パッケージリニューアルの成功事例|売上差を生む変更要素と判断基準

パッケージリニューアルは、見た目の刷新にとどまらず、売上や購買行動に直接影響する重要な施策です。一方で変更内容や実施タイミングを誤ると、既存顧客の離脱や購買率の低下につながるケースもあります。
本記事では、パッケージリニューアルの成功事例をもとに、売上差を生む変更要素を分解して整理します。

目次

1.パッケージリニューアルの成功事例

(1)カルピスウォーター|ブランド価値を維持しながら体験を再設計したリニューアル

引用:https://www.asahiinryo.co.jp/entertainment/asahiinryohistory/pdf/brand/calpis/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%94%E3%82%B909_%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0_220915.pdf

アサヒ飲料は「カルピスウォーター」の発売30周年を機に、味わいとパッケージの両面を見直し、甘さと香りを調整し、幅広い層に受け入れられる味へ最適化するとともに、パッケージを青空や風の動きを想起させるデザインとコピーを配置し、特徴を視覚的に伝える構成へ変更しています。

ブランドのコア要素を維持しつつ、顧客の変化に合わせて体験全体を再設計することでユーザーの嗜好変化や飲用シーンの多様化を踏まえた感覚的な価値を商品に反映できます。

(2)ハイチュウ|品質刷新とパッケージ変更で食感価値を再定義したリニューアル

引用:https://www.morinaga.co.jp/public/newsrelease/web/fix/file67a0a8e6e13ff.pdf

森永製菓は「ハイチュウ」において、果実ピューレ・果汁パウダー・濃縮果汁の「3つの果汁」を活用し、フルーツのジューシーさとすっきりした後味を強化するとともに、パッケージも刷新し、ポップで一体感のあるデザインへ変更しています。

食感という体験価値を中心に商品設計とパッケージを連動させている点が特徴です。パッケージ刷新は、品質変更の意図を視覚的に伝える役割を担っており、中身と表現の整合性の両立を図っています。

(3)味の素®|環境配慮と機能維持を両立したパッケージリニューアル

引用:https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/environment/eco/seasoning_2.html

味の素株式会社は、主力商品である「味の素®」の袋製品において、従来のプラスチック包材から紙パッケージへのリニューアルを実施しています。この変更により、プラスチック使用量を約34%削減し、年間約12トンの廃棄物削減につなげています。

一方で、粒状調味料という特性上、包装強度や湿気対策といった機能面での課題が存在していました。これに対し、紙と機能性素材を組み合わせた構造を採用し、従来のプラスチック包材と同等の強度・保存性・使いやすさを維持しています。また、価格についても据え置きを前提に設計されており、コストと価値のバランスが保たれています。

(4)アタック ZERO|手間削減を訴求したリニューアル

引用:https://www.kao.com/jp/sustainability/planet/zero-waste/reducing/

花王は衣料用洗剤「アタック ZERO」において、洗浄力や除菌といった従来の価値に加え、洗たく槽のメンテナンスを不要にするという新たな訴求軸が設定されています。実際に、生活者ニーズが生乾き臭対策にシフトしている背景を踏まえ、日常の手間を減らす価値へと再設計されています。

また、パッケージ面では本体容器に100%再生プラスチックを採用し、機能性と環境配慮の両立を図っています。パッケージや商品設計を通じて、使用シーンそのものを再定義することで、購買理由を再構築しています。

(5)海のうるおい藻|環境配慮と機能強化を両立したパッケージリニューアル

引用:https://www.kracie.co.jp/khp/umiuru/

クラシエはヘアケアブランド「海のうるおい藻」において、真珠タンパクエキスや地肌うるおい成分を新配合し、従来品と比較してうるおい効果を向上させるとともに、環境に配慮したパッケージへ変更しています。
リサイクル素材やバイオマス素材を組み合わせた設計が採用されており、石油由来プラスチックの使用削減を実現しており、キャッチシールの廃止など細部の仕様も見直され、環境負荷低減と製品設計の一体化が図られています。

成分強化による仕上がりの改善と、素材変更による環境価値を同時に打ち出すことで、既存の購買理由を維持しながら新たな選択理由を追加しています。

(6)リポソーム アドバンスト リペアセラム|コア技術を進化させ価値を再定義したリニューアル

引用:https://koseholdings.co.jp/ja/media/2022/09/2022090101.pdf

コーセーは、ロングセラー美容液「モイスチュア リポソーム」を29年目に刷新し、「リポソーム アドバンスト リペアセラム」としてリニューアルしています。従来の保湿・導入機能に加え、エイジングケアまで対応する商品へ進化させることで、製品価値そのものを再定義しています。
1滴に約1兆個含まれる「多重層バイオリポソーム」という独自技術と位置付ける一方でパッケージも刷新されています。

ブランドの象徴的なビジュアルを維持しながら、先進性や高機能を想起させるデザインへと更新されています。中身の進化と視覚表現を連動させることで、「何が変わったのか」を一貫して伝える構造が構築されています。

(7)Afternoon Tea監修 ロイヤルミルクティー|環境配慮を維持しながら商品価値を毀損しないリニューアル

引用:https://www.family.co.jp/sustainability/topics/2026/s2026012202.html

ファミリーマートは「Afternoon Tea監修 ロイヤルミルクティー」において、パッケージデザインの刷新とともに、容器を100%リサイクルPETボトルへ変更しています。この変更により、石油由来プラスチックの使用量を約249トン削減できる見込みとされています。

一方で、商品自体の価値である「アッサム茶葉の芳醇な香り」と「まろやかなミルクの味わい」は維持されており、味や品質を変えずに環境対応を実現しています。
環境配慮を前面に出しつつも、既存の購買理由を損なわない設計が取られており、既存の価値(味・品質・価格)を維持したまま付加価値として成立させる構造が成り立っています。

(8)カップデリ|「売れている理由」を可視化し選択しやすさを強化したリニューアル

引用:https://sustainability.sej.co.jp/action/000068/

セブン-イレブンは「カップデリ」シリーズにおいて、年間販売数上位の商品5種類を対象に、ベストセラーであることが一目で分かるパッケージへ刷新しています。あわせて、バジルや春キャベツなど季節性のある素材を採用するなど、中身も同時にリニューアルしています。

このカップデリシリーズはもともと少量サイズで手軽に一品追加できる商品として開発され、日常の食事やおつまみなど多様なシーンに対応してきた背景があります。既に評価されている要素(売れ筋・人気・実績など)を視覚的に伝えることで、購買判断を支援しています。

2.パッケージ変更で売上差を生む要素

パッケージ変更は見た目の刷新にとどまらず、購買行動や売上に直接影響する複数の要素で構成されています。そのため、どの要素をどの程度変更するかによって、成果に差が生まれます。
ここでは、パッケージリニューアルによって売上差を生む主要な要素を整理し、それぞれが購買判断にどのように影響するのかを分解して解説します。

(1)デザイン要素

デザイン要素は、店頭での0.5秒の第一印象を左右し、購買判断に直結する要素です。パッケージリニューアルにおいて売上に差を生むのは、色・レイアウト・視認性の徹底した計算です。

ロゴの配置やキーカラーを戦略的に残しつつ、シェルフ(棚)での目立ちやすさを向上させることで、既存客の離反を防ぎながら新規客の視線を獲得することが可能になります。
また、要素を引き算して最も伝えたいベネフィットに視線を誘導するアイ・トラッキングを意識した設計ができているかどうかが、手に取ってもらえる確率、ひいては売上の大きな分岐点となります。

【事例】脳科学で最適化した「アサヒ もぎたて」の視線誘導|アサヒビール
アサヒビールは主力商品「もぎたて」の刷新において、 業界でも珍しい脳波測定とアイ・トラッキングを導入しました。 消費者の無意識な視線の動きを分析した結果、 最大の武器である「24時間以内搾汁」の文字を最上部へ配置。 さらに果樹園を連想させる緑色を効果的に配色することで、 情報の引き算を行いながら、鮮度という価値を瞬時に伝達しました。 この「科学的根拠」に基づくデザイン変更は社内評価も高く、 店頭での確実な視認性向上と売上拡大を導き出しました。
参考:事例研究:アサヒビールがパッケージデザインのリニューアルに脳波計(EEG)と視線追跡という高度な手法をどのように活用したか|マクロミル

(2)コピー要素

コピー要素は、商品の価値や特徴を短時間で伝え、購買判断を後押しする要素です。
カテゴリー内での差別化要因となる味・機能・使用シーンの訴求において、曖昧な表現を排除し、ユーザーの悩みや欲求に突き刺さる「フックのある言葉」を選定できているかが重要です。

また、パッケージの限られた面積の中で、メインコピーから詳細説明へと視線を誘導する情報の階層構造を最適化し、デザインと連動した一貫性のあるストーリーを提示できているかが、売上を左右する大きな要因となります。

【事例】「鼻セレブ」のコピー戦略|王子ネピア
王子ネピアは機能性の高い保湿ティッシュを刷新する際、 「モイスチャー」というありきたりな説明を排除しました。 代わりに従業員のアイデアから生まれた「鼻セレブ」を採用。 この言葉が、潤いというベネフィットを直感的に伝達し、 愛らしい動物の表情とロゴを連動させた視覚階層により、 「自分のための特別な商品」という強烈な動機付けを実現。 発売直後から爆発的なヒットを記録し、不動の地位を築きました。
参考:王子ネピア公式:鼻セレブのあゆみ

(3)容量・価格要素

容量・価格要素は、コストパフォーマンスの認識に直結し、購買判断に影響する要素です。内容量やサイズの変更は、割高・割安の印象を左右するため、選択の可否に直結します。

特に、容量を減らし価格を維持する場合や、サイズを変更する場合には、既存顧客にとっての価値認識が変化しやすくなります。

原材料高騰などによる容量変更を伴う場合、単に内容量を減らすのではなく、パッケージ形状を工夫して保存性や利便性といった付加価値を付与し、顧客が感じる心理的価値を維持・向上させる施策を講じる必要があります。
また、単価の妥当性はもちろん、使い切るまでの期間がターゲットの購買頻度やストック状況に合致しているかを再設計できているかが、リピート率の増減、ひいては中長期的な売上差を生む決定的な要因となります。

【事例】キユーピーの容量・価格戦略
キユーピーは原材料高騰による価格維持が課題となる中、 容器の形状を工夫することで心理的価値の向上を図りました。 用途で使い分けられるダブルキャップの導入により、 単なる調味料から「便利な調理ツール」へと価値を再定義。 さらに多層ボトルによる鮮度保持機能を強化したことで、 容量あたりの単価に対する納得感を高めることに成功しました。 利便性と保存性の向上が、価格以上の満足感を生んでいます。
参考:マヨネーズへのこだわり|キユーピー

(4)環境・素材要素

環境・素材要素は、パッケージの素材選定や設計変更によって、購買時の評価や選択理由に影響する要素です。リサイクル素材の使用やプラスチック削減などは、環境配慮の観点から一定の選択基準として機能しますが、素材の変更がブランド価値の向上や手に取った際の心地よさとしてポジティブに変換されているかどうかも重要です。

例えば、再生紙やバイオマス素材への変更による視覚的な高級感の低下や開封・保存などの機能性の毀損は、購買判断の低下につながる要因となります。一方で、環境配慮と機能性・品質を両立できている場合は、既存の購買理由を維持したまま新たな選択理由を付加することが可能です。

環境価値を義務に留めず、消費者がその商品を選ぶことで得られる誇らしさや手触りの良さといった付加価値へ昇華できているかが、競合他社との売上差を生む重要な分岐点となります。

【事例】捨てる楽しさを生んだサントリーの「たたみやすいボトル」
サントリー天然水は環境素材の採用に留まらず、 空容器の回収効率を高める独自のボトル形状を開発しました。 薄く強固な素材設計により、飲み終えた後は 握るだけで約6分の1のサイズまで簡単に小さく折りたためます。 これにより「ゴミ箱を圧迫する」という生活者の不満を解消し、 環境配慮を「便利で気持ちの良い体験」へと昇華させました。 素材の変更がリサイクルへの参加意識をポジティブに刺激し、 ブランドへの愛着と継続購入を支える強力な要素となっています。
参考:環境に配慮したボトルと包装|サントリー

3.パッケージリニューアルで起きやすい失敗パターン

パッケージリニューアルがブランド識別や価値訴求、価格認識といった購買判断に直結する要素にズレが生じると、売上差として顕在化します。

ここでは、パッケージ変更において起きやすい失敗パターンを整理し、どの要素の設計を誤ると購買行動にどのような影響が生じるのかを分解して解説します。

(1)ブランド識別の喪失

パッケージリニューアルにおいて、ロゴ・カラー・配置といった識別要素を大きく変更した場合、店頭での発見性が低下し、これまで継続的に購入していた顧客が競合商品へ流れる可能性があります。

特に、ロングセラー商品や指名買いが多い商品では、視覚的な記憶に依存した購買が行われているため、識別要素の変更は売上に直接影響します。

そのためリニューアル前後で「何を維持し、何を変更するのか」という判断基準が曖昧な場合、識別性の毀損につながります。ブランド資産として機能している要素を特定し、それを維持した上で刷新できているかが、成否を分ける要因となります。

【事例】大塚製薬のブランド識別戦略
大塚製薬はポカリスエットの刷新において、 青と白のコントラストという絶対的な資産を維持しています。 どれほど時代が変化しても基本レイアウトを崩さないことで、 店頭での圧倒的な発見性と「指名買い」の習慣を守り抜きました。 一方で、ロゴのバランスや色の彩度を微細にアップデートし、 識別性を毀損することなく「現代的な洗練さ」を付加しています。 変えない勇気と変える緻密さが、既存客の離反を防ぎ、 中長期的なブランドの安定成長を支える決定打となりました。
参考:大塚製薬公式:ポカリスエット ヒストリー(デザインの変遷)

(2)訴求メッセージの不一致

パッケージ上のコピーやビジュアルが、実際の特徴やターゲットニーズと一致していない場合、視認はされても何を価値として提供している商品なのかが瞬時に判断できず、比較検討の段階で除外されます。

特に、従来の訴求軸から大きく変更した場合や、複数の価値を並列的に表現した場合は、メッセージの優先順位が不明確となり、伝達内容が分散します。その結果、ターゲットにとっての選択理由が形成されず、購買行動に結びつきません。

パッケージリニューアルにおいては、何を優先して伝えるのかという判断基準を明確にし、それが一貫した表現として反映されているかが、売上への影響を分ける要因となります。

【事例】湖池屋の訴求メッセージ戦略
湖池屋は安売り競争に陥っていた市場を打破するため、 訴求内容を「日本一の美味しさ」という一点に集中させました。 パッケージから雑多な情報を排除し、白地の余白を活かすことで、 素材と製法への圧倒的な自信を視覚的に提示。 「老舗のプライド」という強いフックを持つメッセージが、 質を重視する消費者のニーズと見事に合致しました。 伝えるべき情報の優先順位を明確にした一貫性のある設計が、 他社商品との決定的な差を生み、記録的な売上を導きました。
参考:湖池屋公式:湖池屋プライドポテト ブランドサイト(こだわりの製法と訴求軸)

(3)容量・価格の不整合

容量を減らして価格を維持する場合や、サイズ変更によって単位当たりの価格が上昇する場合は、実質的な値上げと認識されやすくなり、変更内容が明確に伝わらない場合でも、違和感として受け取られ、購買行動に影響します。
このとき、変更内容がパッケージ上で明確に伝達されていない場合でも、従来との比較により違和感が生じ、選択から外れる要因となります。

リニューアルにおいては、容量と価格の組み合わせがどのような価値として認識されるのかという判断基準を明確にし、それが一貫して設計されているかが、売上差を分ける要因となります。

【事例】明治の容量・価格戦略
明治は牛乳の容量を900mlへ変更する際、 新型のキャップ付き容器を導入して利便性を大幅に高めました。 単なる減量による実質値上げというネガティブな認識を、 「最後まで新鮮に飲みきれる」という鮮度価値へ見事に転換。 重さの軽減や横置き可能な機能が、現代の生活スタイルに合致し、 容量あたりの単価上昇を上回る満足度を顧客に提供しました。 変更の意図を明確に伝達し、納得感を生むパッケージ設計が、 ブランドの信頼性を守りながら収益性を支える鍵となりました。
参考:明治おいしい牛乳開発秘話

(4)環境配慮の伝達不足

リサイクル素材の採用やプラスチック削減などの取り組みを行っていても、その内容や意図がパッケージ上で明確に示されていない場合、従来品との差異として認識されず、購買判断に反映されません。
環境配慮の訴求が抽象的な表現に留まる場合や、具体的な削減量・素材情報・認証などが示されていない場合にも、比較検討の基準として扱われにくくなります。

リニューアルにおいては、環境対応をどのような情報として提示すれば購買判断に結びつくのかという判断基準を明確になっているかが、売上への影響を左右します。

【事例】コカ・コーラの環境伝達戦略
コカ・コーラはラベルを削ぎ落とした斬新なパッケージで、 環境対応を「見える化」し、購買意欲を刺激することに成功しました。 単なるプラ削減の報告に留めず、分別の手間を省くという 具体的な生活者ベネフィットを前面に出したことが勝因です。 ボトルに刻印されたロゴは、ラベルがなくても品質を保証し、 100%リサイクル素材の使用を明確に伝達しています。 環境への配慮を「賢い選択」という誇らしさへ昇華させた設計が、 未対応の競合他社を圧倒し、継続的な支持を獲得しました。
参考:サステナブルな容器へ|コカ・コーラ

4.パッケージリニューアルの判断基準

パッケージリニューアルを成功させるためには、市場データや消費者心理、さらには社会的な要請に基づいた客観的な基準で評価されなければなりません。現状のパッケージが抱える課題を攻め(市場拡大)と守り(リスク回避・コスト最適化)の両面から精査し、5つの判断基準からリニューアルの必然性を判断しましょう。

(1)市場・競合環境のベンチマーク

自社の売上が横ばいであっても、カテゴリー全体の成長率に置いていかれている、あるいは競合の台頭によって存在感が低下している場合、それはリニューアルを検討すべき強力なシグナルとなります。
例えば、競合他社が相次いでパッケージのトーン&マナーを刷新し、消費者の選ぶ基準が変化した(例:機能訴求から情緒訴求へシフトした等)場合、旧来のデザインのままでは比較検討の土俵にすら上がれないリスクが生じます。

また、配荷されている棚の構成を分析し、自社商品が周囲に埋没して視認性が著しく落ちていないかを定量的に検証することも、市場・競合環境による要因で失敗しないリニューアルとなります。

【事例】大王製紙のベンチマーク戦略
大王製紙は競合の台頭により自社商品が棚で埋没する危機に対し、 カテゴリーの常識を覆すデザイン刷新で対抗しました。 青と白が主流の保湿ティッシュ市場で、あえて濃紺を採用し、 情緒的な高級感を演出することで圧倒的な視認性を確保。 他社が機能訴求に終始する中で、選ぶ基準を「生活の質」へと変え、 比較検討の土俵で一歩先んじるブランド価値を再定義しました。 競合環境を冷静に分析したこの判断が、埋没を防ぐ鍵となり、 横ばいだった売上を再び成長軌道へと乗せることに成功しました。
参考:『贅沢保湿ティシュー』6年ぶりにリニューアル|大王製紙

(2)ターゲット適合性とブランド資産の乖離

ブランドが長く続くほど、既存客と共に顧客層が固定化・高年齢化し、次世代の新規顧客にとって「自分たちのための商品ではない」という心理的距離が生じるケースが増加します。
ターゲット適合性を判断するには、ロゴやキーカラーといったブランド資産が、今の時代感やターゲットの価値観に照らして正しく機能しているかを検証します。

つまり、ブランド調査において「認知度は高いが、購入意向が低い(自分向けではないと感じられている)」といったデータが顕著に現れた場合、それはブランドの再定義を伴うパッケージ刷新の重要なタイミングとなります。

【事例】大幸薬品のターゲット適合戦略
大幸薬品は「正露丸」が抱える顧客の高齢化という課題に対し、 象徴的なラッパのマークを軸にしたデザイン刷新で応えました。 伝統的なキーカラーを継承しつつ、レイアウトを現代的に整理し、 若年層が感じる「古臭さ」という心理的障壁を鮮やかに解消。 さらに携帯性を高めた新ラインのデザインをブランドに統合し、 「自分たちのための常備薬」という新たな認識を創出しました。 認知度の高さを維持したまま、購入意欲との乖離を埋めたこの施策は、 ブランド資産を未来へつなぐリニューアルの理想的な形です。
参考:正露丸 ブランドサイト(製品の歴史と進化)|大幸薬品

(3)機能的課題とコスト構造

どんなに優れたデザインであっても、使い勝手の悪さや物流コストの圧迫は、長期的なブランド力の低下と利益の浸食を招きます。主要な判断軸は、ユーザー体験の不全を起こしているかどうかです。
カスタマーセンターに寄せられる「開けにくい」「再封しにくい」「分別しにくい」といった具体的な不満が一定数を超えた場合、それはリニューアルによる改善の好機となります。

また、原材料費や物流コストの高騰に対し、積載効率を高める形状への変更や、製造工程を簡略化できるパッケージ構造への転換も、損益分岐点を改善する経営上の合理的な判断基準となります。

【事例】キリンビバレッジの指標改善戦略
キリンは「生茶」の回転率低下という課題に対し、 味の決め手である「あまみ」を強調するデザインへ刷新しました。 洗練された印象を維持しつつ、独自製法を伝えるコピーを加え、 棚で埋没していた「選ばれる理由」を視覚的に具体化。 この明確なベネフィット提示が消費者の購買意欲を刺激し、 トライアル購入の鈍化という停滞指標を見事に打破しました。 データに基づきパッケージの訴求力を再構築したことで、 ブランドの健康状態を回復させ、市場での優位性を奪還しました。
参考:「キリン 生茶」「キリン 生茶 ほうじ煎茶」大刷新

(4)ブランド・パフォーマンス指標

ブランド・パフォーマンス指標は、市場での健康状態を定量的に評価し、パッケージが収益を維持できているかを判定する基準です。特に注目すべきは、配荷率(店頭に並んでいる割合)に対して「回転率(1店舗あたりの販売数)」が落ちているケースです。これは「棚にはあるが、選ばれていない」状態を指し、パッケージの訴求力が低下している明確な証左となります。

また、ブランド認知は高いのに購入検討に入らない、あるいはトライアル購入(初回買い)が鈍化しているといったデータは、パッケージによるベネフィット伝達が不十分であることを示唆しています。

これらの定量的な指標が悪化、あるいは停滞した際、パッケージ刷新の必要性が判断されます。

【事例】日清食品の指標改善戦略
日清食品は「カレーメシ」の回転率が伸び悩む現状に対し、 デザインを「キャラクター主導」から「シズル主導」へ刷新。 認知度は高いものの購入に至らない要因が、味への不安にあると 定量データから判断し、美味しさを直感的に伝える写真を採用。 この変更が、棚の前で迷う消費者のトライアル購入を力強く後押しし、 「棚にあるが選ばれない」という停滞指標を鮮やかに打破しました。 商品価値を正しく伝えるパッケージ設計が、回転率を飛躍させ、 カテゴリー内で独走するヒットブランドへと成長させました。
参考:ギネス世界記録達成 世界一売れてるカレーメシ|日清食品

(5)環境配慮への適合性

かつては付加価値の一つとされていた環境対応ですが、現在は法規制への準拠小売店による導入条件の厳格化により、未対応であることが市場退場リスクに直結するフェーズに入っています。

法規制・流通基準への適応プラスチック資源循環促進法などの法的義務や、小売チェーンのサステナビリティ基準(プラ削減・再生素材指定等)への適合が求められ、未対応の場合は棚維持が困難となる
ブランドイメージの防衛と向上競合が環境対応を標準化する中で、従来素材の継続使用はブランドの陳腐化につながる
サプライチェーンの安定化環境対応素材への移行や調達構造の見直しにより、長期的な供給リスクの低減が求められる

つまり、環境価値を次世代の競争優位性へと転換できているかが、実務における成否を分けます。

【事例】習慣をデザインし直したスターバックスのストローレス改革
スターバックスはプラスチック削減という世界的な法規制や 社会的要請に対し、ストローを廃止する大胆な刷新を行いました。 単に代替素材へ変えるのではなく、ストローなしで飲める 新型の蓋「ストローレスリッド」を開発・導入。 これによりプラスチック使用量を大幅に削減しながらも、 コーヒーの香りを直接楽しめるという新たな価値を付加しました。 環境対応を「不便な我慢」ではなく「スマートな体験」へと 昇華させた設計が、ブランドの先進性を守る鍵となっています。
参考:FSC®認証紙カップとストロー不要の新リッド採用で、プラスチック削減に大きく貢献 スターバックス国内103店舗で2020年11月より、一部アイスビバレッジに導入開始

5.まとめ

パッケージリニューアルの成功事例では、維持すべき要素と変更すべき要素の判断基準が明確に定義されており、売上への影響を踏まえた設計が行われています。
つまりパッケージリニューアルにおいては、各要素がどのように購買行動に影響するのかを整理し、判断基準に基づいて設計されているかが、売上差を分ける要因となります。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現状の資材データの精密な分析に基づき、リニューアルを環境価値と売上向上を両立させる経営変革へと昇華させる支援を提供します。
パッケージリニューアルにお悩みの場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。