に自社の事業負荷を減らすサステナビリティに留まらず、自然そのものを再生させる姿勢が特徴的です。 具体的には、数百万ヘクタール規模の劣化した土地の回復や、絶滅危惧種の保護に直接関与しています。 企業が自然資本の劣化を食い止めるだけでなく、積極的に生態系の価値を高める役割を担っています。 これは環境保護を事業継続の前提条件とし、社会全体にプラスの影響を及ぼすリジェネレーションの好例です。
参考:ロレアル・フォー・ザ・フューチャー

(3)リジェネレーションとリジェネラティブとの違い

リジェネラティブは別の概念ではなく、同じ考え方を文脈に応じて使い分けているにすぎません。
リジェネレーションが概念全体を指す名詞として使われるのに対し、リジェネラティブはその考え方を体現した農業・都市・ビジネスモデルなどを形容する際に使われます。

リジェネレーションリジェネラティブ
英語表記RegenerationRegenerative
品詞名詞形容詞
使われ方概念・現象そのものを指す特定の対象を修飾する際に使う
使用例「リジェネレーションを推進する」「リジェネラティブ農業」「リジェネラティブ・ビジネス」

リジェネレーションとリジェネラティブは、日本語の文脈で混在して使われることが多いですが、いずれも指している方向性は同じです。

4.リジェネレーションの主な領域と日本国内の事例

リジェネレーションは特定の業界に限定された概念ではなく、農業・素材・都市・金融など幅広い領域で実践されています。ここでは、主要な領域ごとの特徴と、日本国内における具体的な取り組み事例を整理します。

(1)農業・食糧:環境を修復する環境再生型農業

農業はリジェネレーションの考え方が特に浸透しています。
例えば環境再生型農業という概念で、土壌の有機物・微生物・生物多様性を回復させながら食料を生産するアプローチがあります。

リジェネラティブ農業では、不耕起栽培・カバークロップ(緑肥作物)・輪作・堆肥活用といった手法を組み合わせることで、土壌の炭素貯留能力を高め、生態系全体の回復を促し、生産性の維持と環境再生を同時に実現できます。

【事例】仁井田本家による酒造りと水田生態系の再生
福島県の仁井田本家は、自然酒造りを通じて日本の水田環境を再生する先駆的な活動を展開しています。 自社水田において、日本初となる「リジェネラティブ・オーガニック(RO)」認証を正式に取得しました。 農薬や化学肥料に頼らず、不耕起栽培や生物の多様性を守る農法で、地中の炭素貯留能力を高めています。 単なる環境保護に留まらず、稲藁や籾殻を堆肥化して再び土へ戻すという、生命の完全な循環を構築しました。 さらに自社で木桶を製作し、間伐や植林を行うことで、水田の源流となる豊かな森の再生にも取り組んでいます。 「酒を飲めば飲むほど、田んぼと森が美しくなる」という、地域と共生する独自の事業モデルが特徴です。 伝統的な知恵と最新の環境思想を融合させ、損なわれた自然資本を能動的に回復させる姿は象徴的です。
参考: 仁井田本家:にいだのABC(Regenerative)

(2)バイオ・素材:化石資源に頼らないバイオエコノミーの拡大

素材・化学品の領域では、石油や石炭といった化石資源を原料とする従来のモデルから脱却し、植物・微生物・廃棄物といった生物由来の資源を活用するバイオエコノミーへの転換が進んでいます。この動きはリジェネレーションの観点から見ると、自然の生産能力を活用しながら資源循環を実現するアプローチとして位置づけられます。

微生物の発酵プロセスを活用することで、化石資源への依存を減らしながら高付加価値素材を生産する技術を確立するなど、素材メーカーを中心に廃棄されていたバイオマスを原料とした生分解性プラスチックや繊維素材の開発も加速しています。

【事例】カネカの植物由来バイオポリマーによる環境再生
カネカは100%植物由来で、自然界の微生物の力を借りて作られる革新的な素材「Green Planet」を展開しています。 この素材は、植物油を原料として微生物が体内に蓄えた成分を抽出・精製して生み出されるバイオポリマーです。 従来の石油由来プラスチックとは異なり、土中だけでなく海水中でも二酸化炭素と水に分解される特性を持っています。 化石資源への依存を画期的に減らし、プラスチックによる海洋汚染という深刻な課題の解決に直接貢献します。 万が一自然界に流出したとしても、最終的には自然の循環系へと戻り、生態系に負荷を与えずに再生を促します。 ストローやレジ袋、食品容器など幅広い用途での実用化が進み、私たちの生活と自然の共生を支えています。 技術の力で自然の自浄作用を補完し、地球環境をより健やかな状態へと導くリジェネレーションの先駆的な事例です。
参考: カネカ:カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®

(3)都市・建設:自然と共生するリジェネラティブ・アーバニズム

都市・建設領域におけるリジェネレーションは、リジェネラティブ・アーバニズムという概念のもとで議論されています。単なる省エネ建築や緑化にとどまらず、都市そのものが生態系の一部として機能し、自然と人間活動が相互に回復・強化し合う状態を目指すアプローチです。

リジェネラティブ・アーバニズムでは、グリーンインフラ(緑地・湿地・水辺の保全・創出)や、建物・街区レベルでの生態系機能の組み込みを通じて、都市が自然資本を回復させる場として機能することを目指します。

【事例】積水ハウスの「5本の樹」計画による都市生態系の再生
積水ハウスは2001年から、住宅の庭を通じて地域の生態系をネットワーク化する「5本の樹」計画を推進しています。 「3本は鳥のために、2本は蝶のために」という独自の指針で、その土地の在来樹種を植える活動を全国で展開してきました。 これまでに植えられた2,000万本近い樹木は、都市の中で孤立した緑を繋ぎ、生き物たちの貴重な移動経路となっています。 単なる庭園の緑化に留まらず、琉球大学との共同研究により生物多様性の回復効果を科学的に検証している点が特徴です。 住宅地がかつての里山のような機能を果たすことで、失われた自然資本を能動的に取り戻す仕組みを構築しました。 この取り組みは、都市の景観を美しく保つだけでなく、夏の酷暑を和らげるなど都市環境の質を向上させています。 一軒一軒の庭を繋ぎ合わせることで、都市そのものを巨大な生態系として再生させるリジェネレーションの先駆的事例です。
参考:積水ハウスの「5本の樹」計画

(4)ビジネス・金融:価値を再定義するリジェネラティブ・モデル

ビジネス・金融領域におけるリジェネレーションは、事業活動を通じて自然・社会資本を回復させることを前提に、ビジネスモデルや投資の仕組みそのものを再設計するアプローチです。

環境への悪影響を減らすCSRや、資源を循環させるサーキュラーエコノミーをさらに発展させ、事業活動が自然・社会にとってプラスの価値を生み出す状態を目指します。

【事例】石坂産業:廃棄物処理から「里山再生」への価値転換
石坂産業は産業廃棄物の中間処理事業を軸に、地域の自然資本を能動的に回復させるビジネスを展開しています。 業界屈指の技術力で減量化・再資源化率98%を達成し、資源循環の徹底というサステナビリティの基盤を構築しました。 特筆すべきは工場の周囲に広がる荒れ果てた森を、多様な動植物が息づく「三富今昔村」へと再生させた点です。 かつての不法投棄の場を、環境教育やオーガニック農業を体験できる持続可能な観光地へと作り替えました。 事業を営むほどに地域の生物多様性が向上し、人と自然が共生するリジェネラティブな場へと進化しています。 単なる処理業者から、地域の生態系とコミュニティを癒やし育む「再生のエンジン」へと自らの役割を再定義しました。 環境負荷を最小化するだけでなく、プラスの価値を地域社会に還元し続ける、再生型ビジネスの象徴的な事例です。
参考:三富今昔村|石坂産業

5.リジェネレーションの海外事例

(1)ゼネラル・ミルズ

引用:https://www.j-oil.com/ir/materials/library_Integrate_report/report2025_a4_v2.pdf

ゼネラル・ミルズは、サプライチェーンにおける原材料調達の中心である農業分野において、環境負荷低減と資源再生を目的とした取り組みとして、2030年までに100万エーカーの農地で環境再生型農業(リジェネラティブ農業)を推進する目標を掲げています。

耕起の最小化、作物の多様化、土壌被覆の維持、通年での植物根の保持、家畜との統合といった複数の原則に基づく農業手法を導入しており、原材料供給に関わる農家と連携し、実践状況を把握するための評価ツールを導入しています。

参考:https://www.nri.com/content/900034274.pdf

(2)シュナイダーエレクトリック

引用:https://reports.weforum.org/docs/WEF_JP_Circular_Transformation_of_Industries_2025.pdf

シュナイダーエレクトリックは、エコデザイン、廃棄物の資源化、製品の再生・再販を含むエンドツーエンドの循環戦略として展開されており、製品ライフサイクル全体で資源循環を実現しています。これにより、使用済み製品を分解・診断・再製品化して市場に再投入する仕組みが確立されています。

また、サプライチェーン全体にも循環モデルを組み込むプログラムを推進し、設計・調達・製造・回収までを統合した運用を行っています。この結果、製造拠点の多くで廃棄物の大部分が再資源化されるなど、資源効率の向上が図られています。

(3)シンガポールの都市開発

引用:https://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_408/14_kaigai.pdf

シンガポールは、国土制約の中で高密度な都市開発を進めながらも、自然環境を都市構造に統合する「City in Nature」構想を推進しています。

これで自然保護区・都市公園・近隣公園といった階層的な緑地ネットワークを整備し、さらに道路や建築物にも緑化を重ねることで、都市全体に連続したグリーンインフラを形成しており、都市化が進行する中でも緑被率を拡大させる構造が確立されています。

参考:https://www.clair.org.sg/j/wp-content/uploads/2021/02/3_2_Toshi.pdf

6.リジェネレーションをビジネスに組み込む視点

ここでは、リジェネレーションを事業活動に組み込む上で押さえておきたい4つの視点を整理します。

(1)サプライチェーンの透明化とデータ化

自社のサプライチェーンが自然資本・社会資本にどのような影響を与えているかを把握することで、現実的な出発点が明らかになります。

原材料の調達先における土地利用・水資源の使用量・生物多様性への影響といった情報を、サプライヤーと連携しながら収集・管理する体制の構築が求められます。まずは影響度の大きい調達品目や地域を優先的に特定し、段階的にデータの範囲を広げていくアプローチが現実的です。

こうしたデータの蓄積は、TNFDやCSRDへの対応という開示目的にとどまらず、調達リスクの早期察知や、再生に向けたサプライヤーとの協働プログラムの設計にも活用できます。

【事例】アシックス:製品のライフサイクル可視化と再生素材への転換
アシックスは製品一足ごとの環境負荷をデータ化し、サプライチェーンの透明性を飛躍的に高めています。 原材料の調達から製造、廃棄に至るまでの温室効果ガス排出量を算出し、主要な製品でその数値を公表しています。 この詳細なデータ活用により、どの工程にリジェネレーションの余地があるかを的確に特定できるのが強みです。 具体的には、従来の素材をリサイクル素材やバイオベース素材へ置き換え、自然資本への負荷を最小限に抑えています。 さらに、サプライヤーと密接に連携し、労働環境や環境保全の状況を厳格に管理・支援する体制を構築しました。 データの蓄積を単なる情報開示に留めず、循環型ビジネスモデルへの移行を加速させる判断材料として活用しています。 製品を通じてスポーツができる健やかな地球環境を再生しようとする、データ駆動型のリジェネレーション事例です。
参考: アシックス:サプライチェーンの管理と透明性

(2)循環型サービス(PaaS)への転換

PaaS(Product as a Service)への転換は、リジェネレーションを事業構造に組み込む上で有効なアプローチのひとつです。所有権をメーカー側が持ち続けることで、製品の長期使用・修理・素材回収までを一貫して管理できるため、資源の循環と自然資本への負荷低減が構造的に実現しやすくなります。

例えば、照明設備をリースで提供し使用量に応じて課金するライティング・アズ・ア・サービスや、タイヤの走行距離に応じて課金するモデルなど、製造業を中心にPaaSの導入事例が蓄積されています。

このようなPaaSへの転換は、顧客との長期的な関係構築・安定収益の確保廃棄物の削減を同時に実現できる点で、リジェネラティブなビジネス設計と親和性が高いアプローチです。

【事例】ブリヂストン:リトレッド技術を核とした移動のサービス化
ブリヂストンはタイヤを売るだけでなく、走行距離に応じて課金するPaaSモデルを推進しています。 この事業の中核を担うのが、摩耗した接地面を貼り替えて再利用する「リトレッド」技術です。 タイヤの所有権を自社で持ち続けることで、適切な時期に回収し、何度も再生して使用することが可能になります。 新品タイヤの製造と比較して天然ゴムなどの資源使用量を大幅に削減し、廃棄物の発生も抑制しています。 顧客にとっても初期投資が抑えられ、プロによるメンテナンスで安全性と燃費が向上する利点があります。 単なる資源循環に留まらず、移動という社会活動に伴う自然資本への負荷を構造的に減らす取り組みです。 ビジネスの成功が直接的に環境再生へと繋がる、リジェネラティブな事業構造の代表的な事例といえます。
参考:リトレッドタイヤ|ブリヂストン

(3)共創エコシステムの構築

リジェネレーションの実現において自然資本の回復や社会機能の再生は、サプライチェーンを超えた複数のステークホルダーが連携してはじめて成立するプロセスであるため、業界横断的な共創エコシステムの構築が重要な視点となります。

同業他社・サプライヤー・自治体・研究機関・NGOといった異なるセクターが共通の目標を設定し、データ・技術・資金・知見を持ち寄る形での協働が求められます。

競合他社とも連携するコーペティションの考え方が、特に自然資本の回復という業界全体に関わる課題においては現実的な選択肢となっています。

共創エコシステムの構築にあたっては、参加者間の利害調整や成果の測定・配分の仕組みを設計することが実務上の課題となります。まず自社が影響を与えている地域・産地・流域を特定し、そこに関わるステークホルダーとの対話から始めることが現実的な出発点です。

【事例】太平洋セメント:下水からリンを再生する資源循環の共創
太平洋セメントは、下水汚泥に含まれる「リン」を効率的に回収・資源化する技術を開発しています。 独自開発の資材「リントル」を用い、東京都下水道局などと連携した大規模な実証事業を推進中です。 これまで廃棄物として処理されていた汚泥から、肥料の原料となるリンを能動的に取り出しています。 海外に依存してきた化石資源のリン鉱石に代わる、国内由来の再生リンとして農業分野へ還元します。 行政、肥料メーカー、農協といった異なるセクターが繋がることで、都市と農を繋ぐ新しい循環が生まれました。 この取り組みはセメント製造時の品質維持を助けるだけでなく、地元の資源自給率の向上にも寄与します。 社会の負の遺産を価値ある資源に変え、日本の食料安全保障と自然再生を支える強力なエコシステムです。
参考:「新たなリン回収システムによる下水道の資源化に関する実証事業」が 令和5年度下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)に採択 

(4)新指標の導入

売上・利益といった財務指標は、自然資本や社会資本の回復という成果を可視化する手段としては不十分であり、新たな指標の導入が実践の精度を高める上で重要になります。

自然資本の評価指標としては、土壌有機物量・生物多様性指数・水資源の回復量といった定量指標が活用され始めています。また、企業活動が自然資本に与えるポジティブ・ネガティブ両面の影響を金銭価値に換算する「自然資本会計」の手法も、TNFDの普及とともに実務への導入が進んでいます。

新指標の導入は一度に全領域を対象にする必要はありません。まず自社のビジネスモデルと最も関連度の高い自然資本・社会資本の領域を特定し、測定可能な指標から段階的に導入していくことが現実的なアプローチです。

【事例】三菱地所:科学的な評価指標で導く森林の再生と共生
三菱地所は群馬県みなかみ町と連携し、森林の再生を定量的に評価する独自の取り組みを推進しています。 放置された人工林を自然豊かな「自然林」へと復元し、その成果を客観的なデータで可視化しています。 具体的には「地下水涵養量」や「炭素吸収量」に加え、主要な生物種の分布率を科学的に測定しました。 TNFDの枠組みに基づき、事業活動が自然資本に与える影響を数値化して開示している点が先駆的です。 単なる環境保護に留まらず、研究機関と協力して生態系の回復度を百点満点で評価する手法も導入しました。 このデータ化により、都市開発を担う企業が地方の自然資本を能動的に高める新たなモデルを示しています。 財務指標と自然資本指標を並立させることで、経済と自然が共に育つリジェネレーションを体現しています。
参考:みなかみ町でのネイチャーポジティブ実現に向けた 4つのステップの設計と回復傾向の定量的評価を開始 

7.まとめ

リジェネレーションとは、自然・社会・経済における失われた機能を、現状維持にとどまらず積極的に再生・回復させるという考え方です。サステナビリティが「悪化を抑制する」、サーキュラーエコノミーが「資源を循環させる」のに対し、リジェネレーションは「系全体をより良い状態へ向かわせる」という点で、これらの概念をさらに発展させたものとして位置づけられます。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、こうしたリジェネレーションの思想を現状の資源フローの精密な分析に基づき、実効性のある資源循環スキームやサプライチェーンの再構築へと落とし込み、企業の長期的なレジリエンスへと昇華させます。サステナビリティのその先にある再生型経営を実現したい場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。