デジタル製品パスポートとは?日本企業への影響、開始時期と準備について

デジタル製品パスポートは、EU域内で流通させる企業および、そのサプライチェーンに関わる海外企業にも影響が及びます。この記事では、デジタル製品パスポート導入の背景対象範囲導入スケジュールについて解説します。日本企業に想定される影響やそして先行企業の取り組みも解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物・素材データの可視化を起点に、欧州基準に合致したトレーサビリティの確保や、構造的な企業変革を強固に支援します。デジタル製品パスポートの対応にお悩みの場合にはぜひご相談ください。

目次

1.デジタル製品パスポートとは?制度背景と対象も

ここでは、制度の全体像を把握し、なぜ求められているのかいつから始まりどの製品が対象になり得るのかを整理します。

(1)デジタル製品パスポートの概要

デジタル製品パスポートは、製品に関する環境性能原材料、修理・再利用に必要な情報デジタルで記録・共有するための仕組みです。

具体的には原材料部品構成環境負荷修理・リサイクル方法といったデータを一元的に管理し、関係者がアクセスできるようにしたものを指します。
これにより製品の出どころや環境性能、循環性に関する透明性が高まり、サステナビリティに関する情報が見える化されます。

参考:https://www.env.go.jp/content/000185559.pdf
参考:EUのESPR規則で義務化されるデジタル製品パスポート(DPP)とは?|EY

(2)欧州でデジタル製品パスポートが求められる背景

デジタル製品パスポートは、2024年7月に発効した持続可能な製品のためのエコデザイン規則を実現するためのデジタル基盤として位置付けられています。具体的には、以下の3つの狙いが背景にあります。

規制による透明性の強制デジタル製品パスポートを通じた厳格な在庫管理とデータ開示は、EU市場における販売ライセンスに近い性質を持つように
サプライチェーンのデジタル・トランスフォーメーションデータ形式を標準化でグリーンウォッシュのリスクを排除
資源効率の最大化と新産業の創出リペア、再製造、リユース市場を活性化させる

特に注意すべきは、完成品メーカーの背後にいる部品・素材メーカーに対しても1次データ(サプライヤーが実際に算出した数値)の提供が厳格に求められ始めている点です。

欧州市場をターゲットとする場合、データの不備は供給網からの脱落を意味するため、IT基盤の整備とサプライヤー契約の見直しは、今や喫緊の経営課題となっています。

参考:成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する取りまとめ

(3)デジタル製品パスポートの導入スケジュール

エコデザイン規則がデジタル製品パスポート義務化の基盤となり、2026年から2030年にかけてEU中央システムの稼働と製品ごとの義務化が段階的に進められます

2026年7月少なくとも固有の識別子を安全に保存するデジタルレジストリを設置
2026年末〜鉄鋼・鉄製品への適用開始(中間製品の中で最も早く規制の対象となる見通し)
2027年2月バッテリーパスポート義務化(確定)
2028年〜・2027〜2028年頃:繊維(アパレル)・家具(マットレス含む)・タイヤへの委任法が採択され次第、段階的に適用開始(これらは第1波優先グループ)
・2028年以降:中間見直し(2028年)の結果をふまえ、化学物質・洗剤・履物などの追加製品グループへの適用拡大を検討
2030年頃売れ残り製品の廃棄禁止措置と合わせ、循環型経済が全面始動

各製品の具体的なルール(委任法)が採択されてから、企業が完全に適合するまでには通常18ヶ月の猶予期間が設定されます。例えば、繊維製品のルールが2027年初頭に確定した場合、2028年中旬が最終的なデッドラインとなります。

参考:https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620?id=1280
参考:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo08.pdf
参考:https://j-valve.or.jp/env-info/17474/
参考:EUの法律で義務付けられているデジタル製品パスポート(DPP)は、ESPR、玩具、洗剤、電池など、さまざまな分野で使用されています。Circularise(サーキュラライズ)

(4)デジタル製品パスポートの対象製品|繊維・アパレルは含まれる?

結論として、繊維・アパレル製品は、デジタル製品パスポートが早く導入される最優先カテゴリーの一つです。環境負荷を削減するためにデジタル製品パスポートを含む、規制内容が順次適用されます。

デジタル製品パスポートの義務化2027年〜2028年頃に施行見込み
(2026年中に個別ルールである「委任法」が公表予定)
廃棄情報の開示義務2027年2月より標準フォーマットでの報告が必須
売れ残り衣類・履物の廃棄禁止2026年7月19日より大企業に適用開始

これにより、欧州へ輸出するアパレルメーカーや商社は、売れ残った場合のロジスティクスまでをデジタルデータで証明する必要があります。対応が遅れると、カスタム(税関)での足止めや、ブランドイメージの著しい低下を招く恐れがあります。
以下の動画では、不必要となった衣類が行き着くガーナの埋め立て地の様子をご確認いただけます。

参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_nw/pdf/010_03_00.pdf

【事例】丸紅:日本版DPP導入に向けたトレーサビリティの実証
丸紅は、オランダのスタートアップ企業であるサーキュライズ社と提携し ブロックチェーンを活用した日本版DPPのシミュレーションを推進しています。 この取り組みでは、神戸市で回収されたペットボトルキャップがリサイクル され、新しい製品へと生まれ変わるまでの全工程をデジタルで追跡しました。 具体的には、原材料の調達から製造、流通に至るまでの製品ライフサイクル 情報を一元管理し、消費者がQRコードを通じて環境負荷を確認できる仕組み を検証しています。特に「ゼロ知識証明」という高度な暗号技術を用いる ことで、企業の機密情報を保護しながら透明性を確保している点が特徴です。 今後は、欧州の厳しい規制に対応するためのデータ連携基盤として、化学品 やプラスチック、繊維など幅広い産業への展開を目指しています。 商社としてのグローバルなネットワークを活かし、サプライヤーとの1次データ 共有を標準化することで、日本の製造業の国際競争力維持に貢献しています。
参考:トレーサビリティ管理プラットフォームを活用した日本版DPPの対応を想定するシミュレーションの開始について|丸紅

2.デジタル製品パスポートによる日本企業への影響

日本企業であっても商流にEUが組み込まれている場合、事実上の対応対象になり得ます。
ここからは、デジタル製品パスポートによって日本企業に現実的に起こり得る影響を整理します。

(1)欧州市場における非関税障壁

デジタル製品パスポートの導入は、製品が市場に流通するためのデジタルな販売ライセンスとしての性質を強めています。これに製品データが登録されていない場合、通関時の差し止めやEU域内での販売禁止措置が取られる恐れがあり、実質的な非関税障壁として機能します。

さらに環境性能の証明が不当表示と見なされた場合、巨額の制裁金製品回収(リコール)の対象となるリスクがあります。客観的で改ざん不可能なデジタルデータによる証明ができなければ、企業の信頼性は即座に失墜しかねません。

既存の認証制度とデジタル製品パスポートが連動する動きもあるため、対応が遅れることは輸出企業にとって死活問題となります。

参考:https://www.jetro.go.jp/world/qa/04S-040011.html
参考:https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/f2af2bb5a7f33a8e.html

【事例】三井化学:ブロックチェーンを活用した資源循環とDPP対応
三井化学は、日本IBMや野村総合研究所と連携し、プラスチックの 資源循環をデジタルで支えるプラットフォーム構築を推進しています。 この取り組みでは、ブロックチェーン技術を中核に据えることで 廃プラスチックの回収からリサイクル製品の製造に至るまでの トレーサビリティを高度に担保しています。具体的には、原料の 出どころやリサイクル材の比率、製造工程でのCO2排出量といった DPPに必須となるデータを、改ざん不可能な形で記録・共有します。 これにより、欧州のESPR規制が求める透明性の高い情報開示を実現し、 データ不備による通関差し止めや市場排除のリスクを回避しています。 また、企業の機密情報を保護しつつ必要な環境データのみを抽出する 技術も検証しており、実務的な非関税障壁対策のモデルケースです。 商流の川上から川下までを繋ぐことで、素材メーカーの枠を超えた サーキュラーエコノミーの実現と国際競争力の強化を目指しています。
参考:三井化学と日本IBM、ブロックチェーン技術による資源循環プラットフォーム構築で協働開始

(2)サプライチェーンへの連鎖

全ライフサイクルデータを記録するデジタル製品パスポートの性質上、サプライヤーが直接算出した実数値提供が取引継続の絶対条件となりやすく、完成品メーカーにとどまらない影響が懸念されています。

特に電池や繊維、鉄鋼などの優先品目では、部品メーカーや素材メーカーが自社工場で測定したカーボンフットプリント含有化学物質の精緻なデータが要求されます。

これにより、直接欧州と取引のない国内中小メーカーであっても、その商流によってはデータ開示ができなければサプライチェーンから除外される事実上の選別が開始される可能性があります。

日本企業間ではウラノス・エコシステムなどの共通プラットフォームを通じたデータ連携が進んでおり、業界標準のテンプレートで要求された時に即座に、セキュアにデータを受け渡せる体制を整えることが、受注競争の勝利につながります。

参考:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html

【事例】ワーキングハセガワ:日本初の医療アパレルDPP実装
福岡のワーキングハセガワは、医療ウェアブランド「sukui」において 日本で初めて全製品へのデジタル製品パスポート(DPP)実装を完了しました。 ブロックチェーン技術を活用し、原材料の調達から製造、リサイクルに至る 全工程の透明性を確保しています。具体的には、製品に付随するQRコードを スマートフォンでスキャンすることで、CO2の排出量や吸収量だけでなく 調達先の地域やエネルギー消費量などの一次データに即座にアクセス可能です。 特筆すべきは、ヘンプ素材の活用により排出量を吸収量が上回る 「カーボンネガティブ」を数値で証明し、信頼性を高めている点です。 また、製品のリペア(修理)履歴やクリーニング記録もDPPに蓄積され、 「長く着る」という循環型経済の価値をデジタルで裏付けています。 多言語対応も進めており、欧州の規制を先取りすることで地方の小規模な メーカーがグローバル市場で直接戦える新たなビジネスモデルを提示しました。 自治体の支援を受けつつ、IT企業と共同でコストを抑えた運用基盤を 構築したこの事例は、多くの中小企業にとって現実的な指針となっています。
参考:日本初、医療ウェアにデジタル製品パスポート(DPP)を実装|ワーキングハセガワ

(3)サーキュラーエコノミーへの適合が必須条件に

デジタル製品パスポートの目的は、循環可能性を証明し続けることを企業に義務付けることにあります。
製品の耐久性修理可能性などの循環可能性は、デジタル製品パスポートによって数値化・可視化されており、こうしたスコアが低い製品は欧州市場での競争力を著しく失う仕組みとして実質的に機能しています。

また、デジタル製品パスポートには解体手順やスペアパーツの入手方法といったメンテナンス情報の紐付けが義務化されます。これは、第三者の修理業者や消費者が自ら修理することを容易にし、製品の寿命を延ばす修理の権利をデジタル側面から支えるものです。

すでに欧州では、製品の機能を貸し出すPaaS(製品のサービス化)への転換を加速させる手段として、デジタル製品パスポートが活用されています。
日本企業にとっても、デジタル製品パスポートがメンテナンスリユース市場での収益モデルを再構築するためのDX投資としての側面が強まる見通しです。

【事例】リコー:DPPを活用した「売らない」ビジネスモデルへの進化
リコーは、複合機のライフサイクル全体を管理する独自の循環型モデル 「コメットサークル」を提唱し、DPPをその高度化の核としています。 同社は製品の部品一つひとつの使用履歴や解体手順をデジタル化し、 回収された製品のどのパーツが再利用可能かを瞬時に判別しています。 これにより、新品と同等の品質を持つ「再生機」の製造効率を飛躍的に 高め、資源の消費を最小限に抑えるサーキュラーエコノミーを体現しています。 単なる規制対応に留まらず、製品を顧客に「売る」形態から「機能を貸す」 PaaSモデルへの転換を加速させるための重要なDX投資と位置付けています。 DPPに蓄積されたメンテナンスデータを活用し、故障を未然に防ぐことで 製品寿命を最大化し、修理や部品交換の収益性を高める戦略を展開中です。 欧州市場での競争力を維持するため、修理可能性スコアの可視化にも注力 しており、日本の製造業が目指すべき高度な循環型ビジネスの先駆例です。
参考:コメットサークル|リコー

3.デジタル製品パスポート導入に向けて企業は何を準備すべきか

デジタル製品パスポートへの対応は、製品情報の収集体制サプライヤーとのデータ連携既存システムとの統合など、準備には一定の時間と投資が必要になります。ここでは、日本企業が今から着手すべき代表的な準備項目を整理します。

参考:https://www.digital.go.jp/policies/industrial-data-integration
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2024FY/000742.pdf

(1)対象製品の特定とギャップ分析の実施

まずは、自社製品が「どのタイミングで」「どのような要件を」課されるかを正確に把握することです。欧州委員会が示した2025年〜2030年の作業計画に基づき、以下のステップで現状を精査します。

2025年4月に採択されたワーキングプラン(2025〜2030年)では、繊維(衣類のみ、履物は除外)、家具(マットレス含む)、タイヤ、鉄鋼、アルミニウムが優先製品グループとして確定されています。
なお、化学物質・洗剤・塗料・履物などは今回のワーキングプランには採用されず、化学物質については2025年末までに調査を開始し、2028年の中間見直しで再検討される予定です。自社製品やその主要構成部品がこれらに該当する場合、2027年〜2028年頃の義務化を見据えた最優先対応が必要です。

また、原材料の持続可能性や、製造時の環境フットプリント、再利用性・修理可能性といった、これまで社外に開示してこなかったデータの可視化が求められる場合があります。

こうした動きから、現在のドラフトに基づいた早期のデータ棚卸しが推奨されます。

参考:https://www.seaj.or.jp/activity/kankyo/file/243_PR_EU_ESPR%20.pdf
参考:EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)及びエネルギーラベル規則(ELFR規則)作業計画 2025-2030年|東京環境経営研究所

【事例】日本ガイシ:蓄電池の義務化を見据えたデータ管理の先進化
日本ガイシは、2027年2月から欧州で先行して義務化される「バッテリー パスポート」への適合を最優先課題として、具体的な体制構築を進めています。 同社は、大容量蓄電システムである「NAS電池」を対象に、原材料の採掘から 製造、廃棄までのライフサイクル全体にわたるデータの棚卸しを実施しました。 特に欧州の規則が求める「炭素足跡(カーボンフットプリント)」の実測値や、 リサイクル材料の含有率、含有化学物質の情報を精緻に可視化しています。 この過程で、自社の既存データと欧州の厳格な要件との乖離を特定する ギャップ分析を行い、不足している一次データの収集フローを確立しました。 また、データの信頼性を担保するために第三者認証機関との連携を強化し、 客観的な証明力を備えたデジタル製品パスポート(DPP)の運用を目指しています。 こうした早期の対応により、欧州市場における参入障壁を競争優位性に転じ、 信頼性の高いエネルギーインフラ提供者としての地位を強固にしています。 素材メーカーとしてサプライチェーンの川上に位置しながらも、川下の規制に 迅速に適合する姿勢は、多くの日本の製造業にとって重要な手本となります。
参考:カーボンニュートラルへの取り組み|日本ガイシ

(2)サプライヤーとの連携による収集体制の構築

デジタル製品パスポートの運用において、最も重要なデータはサプライヤーが提供する1次データ(実測値)です。
業界平均値を用いた推計(2次データ)の受け入れは厳格化されており、川上から川下まで一貫したデータのバトンパスが求められています。

そのためサプライヤーに対し、環境データの提供を取引条件として提示する必要があります。具体的にどのようなデータ(CO2排出量、再生材含有量、人権デューデリジェンス等)を、どの頻度で提出すべきかの詳細なガイドラインを共有し、認識の齟齬をなくすことも重要です。

また、親企業として、簡易的な算定ツールの提供や、専門家による勉強会の実施など、サプライヤー側のデータ算出能力(キャパシティ・ビルディング)を支援する体制を構築します。
サプライヤーに対し、証拠の管理もセットで求める管理体制の構築が求められます。

【事例】旭化成:Blue Plasticsによる透明性の高い資源循環の構築
旭化成は、プラスチックの資源循環をデジタルで支える基盤として、 独自のプラットフォーム「Blue Plastics」を展開しています。 この取り組みでは、リサイクルチェーンに関わる多くのサプライヤー との連携を重視し、再生材の混入率や加工時の環境負荷といった 一次データを改ざん不可能な形で収集・管理する体制を整えました。 特に、ITに不慣れな現場のサプライヤーでも容易に入力できる専用 ツールを提供し、算出能力の向上を直接支援している点が特徴です。 これにより、業界平均値ではない実測値ベースのデータバトンパスを 実現し、欧州のデジタル製品パスポートが求める厳格な証明要件に 適合しています。消費者は製品に付されたQRコードをスキャンする ことで、リサイクルの履歴を信頼できる証拠とともに確認できます。 素材メーカーとして川上から川下までをデータで繋ぐこのモデルは、 サプライチェーン全体の競争力を高める先進的な事例となっています。 将来的には他の素材への横断的な展開や、グローバルなデータ空間 との相互接続を目指し、資源循環の標準化を強力に推進しています。
参考:資源循環プロジェクト「BLUE Plastics®」において産業系由来の再生プラスチック利用促進システム開発を開始|旭化成

(3)資源循環を前提とした製品設計への転換

デジタル製品パスポートを軸にエコデザイン規則に適合するためには、以下のようなライフサイクル全体で資源を循環させる設計変更が不可欠です。

  1. 廃棄物と汚染を生み出さないデザイン
  2. 製品と原料を使い続ける
  3. 自然システムを再生する

解体しやすく、素材の再利用が容易な設計を行うことは、将来的な原材料コストの削減や、欧州での環境規制に伴う拠出金の低減に直接寄与します。
グローバル市場において、こうした設計刷新は、直接的なコスト削減市場競争力を担保するための経営戦略そのものと位置付けられます。

【事例】TOTO:資源生産性の最大化と高度な素材循環設計
TOTOは、限りある資源を効率的に活用するため、設計段階から 「減量・再生」を徹底し、資源生産性の最大化を追求しています。 例えば、衛生陶器の製造過程で発生する端材を廃棄せず、高度な 粉砕技術により再び自社の便器原料として活用するクローズドループ リサイクルを確立しました。製品設計においても、水栓金具の 軽量化や再生材の積極的な採用を進め、原材料の持続可能性を 高めることで、将来的なDPP要件への適合を見据えています。 また、節水技術を通じた使用時の環境負荷低減に加え、長期間 安心して使い続けられるよう、耐久性と修理性を兼ね備えた設計を グローバルで展開しています。これにより、欧州の環境規制に伴う 拠出金リスクを低減しつつ、データに裏打ちされた製品の信頼性 によって市場競争力を強化しています。資源を「使い続ける」 ための設計刷新を経営の核に据え、持続可能な未来に向けた 水まわり文化の変革と、環境と経済の両立を力強く推進しています。
参考:資源循環|TOTO

4.デジタル製品パスポート導入に関する先行企業の事例

(1)パナソニック|バッテリーパスポート

引用:https://holdings.panasonic/jp/?_gl=1*1lkae74*_ga*MTgyNzczNjI1My4xNzc0NTEyMjQ3*_ga_K78QDTE73S*czE3NzQ1ODM0NzckbzEkZzEkdDE3NzQ1ODM1MjYkajExJGwwJGgw*_ga_YDTBMJSTSP*czE3NzQ1ODM0NzckbzEkZzEkdDE3NzQ1ODM1MjkkajgkbDAkaDA.&_ga=2.35633314.267807012.1774512247-1827736253.1774512247

パナソニックは、バッテリーパスポートを活用した情報開示・製品透明性の向上に取り組んでいます。
これによって、同社の欧州事例では、エコデザイン規則に沿ったデジタル製品パスポートの活用を通じて、サプライチェーン全体の資源使用や再利用の情報提供を実現し、製品の環境パフォーマンスに関する透明性を高めています。

資源効率の向上や循環型ビジネスモデルへの移行を促す取り組みとして位置づけられており、製品価値の向上環境意識の高い顧客との関係づくりにもつながっています。

参考:https://news.panasonic.com/jp/stories/15015

(2)株式会社サトー|ラベルプリンターへの実装

引用:https://www.sato-global.com/ja/news/release/2025/20251014/

株式会社サトーは、製造段階から解体・再資源化に至るまでのプロセスにおいてデジタル製品パスポートの社会実装に向けた実証実験を行っています。

サトー製のラベルプリンターにデジタル製品パスポート用の二次元コードを付与し、製造情報・素材情報を記録し、回収・解体・破砕・再生素材の製造・再製品化工程までをデジタル製品パスポートで一貫管理し、企業横断的にデータ活用が可能かを検証しています。

5.デジタル製品パスポート導入の戦略的メリット

デジタル製品パスポートは規制対応として語られることが多い一方で、見方を変えれば企業競争力を再構築する機会でもあります。ここでは、デジタル製品パスポートがもたらす中長期的な経営メリットを整理します。

(1)欧州市場におけるプレゼンス向上と優位性の確保

製品情報の透明性が取引の前提となる市場では、デジタル製品パスポートに対応済みであること自体が信頼の証明となり、サプライヤー選定パートナー選びの判断材料になります。

特に欧州では、環境性能や資源循環への取り組みを可視化できる企業が評価されやすく、公共調達や大手企業との取引においても優位に立ちやすくなります。必要なデータを迅速かつ正確に提示できる体制を持つことは、入札機会の拡大や契約継続の安定にも直結します。

【事例】アウディ:バッテリーパスポートによる欧州市場での信頼構築
アウディは、フォルクスワーゲングループの一員として、欧州の 電池規制に先駆け「バッテリーパスポート」の導入を推進しています。 この取り組みでは、電気自動車に使用されるバッテリーの原材料、 すなわちリチウムやコバルトの採掘地から、製造、二次利用、そして リサイクルに至る全履歴をデジタルデータで可視化しています。
具体的には、グローバル・バッテリー・アライアンスと連携した パイロット運用を通じて、製品の環境負荷や人権デューデリジェンスの 実績を改ざん不可能な形で証明できる体制をいち早く確立しました。 これにより、2027年に義務化される欧州規制への適合を完了させ、 「最も透明性の高いプレミアムブランド」としての地位を固めています。 また、この透明性は欧州市場の公共調達や大手企業との取引において 強力な判断材料となり、競合他社に対する圧倒的な優位性を生んでいます。 データの公開を通じて消費者の信頼を獲得するだけでなく、中古車市場 でのバッテリー残価の適正な査定にも貢献し、循環経済を牽引しています。 デジタル製品パスポートを単なる法的遵守の手段ではなく、ブランドの 誠実さと先進性を象徴する戦略的ツールとして最大限に活用しています。
参考:Audi joins Global Battery Alliance to launch Battery Passport pilot(英語)

(2)高度なサプライチェーン・リスク管理

サプライチェーン全体で共有できるようになると、原材料の由来、環境負荷、製造拠点、輸送経路といったデータを横断的に確認でき、企業はリスクの所在をより正確に把握できるようになります。

また、規制変更や輸出入要件の強化、地政学的な緊張など外部環境の変化に対しても、必要な情報を即座に提示できる体制は事業継続力の向上につながります。調達先の見直し代替ルートの検討といった判断も、事実に基づいて進めやすくなります。

【事例】Catena-X:欧州自動車業界によるデータ主権と強靭性の両立
Catena-Xは、BMWやメルセデス・ベンツ、BASFなどの独企業が 主導する、世界初の自動車産業向けオープンデータ空間です。 この基盤の最大の特徴は、企業がデータの所有権(データ主権)を 保持したまま、必要な情報をセキュアに共有できる点にあります。 具体的には、数千社に及ぶサプライヤーの稼働状況や在庫データを リアルタイムで連結し、需要と供給のミスマッチを即座に可視化。
地政学リスクや災害による供給網の断絶が発生した際、影響範囲を 数週間ではなく数時間で特定し、代替ルートへの切り替えを迅速化 させます。さらに、リコール発生時には対象部品を搭載した車両を 100万台規模からわずか数十台にまで絞り込み、莫大なコスト削減と 信頼回復を実現した事例もあります。DPPの要件となる排出量データも 実測値で共有され、欧州市場での規制適合と事業継続を支えています。 中小企業も参加しやすい標準化されたツールが提供されており、 個別のIT投資を抑えつつグローバルな受注競争力を高めています。 透明性の確保が企業の強靭性を高めることを証明した、次世代の デジタル・サプライチェーン・リスク管理のベンチマークです。
参考:Catena-X: Resilient Supply Chains(公式サイト・英語)

(3)ブランド価値と消費者信頼の獲得

デジタル製品パスポートによって情報が公開されることで、環境や社会に対する姿勢が具体的な事実として伝わりやすくなります。透明性の高い企業は、消費者や取引先から継続的な信頼を得やすく、そうしたブランディングで評価されるようになります。

日本においても、倫理性や持続可能性を重視した購買行動が広がっており、データに基づいた説明ができる企業が選ばれやすい環境が整っています。

引用:https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/g_ipm/attach/pdf/r6caravan_program_kinki-13.pdf

(4)サーキュラービジネスによる新たな収益源の創出

デジタル製品パスポートによって製品の構成情報や使用履歴が把握できることで、どの部材が再利用可能かどのタイミングで回収すれば効率的かといった判断で回収・再利用・再製品化を前提とした事業設計を行いやすくなります。

これにより、修理サービスリファービッシュ部品の再販売再生材の活用など、従来は難しかった循環型の収益モデルが具体化します。製品を売って終わる関係から、使用後まで含めて価値を提供する継続的なビジネスへと発展させることが可能になります。

結果として、デジタル製品パスポートは、新しい収益機会を生み出すための基盤として機能します。

【事例】On:サブスクリプションと完全循環を実現した「Cyclon」
スイスのスポーツブランドOn(オン)は、DPPの概念をビジネス モデルの核に据えたランニングシューズ「Cyclon」を展開しています。 この製品は「所有」ではなく「利用」を提供するサブスクリプション 形式で提供され、100%リサイクル可能な単一素材のバイオベース ポリアミドで作られています。各製品には固有のデジタル識別子が 付与され、素材の純度や使用サイクルのデータを厳格に管理しています。
ユーザーが履き潰したシューズを返却すると、新たな製品と交換される 仕組みであり、DPPによって回収された素材が再び高品質なシューズの 原料へと戻る「完全循環」のトレーサビリティを担保しています。 これにより、原材料コストの変動リスクを抑えつつ、廃棄物を出さない 資源循環をデジタルで可視化し、顧客との継続的な関係を築いています。 単なる物売りから「循環型サービス(PaaS)」への転換に成功した、 アパレル業界における最も先進的な収益モデルの好事例といえます。 データに基づき製品の寿命と価値を最大限に引き出すこの戦略は、 欧州市場でのブランド価値向上と持続可能な成長を両立させています。
参考:Cloudeasy Cyclon:リサイクルの​未来を​創る​|On

6.まとめ

デジタル製品パスポートは、単なる情報開示ツールに留まらず、日本企業がグローバル市場で持続的に成長するための戦略的な武器となり得ます。欧州市場への対応という喫緊の課題に加え、サプライチェーン全体の透明化、ブランド価値向上、そしてサーキュラーエコノミーへの移行を加速させる強力な推進力となるでしょう。変化を機会と捉え、早期の準備と戦略的な導入を進めることが、今後の競争優位性を確立する鍵となります。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物・素材データの精密な分析を起点に、国際基準に合致したデータ管理体制の構築や、構造的な企業変革を強固に支援します。デジタルパスポートを駆使して循環の証明を確立したい場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。