【2026年版】製品ライフサイクルの商品例|導入期〜衰退期の事業判断

製品ライフサイクルは、製品や事業の現状を整理する基本的なフレームワークではあるものの実務で判断に迷う場面も少なくありません。
この記事では、製品ライフサイクルを導入期・成長期・成熟期・衰退期に分け、それぞれのフェーズに該当する商品例をもとに、事業判断における考え方も整理します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、各フェーズにおける資源価値の最適化と循環型ビジネスへの転換を実務面から支援し、構造的な企業変革を強固に支援します。製品ライフサイクルについてお悩みの場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.製品ライフサイクルとは?プロダクトライフサイクルとの関係と基本整理

製品ライフサイクルとは、製品やサービスが市場に投入されてから見直しが検討されるまでの流れを、導入期・成長期・成熟期・衰退期に分けて整理する考え方です。一般にプロダクトライフサイクルとほぼ同義で用いられ、市場における売上推移や競争環境の変化を軸に、事業戦略の方向性を検討するための概念と位置づけられます。

フェーズ主な状態判断の軸
導入期市場認知が低く、需要は限定的学習・検証を優先するか
成長期需要が拡大し、競合が増え始める拡大投資をどこまで行うか
成熟期市場が安定し、成長が鈍化維持・刷新・派生の選択
衰退期市場縮小や代替手段の台頭延命・再設計・撤退の判断

以降では、この4つのフェーズを前提として、各段階における商品例と事業判断の考え方を整理します。

参考:プロダクトライフサイクル(製品ライフサイクル)とは?4つの段階とマーケティング戦略|Adobe
参考:プロダクト・ライフサイクル|野村総合研究所

2.製品ライフサイクル導入期の商品例と事業立ち上げ時の判断ポイント

製品の誕生直後である導入期は、顧客が抱える潜在的な課題に対し、当該製品が独自の解決策として市場に正しく定義・受容されるかにかかっています。
新奇性に高い価値を見出すイノベーター層へターゲットを絞り込み、彼らからのフィードバックを迅速に製品改善へ反映させ、次なる成長期に向けた勝ち筋を特定することが事業存続の分かれ道となります。

(1)既存製品に新技術を組み込む導入期の検証モデル

引用:https://corporate.jp.sharp/news/240917-a.html

シャープが2024年に発表したウェアラブルデバイス「AIスマートリンク」は、観光案内や自転車走行時のナビなどにおいてスマートフォン操作に依存しないAI利用の可能性を提示しています。しかし、この画面を持たないAI操作が、実際のライフスタイルにどこまで定着するかは、現時点では未知数です。

同社は本格的な市場展開を前に、実証実験を通じたデータ収集を重視しており、音声応答の精度や利用頻度、そして特定の生活シーンにおける有用性を定量・定性の両面から検証し、市場受容性を精査する段階にあります。
また、新技術がユーザー体験をどれだけ自然、かつ不可欠なものに変容させられるかを評価軸に置いていることも特徴です。

つまり、導入期において、技術的な完成度と並行してユーザーの行動変容を厳密にモニタリングするプロセスは、事業の本格投資を判断する上での極めて典型的なマトリクスといえます。

(2)将来の事業選択肢を見据えた導入期の技術実証モデル

液体水素エンジンGRカローラ
引用:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/40849694.html

トヨタ自動車の「液体水素エンジン搭載のGRカローラ」は、液体水素燃料で走らせるため、従来の内燃機関技術に液体水素エンジンを組み込んだ形で、モータースポーツの過酷な環境を利用した実証実験を繰り返してきました。この取り組みは、カーボンニュートラル社会実現に向けた技術の可能性を検証することを目的としています。

レース参戦を通じて液体水素をエンジンに供給するポンプや燃料タンクの設計改善、耐久性の向上など、技術的な課題を順次解決しながらテストデータを蓄積しています。こうしたスポーツ走行は、通常の量産車テストでは得られにくい極限状態でのデータを採取する場となり、技術の実用化可能性とその課題の両面を明確にする役割を果たしています。

トヨタの技術実証は、燃料の取り扱いや安全性、供給インフラとの関係性など、将来の事業選択肢としてどの方向に投資するかという判断材料を豊富に収集する機会につながっています。

これにより、液体水素エンジン技術そのものが実際の市場でどう位置づけられるかを冷静に評価する基盤が築かれつつあります。

(3)長期視点で市場可能性を探索する導入期事業の例

引用:https://www.nissin.com/jp/company/news/10516/

日清食品ホールディングスは2017年度から培養肉の研究を進め、2022年には日本で初めて食べられる培養肉の立体筋組織の作製に成功しました。これは、世界的にも珍しい取り組みで、食肉市場の将来的な選択肢として培養肉がどのように位置づけられるかの可能性を探る意義ある成果です。

実用化のハードルは高く、現段階ではまだ市場として成立するかどうかは未知数ですが、社会課題と市場ニーズがどこにあるのかを長期的に探るという意味で、典型的な導入期の探索型プロジェクトと位置付けられています。

こうした長期視点の事業探索は、既存製品の延長線では見えてこない新たな市場の可能性を評価する機会になり、将来の成長期を見据えた判断材料としても役立てられます。

3.製品ライフサイクル成長期の商品例と投資拡大・競争戦略の考え方

成長期は需要が爆発的に拡大する一方で、高成長を期待する競合他社が次々と参入し、市場は瞬く間にレッドオーシャン化の兆しを見せ始めます。

したがって、このフェーズでの意思決定には、後発優位性を許さないための圧倒的なスピード感と、競合との同質化を回避するブランドの差別化が同時に求められます。
広告宣伝販路拡大生産体制の強化へ経営資源を集中投下し、市場の主導権を掌握できるかが、後の成熟期における収益性を決定づけます。

(1)スケール戦略で市場を広げた成長期の例

chocoZAPイメージ
引用:https://chocozap.jp/

RIZAPグループが展開する「chocoZAP(チョコザップ)」は、良心的な価格帯かつ着替え不要で利用できる「コンビニジム」という新概念により、従来のフィットネス市場がリーチできていなかった運動初心者層を爆発的に取り込みました。

2025年時点で全国1,800店舗を超える多店舗展開は、成長期において拠点数による利便性の確立と会員基盤の拡大を優先する判断であり、短期間で物理的な接点を増やすことで、後発事業者が参入しにくい市場環境を形成しています。

また、セルフエステなどのサービスを組み合わせて提供することで、従来のトレーニングジムとは異なる利用価値を提示し、ブランドの差異化を図っています。日常的なヘルスケア領域へとブランドの意味を拡張している点が特徴です。

このように成長期では、市場シェアの拡大を目的としたスケール戦略と同時に、ブランドの位置づけを明確にする差別化戦略を並行して進めることが、事業成長を持続させるための重要な意思決定となります。

(2)プロダクト起点で急成長したデジタルサービスの例

友好的でプロフェッショナルに見えるようにメールを書き直すことに関する、ユーザーとChatGPTとのインターフェース上でのチャット形式の会話。
引用:https://chatgpt.com/ja-JP/overview/

OpenAIのChatGPTは、生成AI(ジェネレーティブAI)を直感的な対話型インターフェースへと昇華させ、プロダクトそのものが成長を牽引しています。ChatGPTは個人利用者の爆発的増加を背景に、瞬く間にビジネスユースへとその領域を拡張しました。

投資の焦点は、モデルの精度向上(GPT-4o等への進化)やマルチモーダル化といったプロダクトそのものの価値最大化に置かれています。さらに、API公開やGPTsによるエコシステム構築へリソースを投じることで、成長の持続性を盤石なものにしています。

このように、先行者として得た膨大なユーザーフィードバックを即座に開発へ反映させることが、ユーザーの期待を超える体験価値の連続的な提供につながっています。

(3)カテゴリ自体を拡張した成長期商品の例

引用:https://store.nissin.com/collections/delikanzenmeshi?page=4

日清食品が展開する「完全メシ」シリーズは2022年の発売以来、累計出荷数が5,300万食を突破するなど、完全栄養食という新たな成長カテゴリを確立しています。

完全メシシリーズは、即席麺やカップライス、さらには冷凍惣菜やスムージーに至るまでの多角的なバリエーション展開によって、ブランドそのものをあらゆる食事シーンへと垂直・水平に拡張させ、消費者のライフスタイルへの浸透を加速させています。

また、既存の健康食品が抱えていた味への不満という課題に対し、同社が培ってきたジャンクな美味しさを融合させ、これまでの市場の延長線上に新しいポジションを確立した点にあります。

このように、既存市場の境界線を拡張し、自らが定義した新カテゴリの標準をいち早く獲得することが、成長期における圧倒的な競争優位性に直結します。

4.製品ライフサイクル成熟期の商品例と収益構造を維持するための選択肢

市場の成長がピークを迎え、売上や利用者数の伸びが鈍化し始める成熟期は、戦略の重心を市場拡大から既存収益構造の最適化と維持へとシフトすべきフェーズです。

主要なプレイヤーが固定化され競争環境は安定するものの、製品の同質化が進むため、激しい価格競争に陥りやすい傾向にあります。

成熟期における事業判断の要諦は、新規獲得コストを抑えつつ、顧客ロイヤリティの向上による顧客生涯価値の最大化を図ること、そして徹底したオペレーションの効率化によってキャッシュフローを安定させることにあります。

(1)エコシステムとブランドで収益を維持する成熟期モデル

引用:https://www.apple.com/jp/iphone/

AppleのiPhoneは、スマートフォン市場全体が成熟期を迎え、ハードウェアの買い替えサイクルが長期化する中で、デバイス単体の販売からサービス収益を主軸としたビジネスモデルへと鮮やかな転換を遂げています。

App Store、iCloud、Apple Music、Apple Payといったソフトウェア・サービス群とハードウェアを密接に連携させ、ユーザーの生活体験全体を囲い込むブランドエコシステムを構築しており、この多層的なサービス展開により、ハードウェア販売の伸びが鈍化する局面においても、ユーザー1人あたりの平均売上を向上させ、継続的かつ安定的な収益源を確保しています。

さらにエコシステムを通じた利便性の提供は、他社製品へのスイッチング・コストを高める効果も発揮しています。

こうしたサブスクリプション型の収益構造へのシフトは、短期的な価格競争を回避し、中長期的に高い利益率を維持するための極めて有効な成熟期戦略といえます。

(2)価値を更新し続ける成熟期モデル

引用:https://www.coca-cola.com/jp/ja

日本コカ・コーラが展開する「コカ・コーラ」は、清涼飲料水市場という典型的な成熟市場において、強固なブランドアイデンティティを核としながらも、時代の変化に合わせた柔軟な製品拡張マーケティングを展開し、圧倒的なシェアを維持しています。

コカ・コーラ ゼロや特定保健用食品といった健康志向に対応するバリエーション展開により、ライフスタイルの変化に伴う顧客離れを抑えています。中核となるブランド価値を維持しつつ、多様化する消費者ニーズに応じてポートフォリオを細分化することで、市場の飽和を打破し、既存の収益構造を盤石なものにしています。

さらに、同社は体験型プロモーション時代に即したクリエイティブを通じ、製品を飲料から情緒的・文化的価値へと昇華させています。

このようなブランドが持つ意味を更新し続けることで、価格競争に巻き込まれない競争優位を確保しています。

5.製品ライフサイクル成熟期・衰退期に製品ライフサイクルを延命した成功事例

成熟期・衰退期に突入しても市場環境や顧客ニーズの変化を精緻に捉え直すことで、既存の製品寿命を劇的に延ばす、あるいは第2の成長期へと再突入させる余地は多分に残されています。

このフェーズにおける意思決定は、時代に合わせてその本質的価値を再定義することにあります。技術の転用、ターゲットの刷新、あるいはアナログとデジタルの融合といった戦略的なアプローチにより、一度は役目を終えかけた製品が再び市場の主役に躍り出るケースは少なくありません。

(1)既存技術を異分野に転用した事例

商品画像
引用:https://ls-jp.fujifilm.com/astaliftbrand/products/white-jelly-aquarysta/

富士フイルムは、主力の写真フィルム事業がデジタル化の進展により急激な衰退期を迎えた際、長年培った技術資産を異分野へ垂直展開する道を選びました。その結実が、スキンケアブランド「アスタリフト」です。
同社は、写真フィルムの主成分であるコラーゲンの知見や、フィルムの劣化(色あせ)を防ぐための抗酸化技術、そして高機能成分を均一に混ぜ合わせるナノテクノロジーを保有します。

既存の化粧品メーカーとは異なる技術的アプローチにより、独自の製品的優位性を構築し、これが成長市場であるヘルスケア領域において強力な参入障壁へと変貌を遂げます。この転用戦略は、フィルム製品の裏側にあるコア技術を成長市場(化粧品・ヘルスケア)へと移植し、全く新しいライフサイクルを創出した点にあります。

これによって、自社のアイデンティティをフィルムメーカーから先進技術による課題解決企業へと再定義し、現在もその確固たる地位を築いています。

参考:https://ls-jp.fujifilm.com/astaliftbrand/contents/development-story-of-white-jelly-aquarysta/conversion-to-cosmetics/

(2)付加価値を再設計し直した事例

引用:https://www.mpuni.co.jp/products/ballpoint_pens/gel/uniball_one/one.html

三菱鉛筆のユニボール ワンは、筆記具市場が成熟・コモディティ化する中で、製品価値を「色の濃さ」と「デザイン」という感性価値へシフトさせることで、新たな製品ライフサイクルを創出することに成功しました。
従来のボールペン開発は滑らかさや速乾性といった機能競争が主流でしたが、同社はあえて記憶に残りやすい濃さと洗練された意匠性を追求しました。

独自開発のビーズパック顔料により、紙面に浸透せず鮮やかに発色するインクを実現させ、これによってSNS世代や学生の潜在的なインサイトを捉え、ヒットを記録します。

この戦略の本質は、低価格・多機能といったスペック競争から脱却し、製品を自己表現や体験を豊かにする嗜好品へと再定義した点にあります。コモディティ化が進む成熟市場において、付加価値を再設計し直すことで、単価の維持と熱狂的なファン層の獲得を両立させています。

参考:https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00114/00080/

(3)利用シーンの再定義によって需要を維持した事例

引用:https://pocarisweat.jp/about/reason/

発売から40年以上が経過し、製品ライフサイクル上は成熟期にあるポカリスエットですが、ユーザーの心理的・生活的シーンを再定義することで、ブランドの再活性化に成功しています。

同ブランドは発汗時の水分補給を主軸に市場を牽引してきましたが、市場の成熟に伴い、同社は「中高生の青春や日常に寄り添うブランド」へと、ターゲットに対する情緒的価値を再構築しました。これによって、若年層とのエンゲージメントを生み出しています。この戦略の秀逸さは、既存の強みを維持したまま、消費者の生活文脈を書き換えた点にあります。

成熟期において、製品そのものを変えるのが困難な場合でも、このように「誰が、いつ、どんな気持ちで使うか」という視点をシフトさせることで、既存顧客のロイヤルティを維持しつつ、新たな世代を取り込むことが可能となっています。

参考:https://www.advertimes.com/20190624/article293859/

(4)意味づけを変えることでブランドを延命した事例

引用:https://gshock.casio.com/jp/

1983年の誕生以来、圧倒的な耐衝撃性能で地位を築いた「G-SHOCK」は、スマートウォッチの台頭や若者の腕時計離れという市場の成熟・衰退リスクに直面しました。これに対し、丈夫な時計という機能的定義を超え、ユーザーのアイデンティティを象徴するライフスタイルブランドへと意味づけを刷新することで、驚異的な再成長を遂げています。

耐久性を、ファッション、アート、スポーツ、音楽といった多様なカルチャーと融合させ、精神的なタフネスという情緒的価値へと昇華させました。
自分好みのパーツを選べるカスタマイズサービスによるパーソナライズ化や、ファンコミュニティの形成、さらにはアパレル領域への進出など、体験・文化の提供へと軸足を移しています。

これにより、成熟期において製品がコモディティ化するなかでも、製品に独自の物語やコミュニティへの所属感という付加価値の向上によって、比較検討の土俵を変えることに成功しました

参考:https://diamond.jp/articles/-/314427

(5)弱点とされていた特性を価値に転換した事例

引用:https://www.imuraya.co.jp/goods/ice/c-azuki/azuki65/

発売から50年以上が経過した「あずきバー」は、アイス市場という激戦区にありながら、あえて製品特性を変えないことでブランドの独自性を研ぎ澄ませ、ライフサイクルを再活性化させています。
あずきバーの最大の特徴である「硬さ」は、ソフトな食感トレンドとは対極にありましたが、添加物を使用せずあずきの含有量を限界まで高めた誠実なモノづくりの結果であると再定義しています。

SNS等での「世界一硬いアイス」というユーザーの反響を逆手に取り、硬さを本格派の証や暑い日でも溶けにくい利点へとリフレーミングすることで、消費者の受容性を高めました。この戦略の本質は、自社の変えられないこだわりを独自のブランド資産へと昇華させた点にあります。

一見ネガティブな特性を満足感の継続という価値に変える判断は、既存顧客のロイヤルティを強固にさせ、突き抜けた個性を持つブランドとしての再認知を促しました。これにより、競合不在のポジションを確立しています。

参考:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01205/

6.製品ライフサイクルを事業ポートフォリオと意思決定にどう活かすか

製品ライフサイクルを理解する本質は、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどの事業に、どのタイミングで投じるべきかという意思決定の精度を高めることにあります。
ここでは、製品ライフサイクルの考え方をもとに、投資配分、事業・製品の優先順位付け、定量・定性的な判断軸をどのように設計すべきかを整理します。

(1)製品ライフサイクル別に考える投資配分

事業の持続性を高めるためには、各フェーズにある製品をポートフォリオとして組み合わせ、資金流出(投資)と資金流入(収益)のバランスを最適化することが不可欠です。

フェーズ投資の役割最優先指標 (KPI)経営判断の急所
導入期未来への賭けPMF(市場適合)の達成度・短期利益を追わない・撤退ラインを死守
成長期シェア奪取シェア拡大率・新規顧客獲得数・黒字化よりスピードと規模・参入障壁の構築。
成熟期収益の回収営業利益率・LTV・コスト効率・投資は最小化・他事業を支える「財布」に
衰退・延命出口の選択維持コスト・再投資の投資対効果・感情を排す・撤退か、別価値への転換か

このように、ライフサイクル別に投資の目的と評価指標を明確に分けることで、短視眼的なコスト削減による成長機会の損失や、勝算のない事業への過剰投資を未然に防ぐことが可能となります。

【事例】ソニーグループ:ポートフォリオ経営と未来への投資

ソニーグループは、既存事業の収益性を維持しつつ、次世代の成長領域へ戦略的に資源を投じる「事業ポートフォリオ管理」を徹底しています。 同社はゲーム、音楽、映画などのエンタテインメント領域を成熟・成長期の中核に据え、そこで創出した安定したキャッシュを、導入期にある「モビリティ(EV)」や「メタバース」といった新規領域の技術開発に充てています。 特筆すべきは、短期的な営業利益のみを追うのではなく、各事業のライフサイクルに応じた投資判断を行っている点です。 導入期のプロジェクトに対しては、将来のプラットフォーム構築を見据えた「未来への賭け」として、既存事業とは切り離した評価軸で資金を配分しています。 このように、ライフサイクルが異なる複数の事業を最適に組み合わせることで、グループ全体の持続的な成長と企業価値の向上を両立させています。

参考:2024年度 経営方針説明会(事業ポートフォリオと成長戦略)|ソニー

【事例】エムスリー:巨大プラットフォームを核とした再投資サイクル

エムスリーは、国内医師の9割以上が登録する医療従事者専門サイトを「成熟期の収益基盤」とし、そこから得られるキャッシュを次々と新規事業へ投入する独自の「再投資モデル」を構築しています。 同社は、基盤となる医療プラットフォーム事業を「財布」として活用し、成長期にある治験支援や海外市場、さらには導入期にある医療AIやデジタルトランスフォーメーション領域へと、ライフサイクルに応じた多角的な投資を実行しています。 意思決定においては、各事業をフェーズごとに明確に切り分け、新規事業には「1P1Y(1人1円の医療費削減)」といった独自の社会的インパクトとPMFを重視した評価指標を適用しています。 単一のサービスに依存せず、プラットフォームの顧客基盤を横展開することで、常に新しい成長の柱をポートフォリオ内に生み出し続けているのが特徴です。 このように、既存の圧倒的シェアを維持しながら、未来の市場を創出する領域へスピード感を持って資源を配分する姿勢は、ライフサイクル管理の理想的な実践例と言えます。

参考:エムスリー:事業成長の軌跡と戦略(M3 Report for Investors)

【事例】キヤノン:成熟事業を原資とした「新事業創出」への転換

キヤノンは、プリンティング事業をグループ全体の収益を支える「キャッシュカウ(成熟期の収益源)」と位置づけ、戦略的なポートフォリオ経営を実践しています。 市場が成熟し需要の伸びが鈍化する中、同社は従来の「規模の拡大」から、消耗品や保守サービスによる「高収益維持」へと舵を切りました。 ここで創出した安定した利益は、成長領域であるメディカル、監視カメラ、産業機器といった「四つの新事業」の強化やM&Aのための投資原資として再配分されています。 単なるコスト削減に留まらず、既存の光学・画像処理技術を新たな市場へ転用することで、衰退のリスクを回避し、持続的な企業価値の向上を図っているのが特徴です。 また、環境配慮の観点から製品ライフサイクル全体での資源循環も強化しており、再生機の比率向上など持続可能なビジネスモデルへの再設計も進めています。 このように、ライフサイクルの異なる事業間で資金を循環させる仕組みは、成熟企業が次なる成長を実現するための高度な意思決定モデルと言えます。

参考:キヤノン:中長期経営計画(ポートフォリオの転換と生産性向上)

【事例】オムロン:ROIC経営による徹底したポートフォリオ管理

オムロンは、投下資本利益率(ROIC)を軸とした「ROIC経営」を導入し、事業のライフサイクルに応じた厳格な意思決定を行っています。 同社はグループ内の約60以上の事業ユニットを、ROICと売上高成長率のマトリックスで評価し、各事業が現在どのフェーズにあるかを可視化しています。 成長期にある事業には経営資源を重点配分して市場シェアの拡大を急ぐ一方、成熟期で収益性が低下した事業には改善期間を設ける仕組みを構築しました。 特筆すべきは、資本コストを下回る状態が続く事業に対して、感情を排して「事業構造改革」や「撤退」を判断する明確な基準を設けている点です。 この仕組みにより、停滞している経営資源(ヒト・モノ・カネ)を切り離し、社会課題の解決に繋がる次世代の導入期事業へと機動的にシフトさせています。 現場レベルでも、ROICを具体的な活動指標(KPI)に分解した「ROIC逆ツリー」を活用し、全社一丸となって資本効率の向上に取り組んでいます。 このように、ライフサイクルのステージを定量的に捉え、ポートフォリオを常に入れ替え続ける姿勢は、日本における管理会計の先駆的な事例とされています。

参考:ROIC経営|オムロン
参考:財務・業績の主要指標|オムロン

(2)事業・製品ごとの投入優先順位の考え方

製品ライフサイクルの段階と事業全体への影響度を踏まえ、事業ポートフォリオ上の役割によって投入優先順位を決める必要があります。事業・製品の投入優先順位を決める際は、以下のような視点が重要になります。

  • 成長期の製品を最優先で支える構造になっているか
  • 成熟期の製品が守るだけになっていないか
  • 衰退期の製品を残す理由が言語化できているか
  • 導入期の事業が無制限に温存されていないか

このように、製品ライフサイクルごとに事業の役割を整理した上で投入優先順位を決めることで、短期的な成果に引きずられない意思決定が可能になります。

【事例】ダイキン工業:脱炭素シフトを捉えた成長領域への全方位投資

ダイキン工業は、世界的な環境規制の強化を背景に、成長期にある「ヒートポンプ式暖房・給湯機」市場を最優先の投資対象と位置づけています。 同社は、従来のガスボイラーから電化へのシフトが加速する欧州市場において、競合に先駆けて生産能力の増強と販売網の拡充を断行しました。 戦略経営計画「FUSION25」では、短期的な利益の最大化以上に、この成長フェーズでの「圧倒的なシェア奪取」と「参入障壁の構築」を重視しています。 具体的には、空調事業で培った省エネ技術を基盤に、各地域の特性に合わせた製品を投入し、研究開発リソースをこれら成長領域へ集中的に配分しています。 また、単にモノを売るだけでなく、施工やアフターサービスといった「コト」の領域まで垂直統合することで、他社の追随を許さない構造を作り上げました。 このように、ライフサイクルが加速する市場の変化をいち早く捉え、全社の資源を成長の波に一気に投じる意思決定が、同社の高い成長率を支えています。 成熟した国内市場で稼いだ資金を、世界規模の環境変化という「勝ち馬」に一点集中させる姿勢は、ポートフォリオ経営の模範と言えます。

参考:戦略経営計画「FUSION」|ダイキン工業

【事例】味の素グループ:成熟事業の技術を成長領域へ繋ぐ「ASV経営」

味の素グループは、国内で成熟期にある調味料事業を単なる収益維持の対象とせず、培ったアミノ酸技術を次世代の成長領域へ転用する戦略を推進しています。 同社は「アミノサイエンス」を核に、調味料開発で磨かれた高度なバイオ・ファイン技術を、バイオ医薬品の開発受託(CDMO)や半導体パッケージ材料(ABF)といった高成長市場へ展開しました。 成熟期の事業が生み出す安定したキャッシュを、これらライフサイクルの異なる高付加価値領域へ再配分することで、事業ポートフォリオの抜本的な刷新を図っています。 単なる多角化ではなく、既存事業の強みを「再設計」して新しい顧客価値へ繋げる意思決定は、成熟企業の持続的な成長モデルとして高く評価されています。 また、社会課題の解決と経済価値の両立を目指す「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」という独自の軸で投資の優先順位を明確にしています。 このように、製品ライフサイクルの変化を技術の進化で乗り越え、常に「未来の稼ぎ頭」を自ら創出し続ける姿勢が同社の強みです。

参考:味の素グループ:中期経営計画(2023-2030年度)

【事例】富士通:衰退事業の「出口」を明示する誠実なリソースシフト

富士通は、かつての主力であり現在は市場が縮小する衰退期のメインフレームおよびUNIXサーバ事業について、異例とも言える長期の撤退ロードマップを公表しました。 同社は、メインフレームの販売を2030年度に終了し、保守サービスも2035年度に完結させるという具体的な期限を「言語化」して社内外に宣言しています。 この意思決定の背景には、サンクコスト(埋没費用)に囚われず、限られた経営資源を成長領域であるクラウドやサービス基盤「Fujitsu Uvance」へ大胆にシフトさせる狙いがあります。 一方で、基幹システムを支える顧客への責任を果たすため、10年以上の移行期間を設けることで、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する期間として再定義しました。 ダラダラと事業を継続するのではなく、終わりの時を明確に示すことで、社内の技術者に対してもリスキリングと新領域への配置転換を促す強力なメッセージとなっています。 このように、衰退期の製品を残す理由を「顧客の近代化支援」と明確に定義し、出口戦略を仕組み化する姿勢は、事業ポートフォリオ最適化の極めて高度な事例です。 単なる事業撤退を超え、企業全体の持続可能な未来に向けたリソース配分の透明性を高める取り組みとして、多くの成熟企業の指針となっています。

参考:富士通メインフレームに関する約束

【事例】リクルート:ステージゲート制による導入期事業の厳格な選別

リクルートは、新規事業提案制度「Ring」を通じて毎年膨大な数のアイデアを創出していますが、それらを無制限に温存することはありません。 導入期の事業に対しては「ステージゲート」と呼ばれる独自の評価指標を設け、各フェーズでPMF(市場適合)の兆しがあるかを厳しく審査しています。 審査を通過するごとに予算が段階的に割り当てられる仕組みとなっており、勝算のない事業には投資を続けないという意思決定が徹底されています。 これにより、芽の出ない事業への過剰投資を未然に防ぎ、限られた経営資源を有望な事業へ集中させる「選択と集中」を実現しています。 また、撤退基準が明確であるため、担当者は失敗を恐れずに挑戦と迅速な軌道修正を繰り返すことが可能となっています。 このように、導入期特有の不確実性を管理しつつ、成長期へ移行できる事業だけを効率的に選別する仕組みは、同社の高い収益性の源泉です。 単なるアイデア出しに留まらず、出口戦略を見据えた厳格な運用を行うことで、ポートフォリオの鮮度を常に高く保ち続けています。

参考:新規事業・ナレッジマネジメント|リクルート

(3)定量データと定性判断を組み合わせた意思決定基準

製品ライフサイクルを事業判断に活かす際に陥りやすいのが、数値だけで判断するか、あるいは経験や感覚に依存し過ぎるかの二極化です。それらを踏まえ、数値で事実を押さえたうえで、その数字が生まれている背景や、今後変化しうる評価軸を解釈することで、意思決定の再現性が高まります。

たとえば導入期に利益率を求めると機会を失い、成熟期に成長率だけを追うと無理な投資判断につながります。フェーズごとに「見る数字」と「解釈すべき意味」を切り替えることが、合理的な判断につながります。

また、定性判断は感覚で終わらせず、なぜそう判断するのかを言語化できる状態にしておく必要があります。
製品ライフサイクルは、万能な正解を与える理論ではありませんが、定量データと定性判断を整理し、意思決定を構造化するためのフレームとして活用することで、事業ポートフォリオ全体の判断精度を高める役割を果たします。

【事例】メルカリ:熱量と継続率を指標にする「規律ある先行投資」

メルカリは、導入期や成長期にある新規事業において、短期的な売上や利益以上に「ユーザーの熱量」や「リテンション(継続率)」といった定性的な兆しを重視した意思決定を行っています。 同社は、メルペイやメルコイン、海外展開といった不確実性の高い領域を「投資フェーズ」と明確に定義し、目先の赤字に惑わされず、PMF(市場適合)の達成度を測るための独自指標をモニタリングしています。 一方で、これらの投資が無制限に温存されないよう、一定期間内に期待した成長や顧客基盤の構築が見られない場合には撤退や縮小を判断する「規律」も同時に構築しています。 数値で事実を捉えつつ、その数字が生まれている背景にあるユーザー体験の質を経営陣が解釈することで、中長期的な企業価値を最大化させるための投資配分を実現しています。 このように、既存の国内フリマ事業で稼いだ利益を、定性的な確信に基づいた未来の成長エンジンへ注ぎ込む姿勢は、構造的な意思決定の好事例と言えます。 また、サステナビリティと事業成長を紐付け、社会的な存在意義を言語化することで、株主に対しても投資の正当性を論理的に説明しています。 感情や直感に頼るのではなく、データと戦略的意図を組み合わせることで、再現性の高い事業ポートフォリオ管理を追求し続けているのが同社の特徴です。

参考:メルカリ:決算説明会資料(事業戦略と投資の考え方)

【事例】ラクス:ユニットエコノミクスで解釈する「攻め」の投資判断

ラクスは、主力事業の「楽楽精算」などが成長期にある中で、目先の営業利益率という定量データのみに捉われない、極めて合理的な意思決定を行っています。 同社は、広告宣伝費の投入によって一時的に利益が圧縮されたとしても、一顧客あたりの採算性を示す「ユニットエコノミクス」が健全である限り、それを将来の収益を確定させるための「資産形成」と解釈します。 成長期における投資優先順位を「売上高の最大化」に置き、市場シェアを早期に占有することで、成熟期における圧倒的なキャッシュ創出能力を担保する戦略です。 この際、解約率(チャーンレート)などの定性的な顧客満足度を反映した数値を「事業の健康診断」として活用し、投資を加速させるべきか、足場を固めるべきかを構造的に判断しています。 単なる「赤字掘り」ではなく、回収期間を明確にシミュレーションした上での投資であるため、再現性の高い事業拡大が可能となっています。 このように、ライフサイクルに合わせた「見るべき数字」の切り替えと、その背景にある「収益構造の質の解釈」を組み合わせることで、持続的な高成長を実現しています。 また、複数のSaaS製品を異なるライフサイクル段階で抱えることで、グループ全体の成長と安定のバランスを保つポートフォリオ経営を実践している点も特徴的です。

参考:ラクス:2025年3月期 成長戦略説明資料

7.まとめ

成熟期や衰退期に入った製品であっても、技術転用や利用シーンの再定義、意味づけの変更によって延命や再活性化が成立するケースがあります。一方で、すべての製品を延命すべきではなく、撤退や転換を含めた冷静な見極めも欠かせません。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、各製品ライフサイクルにおける資源価値の最大化と、次世代サイクルへの接続を実務面から強力に支援します。次世代の循環型経営を実現したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。