サーキュラーエコノミーの動脈・静脈産業とは?違いや事業変革の進め方

サーキュラー エコノミーの動脈・静脈という言葉は広く使われていますが、その意味や位置づけは文脈によって異なります。本記事では、循環型経済の全体構造の中で両者の役割を整理し、実務で求められる視点も解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現状の資源フローの可視化や動脈と静脈を繋ぐ逆物流の構築、さらには再生資源の価値最大化を強固に支援します。サーキュラーエコノミーで循環型経営を実現したい方は、ぜひご相談ください。

目次

1.動脈産業・静脈産業とは?サーキュラーエコノミーにおける役割と違い

ここでは、動脈産業・静脈産業の役割と、サーキュラーエコノミーにおける役割と違いについて解説します。

(1)動脈産業の役割と具体例

動脈産業は、資源を投入し、製品やサービスとして市場に価値を届ける役割を担います。
サーキュラーエコノミーでは、この役割が作って売る段階で完結せず、資源制約や循環を前提に再設計される点が重要です。

資源投入量の抑制再生材の活用使用後の回収を想定した設計は、動脈産業側で意思決定されます。
つまり、循環型経済における動脈産業は、資源の入口を設計する立場として、循環の質そのものを左右します。

参考:動脈産業・静脈産業とは?注目されている理由や事業ごとの事例、課題なども解説|DXE

(2)静脈産業の役割と具体例

静脈産業は、使用後に発生する製品や副産物を回収し、資源として再び活用可能な状態へ戻す役割を担います。
サーキュラーエコノミーにおいては、動脈産業へ資源を戻す循環の起点として位置づけられます。

回収精度や分別技術、再資源化の品質は、循環全体の実効性を左右します。
静脈産業は、循環を成立させるための実務的・技術的な基盤を支える存在です。

参考:今改めて注目される「静脈産業」とは?リサイクルだけじゃない循環経済の在り方を解説|オリックス

(3)動脈産業と静脈産業の違い

動脈産業と静脈産業の違いは、資源循環の中で担う機能の違いにあります。
動脈産業は資源を投入し、価値ある製品やサービスとして社会に供給します。
一方、静脈産業は使用後の製品を回収し、再利用や再資源化を通じて次の価値創出につなげます。

観点動脈産業静脈産業
資源の位置入口側出口側
主な機能調達・設計・製造・供給回収・分別・再利用・再資源化
価値の生み方新たな製品・サービスを創出資源価値を再生し循環させる
関係性静脈と連携することで循環を設計動脈へ資源を戻し循環を支える

サーキュラーエコノミーは、この連携することで、循環が成立します。

参考:循環型社会の形成 ~循環型社会の構築を通じた経済発展の実現に向けて~|環境省

2.動脈・静脈産業が連携しないことによる3つのデメリット

ここでは、動脈産業と静脈産業が連携しないことで生じる代表的な3つのデメリットと、企業が直面するリスクを解説します。

(1)資源調達コストの増大と供給不安定化

動脈産業と静脈産業が連携していない場合、調達は一次資源に偏りやすくなります。
その結果、市況や為替、地政学リスクの影響を直接受け、価格高騰や供給制限が発生しやすくなります。
回収資源や再生材を平時から調達ポートフォリオに組み込めていなければ、急激な環境変化に対応できません。

観点連携しないことで生じる影響
調達の前提一次資源への依存が固定化
価格変動市況・為替変動の影響を直撃
供給対応力代替材・代替調達先を確保できない
事業運営納期遅延や操業調整が発生

こうした構造は納期遅延や操業調整を招き、事業継続の不確実性を高めます。

(2)国内外の法規制・環境規制への対応遅れ

動脈産業と静脈産業が分断されたままでは、国内外で強化される法規制・環境規制への対応が後手に回りやすくなります。資源循環や再生材利用は、サプライチェーン全体での実態把握と説明が前提となるためです。

観点連携しないことで生じる影響
規制対応の単位個社対応に留まり全体説明ができない
情報把握回収量・再資源化プロセスを把握できない
情報開示・監査開示不足・説明不十分と判断されやすい
事業機会取引条件変更や参入要件未達につながる

回収量や再資源化プロセスを把握できなければ、情報開示や監査に十分対応できず、取引条件の見直し参入要件の未達といった形で事業機会を失うリスクが高まります。

(3)ブランド毀損リスク

動脈産業と静脈産業が連携していない場合、環境配慮の実態と外部への情報発信の間に乖離が生じやすくなります。
回収や再資源化の仕組みを把握しないまま環境訴求を行うと、根拠を示せず説明責任を果たせません

観点連携しないことで生じる影響
情報発信実態と訴求内容に乖離が生じる
説明責任回収・再資源化の根拠を示せない
ステークホルダー評価取引先・投資家からの信頼が低下
企業価値ブランド評価や中長期価値に影響

近年は取引先や投資家から、取り組みの実態やプロセスの開示が求められており、十分な説明ができない状態が続くと信頼性が低下します。

3.サーキュラーエコノミーがもたらす動脈・静脈統合型ビジネスモデルとは

サーキュラーエコノミーは、動脈産業と静脈産業を分断せず、一体で設計することで成立するビジネスモデルです。
ここでは、その基本的な仕組みから事業構造企業にもたらす価値までを整理し、統合型モデルの全体像を解説します。

(1)サーキュラーエコノミーの仕組み

サーキュラーエコノミーの仕組みは、資源の循環を前提に経済活動全体を設計する点にあります。
原材料の調達段階から、再利用や再資源化を見据えた製品設計を行い、製造、使用、回収までを一連のプロセスとして捉えます。

観点仕組みの特徴
経済モデル直線型から循環型への転換
設計段階再利用・再資源化を前提に設計
プロセス管理調達から回収までを一体で把握
資源の行方静脈を経由し動脈へ再投入

使用後の資源は静脈産業を通じて回収・再生され、再び動脈産業へ戻ることで、資源の行き止まりを防ぎ、新たな製品や価値創出につながります。

参考:循環経済パートナーシップ(J4CE)

(2)サーキュラーエコノミーのビジネスモデル

サーキュラーエコノミーのビジネスモデルは、製品を販売して完結する従来型の事業から、循環を前提に価値を生み続ける構造へ転換する点に特徴があります。

観点ビジネスモデルの内容・効果
収益構造売切型から継続的収益型へ
設計思想再利用・修理を前提に設計
事業範囲回収・再投入までを内包
経営効果収益機会の拡張と基盤安定化


再利用や修理を前提とした設計、使用後の回収スキーム、再生材の再投入を事業プロセスに組み込むことで、製品のライフサイクル全体が価値創出の対象となります。

【事例】ダイキンによる空調の価値循環
ダイキン工業が展開する「エアアズアサービス(Air as a Service)」は、空調設備を「所有」するのではなく、空調の「機能」を月額定額制で提供するビジネスモデルです。

顧客は空調機を買い取る必要がなく、使用料を支払うことで常に最適な空気環境を維持できるため、資産運用の効率化や管理の手間を大幅に削減できます。 この仕組みにおいて、空調機の所有権は常にメーカー側にあるため、機器をできるだけ長く、効率的に稼働させることが自社の利益に直結します。 そのため、設計段階から高耐久かつ修理しやすい構造が取り入れられ、デジタル技術を用いた遠隔監視によって故障の予兆を捉える高度な保守サービスが提供されます。 定期的なメンテナンスが徹底されることで、エネルギー効率の低下を防ぎ、製品寿命を最大限に延ばすという循環型経済の設計思想が反映されています。 また、契約期間が終了した機器についても、メーカーが責任を持って確実に回収し、冷媒ガスの再生や部品の再資源化を行うスキームが確立されています。 これにより、資源を無駄にすることなく、原材料の調達から廃棄までの全プロセスを自社の価値創出のサイクルとして一貫管理することが可能となりました。

空気をサービスとして提供するこの取り組みは、売切型のビジネスから脱却し、環境負荷の低減と事業の持続性を両立させる有力なモデルとなっています。

参考:Air as a Service(エアアズアサービス)|ダイキン工業

(3)サーキュラーエコノミーがもたらす経済的価値

サーキュラーエコノミーは、企業の経済価値そのものに好影響を与えます。
再生材の活用資源回収を事業に組み込むことで、一次資源への依存を抑え、調達コストの変動リスクを軽減できます。また、製品やサービスを循環させる設計により、販売後も顧客や資源との関係が継続し、新たな収益機会が生まれます。

観点経済的価値の内容
調達リスクコスト変動・供給不安定性の低減
収益機会継続的なサービス・回収収益
経営安定性事業構造の耐久性向上
企業評価規制対応力・外部評価の向上

これらは規制対応や外部評価にも波及し、中長期的な競争力の基盤となります。

【事例】二次流通が拓く新しい経済循環の姿|メルカリ
メルカリが提供するフリマアプリは、単なる中古品の売買を超えて、あらゆるモノに二度目、三度目の命を吹き込む巨大な循環型プラットフォームを構築しました。

「売って終わり」という消費行動を「売ることを前提に買う」という新しい価値観へと変容させ、製品の寿命を延ばすことで資源の有効活用に大きく貢献しています。 特に注目すべきは、二次流通の活発化が一次流通(新品市場)の消費をも喚起するという、相乗的な経済効果を生み出している点です。 リユース品で試してから新品を購入する「トライアル消費」や、売却利益を軍資金とした新たな購買行動が、市場全体の活性化を支えています。 また、企業向けに提供される「メルカリShops」を通じて、自治体や企業が在庫品や備品を廃棄せず価値あるものとして再放出する仕組みも広がっています。 独自の調査や「サーキュラーエコノミー総研」の発足を通じて、循環型経済がもたらす社会的・経済的インパクトを可視化し、提言し続けている点も特徴的です。 最新のレポートによれば、衣類一着の取引でペットボトル約80本分に相当する温室効果ガスの排出を回避できるなど、具体的な数値で環境価値を示しています。 さらに、越境取引の拡大によって、日本国内に眠る資産をグローバルな循環の波に乗せ、新たな外貨獲得の機会を創出する戦略も加速させています。 このように、テクノロジーを駆使して「捨てる」という概念をなくし、個人から社会までが広く利益を享受できる持続可能なビジネスモデルを体現しています。

事業の成長と環境負荷の低減を高い次元で両立させることで、中長期的な企業価値の向上と強固な経営基盤の確立を同時に成し遂げているのです。

参考:Sustainability|メルカリ

4.動脈産業・静脈産業の連携に関する企業事例

(1)動静脈連携創出プロジェクト「中小企業型循環モデル 」

引用:https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/SME/bobbin_project.pdf

中小企業型循環モデルは、動脈産業と静脈産業が連携し、廃プラスチックを循環させる仕組みを中小企業規模で実装した事例です。
BtoB取引では素材が限定され、回収の確度が高い特性を生かし、使用済み資材を再生原料として再投入します。
行政や支援事業者が間に入り、用途開発まで一体で進めることで、建材や自動車部品など新たな事業展開につなげています。

(2)動静脈一体車両リサイクルシステム

引用:https://www.sanpainet.or.jp/journal_detail.php?id=2&did=9

動静脈一体車両リサイクルシステムは、鉄道車両に使用されるアルミ部材を、製品用途を維持したまま再利用する水平リサイクルを実現した事例です。合金系別の高精度選別技術を基盤に、製造業、リサイクル事業者、鉄道事業者が連携し、回収から再投入までを一体で構築しました。
官民連携による実証を経て、新幹線への再利用が実現し、国際的にも循環型モデルとして評価されています。

(3)循環プラットフォームの構築

引用:https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2024_NoteworthyCases_J.pdf

循環プラットフォームの構築は、製品情報と回収の仕組みをデジタルで統合し、動脈産業と静脈産業、生活者をつなぐ取り組みです。
製品購入から使用後の回収までを一体で設計し、行動データやインセンティブを通じて回収参加を促します。
これにより回収率や分別精度が向上し、リサイクル効率の改善と循環型モデルの拡張が可能になります。

5.【事例付き】動静脈連携におけるよくある失敗例と成功への対策

動静脈連携は有効な取り組みである一方、進め方を誤ると期待した成果につながらないケースも見られます。
ここでは、現場で起こりやすい失敗の傾向を整理し、成功へ導くために押さえるべき考え方を解説します。

(1)環境配慮を優先しすぎたことによる収益悪化

動静脈連携では、環境配慮を重視するあまり、事業性の検討が後回しになる失敗が見られます。
再生材導入や回収体制の構築は不可避的にコストを伴うため、収益設計と切り離して進めると負担だけが先行します。

失敗例成功に向けた対策
環境対応そのものが目的化事業価値・競争力向上と紐づける
追加コストのみが顕在化価格設計・収益源を同時に検討
本業と切り離された施策既存事業の延長線で組み込む
補助金・一時施策に依存自走可能な収益構造を設計

環境対応を目的化せず、どの価値が収益や競争力につながるのかを明確にしたうえで、循環施策を事業構造に組み込むことが重要です。

【事例】ボトルからボトルへ繋ぐ自走型リサイクルモデル|日本コカ・コーラ
日本コカ・コーラは環境対応を単なる社会的責任で終わらせず、本業のサプライチェーンに組み込むことで持続可能な事業構造を築いています。

かつてリサイクルは高コストな活動とされていましたが、同社は「ボトル to ボトル」という水平リサイクルを中核に据えました。 使用済みペットボトルをゴミではなく貴重な資源と定義し、国内のパートナー企業と連携して効率的な回収・再生ネットワークを構築しています。 この取り組みの鍵は、既存の自販機運営や物流網の中に回収プロセスを相乗りさせ、静脈物流のコストを最小限に抑えた点にあります。 再生材の価格変動に左右されないよう、長期的な協力体制を敷くことで、一次資源への依存を減らしつつ安定的な容器調達を実現しました。 環境負荷の低減を目的化するのではなく、資源を自社内で循環させる仕組みが、将来的な調達リスクを回避する経営戦略として機能しています。 ラベルレス製品の拡充など、設計段階からリサイクル効率を高める工夫を施し、回収後の処理コストを低減させているのも特徴です。 補助金や一時的な活動に依存せず、ビジネスとして自走可能な収益構造を設計したことが、国内での高いリサイクル率達成を支えています。 消費者に対しても「リサイクルは新しい製品を作るための準備」というメッセージを伝え、顧客を循環プロセスの一員として巻き込んでいます。

このように、動脈産業と静脈産業を高度に連携させることで、経済的価値と環境的価値を同時に創出する先進的なモデルを体現しています。

参考:100 % Recycled PET 無駄のない世界へ。|日本コカ・コーラ

(2)データ連携の不備による品質リスク

動静脈連携では、回収資源の素材情報や使用履歴が共有されないまま再生材として投入されると、品質のばらつきが発生し、製品性能や安全性への不安が高まります。

失敗例成功に向けた対策
素材・履歴情報が分断回収時点からデータを付与
再生材の品質が不安定統一した品質基準を設定
物理的回収のみを重視資源と情報を同時に連携
採用部門が品質を懸念トレーサビリティを確保

循環型事業を成立させるには、物の流れとデータを一体で管理し、信頼できる品質基準を維持する設計が不可欠です。

【事例】データの力で廃プラスチックを高品質な資源へ変える|パナソニック
パナソニックは、長年培った家電リサイクルの知見にデジタル技術を融合させ、資源の流れと情報の連携を高い次元で実現しています。

回収された家電から取り出されるプラスチックは、本来、使用状況や経年変化によって品質にばらつきが生じるという課題がありました。 同社はこのリスクを回避するため、独自の高速樹脂選別技術を導入し、素材の純度や劣化度合いを瞬時にデータ化する仕組みを構築しました。 選別された素材情報と、製品設計に必要な物性データを一体で管理することで、再生材でありながら新品と同等の品質を保証しています。 このように「情報の分断」を解消したことが、強度の求められる家電製品の内部構造材や外装パーツへの広範な再採用を可能にしました。 また、設計部門に対して再生材の特性情報を詳細にフィードバックする体制を整え、品質への懸念を払拭するプロセスを確立しています。 単に物理的な回収を重視するのではなく、素材の「履歴」と「性能」をセットで動脈産業へ戻すことが、信頼性の高い循環を実現する鍵です。 さらに、再生材活用のノウハウをデータベース化することで、将来の製品開発における資源の再投入率を高める設計思想が根付いています。 環境負荷の低減と製品の安全性を両立させるこの取り組みは、データ連携がもたらす品質リスクの克服という難題への明確な回答となっています。

まさに、モノとデータの同時循環を実践することで、資源を最大限に使い切る持続可能なものづくりの基盤を固めているのです。

参考:パナソニックが考える資源循環|パナソニック

(3)既存事業との衝突とKPI設定のミス

動静脈連携は、既存事業の延長線上で設計しなければ現場との摩擦を生みやすくなります。循環施策が短期的な売上や利益を圧迫すると、現場では本業の足を引っ張る取り組みと受け取られがちです。
従来指標のみで評価すると、循環による供給安定化やリスク低減といった価値が可視化されません。

失敗例成功に向けた対策
本業と切り離して推進既存事業の強化策として位置づけ
収益悪化への懸念が先行役割と効果を明確に共有
売上・利益のみで評価循環率・供給安定性も指標化
短期成果に偏重中長期の価値創出を評価

中長期視点で既存事業と整合する評価軸を設計することが、連携を定着させる重要な要素です。

【事例】医療機器の循環を成長戦略へ変えたフィリップスの挑戦
フィリップスは医療機器の販売において「新品を売る」モデルから「性能を循環させる」モデルへの転換を成功させました。

かつては再生品の提供が新品の売上を奪う懸念もありましたが、同社はこれを既存事業を補完する成長の柱と定義しました。 循環型製品を「Diamond Grade」としてブランド化し、新品と同等の厳格な品質保証を付与することで顧客の信頼を確保しています。 経営指標には「循環型収益」の割合を最重要KPIとして設定し、単なる販売数ではなく資源の回収や再利用率を評価の軸に据えました。 この指標の導入により、現場の営業担当者も短期的な売上だけでなく、長期的な顧客との関係性や資源価値を重視するようになりました。 特に高額なMRIなどの機器では、中古品の回収と再整備を専門に行う体制を整え、これまで予算面で導入が難しかった層へ販路を広げています。 また製品を「所有」から「利用」へと変えるサブスクリプション型サービスを推進し、安定したメンテナンス収益の基盤を築きました。 設計段階からアップグレードや部品交換を前提とすることで、製品寿命を延ばしながら最新技術を提供し続ける仕組みを実現しています。 このように環境対応を本業の競争力強化と完全に同期させ、現場のモチベーションと経済的合理性を高い次元で両立させました。
中長期的な視点でのKPI設定が、組織全体の行動を循環型へと変容させ、持続可能なビジネスモデルを確立する推進力となっています。

参考:Circular Economy at Philips|Philips(英語)

6.動静脈連携における事業変革の進め方

動静脈連携を実効性のある事業変革として定着させるには、段階的かつ戦略的な進め方が求められます。
ここでは、連携を形骸化させず、事業として成立させるために押さえるべき基本的な進め方を解説します。

(1)資源フローと情報の分断を可視化する

動静脈連携の第一歩は、資源とデータを同じ地図上に並べ、どこで途切れているかを特定することです。
原材料の調達から設計・製造使用使用後の回収・選別・再資源化までを工程ごとに整理し、素材情報・履歴・数量などの情報が欠落する区間を洗い出します。この分断点が見えると、回収率低下再生材品質のばらつきの原因が特定でき、次の施策設計が現実的になります。

【事例】独自素材SORPLASが支える高度な資源可視化|ソニー
ソニーは独自の難燃性再生プラスチック「SORPLAS」の開発を通じ、資源の調達から再生までのフローを緻密に管理しています。

この取り組みの核心は、廃プラスチックを単に再利用するだけでなく、その「身元」を特定し品質の分断を防ぐ仕組みにあります。 世界各地から回収されるプラスチックの素材情報や含有成分をデータベース化し、情報の欠落が生じないよう工程を整理しています。 設計段階からリサイクルしやすい素材構成を検討し、どの製品にどの素材が使われたかを把握することで回収時の不純物混入を抑制します。 物理的な資源の流れとデジタルな素材データを同じ地図上に並べることで、再生材特有の品質のばらつきというリスクを克服しました。 この可視化によって、これまで廃棄されていた素材がどの工程で滞留しているかという分断点を特定し、効率的な回収を可能にしています。 情報の透明性を高めることは、再生材でありながら新品と同等の耐久性や意匠性を維持するための不可欠なプロセスとなっています。 自社製品の枠を超えて他社へも素材提供を行うことで、産業全体の資源循環を支えるプラットフォームとしての役割も果たしています。 素材の履歴を追跡し続ける姿勢は、環境規制への対応力のみならず、将来の資源調達における安定性と競争力を生み出しています。

モノと情報の流れを一体で捉え直すことで、行き止まりのない持続可能なものづくりのあり方を具体的な技術で体現しているのです。

参考:環境配慮型素材 難燃性再生プラスチック SORPLAS™|ソニー

(2)静脈産業を戦略パートナーとして再定義する

動静脈連携を実効性のある取り組みにするには、静脈産業を処理業務の外注先ではなく、事業価値を共に設計する戦略パートナーとして位置づけ直すことが重要です。静脈産業は、回収可能性や選別精度、再資源化の制約条件を熟知しており、その知見は製品設計や素材選定の意思決定に影響します。
しかし、動脈側が設計段階の判断を単独で行う限り、循環は後付けになります。そのため、役割と責任を再定義し、対等な協働関係を築くことで、循環性と事業性の両立が可能となります。

【事例】静脈の知見を動脈の設計に宿すパートナーシップ|サントリー

サントリーは、ペットボトルの完全循環を実現するために、静脈産業の旗手である協栄産業を単なる処理委託先ではなく、事業の運命共同体として再定義しました。
かつてリサイクルは、製品が捨てられた後の「後付けの処理」に過ぎませんでしたが、両社はこの常識を根本から覆しました。 静脈側が熟知している「再生プロセスにおける不純物のリスク」や「選別精度を阻害する要因」を、サントリーの製品設計チームに直接フィードバックする体制を構築しています。 この連携により、リサイクル工程での負荷を最小限に抑えつつ、最高品質の再生プラスチックを生み出すためのボトル設計やラベルの素材選定が実現しました。 役割と責任を明確に分担しながらも、対等な立場で技術開発を行うことで、環境負荷の低減とコスト競争力を両立させています。 動脈側が単独で判断を下すのではなく、循環のプロである静脈側の知見を上流工程へ取り込むことが、行き止まりのない資源循環を可能にしました。 また、回収ルートの最適化においても、静脈側の物流網と動脈側の販売網をクロスさせることで、効率的な資源フローを設計しています。 このように、静脈産業を戦略的パートナーとして位置づける姿勢は、単なる環境配慮を超えた新しい産業連携の形を体現しています。 この強固な信頼関係が、日本国内における高いリサイクル率と、グローバルでも先進的な水平リサイクルモデルの確立を支えています。
企業の枠を超えた知見の融合こそが、サーキュラーエコノミーを実効性のあるビジネスへと昇華させるための鍵となっています。

参考:資源循環|サントリー

(3)循環性を軸とした新たなKPIと評価制度を導入する

動静脈連携を継続的な取り組みとして定着させるには、循環性を評価できるKPI(重要業績評価指標)制度設計が不可欠です。売上や利益のみを指標とする評価では、回収率の向上や再生材活用、供給安定化といった循環の成果が正当に反映されません。資源循環率や再投入量、調達リスク低減への寄与などを指標として組み込むことで、評価と行動が結び付き、循環型事業を継続的に推進できる体制が整います。

【事例】地下資源消費ゼロを目指すエプソンの循環経営
セイコーエプソンは長期ビジョン「Epson 25 Renewed」において、循環型経済の牽引を経営の最優先事項に掲げています。

2050年までに「地下資源消費ゼロ」という極めて高い目標を定め、原油や金属などの枯渇性資源に頼らない事業構造への転換を進めています。 この目標達成のため、従来の売上高や利益といった指標に加え、サステナブル資源への置き換え率などを新たな経営KPIとして導入しました。 独自の「ドライファイバーテクノロジー」を用いたオフィス製紙機など、使用済みの紙をその場で再生し循環させる革新的な製品を世に送り出しています。 また、プロジェクターやプリンターの回収・リファービッシュ(整備済製品)事業を強化し、製品の寿命を最大限に延ばす仕組みを構築しました。 製造現場では、シリコンウェハーの端材を金属粉末製品の原料として再利用するなど、動脈と静脈を自社内で繋ぐ取り組みを徹底しています。 短期的な新品販売の最大化だけでなく、資源をどれだけ効率的に回せたかを評価する姿勢が、現場の技術革新を後押しする土壌となっています。 さらに、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減目標を掲げ、取引先に対しても資源循環への協力を求める評価基準を設けています。 このように環境負荷の低減を「コスト」ではなく「事業の持続性を高める投資」と捉え、全社的な評価制度として定着させているのが特徴です。

モノづくり企業としての責任をKPIに落とし込むことで、経済的価値と地球環境の再生を高い次元で両立させるモデルを追求し続けています。

参考:環境|セイコーエプソZ

7.まとめ

サーキュラーエコノミーにおける動脈産業と静脈産業は、対立する概念ではなく、資源循環を成立させるために相互に機能する関係です。
両者が分断されたままでは、調達リスクや規制対応、ブランド評価に影響が及びます。一方で、連携を前提に事業を設計すれば、供給安定化や新たな収益機会につなげることが期待できます。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、この動脈と静脈を繋ぐ「結節点」として、企業の枠を超えた資源循環スキームの構築を支援します。長年培ったサプライチェーンの知見を活かし、設計から回収、再資源化までを一貫してデザインすることで、理想的な循環型ビジネスへの移行を現実に変えます。
サーキュラーエコノミーの実装を検討している場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。