ステークホルダーエンゲージメント事例から学ぶ実務|分類・優先順位

ステークホルダーエンゲージメントは、企業活動において利害関係者との関係性を整理し、意思決定に反映させるための重要なプロセスです。ESGやサステナビリティ対応が求められる中で、対話を通じた関係構築が前提となっています。本記事では、ステークホルダーエンゲージメントの定義と対象範囲を整理したうえで、企業事例をもとに実務での進め方も解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、投資家、取引先、そして地域社会から求められる厳格な環境要請に対し、現場のデータ可視化を起点に、新たな競争優位へと転換する構造変革を支援します。ステークホルダーエンゲージメントに課題を感じている場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.ステークホルダーエンゲージメントとは

ここでは、ステークホルダーエンゲージメントの定義と目的、対象となるステークホルダーの範囲を整理したうえで、企業活動における位置づけを解説します。

(1)ステークホルダーエンゲージメントの定義と目的

ステークホルダーエンゲージメントとは、事業者がステークホルダーを十分に理解し、その関心や意向を事業活動および意思決定プロセスに組み込むための組織的な取り組みを指します。

これはステークホルダーとの協働によって進められる場合も含まれ、多様な行動形態を伴う概念として位置づけられています。

また、ステークホルダーとの関係は企業にとっての経営資源とされており、その意向や動向を踏まえずに事業を進めることはリスク要因となります。継続的なエンゲージメントを通じて関係性を維持・強化することが、事業を円滑に進めるための前提とされています。

参考:https://www.env.go.jp/content/900497044.pdf

【事例】住友化学:価値共創とリスク管理の統合
住友化学はエンゲージメントを「社会との価値共創」の基盤と位置づけ 多様な利害関係者の声を経営戦略や重要課題の特定に反映させています。 単なる対話に留まらず、各ステークホルダーの関心事と自社の経営資源を 対応させた独自の体系図を公開し、意思決定の透明性を高めているのが特徴です。 また、対話を通じて得た社会の要請を、持続的な成長を阻むリスクの早期発見や 新たな事業機会の創出に直結させることで、経営資源の最適化を図っています。 一過性のイベントではなく、計画・実行・評価のサイクルを組織的に運用し 信頼関係を「見えない資産」として蓄積する実務を徹底しています。
参考:ステークホルダーとのコミュニケーション|住友化学

(2)ステークホルダーの対象範囲

ステークホルダーの対象範囲は、事業者の事業内容や目的に応じて特定されます。
その前提として、ステークホルダーとは「事業者との間に何らかの利害関係を有するか、事業に関心を有する個人またはグループ」と定義されています。

対象となるステークホルダーには、資本提供者、従業員、顧客、取引先、地域社会、市民組織、政府・自治体などが含まれます。また、自然環境も重要なステークホルダーとして位置づけられており、人以外の要素も対象に含まれます。
さらに、これらのステークホルダーは一括りではなく、より細かなサブカテゴリーに分類されます。

例えば、資本提供者には株主だけでなく投資家や格付機関が含まれ、地域社会には事業所周辺だけでなく原材料の供給地域なども含まれるとされます。

参考:https://www.env.go.jp/content/900497044.pdf

【事例】王子ホールディングス:自然資本を起点とした多角的な関係構築
王子ホールディングスは「森のリサイクル」を掲げる事業特性を反映し、人や組織だけでなく「森」や「生態系」を重要な利害関係者と定義しています。 特に社有林に生息する絶滅危惧種の保護を、行政やNPOと協働で進めており 自然環境を単なる資源ではなく守るべき対話相手として位置づけるのが特徴です。 また、原材料調達地である海外の地域住民や、投資家、従業員といった 多様なステークホルダーごとに詳細な期待事項と行動指針を整理しています。 これら広範な対象に対し、定期的な対話を通じて信頼関係を醸成することで グローバルなサプライチェーンのリスク管理と事業継続性を高めています。
参考:ステークホルダーエンゲージメント|王子ホールディングス

(3)ステークホルダーエンゲージメントの企業活動における位置づけ

ステークホルダーエンゲージメントは、事業活動に付随する任意の取り組みではなく、経営プロセスの中に組み込まれるべき要素として位置づけられています。
そのため事業者はステークホルダーとの対話を通じて得られた情報や意見を、事業戦略や意思決定に反映させることが求められています。

計画・実施・評価・改善といった一連のプロセスとして継続的に運用されることで、ステークホルダーの関心事項や社会的要請を把握し、それに対応する形で事業活動を調整することが前提となります。

【事例】キリンホールディングス:取締役会の決議に直結させる「経営合流型」プロセス
キリンホールディングスはエンゲージメントを経営の中核であるマテリアリティ特定プロセスの 一環として定義し、外部の多様な声を組織的に意思決定に組み込んでいます。 投資家やNGOとの対話から得られた知見を「グループCSV委員会」で精査したうえで 最終的に取締役会での決議を経て事業戦略へ反映させる徹底した運用が特徴です。 また、決定した施策の実行状況を四半期ごとにモニタリングし、その成果を 再び経営層へ報告することで、実効性の高いPDCAサイクルを構築しています。 これにより、社会の要請を一時的な対応で終わらせず、長期的な企業価値向上に 直結させる「経営プロセスの一部」としてのエンゲージメントを体現しています。
参考:ステークホルダーエンゲージメント|キリンホールディングス

2.ステークホルダーエンゲージメントの企業事例

(1)SUBARU

引用:https://www.subaru.co.jp/csr/subaru_csr/stakeholder/

SUBARUは、ステークホルダーとの関係性を企業価値向上の基盤と位置づけ、多様な利害関係者との継続的な対話を通じて経営に反映する取り組みを行っています。
対象となるステークホルダーは、お客様、地域社会、株主・投資家、取引先、従業員、行政、NGO・NPOなど多岐にわたり、それぞれに応じたコミュニケーション手法を明確に定義しています。

例えば、顧客に向けては満足度調査やイベントを通じたフィードバック収集、株主・投資家に対しては説明会や情報開示、地域社会に対しては交通安全啓発や清掃活動など、接点ごとに異なる手法を設計しています。

また、販売特約店との連携においては、定期的な会議を通じて現場の意見を収集し、品質対応やサービス改善に活用しており、「一つのいのちプロジェクト」などの活動では、企業単独ではなくパートナーや地域社会と協働する形でエンゲージメントを展開しています。

(2)Logitech

引用:https://www.logicool.co.jp/ja-jp/sustainability/reports-and-resources.html

Logitechは、ステークホルダーエンゲージメントを責任ある企業活動の基盤と位置づけ、継続的かつ多様なチャネルを通じてステークホルダーの意見を収集し、経営に反映する仕組みを構築しています。特にESGに関する重要課題について、直接的なフィードバックを収集することを重視しています。

例えば、従業員に対してはエンゲージメント調査を実施し、組織運営や職場環境の改善に活用し、サプライヤーやパートナーには、責任ある調達やサプライチェーンの透明性確保に向けた取り組みを通じて関係性を構築しています。

さらに、国際的な枠組みである国連グローバル・コンパクトやSDGsへのコミットメントを通じて、外部ステークホルダーとの協働も推進しています。これにより、企業単体ではなく、社会全体の課題解決に向けた連携を強化しています。

(3)サッポロホールディングス

引用:https://www.sapporoholdings.jp/sustainability/policy/engagement/

サッポロホールディングスは、サステナビリティ方針に基づき、積極的な情報開示と双方向のコミュニケーションを通じて、すべてのステークホルダーとの信頼関係の構築を図っています。

対象となるステークホルダーごとにエンゲージメントの機会を設計している点が特徴であり、お客様に対しては相談窓口や工場見学、イベントなどを通じた接点を設けています。株主・投資家に対しては株主総会や決算説明会、個別対話などを実施し、継続的な情報提供と対話を行っています。

また、取引先に対しては日常的なコミュニケーションに加え、サプライヤー満足度調査サステナビリティ評価を実施し、調達方針と連動した関係構築を行っています。従業員に対しては研修や労使対話、内部通報制度などを通じて組織運営に関する意見を収集しています。

(4)日本ハム

引用:https://www.nipponham.co.jp/corporate/sustainability/stakeholders/

日本ハムは、お客様、地域社会、取引先、株主・投資家、従業員など多様なステークホルダーに支えられて事業活動を行っており、それぞれとの関係性を前提にエンゲージメントを推進しています。

消費者に対しては「聴く・知る・活かす」というコミュニケーションサイクルを通じて顧客の声を商品やサービスに反映し、安全・品質の向上と満足度の向上を図っています。取引先に対しては、サステナブル調達方針に基づき、公正で透明な取引とパートナーシップの強化を進めています。

また、株主・投資家に対しては情報開示や対話を通じて信頼関係を構築し、得られた意見を企業活動へ反映する体制を整えています。行政とは法令遵守を前提に情報共有を行い、適切な対応と連携を図っています。

(5)セールスフォース

引用:https://www.salesforce.com/jp/resources/guides/build-one-team-around-customer/

セールスフォースは、顧客を中心とした組織運営を前提に、社内外のステークホルダーを横断的に連携させるエンゲージメントを推進しており、全社を一つのチームとして統合し、顧客体験を軸に意思決定を行う体制を構築しています。

その実効性を高める施策として、顧客とのすべての接点をデータとして統合・可視化し、組織全体で共有することで、一貫した対応と意思決定を可能にしていることが挙げられます。

さらに、顧客との接点を特定の部門に限定せず、全社員が顧客との接触機会を持つ仕組みを整備し、組織全体で顧客理解を深める運用を行っています。これにより、短期的な対応だけでなく、中長期の製品開発やサービス改善に反映する体制を構築しています。

(6)ソフトバンク

引用:https://www.softbank.jp/corp/sustainability/esg/social/stakeholders/

ソフトバンクは、多様なステークホルダーとの関係性を前提に事業を推進しており、持続的な成長と社会的価値の創出を両立するために、ステークホルダーとの継続的なエンゲージメントを実施しています。

エンゲージメントにおいては、顧客、サプライヤー、株主・投資家、地域コミュニティなどを対象とし、それぞれの期待や課題を把握することを重視しています。対話を通じて得られた意見は、適切な窓口を通じて収集され、経営や事業活動へフィードバックされる体制が整備されています。

さらに地域コミュニティも重要なステークホルダーとして明確に位置づけ、自治体やNPO・NGO、教育機関、住民などとの対話を通じて、地域課題や企業への期待を把握しています。

(7)パタゴニア

引用:https://www.patagonia.jp/social-responsibility/

パタゴニアは、環境保全を中心とした企業使命のもと、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会、環境団体など多様なステークホルダーとの関係構築を前提に事業活動を展開しています。

特にサプライチェーンにおいては、労働環境や環境負荷に関するデータを収集・管理し、サプライヤーと協働して改善を進める体制を整備しており、問題の特定から改善までを共同で行うアプローチが採用されています。

企業の意思決定においても環境・社会への影響を重視し「地球を守る」という使命を軸に事業を運営することで、株主だけでなくすべてのステークホルダーを対象とした経営のあり方として示されています。

(8)三菱商事

引用:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/sustainability/

三菱商事は、企業理念に基づき、社会課題の解決と企業価値の向上を両立するために、ステークホルダーとの対話を経営に組み込む取り組みを行っています。

対象となるステークホルダーは、顧客・パートナー、従業員、株主・投資家・債権者、社会・メディア、NGO・NPO、政府・行政など多岐にわたり、それぞれに応じたエンゲージメントを実施しています。

例えば、投資家との対話や説明会、従業員への組織風土調査、NGOとの協働による環境・社会課題への対応など、関係者ごとに具体的な対話機会を設計しています。

(9)江崎グリコ

引用:https://www.glico.com/assets/files/CSRreport_2025.pdf

江崎グリコは、CSRレポートを通じて、ステークホルダーに対して企業の考え方や取り組みを開示し、理解促進と対話の基盤を構築しています。レポート自体がステークホルダーとのコミュニケーション手段として位置づけられています。

事業活動を通じて社会に価値を提供することを前提に、顧客、従業員、取引先、地域社会などとの関係性を整理し、それぞれに対する取り組みを体系的に推進しています。特に「お客様の声を活かした改善」や「サプライチェーンマネジメント」など、各ステークホルダーとの関係性を具体的な活動として展開しています。

また、重要課題(マテリアリティ)の特定においても、ステークホルダーの期待や社会的要請を踏まえたプロセスを採用しており、その結果をもとに戦略や施策を設計しています。これにより、意思決定にステークホルダーの視点を反映する仕組みが構築されています。

(10)ヤマトホールディングス株式会社

引用:https://www.yamato-hd.co.jp/csr/

ヤマトホールディングスは、お客さま、従業員、地域社会、ビジネスパートナー、株主・投資家など、多様なステークホルダーに対する責任を明確化し、それぞれに応じた取り組みを体系的に整理しており、ステークホルダーごとに「責任」と「具体的な取り組み」を紐づけて定義しています。

お客さまに対しては、コミュニケーションを通じて要望や期待を把握し、サービス開発や品質向上に反映しています。従業員に対しては、安全で衛生的な職場環境の整備や人材育成制度の提供を行い、働く環境の改善を推進しています。

また、ビジネスパートナーに対しては、公正・公平な取引関係の構築や責任ある調達を実施し、サプライチェーン全体でのエンゲージメントを強化しています。地域社会や国際社会に対しては、社会課題の解決や共生に向けた活動を通じて関係性を構築しています。

参考:https://www.yamato-hd.co.jp/csr/engagement.html

3.ステークホルダーエンゲージメントの全体プロセス

ステークホルダーエンゲージメントは、一連のプロセスとして体系的に実行されます。
ここでは、目的の明確化から計画策定、対話の実施、意思決定への反映、モニタリングまでの流れを整理し、実務での進め方を段階ごとに解説します。

(1)目的の明確化と特定

ステークホルダーエンゲージメントの実施にあたっては、まず目的を明確にし、対象となるテーマや課題を特定する必要があります。何を把握し、どの意思決定に反映させるのかを定義することで、エンゲージメントの方向性が整理されます。

具体的には、事業戦略の検討、リスクの把握、社会的要請への対応など、エンゲージメントを通じて得たい成果を明確化します。そのうえで、対象となるステークホルダーや論点を絞り込み、実施範囲を設定します。

【事例】アサヒグループホールディングス:戦略的課題に連動した目的別の対話設計
アサヒグループは、エンゲージメントの目的を「社会的課題の把握」と「経営の客観性確保」に置き、マテリアリティごとに具体的な対象を特定しています。 例えば、気候変動への対応という特定のテーマに対し、専門性を持つNGOや国際機関を「目的達成のためのパートナー」として特定し、実効性のある対話を設計しています。 また、対話を通じて得たい成果を「中長期的なリスクの低減」や「事業機会の創出」と定義し、収集した情報をどの意思決定プロセスに流すかを事前に整理しています。 このように、漠然とした交流ではなく、事業戦略の精度を高めるための「情報収集と分析」の場として、エンゲージメントの方向性を厳格に管理しているのが特徴です。 これにより、経営資源を集中させるべき論点が明確になり、無駄のない組織的な取り組みを実現しています。
参考:ステークホルダーとの エンゲージメントと コラボレーション|アサヒグループホールディングス

(2)エンゲージメント計画の策定

目的と対象が整理された後は、エンゲージメントの具体的な実施計画を策定します。誰と、どのような方法で、どのタイミングで対話を行うのかを明確にすることで、実行可能な体制を構築します。

計画策定においては、ステークホルダーごとの特性や関心事項を踏まえ、適切なコミュニケーション手法を選定します。説明会、アンケート、ワークショップ、個別対話など、目的に応じた手法を組み合わせることで、必要な情報を効率的に収集することが可能となります。

【事例】オムロン:対話の「頻度・手法・担当」を網羅した実行計画
オムロンは各ステークホルダーが持つ独自の関心事項をあらかじめ定義し それに応じた最適なコミュニケーション手法を体系的に計画しています。 例えば投資家とは四半期ごとの決算説明会だけでなく、テーマ別の説明会や 個別面談を組み合わせ、情報の深度に合わせた多層的な対話を設計しています。 また従業員とは経営層とのタウンホールミーティングや意識調査を行い 各接点において「どの部署が、いつ、何を把握するか」を明確にしています。 こうした緻密な計画策定により、組織全体での情報収集が効率化されるとともに 把握した課題を漏れなく経営課題の解決へとつなげる体制を構築しています。 これにより、現場の対話が形式的な活動に終わることなく、実効性のある 経営判断の材料として機能するよう、組織的な運用を徹底しています。
参考:ステークホルダーエンゲージメント|オムロン

(3)対話の実施

ステークホルダーとの対話は一方向の情報提供ではなく、意見や要望を双方向で交換する場として設計されます。
実施にあたっては、事前に設定した目的や論点に沿って進行し、ステークホルダーの関心事項や懸念、期待を具体的に把握します。アンケートやヒアリング、ワークショップなどの手法を活用し、形式に応じて適切な情報収集を行います。

【事例】商船三井:多角的な視点を取り込む「双方向ダイアログ」
商船三井は、気候変動や人権といった複雑な課題に対し、外部有識者や NGOを招いた「サステナビリティ・ダイアログ」を定期的に実施しています。 この対話は単なる形式的なヒアリングではなく、経営層が直接出席し 専門家からの鋭い指摘や社会の期待をダイレクトに受け止める場です。 事前に設定された論点に基づき、自社の弱みや課題についても率直に議論し 対話の詳細は社内外へ公開されることで、プロセスの透明性を確保しています。 さらに、現場の従業員とのタウンホールミーティングや、顧客との 共創ワークショップなど、階層や対象に応じた多様な手法を組み合わせて 多層的な「声」を吸い上げる双方向のコミュニケーションを具現化しています。
参考:ステークホルダーエンゲージメント|商船三井

(4)意思決定への反映と分析

対話を通じて収集した情報は、整理・分析を行ったうえで意思決定に反映します。
これはステークホルダーの意見や要望を把握するだけでなく、事業戦略や施策の検討に活用します。

分析においては、共通する課題や優先度の高い論点を抽出し、リスクや機会として評価します。その結果をもとに、事業計画の見直しや施策の改善、対応方針の策定などに反映します。

【事例】リクルートホールディングス:対話を「経営の羅針盤」に変える分析と反映
リクルートホールディングスは、投資家や外部有識者との対話を通じて 抽出された「社会の期待」を、リスクと機会の二軸で厳密に分析しています。 収集した多岐にわたる意見は、サステナビリティ推進委員会で整理され 経営陣が議論すべき重要論点として経営会議や取締役会に報告されます。 この分析結果は、単なる報告書に留まらず、中長期的な経営戦略や ESG指標の具体的数値目標(KPI)を策定する際の重要な根拠となります。 ステークホルダーの懸念を「事業リスク」として早期に意思決定へ反映し 新たな要望を「成長機会」と捉えて新規事業の検討に活用する体制を整え 対話を事業の競争力強化へ直結させる高度な仕組みを運用しています。
参考:ステークホルダー・エンゲージメント|リクルート

(5)モニタリングと報告

意思決定に反映した内容について、その後の実行状況や成果を継続的にモニタリングします。設定した施策がどの程度機能しているかを確認し、必要に応じて見直しや改善を行います。
モニタリングでは、ステークホルダーの反応や評価、KPIの達成状況などを定期的に把握し、エンゲージメントの有効性を検証します。これにより、取り組みの実効性を維持しながら、次の施策へとつなげることが可能となります。

また、結果については適切な形でステークホルダーに報告し、透明性を確保します。

【事例】ソニーグループ:KPI管理と透明性の高いフィードバック
ソニーグループは、ステークホルダー対話を通じて特定した重要課題に対し 具体的な数値目標(KPI)を設定し、その進捗を厳格にモニタリングしています。 環境計画「Road to Zero」などの達成状況は、毎年詳細なレポートで報告され 目標に届かなかった項目についても、その理由と改善策を明示するのが特徴です。 また、投資家やNGOからの再評価を次の対話の論点として設定することで エンゲージメント自体が形骸化していないかを継続的に検証しています。 この「実行・評価・報告・改善」という透明性の高いサイクルを回すことで ステークホルダーとの信頼関係を維持し、実効性のある経営を体現しています。
参考:ステークホルダーエンゲージメント|ソニーグループ

4.ステークホルダーの優先順位付けについて

ステークホルダーエンゲージメントを実務で運用する際には、すべての関係者に同一の対応を行うのではなく、重要度に応じた優先順位付けが必要となります。ここでは、優先順位を判断するための指標と、その必要性について解説します。

(1)優先順位を判断するための3つの指標

ステークホルダーの優先順位を判断する際には、影響度や関心度による整理に加えて、サリエンス・モデルが活用されます。この手法では、ステークホルダーの重要度を3つの指標で評価します。

正当性ステークホルダーの主張や要求が、社会的・倫理的にどの程度妥当であるか
権力資金力や法的権利、世論などを通じて企業の意思決定や事業運営に影響を与える力の有無
緊急性要求への対応に時間的猶予があるか、即時対応の必要性がどの程度高いか

これら3つの要素を組み合わせて評価することで、対応の優先度を整理することが可能となります。
特に、正当性・権力・緊急性のすべてを満たすステークホルダーは「決定的ステークホルダー」として位置づけられ、最優先での対応が求められます。

【事例】ANAホールディングスの事例まとめ
ANAホールディングスは事業に影響を与える多様な関係者に対し 影響度や期待値に基づいた厳格な優先順位付けを実施しています。 これはサリエンス・モデルの指標である権力や正当性と合致しており 人権や安全といった最重要課題における意思決定の軸となっています。 限られた経営資源を「決定的ステークホルダー」への対応へ集中させ リスクの最小化と社会的価値の最大化を同時に図るのが特徴です。 不測の事態においても、優先すべき対象と論点が明確であるため 迅速かつ誠実な経営判断を下すための組織的基盤を構築しています。
参考:ステークホルダーとのかかわり|ANAホールディングス

(2)優先順位の必要性

優先順位を設定することで、「誰に対して、どのような対応を行うのか」が明確になり、経営判断の軸を整理できます。
さらに、影響力を持ちながら表面化しにくいステークホルダーを把握し、対応漏れによるリスクを抑えることにもつながり、関心度や影響度に応じて情報提供の内容や頻度を調整することで、効率的なコミュニケーション設計が可能となります。

なお、優先順位は固定的なものではなく、社会環境や事業状況の変化に応じて見直されます
不祥事の発生や新規事業の開始、上場などの局面では、ステークホルダーの重要度が変化するため、定期的な再評価が前提となります。

【事例】第一三共:事業リスクと戦略に連動した優先順位の再定義
第一三共は、製薬業界特有のステークホルダー(患者、医療関係者、規制当局など)に対し、その時々の経営戦略や社会情勢に基づいた優先順位付けを行っています。 優先順位を明確にすることで、例えば「新薬開発」の局面では患者団体や専門家との対話を最優先し、「不祥事や品質問題」が発生した際には規制当局や社会全体への透明性を高めるなど、経営判断の軸を迅速に切り替える体制を整えています。 また、表面化しにくい潜在的なステークホルダー(将来の世代や環境など)についてもリスク分析を通じて把握し、対応漏れを防ぐための定期的なレビューを実施しています。 このように、変化する重要度に応じてコミュニケーションの頻度や内容を調整することで、組織的なリスク管理と経営の機動力を両立させている点が、実務における優れた好事例です。
参考:ステークホルダーとの対話|第一三共

5.まとめ

ステークホルダーエンゲージメントは、定義や対象範囲を整理したうえで、企業事例や実務プロセスを通じて体系的に理解することが可能です。対話を単発の活動として捉えるのではなく、目的の設定から計画、実行、分析、モニタリングまで一連のプロセスとして運用することが前提となります。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の精密な資源データ分析を「共通言語」に、ステークホルダーへのエビデンス(証跡)に基づく誠実な情報開示と、実効性のある構造変革を支援します。エンゲージメントを形式的な対話から唯一無二の企業ブランディングとして生かしたい場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。