大企業の新規事業がうまくいかない原因|成功事例や失敗の典型パターンも

大企業の新規事業の失敗パターンを理解することは、不確実性が極端に増した2026年の市場において、成功確率を飛躍的に高められます。この記事では、大企業の新規事業の事例を国内外の企業から紹介し、事業内容取り組みの特徴新規事業がどのように展開されているのかを解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場のデータ分析を起点とした独自のビジネスモデル構築を構造的な企業変革から強固に支援します。新規事業を機にサーキュラーエコノミーを軸とする次世代環境経営に変革させたい場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.大企業の新規事業がうまくいかない主要な原因と典型パターン

大企業では新規事業に取り組む際、組織構造や意思決定の仕組み、評価制度など既存事業を前提とした経営体制が影響します。
ここでは、大企業の新規事業で見られるうまくいかない主要な原因と典型的なパターンについて解説します。

(1)既存事業中心の組織構造になっている

主力事業の規模維持と効率化を最優先とする現行の組織慣習下では、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の配分ロジックが必然的に確実性と短期収益性に偏らざるを得ません。

結果、不確実性の高い新規事業は既存事業との比較において常に投資優先順位が劣後し、結果としてイノベーションの生命線である市場検証や仮説構築への投資が、既存事業の管理サイクルの中に埋没する場合があります。

(2)意思決定プロセスが多層化している

大企業特有の重層的な承認フローや、各部門間のコンセンサスを重視する文化は、市場の変化に応じた迅速な仮説検証を阻害し、競合他社やスタートアップに対する優位性を著しく低下させます。

また、決裁に至るまでの調整プロセスが複雑化することで、本来尖っていたはずの事業コンセプトが、各部署の懸念を解消するための妥協案へと変質し、結果として市場に響かない角の取れた企画に陥るリスクも否定できません。

(3)短期的な業績評価が優先される

多くの大企業において、事業部門のパフォーマンスは売上や利益といった確定的な数値で測定されますが、立ち上げ初期の新規事業においてその価値は学習量や市場の不確実性の解消に本質があります。

短期的な業績評価が絶対視される環境下では、不確実性の高い野心的な試みは低評価のリスクを孕むため、現場レベルでの既存事業の延長線上にある小粒な改善への埋没を招きかねません。

(4)新規事業に必要な人材・権限が不足している

多くの大企業では、優秀な人材や強力な決裁権限が収益の柱である既存事業に固定化されており、新規事業組織は兼務や限定的な権限の中での活動を強いられる傾向にあります。

このリソース配分の硬直性は、市場の隙を突くべきスタートアップ的な機動力の欠如に直結します。既存市場での効率化やリスク管理に長けたスキルセットは、ゼロから市場を創出するフェーズではむしろ現状肯定や過度なリスク回避として働き、革新的なビジネスモデルの構築を阻害する要因となる場合があります。

(5)市場検証や顧客理解が不十分なまま事業化する

特に、自社の保有技術や既存のアセットを起点とするプロダクト・アウトの発想が強い組織では、社内向けの論理構成やスペックの磨き込みが優先され、顧客が真に抱える痛みや、解決策に対する支払い意欲の検証が疎かになりがちです。

社内合意を得るための机上の空論で事業化を判断することは、多額の投資後に顧客不在が判明するという、取り返しのつかない経営判断の誤りを招く場合があります。

(6)既存事業とのカニバリゼーションを懸念する

自社の既存製品やサービスと市場が重複することを恐れるあまり、新機軸のビジネスモデル破壊的な価格体系の導入を躊躇することは、結果として競合他社や新興勢力にその市場の主導権を明け渡すことに他なりません。

事業部門間の利害調整を優先し、既存の収益源を守備に徹するための慎重な判断を繰り返せば、組織全体の進化が停滞し、デジタルシフトや市場構造の変化から取り残されるイノベーターのジレンマに陥ります。

(7)撤退判断や事業ピボットの基準が曖昧である

不確実性の高い探索フェーズにおいて、当初の計画に固執し、出口戦略なきまま事業を延命させることは、サンクコスト(埋没費用)を膨らませるだけでなく、成長機会に投入すべき優秀な人材や資本を塩漬けにする見えない損失まで生み出します。

改善のサイクルも機能しないまま継続される背景には、失敗を許容しない組織文化や、撤退を敗北と捉える硬直的な評価制度が影響しています。

2.大企業の新規事業で見られる意思決定の課題と対処法

大企業の新規事業では、意思決定の仕組み評価基準権限配分などの経営体制が事業の進め方に影響します。
ここでは、大企業の新規事業で見られる意思決定に関する課題と、その対応方法を解説します。

(1)意思決定の多層化には承認プロセスを簡素化する

意思決定プロセスの多層化を解消するためには、新規事業特有のコミットメントに基づく迅速な執行へとガバナンスを転換する必要があります。

この構造的課題を打破するためには、意思決定の権限を特定個人や少数の専門委員会へ集約し、承認ルートを最短化するファストトラックの構築が不可欠です。

課題となる構造抜本的解決策
複数部門による網羅的な承認手続き承認ノードの最小化と反対の論理的根拠の義務化
判断主体の分散による責任の希薄化新規事業担当役員への権限一任と責任明確化
承認フローの長期化に伴う機会損失マイルストーン型決裁の導入による即断即決の制度化

不確実性を内包しつつも、事業を前進させるための決断の聖域を組織内に確保することを目的として運用する必要があります。

これにより、現場は顧客検証へと全リソースを集中させることが可能となり、事業の成功確率を飛躍的に高めることができます。

【事例】段階的投資で不確実性を突破するIXIの流儀|オムロン
オムロンは、多層的な承認による意思決定の停滞を打破するために、 イノベーション推進本部「IXI」を中心とした独自のガバナンスを 構築しました。網羅的な計画書を求める既存の決裁プロセスを排し、 仮説検証の進捗に応じた「マイルストーン型決裁」を導入することで、 不確実性の高い初期段階での即断即決を制度化しています。特定の 専門委員会に権限を集約し、他部門の漠然とした懸念による拒否権を 封じることで、現場が顧客検証に全リソースを集中できる「聖域」を 確保。この科学的な投資判断のサイクルが、短期的な収益性に縛られない 破壊的な新事業の創出を支え、組織の機動力を劇的に高めています。
参考:イノベーション推進本部(IXI)|オムロン

(2)既存事業基準の判断には新規事業専用の評価基準を設ける

立ち上げ初期の新規事業において経営層が評価すべきは、不確実性をどれだけ解消できたかという進捗度です。
財務諸表に現れない学習の質と市場適合性を可視化する専用の評価体系を導入することで、根拠ある継続投資の判断が可能となります。
具体的には、以下の多面的な評価指標をフェーズごとに使い分けることが肝要です。

評価の観点戦略的指標(KPI)の例
市場検証の純度仮説検証のサイクル数、ピボットの妥当性
顧客の熱量ユニットエコノミクス(LTV/CAC)、解約率
事業の拡張性リード獲得単価、バイラル係数

収益化までの死の谷を乗り越えるためには、これら非財務指標を先行指標として位置づけ、既存事業の物差しを一時的に外すガバナンスが求められます。

【事例】投資のプロが挑む「学習」を測るステージゲート|三菱商事
三菱商事は、商社特有の投資利益率(ROI)という厳しい既存基準を 初期段階ではあえて適用せず、仮説検証の進捗を評価軸に据えました。 立ち上げフェーズでは財務数値よりも「顧客の課題特定」や「解決策 への熱狂」を審査対象とし、不確実性をどれだけ解消できたかという 進捗度を科学的に評価。ピボット(方向転換)を失敗と見なさず、 市場適合への前進としてポジティブに捉える専用のガバナンス規定を 構築しています。この「学習の質」を可視化する仕組みが、短期的な 収益性に縛られない破壊的なビジネスモデルの創出を強力に支援。
商社の強固な財務規律と、未知の領域を探索する機動力を両立させ、 次なる成長の柱を育てる「決断の聖域」を組織内に確立しています。
参考:経営戦略2027|三菱商事

以下の記事では、非財務指標をKPIとして設定する詳しい方法を詳しく解説しています。

(3)権限分散には意思決定責任者を明確化する

新規事業における意思決定権限の分散は、責任の所在を曖昧にするだけでなく、組織ならではの強みであるスピード感を削ぎ落とす経営的損失を招きます。不確実な領域で勝ち抜くためには、合議制の呪縛を解き、一人の責任者が迅速に不確実性を引き受ける体制の構築が不可欠です。

こうした構造的停滞を打破するためには、以下の要素に基づき、既存組織の決裁ルートから独立した特区型の権限規定を策定する必要があります。

整理する要素断行すべき変革
意思決定範囲の画定予算執行、ピボット判断の完全分離
判断主体の単一化最終決定権を持つ
シングル・ポイント・オブ・アカウンタビリティの任命
関与部門の限定承認に関わる部門の権限を助言に留め、拒否権を排除

選任したリーダーに失敗する権利を含めた全権を委譲し、既存組織の抵抗から事業を保護することで、組織に機動力を与え、イノベーションの実装を加速させる源泉となります。

【事例】合議制を排しスピードを追求する31VENTURES|三井不動産
三井不動産は、不動産開発特有の重層的な合議制が新規事業の速度を 削ぐという課題に対し、独立した意思決定権を持つ専門組織を構築 しました。「31VENTURES」などの新事業部門では、本部長クラスに 予算執行やピボット判断の全権を委譲するシングル・ポイント・オブ ・アカウンタビリティを確立。既存の不動産事業の決裁ルートから 完全に分離し、他部門の関与を助言に留めて拒否権を排除することで スタートアップ並みの機動力を確保しています。この「特区型」の 権限規定が、既存組織の抵抗から事業を保護し、未知の領域における イノベーションの実装を加速させる強力な源泉となっています。
参考:31VENTURES|三井不動産

(4)過度なリスク回避には実証実験型の意思決定を導入する

不確実性の高い新規事業において、完璧な事業計画を求める一括投資型の意思決定は、検証の機会を奪い、サンクコストを肥大化させる要因となるため、仮説検証のステップに連動して投資を段階的に実行する実証実験型の意思決定への転換が求められます。

このアプローチでは、以下のサイクルを回すことで、経営判断の精度を高めていきます。

検証のフェーズ経営層が評価すべき内容
試験導入顧客が対価を払ってでも解きたい課題か
市場検証特定のセグメントで熱狂的な支持を得られるか
スケーラビリティ検証ユニットエコノミクスが成立し、拡大可能か

得られた事実に基づき、機動的に判断する体制を整えることは、失敗のダメージを最小化し、成功の確度を最大化するために合理的なガバナンスです。

未完成の状態での市場投入を戦略的プロセスとして公式に容認することで、組織全体に仮説を素早く棄却し、正解へ辿り着くイノベーションの本質的な文化が定着します。

【事例】科学的検証で「死の谷」を越えるA-STARTERS|味の素
味の素は、食の安全という厳格な基準を守りつつ、新規事業では 仮説検証を最優先する独自のステージゲート制を導入しました。 初期フェーズでは完璧な計画よりも「顧客の痛みは本物か」という 実証実験の結果を重視し、検証の進捗に連動して少額から段階的に 投資を実行。ユニットエコノミクスが成立する見込みが立つまで、 大規模なスケーラビリティ検証へは進まない規律あるガバナンスを 運用しています。未完成な段階での市場投入を戦略的プロセスとして 公式に容認することで、失敗のダメージを最小化し、成功の確度を 科学的に高めるイノベーション文化を組織全体に定着させました。
参考:そのアイデア、やってみよう!社員なら誰でも新規事業を立ち上げられる味の素社の「A-STARTERS」とは|味の素

3.大企業の新規事業の成功事例

(1)富士フイルム|フィルム技術を活用した化粧品事業

引用:https://h-jp.fujifilm.com/products/astalift/jelly/100202000001.html?rtPlc=altop_banner_a&rtCnt=bunner01_red%20jelly-250904

富士フイルムは2006年に化粧品事業へ参入し、2007年にはスキンケアブランド「アスタリフト」を立ち上げています。写真フィルムの研究で蓄積してきた技術の転用によって、異業種である化粧品市場でも競争力を持つ製品開発が可能になりました。

なかでも「ホワイト ジェリー アクアリスタ」は、約10年の研究開発を経て完成した美容液で、ナノ技術を用いた美容成分などを組み合わせて開発され、既存事業で培った技術を新しい市場に応用することで、新規事業の競争力向上に貢献しています。

(2)ヤマハ発動機|エンジン技術を起点にモーターサイクルやマリン事業へ展開

引用:https://global.yamaha-motor.com/jp/

ヤマハ発動機は、楽器製造で培った木工加工技術や、製造設備の活用を背景に、1955年に二輪車事業を分社化して設立されました。既存事業で蓄積した技術や生産基盤を新たな分野へ展開することで、モーターサイクル事業への参入を実現しています。
なかでも初のモデル「YA-1」は、同社の二輪車事業の起点となる製品であり、その後は船外機などのマリン製品へも事業領域を拡大し、多角化を進めています。

(3)ブリヂストン|タイヤのゴム技術を活用した免震ゴム事業

引用:https://www.bridgestone.co.jp/products/dp/antiseismic_rubber/

ブリヂストンは、タイヤ事業で培ったゴム材料や振動制御に関する技術を建設分野へ応用し、免震ゴム事業を展開しています。タイヤ開発で蓄積されたゴム配合技術や耐久性に関する知見を活用することで、建物の揺れを低減する免震装置の開発につながりました。
免震ゴムは、建物と基礎の間に設置して地震の揺れを吸収する装置として利用され、既存事業で培った技術を建築分野へ展開した事業として導入が進められています。

(4)旭化成|繊維技術を活用したヘルスケア事業

引用:https://www.asahi-kasei-jobs.com/newgrads/about/field.html

旭化成は、繊維事業で培った技術を医療分野へ応用し、ヘルスケア事業を展開しています。衣料用セルロース繊維「ベンベルグ」の研究で蓄積された繊維技術をもとに医療用途への応用が進められ、1970年代に人工腎臓(透析器)の開発につながりました。
なかでも中空糸膜を用いた透析器は血液透析治療に使用される医療機器で、繊維技術を医療機器へ応用した製品として生産と供給が行われています。

(5)キヤノン|光学技術を活用した医療機器事業

引用:https://jp.medical.canon/products/index

キヤノンは、カメラ事業で培った光学技術や画像処理技術を医療分野へ応用し、医療機器事業を展開しています。これらの技術を基盤に、X線診断装置や眼科機器などの医療機器の開発が進められました。
2016年には東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)を買収し、医療機器事業の体制を拡充しています。現在はCT装置やX線診断装置などを中心に医療機器の製品展開が行われています。

参考:https://global.canon/ja/news/2016/20161219.html

(6)セブン銀行|コンビニ店舗網を活用したATM事業

引用:https://www.sevenbank.co.jp/ir/library/disclosure/pdf/2023073101.pdf

セブン銀行は、コンビニエンスストアであるセブンイレブンの店舗網を活用した銀行事業として設立されました。全国の店舗にATMを設置し、銀行口座を持つ利用者が現金の入出金などを行えるサービスを提供しています。
また、ATMサービスは同社の事業の中心で、提携金融機関の利用者がATMを利用する際の手数料などを収益源とする仕組みとして運営されています。

(7)Amazon|自社インフラを外部提供したクラウド事業

引用:https://aws.amazon.com/jp/

Amazonは、ECサイトの運営に必要なITインフラを自社で構築する過程で、サーバーやストレージなどのコンピューティング基盤を整備しました。こうした基盤を外部企業にも提供するサービスとしてクラウド事業を展開しています。
なかでも代表的なサービスがAmazon Web Services(AWS)で、サーバー、データベース、ストレージなどのITリソースをインターネット経由で提供するクラウドサービスとして利用されています。

(8)リクルート|ITサービス「Airレジ」による店舗向けプラットフォーム事業

引用:https://airregi.jp/

リクルートは、求人情報誌や情報メディア事業で培った店舗ネットワークや顧客接点を基盤に店舗向けITサービスへ事業領域を拡大しました。その取り組みの一つとして、店舗の会計や売上管理を行うクラウド型POSレジサービスを展開しています。
また、代表的なサービスがAirレジで、飲食店や小売店などの店舗における会計処理や売上管理を行うPOSレジサービスとして提供されています。

(9)東日本旅客鉄道|ICカードを活用した決済サービス「Suica」

引用:https://www.jreast.co.jp/suica/

東日本旅客鉄道は、鉄道の自動改札で利用するICカード乗車券としてSuicaを導入しました。非接触IC技術を用いた乗車券として開始され、改札での運賃支払いをカードで行う仕組みとして運用されています。
その後、Suicaは鉄道利用に加えて店舗での支払いにも利用できる電子マネーへ拡張されました。現在は交通機関の利用だけでなく、駅ナカ店舗や小売店などでの決済手段として利用されています。

(10)ダイキン工業|空調機器を基盤としたソリューション事業

引用:https://www.daikin.co.jp/tic/technology/solution

ダイキン工業は、空調機器の製造で培った技術を軸に、空調機器の提供に加えて建物全体の空調管理やエネルギー管理を行うソリューション事業を展開しています。空調設備の運用データや制御技術を活用し、建物の空調運用を管理するサービスが提供されています。
オフィスビルなどの建物を対象に、空調設備の監視やエネルギー管理を行う仕組みとして展開されています。

(11)トヨタ自動車|サブスクリプション型サービス「KINTO」

引用:https://kinto-jp.com/

トヨタ自動車は、自動車販売を中心とした事業に加えて、車を月額料金で利用できるモビリティサービスを展開しています。その取り組みの一つとして、サブスクリプション型サービス「KINTO」が提供されています。
KINTOは、車両代金に加えて保険やメンテナンスなどを含む月額料金で自動車を利用できるサービスとして提供されています。

(12)パナソニック|スマートホームとエネルギーマネジメント事業

引用:https://www2.panasonic.biz/jp/densetsu/aiseg/hems/about/

パナソニックは、家電製品の製造で培った技術を基盤に、住宅設備やエネルギー管理を含むソリューション事業を展開しています。IoTやエネルギー技術を組み合わせ、住宅や建物の設備をネットワークで連携させる取り組みが進められています。
なかでもHEMS(家庭用エネルギー管理システム)は、家電や住宅設備を接続して電力使用状況を把握し、家庭内のエネルギー管理を行う仕組みとして提供されています。

参考:https://recruit.jpn.panasonic.com/feed/mobility_strategy.html

(13)コマツ|建設現場をデジタル化する「スマートコンストラクション」

引用:https://kcsj.komatsu/ict/smartconstruction

コマツは、建設機械の製造で培った技術に加えて、GPSやセンサーなどのICT技術を活用し、建設現場全体のデータを管理するソリューション事業を展開しています。建機やドローンなどで取得したデータをクラウドで連携し、測量から施工、検査までの工程をデジタルで管理する仕組みが提供されています。
また、「スマートコンストラクション」は、建設機械の位置情報や作業データを取得し、現場の進捗状況を可視化する取り組みとして展開されています。

(14)味の素|アミノサイエンスを基盤とした機能材料事業

引用:https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/aboutus/aminoscience/

味の素は、うま味成分の研究を起点にアミノ酸に関する技術を蓄積し、その知見を食品分野以外へ応用する取り組みとして「アミノサイエンス」を展開しています。アミノ酸研究で培われた技術は、医薬品原料や電子材料などの分野へ応用されています。
半導体パッケージ基板の絶縁材料として利用される「Ajinomoto Build-up Film(ABF)」は、電子材料分野で展開されている製品の一つです。

4.大企業とスタートアップの新規事業の違い

大企業とスタートアップでは、新規事業を進める際の組織運営や意思決定の仕組みが異なります
ここでは、意思決定プロセスや組織構造、事業評価、リスク許容度、事業スピードの観点から両者の違いを解説します。

(1)意思決定プロセス

大企業では、企画立案や投資判断の際に複数の部門や役職による承認を経る体制が採られる場合があり、関係者間の確認や調整に時間を要することがあります。一方、スタートアップでは経営陣や少人数の意思決定主体によって判断が行われることが多く、事業検証や方向修正の判断が比較的短い期間で行われます。

大企業スタートアップ
複数の部門・役職による承認を経て判断が行われる経営者や少人数のチームが中心となって判断する
法務・財務・事業部など多くの関係部署が関与する関係者が少なく調整範囲が限定される
承認段階が複数存在し手続きが段階的に進む承認段階が少なく意思決定までの手続きが簡素

このような違いにより、大企業では意思決定までに一定の期間を要する場合があります。その結果、市場環境や顧客ニーズの変化に応じた判断や事業改善のサイクルが長くなることがあります。

【事例】KDDIのスピード契約と組織運営
KDDIは新規事業の創出において、大企業特有の重層的な意思決定や 法務プロセスの遅延を打破するため「ファストトラック」を導入しました。 スタートアップとの連携を加速させるため、専用の標準契約書を整備し、 従来は数ヶ月を要していた契約締結を最短1週間まで短縮させています。 また、社内にCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設置し、 投資判断を既存の事業部門から独立させることで迅速な決断を可能にしました。 これにより、市場の変化に即応した柔軟な事業改善サイクルを実現しています。 大企業の資源とスタートアップの機動力を融合させた先進的なモデルです。
参考:KDDI Open Innovation Fund

(2)組織構造

大企業では事業部制などの組織構造が採用されることがあり、各事業部が既存事業の売上や利益などの業績指標を基準に運営されます。人員や予算などの経営資源が主力事業を中心に配分され、新規事業の企画や投資判断も既存事業との関係を踏まえて検討が必要です。

大企業スタートアップ
事業部制など既存事業を単位とした
組織構造が採用される場合がある
小規模な組織で事業横断的に意思決定が行われる
人員や予算などの経営資源が
主力事業を中心に配分される
人員や資金が新規事業に直接投入される場合がある
新規事業の企画や投資判断が
既存事業との関係を踏まえて検討される
組織構造に縛られず新規事業の検討が進められる

このような違いにより、大企業では新規事業の検討や推進が既存事業の枠組みの中で進められます。また、独立した事業としての検討迅速な意思決定が行いにくくなることがあります。

【事例】富士フイルムの組織横断的な新事業創出
富士フイルムは、写真フィルム市場の激減という危機に際して、 既存の事業部制の枠組みを越えたダイナミックな組織運営を実践しました。 特定の事業部に依存しない「R&D統括本部」が司令塔となり、 全社の技術資産を俯瞰して最適な領域へ人員と予算を直接投入しています。 この体制により、既存事業の短期的な利益目標に縛られることなく、 化粧品や再生医療といった全く新しい分野への進出を成功させました。 組織の壁を打破し、全社のリソースを新規事業へ集中させる仕組みは、 大企業が構造的な制約を克服した組織変革の先駆的なモデルです。
参考:研究開発ビジョン|富士フイルム

(3)事業評価

大企業では、事業評価が売上や利益などの収益指標を基準として行われます。一方、新規事業は市場検証や技術開発などの初期段階では収益がすぐに表れない場合があります。

大企業スタートアップ
売上や利益などの収益指標を中心に
事業評価が行われる
利用者数やサービス利用状況などの
指標が重視される場合がある
既存事業と同一の評価基準で
新規事業が評価される場合がある
検証結果や顧客反応などを基に
評価が行われる場合がある
収益指標を基準に投資判断や継続判断が行われる市場検証や事業の成長可能性を基に
判断が行われる場合がある

このような違いにより、大企業では収益が表れにくい初期段階の新規事業の進捗を評価しにくくなります。

【事例】ヤマハの感性と検証を軸にした事業評価
ヤマハは新規事業の評価において、既存の財務指標に頼りすぎない 独自の「ステージゲート制」を導入し、事業の芽を育てています。 初期段階では売上や利益を一切問わず、顧客が抱える課題の深さや 提供価値への共感度といった「価値検証の質」を最優先に評価します。 事業の成熟度に合わせて評価指標を段階的に切り替えることで、 短期的な収益化の圧力から新規プロジェクトを保護しています。 この仕組みにより、数字に表れにくい感性価値を大切にしながらも、 客観的なデータに基づいた着実な事業進捗を可能にしました。 大企業のリソースを活かしつつ、挑戦を称える組織文化の象徴です。
参考:価値創造への取り組み|ヤマハ

(4)リスク許容度

大企業では投資判断や事業選定の際に一定のリスク許容度が設定される場合があり、その水準によって意思決定の進め方が変わります。特に新規事業は市場や技術の見通しが不確実な場合が多く、判断の前提となる情報の整理や検討が必要です。

大企業スタートアップ
投資判断の前に複数部門による検討や承認が行われる場合がある経営者や少人数のチームが投資判断を行う場合がある
投資判断に際してリスク分析や検討手続きが段階的に進められる市場機会や事業仮説を基に迅速に判断される場合がある
不確実性の高い事業は慎重に検討される不確実性を前提に事業検証を進める場合がある

大企業では投資判断までに時間を要する場合があります。その結果、市場投入までの検討期間が長くなります。

【事例】ソフトバンクの高速検証と再挑戦の文化
ソフトバンクは社内起業制度「SBイノベンチャー」を通じて、 不確実性を前提とした独自の投資判断と事業選定を行っています。 大規模なリスク分析に時間を費やすのではなく、少額の予算で 市場の反応を即座に確かめるテストマーケティングを重視しており、 実際のユーザーデータを投資継続の最も強力な根拠としています。 たとえ事業が撤退に至ったとしても、それを「失敗」と見なすのではなく、 貴重な知見を得た「学習」と捉えて再挑戦を促す仕組みを構築しました。 この寛容なリスク許容度が、個人の挑戦を支える心理的安全性となり、 大企業でありながら圧倒的な事業スピードを維持する源泉となっています。
参考:SBイノベンチャー株式会社:制度紹介

(5)事業スピード

新規事業では、市場検証や製品改善を短い期間で繰り返しながら事業内容を調整する進め方が採られます。組織構造や意思決定の仕組みによって、検証から改善までのサイクルの進み方に差が生じます。

大企業スタートアップ
企画承認や部門間調整など
複数の手続きを経て事業が進む
少人数の意思決定により
事業実行までの手続きが比較的少ない
検証・改善の判断に
組織内の調整が必要になる場合がある
検証結果を基に事業内容を迅速に修正できる場合がある
事業実行までに一定の期間を要する場合がある市場検証と改善を短期間で繰り返す場合がある

大企業では市場検証や事業改善の意思決定サイクルが長くなる場合があります。そうした背景から、市場環境や顧客ニーズの変化への対応までに時間がかかることがあります。

【事例】SOMPOのデジタル変革と内製アジャイル体制
SOMPOホールディングスは、保険業界特有の慎重で重厚な意思決定を 打破するため、日米イスラエルに「SOMPO Digital Lab」を設立しました。 外部委託に頼っていたシステム開発を、自社エンジニアによる 「内製アジャイルチーム」へと切り替え、企画から実装までの 全工程を同一チーム内で完結させる体制を構築しています。 これにより、従来は数ヶ月を要した検証と改善のサイクルを わずか数週間へと劇的に短縮し、顧客ニーズへの即応を可能にしました。 既存の組織構造に縛られず、プロトタイプを高速で回し続けることで、 大企業の資源とスタートアップの機動力を両立させています。 伝統的な企業文化をテクノロジーで再定義した、先進的な成功例です。
参考:SOMPO Digital Lab

5.まとめ

大企業の新規事業では、既存事業を前提とした組織構造や意思決定プロセス、評価制度などの経営体制が事業推進に影響する場合があります。既存事業中心の資源配分や多層的な承認手続き、短期的な業績評価などにより、市場検証や意思決定の進行が遅れることがあります。
新規事業の検討では、こうした組織的要因と企業の強みの両面を踏まえて進めることが重要です。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現状の組織課題と事業資産の精密な分析に基づき、不確実性を最小化しながら環境価値と経済価値を両立させる構造変革を強固に支援します。新規事業を機に、次世代の循環型経営へと舵を切りたい場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。