循環型サプライチェーンとは?サーキュラーエコノミーとの違い・企業事例

循環型サプライチェーンは、資源制約の高まり気候変動への対応が求められるなか、企業経営において重要なテーマとして注目されています。この記事では、循環型サプライチェーンの基本概念を整理し、サーキュラーエコノミーとの違いを明確にしたうえで、企業による具体的な取り組み事例も紹介します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物データ分析を起点に、動脈と静脈を繋ぐ物流網の再設計から、再資源化原料の再投入まで、構造的な企業変革を強固に支援します。循環型サプライチェーンの構築にお悩みの場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.循環型サプライチェーンの基礎知識

まずは、循環型サプライチェーンの定義背景資源循環の基本構造などの基礎知識を整理します。

(1)循環型サプライチェーンの定義とメカニズム

循環型サプライチェーンとは、製品の製造・利用・廃棄といった従来の一方向の流れに加え、使用済み製品や廃棄物を回収し、再資源化や再利用を通じて再び生産活動に戻す仕組みを含めた資源循環型の供給網を指します。
この仕組みでは、製品のライフサイクル全体を対象として資源の利用効率を高め、天然資源の消費抑制環境負荷の低減を図ることが求められます。

例えば、使用済み製品や廃棄物を回収し、分別・選別・再資源化の工程を経て再生材料として供給することで、製造業の生産工程に再投入する仕組みが構築されます。さらに、製造業とリサイクル・廃棄物処理などの資源循環産業が連携することで、再生材料の供給体制を整備し、資源循環を継続的に成立させるサプライチェーンの構築が進められます。

このように、循環型サプライチェーンは、製品の生産・利用・回収・再資源化を相互に結び付け、資源の循環利用を前提とした供給ネットワークを形成することを目的とします。

参考:https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001845567.pdf
参考:第2節 循環経済(サーキュラーエコノミー)|環境省

(2)サーキュラーエコノミーとの決定的な違い

サーキュラーエコノミーが目指すべき経済の全体像であるのに対し、循環型サプライチェーンはそれを実現するための具体的な運用手法です。以下では、循環型サプライチェーンとサーキュラーエコノミーを多様な観点から比較いただけます。

循環型サプライチェーンサーキュラーエコノミー
位置づけ実行手段経済・社会モデル
視点ミクロ
(企業・バリューチェーン)
マクロ
(社会・産業全体)
主な目的調達・製造・物流・回収のループ構築資源の価値最大化、廃棄の概念消滅

例えば、製品を回収して再製品化するサーキュラーエコノミーの理念を掲げても、回収のロジスティクスや、再生素材を前提とした設計サプライヤーとの連携といったサプライチェーン上の仕組みがなければ、ビジネスとして成立させることはできません。

つまり、サーキュラーエコノミーという戦略を現場のオペレーションに落とし込んだものが循環型サプライチェーンにあたります。

参考:循環経済ビジョン2020について|経済産業省

(3)循環型サプライチェーンの主な構成要素

循環型サプライチェーンを構築するためには、上流の設計から下流の回収・再資源化まで、以下の4つの要素が密接に連携している必要があります。

構成要素概要具体例
サーキュラー・デザイン製品設計段階で資源循環を前提とした構造を採用する解体・分別しやすい設計、素材の単一化(モノマテリアル)、長寿命化や修理可能性の確保
リバース・ロジスティクス使用済製品を回収し再利用・再資源化へ戻す物流網店頭回収や下取り制度などの回収ネットワーク、QRコードやRFIDによるトレーサビリティ管理
リマニュファクチュアリングと再資源化回収した製品を再利用可能な資源として再び生産工程に戻す再製造(リマニュファクチュアリング)、整備済製品として再販(リファビッシュ)、同種製品原料への水平リサイクル
デジタル・プラットフォーム製品・資源の流れをデジタルデータで管理する仕組み資源パスポートによる履歴管理、廃棄物と需要企業を結ぶ需給マッチング

多くの企業が回収から着手しがちですが、実際にはリサイクルしにくい設計の製品をいくら回収しても、処理コストが膨らみ、ビジネスとして持続できません。

そのため、リサイクルを前提とする設計の変革こそが循環型サプライチェーンの核となります。

参考:ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ

(4)循環型サプライチェーンの対象となる資源循環のループ

循環型サプライチェーンでは、資源が再び利用されるまでの循環の形をループとして整理します。
資源循環の仕組みはバタフライダイアグラムにおけるテクニカルサイクルとして説明され、製品や資源がどの段階まで戻るかによって複数のループに分類されます。

循環型サプライチェーンでは、製品の状態をできるだけ維持したまま循環させることが重要とされ、ループが小さいほど投入エネルギーが少なく、資源価値の毀損も小さくなります。

また、素材まで分解するリサイクルよりも、製品の状態を保ったまま循環させる内側のループを優先する考え方が重視されており、資源循環の優先順位は次のように整理できます。

ループの種類状態の変化資源価値の維持必要なエネルギー
維持・再利用製品のまま非常に高い最小
再製造部品単位高い中程度
リサイクル原材料単位低い(劣化の可能性)最大

参考:循環型社会形成推進基本計画|環境省

2.循環型サプライチェーンとESG・脱炭素経営のシナジー

循環型サプライチェーンは、資源循環の促進にとどまらず、企業のESG経営や脱炭素戦略とも密接に関係します。
ここでは、資源循環の取り組みが環境負荷の低減やサプライチェーン管理、温室効果ガス削減とどのように結び付くのかを整理します。

(1)カーボンニュートラル実現への寄与

カーボンニュートラルの実現に向け、多くの企業が再生可能エネルギーへの転換省エネ活動に取り組んでいますが、エレン・マッカーサー財団の調査※ によれば、世界の温室効果ガス排出量のうち、エネルギー転換や効率化で削減できるのは全体の55%に過ぎず、残りの45%は製品の製造・使用に起因していると提示されています。

循環型サプライチェーンはこの残りの45%に直接アプローチし、以下の3つのメカニズムでカーボンニュートラルに寄与します。

  • バージン素材の使用削減によるエネルギー抑制
  • 廃棄物焼却に伴う排出の回避
  • 製造工程の省略と短縮

例えば、再製造(リマニュファクチュアリング)では既存の筐体や主要部品をそのまま活用するため、部品製造工程そのものがスキップされます。これにより、サプライチェーン全体を流れる炭素強度が大幅に低下します。

そのため、循環型サプライチェーンへの移行は、製造業が脱炭素の壁を突破するためのインパクトの大きい戦略と位置付けられます。

※出典:エレン・マッカーサー財団、「全体像を完成させる:循環型経済はいかに気候変動に取り組むか」(2019年)
参考:官民で取り組むサーキュラー・エコノミー|経済産業省

(2)Scope3(カテゴリー1, 11, 12等)の排出量削減

脱炭素経営において最大の難所と言われるのが、自社の直接排出(Scope1・2)以外の、サプライチェーン上下流で発生するScope3の削減です。循環型サプライチェーンの構築は、Scope3の中でも特に比重が大きい以下のカテゴリーの排出量を直接的に引き下げる効果が期待できます。

カテゴリー概要
カテゴリー1(購入した製品・サービス)原材料の採掘から製造、輸送までに発生する排出
カテゴリー11(販売した製品の使用)製品を使用する際に発生するエネルギー消費や排出
カテゴリー12(販売した製品の廃棄)製品が役目を終え、廃棄・処理される際に発生する排出

現在、多くのグローバル企業がサプライヤーに対してカーボンフットプリント(製品1単位あたりの排出量)の開示を求めています。

循環型サプライチェーンを構築し、再生資源を使い、廃棄を出さない仕組みを確立している企業は、顧客企業のScope3削減に貢献できるため、選定プロセスにおいて強力な優位性を獲得できるでしょう。

参考:カーボンフットプリント(CFP) 算定・表示ルール|環境省

(3)地政学的リスクへの対応能力向上

循環型サプライチェーンの構築は、地球の裏側から資源を運んでくるモデルから、国内や近隣地域で資源を回すモデルへとシフトすることで、原材料の外部依存度を下げられます。

例えば、重要鉱物を製品から回収・再生する体制があれば、産出国による輸出制限や価格高騰の影響を最小限に抑え、安定した生産継続が可能になります。

このような循環型モデルによって回収資源を主要な原料供給源として確立できれば、外部市場の価格変動に左右されにくい、予測可能性の高いコスト構造を構築できます。

参考:サステナビリティの地政学を乗り越える~サーキュラーエコノミーを通じた国際競争力の強化~|PwC

(4)ステークホルダーからの評価向上

循環型サプライチェーンへの転換は、客観的にも企業の持続可能性を証明できるため、多様なステークホルダーからの支持を強固にすることができます。前述の通り、発注元企業のScope3削減に貢献できるサプライヤーは、優先的なビジネスパートナーとして選ばれます。

さらに、一般消費者に対してもZ世代を中心とした環境意識の高い層にとって、「リサイクル素材を使っているか」「回収プログラムがあるか」は購入の決定打となります。製品を長く大切に使うことを促す姿勢は、ブランドへの深い共感と信頼を生みます。

参考:Apple、グローバルサプライチェーンに対して2030年までに脱炭素化することを要請

3.循環型サプライチェーンの企業事例

(1)アパレル・ファッション業界

①ユニクロ(ファーストリテイリング)

引用:https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/sustainability/re-uniqlo?srsltid=AfmBOoo4ZE2j0JsuD2vlsfxZ5dhQ79rCRVJ3DZgaiMnJK9roLDix0AeX

ユニクロは「RE.UNIQLO」という取り組みを通じて、衣料の回収・再利用・再資源化を組み合わせており、店舗に設置された回収ボックスを通じて、顧客が不要になった衣料を回収する仕組みを整備しています。

回収された衣料のなかで着用可能な衣料は細かく仕分けされたうえで、難民支援や災害支援などを目的として世界各地で再利用されます。再利用が難しい衣料は素材として再資源化され、ダウンやフェザーなどは新しい衣料の原料として活用されます。また、衣料として再利用できない素材は断熱材や防音材などの資材として活用されます。

②パタゴニア

引用:https://www.patagonia.jp/wornwear/trade-it-in/

アウトドアブランドのパタゴニアは、「Worn Wear」というプログラムを通じて衣類の循環利用を推進しています。この取り組みでは、製品の修理、回収、再販、リサイクルを組み合わせることで、衣類のライフサイクルを延ばす仕組みを構築しています。

中古品として再販売する仕組みや、破損した製品の修理サービスも提供しており、回収された製品は修理・整備されたうえで再流通させるほか、修理が困難な場合は素材として再資源化されます。

(2)製造・テクノロジー業界

③富士通

引用:https://global.fujitsu/ja-jp/local/blog/article/2025-06-06-01

富士通は、サーキュラーエコノミーを企業戦略の中核に位置付け、その実現手段として資源循環を組み込んだサプライチェーンの構築を進めています。サーキュラーエコノミーの考え方では、製品のライフサイクル全体で資源を循環させることで、廃棄物の削減と資源価値の維持を図る仕組みへと転換します。

こうした循環型のサプライチェーンを実現するには、法規制対応、技術革新、企業間連携といった複数の要素が重要とされるため、富士通はサプライチェーン全体の構造を見直し、持続可能性と経済成長の両立を図る取り組みを進めています。

④日立製作所

引用:https://www.hitachi.com/ja-jp/sustainability/environment/#tabs-bdd43ecccb-item-b1e9e9e8dd-tab

日立は、脱炭素・サーキュラーエコノミー・自然共生を柱とした環境戦略を掲げており、特に、資源循環の推進温室効果ガス削減を統合した取り組みを進めています。

サプライチェーンにおいては、調達段階から環境配慮を組み込むグリーン調達を推進し、環境負荷の低い部材や資源効率の高い製品の採用を進めています。また、調達パートナーにも環境配慮や人権対応を求めるガイドラインを整備し、サプライチェーン全体での持続可能性管理を強化しています。

また、日立はバリューチェーン全体での脱炭素を目標としており、2030年度までのカーボンニュートラル達成や、2050年までのネットゼロを掲げています。これにより、資源循環と温室効果ガス削減を一体で進める循環型サプライチェーンの構築を進めています。

⑤キヤノン

引用:https://global.canon/ja/sustainability/environment/resource-efficiency/approach/

キヤノンは、トナーカートリッジの回収・再資源化や、複合機の再製造(リマニュファクチュアリング)などを通じて、製品を「新品同等」の品質で再生する仕組みを構築しています。

さらに、日本・欧州・米国・中国など複数地域にリサイクル拠点を設け、製品の回収から再資源化までを各地域内で循環させる体制を整備しています。これにより、輸送に伴う環境負荷を抑えながら、地域内で資源を循環させるサプライチェーンを形成しています。

回収した製品や部品の再利用、廃製品からのプラスチック回収と再原料化を進めることで、原材料の使用量削減と資源価値の維持を図っています。

(3)食品・飲料業界

⑥アサヒグループホールディングス

引用:https://www.asahigroup-holdings.com/sustainability/environment/

アサヒグループは、資源循環と脱炭素の両立を目的として、包装を中心としたサプライチェーンの見直しを進めています。特に、プラスチック使用量の削減再生材の活用拡大などを通じて、資源効率の向上と環境負荷低減を図っています。

容器包装についてリデュース・リユース・リサイクルに加えた「3R+Innovation」を掲げ、軽量化やリサイクル素材の活用、環境負荷の低い包装への転換を進めています。また、将来的には包装廃棄物のない社会の実現を目標とし、資源循環型の仕組み構築を進めています。

さらに、温室効果ガス排出削減に向けた「Asahi Carbon Zero」により、サプライチェーン全体での排出削減を推進しており、原材料調達から製造・流通までを含めたバリューチェーン全体での取り組みを強化しています。

⑦スターバックス コーヒー ジャパン

引用:https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2024-5196.php?srsltid=AfmBOop87OrTkmnaj7i_9Ym7QBIQpS0LhVepZNJUVakhWRYNZfKj0Xsc

スターバックスでは、従来は廃棄物として処理されていたコーヒー抽出後に発生する豆かすを回収し、たい肥や飼料として再資源化する仕組みを導入しています。

再資源化されたたい肥は農業で活用され、そこで生産された農作物や乳製品の一部が再び店舗で提供されることで、資源が循環するサイクルが形成されています。また、この取り組みは全国約800店舗に拡大されており、年間約3,500トンの廃棄物削減が見込まれています。

⑧4Nature

引用:https://corp.4nature.co.jp/works/resource-circulation/

4Natureの循環型サプライチェーンにおける代表的な取り組みとして、サトウキビの搾りかす(バガス)を原料としたストローの製造があり、廃棄物を製品として再活用するアップサイクルを実現しています。

使用後のストローは店舗と連携して回収され、堆肥化されることで農業資源として再利用されます。堆肥は農家や地域の生産活動に活用され、資源が地域内で循環する仕組みが構築されています。

また、家庭や地域コミュニティで発生する有機資源についても、コンポストや農業と連携することで循環させる取り組みが進められており、消費者・店舗・農家をつなぐ形で資源循環のネットワークを形成しています。

(4)日用品・消費財業界

⑨花王

引用:https://www.kao.com/jp/sustainability/nature/environment/waste-disposal/recycreation/

花王は、洗剤やシャンプーなどのつめかえパックを回収し、破砕・洗浄を経て再生樹脂へ加工し、新たな製品や資材として再利用する仕組みが構築されています。

この「リサイクリエーション」という取り組みを通じて、使用済みプラスチック包装の回収・再資源化・再利用を一体化した循環型サプライチェーンを推進しています。

また、自治体や企業と連携した回収ネットワークを構築し、効率的に使用済製品を収集する体制を整備しています。回収された資源は、再びフィルム容器として利用する「水平リサイクル」を目指しており、製品ライフサイクル全体で資源を循環させる取り組みが進められています。

⑩サーモス

引用:https://www.thermos.jp/sustainability/

サーモスは、ステンレス製魔法びん(ボトル・タンブラー・スープジャーなど)を対象とした回収サービスを展開し、店舗で使用済製品を回収する仕組みを構築しています。

回収された製品は、リサイクル事業者により破砕・選別された後、再生資源として新製品の素材に活用されます。このプロセスにより、廃棄物の削減と資源の再利用を両立する循環型の資源フローが形成されています。

また、この回収サービスは自社製品に限定せず、他社製品も対象とすることで、回収量の拡大と資源循環の効率化を図っています。回収拠点の拡大とともに、製品の使用後までを含めたサプライチェーン管理を実現しています。

(5)その他

⑪積水ハウス

引用:https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2024/20241204/

積水ハウスは、独自の資源循環センターを活用し、施工や改修時に発生する廃棄物を回収・分別し、すべてリサイクルする体制を整備しています。これにより、建設現場から発生する廃棄物の100%リサイクルを実現する循環型サプライチェーンを構築しています。

この「House to House」という構想では、住宅の新築・改修・解体までを含めたライフサイクル全体で、部材や原材料の循環利用を前提とした仕組みを構築しています。

またサプライヤーとの連携によって、リサイクル部材や再生可能資源を活用した建材の開発・改善を進めることで、資源循環を前提とした供給体制の構築を進めています。さらに、設計・調達・施工・解体の各プロセスを連携させることで、住宅を再び住宅へと循環させる仕組みの実現を目指しています。

⑫三菱商事

引用:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/sustainability/environmental/efficient-use-of-resources/004.html

三菱商事では、化石資源由来の原料を再生可能原料やバイオ原料へ転換することで、サプライチェーン全体の環境負荷低減を図る取り組みを推進しています。

これによって、複数企業と連携し、原料供給から製造工程までを一体で設計することで、従来のサプライチェーン構造を見直し、低炭素な資源循環の実現を目指しています。原料の段階から変革することで、最終製品に至るまでの環境負荷を一貫して低減する仕組みが構築されています。

4.企業が循環型サプライチェーンに取り組む際の課題と対処法

ここまでの事例にあるように、循環型サプライチェーンの導入にはサプライチェーン全体での調整や仕組み構築が求められます。ここでは、企業が直面する主な課題と、それに対する対応の考え方を整理します。

(1)トレーサビリティの確保によるサプライチェーンの可視化

循環型サプライチェーンの構築における最大の障壁は、製品の販売後の情報が断絶し、所在や状態がブラックボックス化することです。

この課題を解決するには、デジタル技術を用いて原材料の調達から廃棄・再資源化までの全工程を追跡可能(トレーサビリティ)にする必要があります。

具体的な対応方法として、欧州で先行導入されているデジタル製品パスポートのように、QRコードやRFIDを用いて製品の素材構成、修理履歴、解体方法などのデータを物理的なモノと紐付けることや、IoTを活用して稼働状況をリアルタイムで把握する方法が挙げられます。

こうしたサプライチェーンの可視化によって、サプライヤーやリサイクル業者と共通のデータ基盤で情報を共有できます。

【事例】ウラノス・エコシステムのデータ連携事例
経済産業省が主導する「ウラノス・エコシステム」は、企業や業界の垣根を越えてデータを安全に共有する日本発の基盤です。 現在は特に欧州の電池規制への対応を視野に、車載用蓄電池のトレーサビリティ確保に向けた社会実装が進められています。 原材料の採掘から製造、リユース、リサイクルに至るまで、電池のライフサイクル全般のデータをデジタルで繋ぎます。 これにより、各企業は自社の営業機密を保護しつつ、カーボンフットプリントや資源循環率の正確な算出が可能になります。 個別の最適化に留まらず、サプライチェーン全体を可視化することで、経済安全保障の強化と環境負荷低減を両立します。 将来的には自動車分野だけでなく、物流や農業など多角的な産業ドメインでのデータ連携による価値創出を目指しています。 日本企業の国際競争力を高めるため、欧州のCatena-Xなどの海外基盤とも相互運用性を確保する取り組みが加速しています。
参考:Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)|経済産業省

(2)リバース・ロジスティクスのコスト最適化

製品を消費者から回収するリバース・ロジスティクスは、従来の配送に比べて小口で不規則になりやすく、輸送効率の低下とコスト増大が大きな課題となります。このコストを最適化し、事業としての採算性を確保するためには、物流網の再設計と効率化が不可欠です。

解決方法として、既存の配送ルートを活用した共同配送や、販売店・公共施設を回収拠点とするドロップオフ拠点の設置が挙げられます。その他にも、AIを用いた回収ルートの最適化や、回収容器の標準化を進めることも、積載効率の向上に寄与します。

リバース・ロジスティクスは、他社とのインフラ共有デジタル活用によって効率化させることで、循環型サプライチェーンを持続可能な仕組みとして運用できます。

【事例】テラサイクルとLoopの循環型物流事例
テラサイクルが展開する「Loop」は、従来使い捨てだった容器を再利用可能なリターナブル仕様に変え、消費者が店舗の専用ボックスに返却する仕組みを構築しています。 このモデルでは、小売大手のイオンなどの既存店舗をドロップオフ拠点として活用することで、消費者が日常の買い物ついでに無理なく返却できる環境を整えました。 回収された容器は、既存の物流網の空きスペースや「帰り便」を効率的に利用して洗浄工場へと運ばれるため、リバース・ロジスティクス特有のコスト増大を抑えています。 各ブランド共通の回収・洗浄インフラをシェアすることで、一社単独では困難な高度な衛生管理と低コストな運用を両立し、持続可能なビジネスモデルを実現しました。 デジタル技術を用いて容器の循環回数や所在を管理し、紛失リスクを低減させながら、容器1単位あたりの環境負荷と物流コストを最小化する最適化を継続しています。 このプラットフォームには食品や日用品のグローバル企業が多数参画しており、業界の垣根を越えた標準化によって、静脈物流を社会インフラの一部へと進化させています。 廃棄物という概念を捨て、容器を「企業の資産」として何度も循環させるこの取り組みは、資源効率の向上と物流の採算性確保を同時に達成する先駆的な事例です。
参考: Loop Japan(ループ・ジャパン)

(3)ビジネスモデルの転換による収益構造の転換

循環型サプライチェーンの実現において、製品を長く使う、あるいは回収して再利用する仕組みは、短期的には新品の販売機会を損なうリスクを孕んでいます。このジレンマを解消するためには、製品のサービス化へとビジネスモデル自体を転換する必要があります。

従来のように顧客に製品を所有させるのではなく、サブスクリプションリースによって機能・利用に対して対価を得ることで、製品が長く使えるほど企業の利益率が高められます。これによって、現場観点からも設計段階から長寿命化や修理のしやすさを追求する動機が生まれます。

このように資源を維持し、循環させるほど収益が安定するモデルへシフトすることで、環境負荷の低減持続的な経済成長を両立させることが可能になります。

【事例】ダイキン工業の空調サブスクリプション事例
ダイキン工業は、新興国を中心にエアコンを「販売」するのではなく、スマートフォンのアプリを通じた従量課金制で「冷房機能」を提供するサブスクリプション事業を展開しています。 初期費用を極限まで抑えることで、高効率な最新機種を低所得層でも導入しやすくし、これまで質の低い中古品が引き起こしていた過度な電力消費や環境負荷の低減に寄与しています。 製品の所有権をメーカーが保持し続けるため、遠隔監視による故障の予兆検知や適切なメンテナンスを施すことで、製品の寿命を最大限に延ばすインセンティブが働いています。 製品が長く稼働し続けるほど企業の収益が安定する構造への転換は、従来の「売って終わり」のビジネスモデルが抱えていた資源消費のジレンマを解決する画期的な試みです。 現地の使用環境に合わせた堅牢な設計や修理のしやすさを追求する動機が生まれることで、製造段階から廃棄に至るまでの資源効率を極限まで高める循環型サイクルを実現しました。 この「PaaS(製品のサービス化)」モデルは、経済成長を遂げる地域において、快適な生活環境の提供と地球環境への負荷低減を両立させる持続可能なビジネスの先駆例です。 資源を維持し、循環させるほど企業の利益率が向上する仕組みを構築したことで、環境貢献を単なる社会奉仕ではなく、自社の成長戦略の中核へと昇華させています。
参考:省エネエアコンのサブスクリプション|ダイキン工業

(4)バリューチェーン全体のパートナーシップ構築

循環型サプライチェーンは、原材料の調達から設計、製造、そして製品の回収・再資源化に至るまで、関わるプレイヤーが多岐にわたるため、ステークホルダー間での利害調整と強固な連携体制が不可欠となります。
従来の発注・受注という上下関係を超え、リサイクル業者物流業者、さらには競合他社とも資源循環の目的を共有するエコシステムの構築が求められます。

これにより、業界全体で回収スキームを共通化したり、再生素材の品質基準を統一したりすることで、一社では負担しきれないインフラ投資や運用コストを分散・軽減することが可能になります。

信頼に基づく透明性の高いパートナーシップを築くことが、個社レベルの取り組みを社会実装へと昇華させる重要なステップとなります。

【事例】JBRCの事例まとめ
一般社団法人JBRCは、国内の主要な電池・家電メーカーが業界の垣根を超えて結集し、小型充電式電池の適正な回収と再資源化を推進する共同組織です。 従来は個別の企業が対応していた使用済み電池の回収を、共通のインフラとして統合することで、一社あたりの運用コストや物流負担を大幅に軽減することに成功しました。 全国の家電量販店や自治体などの協力拠点に共通の回収ボックスを設置し、消費者にとって分かりやすく、かつ効率的なドロップオフ形式のネットワークを構築しています。 回収された電池からニッケルやコバルトなどの希少な重要鉱物を取り出し、再び原材料として産業界へ戻すことで、地政学的リスクに強い資源循環を実現しています。 競合他社が「資源の有効活用」という公益性の高い目的のために連携するこのモデルは、一社では解決困難な大規模なインフラ投資や回収効率の課題を克服した好例です。 透明性の高いリサイクル工程の情報共有を通じて、参加企業全体の環境コンプライアンスを強化し、ステークホルダーからの信頼獲得にも大きく寄与しています。 この強固なパートナーシップは、個別の企業努力を社会全体の持続可能なシステムへと昇華させる、サーキュラーエコノミーの理想的なエコシステムと言えます。
参考:JBRCの役割と活動(一般社団法人JBRC)

5.まとめ

循環型サプライチェーンへの転換は、資源制約や気候変動リスクを乗り越え、企業の持続的な競争優位性を築くための経営戦略そのものです。多くの先進企業がすでにこの動きを加速させており、Scope3の削減や地政学的リスクへの対応において具体的な成果を上げ始めています。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物データ分析を起点に、動脈と静脈がシームレスに繋がる仕組みづくりから、構造的な企業変革を強固に支援します。サプライチェーンを次世代の循環型経営の核へと進化させたい場合には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。