デジタル製品パスポートは、EU域内で流通させる企業および、そのサプライチェーンに関わる海外企業にも影響が及びます。この記事では、デジタル製品パスポート導入の背景や対象範囲、導入スケジュールについて解説します。日本企業に想定される影響やそして先行企業の取り組みも解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物・素材データの可視化を起点に、欧州基準に合致したトレーサビリティの確保や、構造的な企業変革を強固に支援します。デジタル製品パスポートの対応にお悩みの場合にはぜひご相談ください。
1.デジタル製品パスポートとは?制度背景と対象も

ここでは、制度の全体像を把握し、なぜ求められているのか、いつから始まり、どの製品が対象になり得るのかを整理します。
(1)デジタル製品パスポートの概要
具体的には原材料や部品構成、環境負荷、修理・リサイクル方法といったデータを一元的に管理し、関係者がアクセスできるようにしたものを指します。
これにより製品の出どころや環境性能、循環性に関する透明性が高まり、サステナビリティに関する情報が見える化されます。
参考:https://www.env.go.jp/content/000185559.pdf
参考:EUのESPR規則で義務化されるデジタル製品パスポート(DPP)とは?|EY
(2)欧州でデジタル製品パスポートが求められる背景
デジタル製品パスポートは、2024年7月に発効した持続可能な製品のためのエコデザイン規則を実現するためのデジタル基盤として位置付けられています。具体的には、以下の3つの狙いが背景にあります。
| 規制による透明性の強制 | デジタル製品パスポートを通じた厳格な在庫管理とデータ開示は、EU市場における販売ライセンスに近い性質を持つように |
|---|---|
| サプライチェーンのデジタル・トランスフォーメーション | データ形式を標準化でグリーンウォッシュのリスクを排除 |
| 資源効率の最大化と新産業の創出 | リペア、再製造、リユース市場を活性化させる |
特に注意すべきは、完成品メーカーの背後にいる部品・素材メーカーに対しても1次データ(サプライヤーが実際に算出した数値)の提供が厳格に求められ始めている点です。
参考:成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する取りまとめ
(3)デジタル製品パスポートの導入スケジュール
エコデザイン規則がデジタル製品パスポート義務化の基盤となり、2026年から2030年にかけて、EU中央システムの稼働と製品ごとの義務化が段階的に進められます。
| 2026年7月 | 少なくとも固有の識別子を安全に保存するデジタルレジストリを設置 |
|---|---|
| 2026年末〜 | 鉄鋼・鉄製品への適用開始(中間製品の中で最も早く規制の対象となる見通し) |
| 2027年2月 | バッテリーパスポート義務化(確定) |
| 2028年〜 | ・2027〜2028年頃:繊維(アパレル)・家具(マットレス含む)・タイヤへの委任法が採択され次第、段階的に適用開始(これらは第1波優先グループ) ・2028年以降:中間見直し(2028年)の結果をふまえ、化学物質・洗剤・履物などの追加製品グループへの適用拡大を検討 |
| 2030年頃 | 売れ残り製品の廃棄禁止措置と合わせ、循環型経済が全面始動 |
各製品の具体的なルール(委任法)が採択されてから、企業が完全に適合するまでには通常18ヶ月の猶予期間が設定されます。例えば、繊維製品のルールが2027年初頭に確定した場合、2028年中旬が最終的なデッドラインとなります。
参考:https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620?id=1280
参考:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo08.pdf
参考:https://j-valve.or.jp/env-info/17474/
参考:EUの法律で義務付けられているデジタル製品パスポート(DPP)は、ESPR、玩具、洗剤、電池など、さまざまな分野で使用されています。|Circularise(サーキュラライズ)
(4)デジタル製品パスポートの対象製品|繊維・アパレルは含まれる?
結論として、繊維・アパレル製品は、デジタル製品パスポートが早く導入される最優先カテゴリーの一つです。環境負荷を削減するためにデジタル製品パスポートを含む、規制内容が順次適用されます。
| デジタル製品パスポートの義務化 | 2027年〜2028年頃に施行見込み (2026年中に個別ルールである「委任法」が公表予定) |
|---|---|
| 廃棄情報の開示義務 | 2027年2月より標準フォーマットでの報告が必須 |
| 売れ残り衣類・履物の廃棄禁止 | 2026年7月19日より大企業に適用開始 |
これにより、欧州へ輸出するアパレルメーカーや商社は、売れ残った場合のロジスティクスまでをデジタルデータで証明する必要があります。対応が遅れると、カスタム(税関)での足止めや、ブランドイメージの著しい低下を招く恐れがあります。
以下の動画では、不必要となった衣類が行き着くガーナの埋め立て地の様子をご確認いただけます。
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_nw/pdf/010_03_00.pdf

2.デジタル製品パスポートによる日本企業への影響

日本企業であっても商流にEUが組み込まれている場合、事実上の対応対象になり得ます。
ここからは、デジタル製品パスポートによって日本企業に現実的に起こり得る影響を整理します。
(1)欧州市場における非関税障壁
デジタル製品パスポートの導入は、製品が市場に流通するためのデジタルな販売ライセンスとしての性質を強めています。これに製品データが登録されていない場合、通関時の差し止めやEU域内での販売禁止措置が取られる恐れがあり、実質的な非関税障壁として機能します。
さらに環境性能の証明が不当表示と見なされた場合、巨額の制裁金や製品回収(リコール)の対象となるリスクがあります。客観的で改ざん不可能なデジタルデータによる証明ができなければ、企業の信頼性は即座に失墜しかねません。
参考:https://www.jetro.go.jp/world/qa/04S-040011.html
参考:https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/f2af2bb5a7f33a8e.html
(2)サプライチェーンへの連鎖
全ライフサイクルデータを記録するデジタル製品パスポートの性質上、サプライヤーが直接算出した実数値提供が取引継続の絶対条件となりやすく、完成品メーカーにとどまらない影響が懸念されています。
特に電池や繊維、鉄鋼などの優先品目では、部品メーカーや素材メーカーが自社工場で測定したカーボンフットプリントや含有化学物質の精緻なデータが要求されます。
日本企業間ではウラノス・エコシステムなどの共通プラットフォームを通じたデータ連携が進んでおり、業界標準のテンプレートで要求された時に即座に、セキュアにデータを受け渡せる体制を整えることが、受注競争の勝利につながります。
参考:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html
(3)サーキュラーエコノミーへの適合が必須条件に
デジタル製品パスポートの目的は、循環可能性を証明し続けることを企業に義務付けることにあります。
製品の耐久性や修理可能性などの循環可能性は、デジタル製品パスポートによって数値化・可視化されており、こうしたスコアが低い製品は欧州市場での競争力を著しく失う仕組みとして実質的に機能しています。
また、デジタル製品パスポートには解体手順やスペアパーツの入手方法といったメンテナンス情報の紐付けが義務化されます。これは、第三者の修理業者や消費者が自ら修理することを容易にし、製品の寿命を延ばす修理の権利をデジタル側面から支えるものです。
すでに欧州では、製品の機能を貸し出すPaaS(製品のサービス化)への転換を加速させる手段として、デジタル製品パスポートが活用されています。
日本企業にとっても、デジタル製品パスポートがメンテナンスやリユース市場での収益モデルを再構築するためのDX投資としての側面が強まる見通しです。
3.デジタル製品パスポート導入に向けて企業は何を準備すべきか

デジタル製品パスポートへの対応は、製品情報の収集体制、サプライヤーとのデータ連携、既存システムとの統合など、準備には一定の時間と投資が必要になります。ここでは、日本企業が今から着手すべき代表的な準備項目を整理します。
参考:https://www.digital.go.jp/policies/industrial-data-integration
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2024FY/000742.pdf
(1)対象製品の特定とギャップ分析の実施
まずは、自社製品が「どのタイミングで」「どのような要件を」課されるかを正確に把握することです。欧州委員会が示した2025年〜2030年の作業計画に基づき、以下のステップで現状を精査します。
2025年4月に採択されたワーキングプラン(2025〜2030年)では、繊維(衣類のみ、履物は除外)、家具(マットレス含む)、タイヤ、鉄鋼、アルミニウムが優先製品グループとして確定されています。
なお、化学物質・洗剤・塗料・履物などは今回のワーキングプランには採用されず、化学物質については2025年末までに調査を開始し、2028年の中間見直しで再検討される予定です。自社製品やその主要構成部品がこれらに該当する場合、2027年〜2028年頃の義務化を見据えた最優先対応が必要です。
また、原材料の持続可能性や、製造時の環境フットプリント、再利用性・修理可能性といった、これまで社外に開示してこなかったデータの可視化が求められる場合があります。
こうした動きから、現在のドラフトに基づいた早期のデータ棚卸しが推奨されます。
参考:https://www.seaj.or.jp/activity/kankyo/file/243_PR_EU_ESPR%20.pdf
参考:EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)及びエネルギーラベル規則(ELFR規則)作業計画 2025-2030年|東京環境経営研究所
(2)サプライヤーとの連携による収集体制の構築
デジタル製品パスポートの運用において、最も重要なデータはサプライヤーが提供する1次データ(実測値)です。
業界平均値を用いた推計(2次データ)の受け入れは厳格化されており、川上から川下まで一貫したデータのバトンパスが求められています。
そのためサプライヤーに対し、環境データの提供を取引条件として提示する必要があります。具体的にどのようなデータ(CO2排出量、再生材含有量、人権デューデリジェンス等)を、どの頻度で提出すべきかの詳細なガイドラインを共有し、認識の齟齬をなくすことも重要です。
また、親企業として、簡易的な算定ツールの提供や、専門家による勉強会の実施など、サプライヤー側のデータ算出能力(キャパシティ・ビルディング)を支援する体制を構築します。
サプライヤーに対し、証拠の管理もセットで求める管理体制の構築が求められます。

(3)資源循環を前提とした製品設計への転換
デジタル製品パスポートを軸にエコデザイン規則に適合するためには、以下のようなライフサイクル全体で資源を循環させる設計変更が不可欠です。
- 廃棄物と汚染を生み出さないデザイン
- 製品と原料を使い続ける
- 自然システムを再生する
解体しやすく、素材の再利用が容易な設計を行うことは、将来的な原材料コストの削減や、欧州での環境規制に伴う拠出金の低減に直接寄与します。
グローバル市場において、こうした設計刷新は、直接的なコスト削減と市場競争力を担保するための経営戦略そのものと位置付けられます。
4.デジタル製品パスポート導入に関する先行企業の事例
(1)パナソニック|バッテリーパスポート

パナソニックは、バッテリーパスポートを活用した情報開示・製品透明性の向上に取り組んでいます。
これによって、同社の欧州事例では、エコデザイン規則に沿ったデジタル製品パスポートの活用を通じて、サプライチェーン全体の資源使用や再利用の情報提供を実現し、製品の環境パフォーマンスに関する透明性を高めています。
資源効率の向上や循環型ビジネスモデルへの移行を促す取り組みとして位置づけられており、製品価値の向上や環境意識の高い顧客との関係づくりにもつながっています。
参考:https://news.panasonic.com/jp/stories/15015
(2)株式会社サトー|ラベルプリンターへの実装

株式会社サトーは、製造段階から解体・再資源化に至るまでのプロセスにおいてデジタル製品パスポートの社会実装に向けた実証実験を行っています。
サトー製のラベルプリンターにデジタル製品パスポート用の二次元コードを付与し、製造情報・素材情報を記録し、回収・解体・破砕・再生素材の製造・再製品化工程までをデジタル製品パスポートで一貫管理し、企業横断的にデータ活用が可能かを検証しています。
5.デジタル製品パスポート導入の戦略的メリット

デジタル製品パスポートは規制対応として語られることが多い一方で、見方を変えれば企業競争力を再構築する機会でもあります。ここでは、デジタル製品パスポートがもたらす中長期的な経営メリットを整理します。
(1)欧州市場におけるプレゼンス向上と優位性の確保
製品情報の透明性が取引の前提となる市場では、デジタル製品パスポートに対応済みであること自体が信頼の証明となり、サプライヤー選定やパートナー選びの判断材料になります。
特に欧州では、環境性能や資源循環への取り組みを可視化できる企業が評価されやすく、公共調達や大手企業との取引においても優位に立ちやすくなります。必要なデータを迅速かつ正確に提示できる体制を持つことは、入札機会の拡大や契約継続の安定にも直結します。

(2)高度なサプライチェーン・リスク管理
サプライチェーン全体で共有できるようになると、原材料の由来、環境負荷、製造拠点、輸送経路といったデータを横断的に確認でき、企業はリスクの所在をより正確に把握できるようになります。
また、規制変更や輸出入要件の強化、地政学的な緊張など外部環境の変化に対しても、必要な情報を即座に提示できる体制は事業継続力の向上につながります。調達先の見直しや代替ルートの検討といった判断も、事実に基づいて進めやすくなります。
(3)ブランド価値と消費者信頼の獲得
デジタル製品パスポートによって情報が公開されることで、環境や社会に対する姿勢が具体的な事実として伝わりやすくなります。透明性の高い企業は、消費者や取引先から継続的な信頼を得やすく、そうしたブランディングで評価されるようになります。
(4)サーキュラービジネスによる新たな収益源の創出
デジタル製品パスポートによって製品の構成情報や使用履歴が把握できることで、どの部材が再利用可能か、どのタイミングで回収すれば効率的かといった判断で回収・再利用・再製品化を前提とした事業設計を行いやすくなります。
これにより、修理サービスやリファービッシュ、部品の再販売、再生材の活用など、従来は難しかった循環型の収益モデルが具体化します。製品を売って終わる関係から、使用後まで含めて価値を提供する継続的なビジネスへと発展させることが可能になります。
6.まとめ
デジタル製品パスポートは、単なる情報開示ツールに留まらず、日本企業がグローバル市場で持続的に成長するための戦略的な武器となり得ます。欧州市場への対応という喫緊の課題に加え、サプライチェーン全体の透明化、ブランド価値向上、そしてサーキュラーエコノミーへの移行を加速させる強力な推進力となるでしょう。変化を機会と捉え、早期の準備と戦略的な導入を進めることが、今後の競争優位性を確立する鍵となります。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現場の廃棄物・素材データの精密な分析を起点に、国際基準に合致したデータ管理体制の構築や、構造的な企業変革を強固に支援します。デジタルパスポートを駆使して循環の証明を確立したい場合には、ぜひご相談ください。


