ブルーエコノミーに企業が参入する意義とは?事例と官民連携の実態

脱炭素に続くサステナビリティの新たなフロンティアとして、ブルーエコノミーに注目が急速に高まっています。
この記事では、日本国内におけるブルーエコノミーの動向や政策、先行する企業の具体事例を網羅的に解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、複雑なステークホルダーが絡むブルーエコノミーの領域においても、資源の可視化と循環を軸とする事業価値の向上を強固に支援します。
ブルーエコノミーの実行にお悩みの場合には、ぜひご相談ください。

目次

1.ブルーエコノミーとは?基本概念と企業が関わる領域

ブルーエコノミーは気候変動対策資源循環エネルギー転換が交差する、巨大なグリーンプラットフォームへと進化しています。

ここでは、企業が新たな成長戦略を策定する上で不可欠となる、ブルーエコノミーの基本概念その広範な事業領域について解説します。

(1)ブルーエコノミーの定義

ブルーエコノミーとは、海洋生態系の健全性を維持・回復させながら、持続可能な形で海洋資源を活用し、経済成長や雇用創出を目指す経済概念です。最大の特徴は、海洋環境への負荷経済成長を切り離す点にあります。

従来の海洋産業が資源の採取による利益の創出に主眼を置いていたのに対し、ブルーエコノミーでは再生と活用を両立させることで、ネイチャーポジティブへの貢献と利益創出を同時実現を目指します。

参考:https://www.jfa.maff.go.jp/j/keikaku/attach/pdf/umigyo_kyougikai-16.pdf
参考:ブルーエコノミーとは何か 定義と基礎|野村グループ

(2)ブルーエコノミーに関する世界と日本の潮流

欧州を中心とした国際社会では、海洋資源の持続可能性を評価基準とした資金調達「ブルーファイナンス」が急速に拡大しています。日本においても、2023年に閣議決定された「第4期海洋基本計画」においてブルーエコノミーの推進が明文化されました。
以下の世界経済フォーラムによる動画では、ブルーエコノミーの市場規模が2030年までに年間3兆ドルを超える規模に達すると解説されています。

四方を海に囲まれ、世界第6位排他的経済水域を保有する日本にとって、この領域は地政学的な強みを活かした新産業創出のフロンティアと位置付けられます。

参考:https://www.jpmac.or.jp/file/1758523714994.pdf
参考:ブルーエコノミーの概要 ~日本や諸外国の動向とは|KPMG

以下の記事では、日本企業における地政学リスクについて詳しく解説しています。

(3)ブルーエコノミーの対象領域

ブルーエコノミーがカバーする領域は、既存の海洋産業の枠を超え、先端技術異業種の参入を強く求めています。

エネルギー・インフラ洋上風力発電潮流・波力発電水素サプライチェーンの拠点としてのポート(港湾)整備など
食料・ライフサイエンスAI/IoTを駆使したスマート養殖海洋生物由来の素材開発(バイオテクノロジー)など
環境・資源循環海洋プラスチック資源の回収・再製品化ブルーカーボン(海洋生態系による炭素吸収)のクレジット化
観光・教育海洋資産を活かしたサステナブル・ツーリズム、海洋リテラシー向上を通じた地域再生

これらの領域は相互に連動しており、例えば「洋上風力発電設備と養殖施設の併設」のように、複数の産業が重なる領域にこそ、日本企業が主導権を握るべきブルーオーシャンが存在しています

参考:ブルーエコノミーとブルーファインナンス|WWF
参考:ブルーエコノミーとは?推進されている理由も解説|JEMS

2.ブルーエコノミーは新規事業として成立するのか

海洋資源を活用したエネルギー分野観光食品バイオ産業などでは、すでに事業化に向けた取り組みが進んでおり、企業が参入する余地も広がりつつあります。
ここでは、日本国内の取り組み状況具体事例を踏まえながら、ブルーエコノミーが企業にとってどのような事業機会となり得るのかを整理します。

(1)2030年までの予測と経済インパクト

OECD(経済協力開発機構)の予測によれば、世界の海洋経済の付加価値額は2030年までに3兆ドル(約450兆円)規模に達し、その成長率は世界経済全体の平均を上回ると見込まれています。

この巨大な市場成長の中心は、デジタル技術グリーン技術と融合した次世代海洋産業の台頭です。日本企業にとって注目すべきは、以下のセクターにおける市場の拡大です。

分野市場のポテンシャル企業にとっての事業機会・メリット
洋上風力発電2030年に向けた世界的な導入加速が確実視されている建設・保守・送電網整備など、
数兆円規模の広範なサプライチェーンへの参入
海洋テック年率10%前後の高成長を維持海中ドローン、衛星データ、
通信技術など、既存技術の転換とグローバル展開
ブルーカーボン市場海域保全を資産に変える
新たな金融スキーム
クレジット取引による収益化に加え、ESG評価やネイチャーポジティブへの貢献

ただし、海洋資源の持続可能性を軽視する企業は、将来的に資本市場での評価下落(ESG投資リスク)サプライチェーンからの排除といった局面に立たされる可能性があります。 

これらへの投資は、新規事業の枠を超え、将来の事業継続コスト低減につながる戦略的布石としての側面も併せ持っています。

参考:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=101321
参考:2025年、日本の洋上風力発電~今どうなってる?これからどうなる?~|資源エネルギー庁

(2)ブルーエコノミーの自然資本としての資産価値

海洋生態系が提供する調節サービス(気候調節、防災)供給サービス(食料、原材料)の価値が定量化されることで、これまで評価されていなかった沿岸域や海洋環境が、企業の非財務価値を支える実質的な資産へと変わります。
投資家や金融機関は、ブルーエコノミーへの取り組みを以下の観点から評価し始めています。

リスク耐性の強化海洋汚染や資源枯渇を回避する循環型ビジネスモデルを、将来の負債リスクを抑えるものとして高く評価する
資産価値の向上自社が関与する沿岸域や藻場などのブルーカーボンを、ポジティブな資産価値として算出する
資金調達の優位性健全な海洋環境を維持・回復させる事業に対し、ブルーボンドなどのサステナブルファイナンスが優先的に適用される

海洋資源の再生プロセスを事業に組み込むことで、持続可能な原材料の安定確保や、高付加価値なブランド構築が可能です。 つまり、ブルーエコノミーへの投資は、目に見えない自然資本を盤石にし、長期的な企業価値を最大化するための戦略的投資と位置付けられます。
以下の記事では、そうした非財務価値の定量化について、詳しく解説しています。

【事例】TNFDに基づく商船三井のブルーエコノミー推進

海運業界の先駆者としてTNFD提言に基づき、自社の事業が海洋生態系へ与える 影響や依存関係をいち早く可視化し、非財務価値の開示を徹底しています。 モーリシャスでの自然再生支援やサンゴ礁の保全活動を継続するだけでなく、 海洋温度差発電や風力を活用した次世代船の開発など、海を守りながら利益を 生むビジネスモデルへの転換を加速させています。これにより、海洋汚染リスク の低減と新たなクリーンエネルギー需要の取り込みを同時に実現し、 自然資本を基盤とした長期的な企業価値の最大化を図っているのが特徴です。

参考:TNFD提言に基づく開示|商船三井

(3)海洋テックへの期待値

AIロボティクス宇宙開発などの先端技術を応用した海洋テックは、ブルーエコノミーの社会実装を加速させるエンジンです。これにより、高コスト・高リスクとされてきた海洋ビジネスの構造が、デジタル技術によって根本から書き換えられつつあります。例えば、水中ドローン(ROV)自律型無人潜水機(AUV)の普及は、危険を伴う潜水作業を代替し、インフラ点検や資源探査のコストを劇的に引き下げます。
以下の動画では、自律型無人潜水機についてわかりやすく解説してます。

さらに、海洋テックの真の価値は、個別技術を統合した海洋プラットフォーム(海洋OS)の構築にあります。
これまでラストフロンティアだった海洋が、ハードウェア、通信、データ解析が統合されることで、予測可能かつ制御可能な経済圏へと変貌を遂げます。
日本企業が培ってきた既存技術を海洋環境に適応させることは、2030年に向けた最も有力な新事業シナリオの一つとなるでしょう。

【事例】海洋OS「Marindows」が拓く次世代経済圏

Marindows株式会社は、船上の通信やデータ解析を統合する世界初の海洋OSを開発し、 これまでデジタル化が困難だった海域を、陸上と同様に予測・制御可能な空間へと 変貌させようとしています。

このOSは、商船三井や三菱商事といった大手企業の 知見を結集して構築されており、航海支援AIによる安全性の向上だけでなく、 乗組員の健康管理や船舶の燃費最適化など、多岐にわたる機能を一括で提供します。 海洋インフラにおける通信規格を統一することで、個別のハードウェアに依存しない プラットフォームを構築し、海洋テック企業が新たなアプリを開発・実装しやすい エコシステムを創出しています。これにより、海洋ビジネスのコストとリスクを 劇的に低減させ、2030年に向けた巨大な海洋経済市場の成長を支えるデジタルな 基盤(海洋OS)として、日本発のグローバル標準を目指しているのが大きな特徴です。
データに基づく効率的な運航は、脱炭素化という環境課題の解決にも直結しています。

参考:Marindows株式会社:海洋OSによるDX

3.日本におけるブルーエコノミーの現状と政策動向

ここでは、日本におけるブルーエコノミーの政策的な位置付けと、2026年時点で進められている主要な取り組みの方向性について整理します。

(1)海洋基本計画とGX(グリーントランスフォーメーション)の連動

日本の海洋政策は、2023年に閣議決定された第4期海洋基本計画を指針としています。
今期計画の最大の特徴は、海洋を通じた変革を意味するOX(オーシャントランスフォーメーション)を推進し、脱炭素戦略であるGXと強力に連動させている点にあります。

計画の2大主柱である総合的な海洋の安全保障持続可能な海洋の構築に基づき、企業が注目すべき主要施策は以下のように整理されます。

政策分野経営上の重要性と主な施策内容
海洋安全保障洋上風力発電の導入加速、水素等のクリーンエネルギーを利用した製品・サービスの付加価値向上
海洋産業の振興海域の有効活用による海洋資源開発、海洋観光、次世代型漁業の拡大
海洋DX・科学技術海洋データのオープン化、自律型無人探査機(AUV)等の海洋ロボティクスの開発・社会実装
海洋環境保全ブルーカーボンの創出促進、生物多様性保全、プラスチック汚染対策
インフラ・物流港湾の脱炭素化を図るカーボンニュートラルポートの形成、ゼロエミッション船舶の実装

このように、第4期海洋基本計画は、安全保障・環境政策・産業政策を横断的に整理した国家戦略として設計されています。
企業にとっては、国の予算措置EEZ活用等の実証フィールドを背景にした、新規事業や既存事業の高度化を図るための最重要リファレンスとなっています。

参考:https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ocean_policy/sosei_ocean_tk_000031.html
参考:カーボンニュートラルポート(CNP)の形成|国土交通省

【事例】日本財団の無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」

日本財団は、深刻化する船員不足の解消と海難事故の防止を目指し、2020年から 世界最大規模の無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」を主導しています。

第一ステージでは、大型フェリーやコンテナ船、水陸両用船など5つの異なる船種で 世界初の無人運航実証を成功させ、離着桟から避航操船までの一連の技術を確立しました。 現在は社会実装を見据えた第二ステージに入っており、兵庫県西宮市の常設型を含む 「陸上支援センター」から複数の船舶を遠隔監視・支援する高度な体制を構築しています。 2040年までに国内の船舶の5割を無人化するという野心的な目標を掲げる一方で、 技術の標準化や保険制度の整備など、ルール形成の面でも業界を牽引しています。

通信やAIなどの異業種を巻き込んだ巨大なコンソーシアムを通じて、海洋DXと 経済成長を両立させる、まさにブルーエコノミーの社会実装の象徴的な事例です。

参考:無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」

(2)Jブルークレジットと炭素市場

企業のCO₂排出量を相殺する手段としてカーボンクレジット市場が拡大しており、Jブルークレジットは日本独自の取り組みとして注目されています。Jブルークレジットは、藻場の保全・造成干潟の再生といった海洋生態系(ブルーカーボン)によるCO₂吸収量を対象としています。

Jブルークレジットの特徴は、厳格なプロジェクト管理にあります。
計画策定からモニタリング第三者機関による科学的検証、そして認証に至るプロセスを透明化することで、クレジットのダブルカウンティング(二重計上)防止と高い信頼性を担保しており、国際的な開示基準にも耐えうる高い信頼性を担保しています。

森林由来など他のクレジットと比較して、Jブルークレジットが選ばれる理由は、ネイチャーポジティブへの直接貢献ブランド構築など多角的な価値にあります。

また、供給量が限られている一方で需要が急増しており、戦略的資産としての価値が安定しています。
企業にとっては、環境価値の創出に寄与しながら、自社の脱炭素戦略を地域共生型のストーリーとして発信できる、極めて戦略的価値の高いビジネス機会となっています。

参考:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/jcredit/attach/pdf/240417_3-3.pdf

【事例】日本製鉄による「鉄の力」を活用した藻場再生

日本製鉄は、鉄鋼製造の副産物である鉄鋼スラグと腐植土を混ぜ合わせた施肥材 「ビバリーユニット」を開発し、全国各地の海で消失した藻場の再生に取り組んでいます。

この技術は、海藻の成長に欠かせない鉄分を海中に安定して供給することで、 衰退した「磯焼け」海域を豊かな「海の森」へと復活させる画期的な手法です。 北海道増毛町をはじめとする全国の沿岸で、地元漁協と連携して大規模な実証を 進めており、再生された藻場はJブルークレジットとして認証を受けています。 自社の副産物を有効活用しながら海洋生態系を回復させるこのモデルは、 ネイチャーポジティブへの貢献と脱炭素戦略を同時に実現する好事例と言えます。 また、藻場の復活は魚介類の産卵場所や成育場となるため、漁業振興を通じた 地域社会への貢献という側面でも、高い資産価値を生み出しているのが特徴です。

鉄鋼メーカーとしての技術力を背景に、自然資本を守り育てる経営を体現しています。

参考:海の森づくり|日本製鉄

(3)経済安全保障の観点から見た海洋資源開発とインフラ整備

半導体や電動車、再生可能エネルギー機器などに不可欠なレアアース重要鉱物の需要が世界的に拡大しており、この課題に対応するため、日本では排他的経済水域内に存在する海底鉱物資源の調査開発が供給網の強靱化に資する施策として期待されています。

マンガン団塊レアアース泥メタンハイドレートなどの海洋資源について、商業化を見据えた技術開発海洋調査が進められています。

なかでもレアアース泥は、南鳥島周辺海域での採掘・生産技術開発が本格化しており、採鉱から精製に至る一連のプロセスの開発実証が進められており、2026年時点で一部の引き揚げ試験の成功を受け、民間企業を交えた商用化に向けた体制構築が急務となっています。

以下の報道動画では、レアアース泥の回収に関する概要をご確認いただけます。

経済活動の場が沖合や深海へ拡大する中、これらを支える物理的・デジタル的なインフラ整備も重点投資領域です。
宇宙(衛星)やサイバー分野と連携した海洋状況把握(MDA)の高度化が進んでおり、海洋データの産業利用を促進するプラットフォームの構築が図られています。

企業にとっては、資源開発関連事業海洋インフラ整備先端海洋技術開発など、多様な領域で新規事業や技術連携の機会が広がっており、中長期的な成長分野として注目されています。

参考:https://journal.meti.go.jp/keizaiword/41866/
参考:https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/mda/mda.html

【事例】日本メタンハイドレート調査(JMH)の挑戦

日本メタンハイドレート調査株式会社(JMH)は、次世代の国産エネルギー資源として 期待される「砂層型メタンハイドレート」の商業化を目指すオールジャパンの組織です。

石油資源開発(JAPEX)やINPEXなど、日本のエネルギー・プラント関連企業11社が 結集し、経済産業省主導の研究開発事業を技術面から強力に牽引しています。 主な役割は、世界に先駆けて行われる海洋産出試験の実施運営であり、深海下の 地層に眠る固体のメタンハイドレートを効率的にガス化して引き揚げる高度な 生産技術の確立に挑んでいます。これまでの実証試験を通じて、減圧法による 連続的なガス産出に成功しており、現在は商用化に向けた課題である生産の長期安定化や コスト低減に向けた技術開発に注力しています。

日本のエネルギー安全保障と 経済成長を支えるブルーエコノミーの根幹を担う、戦略的な技術集団と言えます。 海洋国家としての強みを活かし、未知のフロンティアを経済圏へと変える最前線です。

参考:日本メタンハイドレート調査株式会社(JMH)

4.自治体・企業におけるブルーエコノミーの事例

(1)横浜市:日本初の独自のオフセット制度

引用:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp/pdf/materials/01_jp_1.pdf

日本におけるブルーエコノミーの先進事例として、海洋生態系が持つCO₂吸収機能を活用した独自のカーボンオフセット制度「横浜ブルーカーボン・オフセット制度」は、2014年度から運用され、2022年度で終了していますが、その成果は日本国内のブルーカーボン政策やJブルークレジット制度の形成にも影響を与え、自治体主導の海洋カーボン市場形成の先駆的事例として位置付けられています。

藻場の再生海洋環境の保全活動によって創出されたCO₂吸収量を科学的に評価し、クレジットとして認証され、創出されたクレジットは、企業活動やイベント開催に伴う排出量の相殺に活用されます。

例えば国際会議の運営に伴う移動会場使用によるCO₂排出をオフセットした実績があります。このような仕組みにより、環境対策と地域経済活動を結び付ける新たな市場形成が進められました。

(2)備前市日生:アマモ場再生による産業活性化

引用:https://www.hinase.net/amamo/

岡山県備前市日生(ひなせ)では、海の生態系を回復させるため、アマモ場の再生に着手しました。
アマモは海中に生育する海草で、水質浄化機能を持つほか、魚介類の産卵場稚魚の生息場所として重要な役割を担うことから海のゆりかごとも呼ばれています。

日生では、わずかに残っていたアマモの種を採取し、海底にまく取り組みを継続してきました。当初は海底環境の悪化により定着が難しい状況でしたが、牡蠣養殖で発生する牡蠣殻を海底に投入し、その上にアマモを植えることで生育環境を改善する手法を確立しました。

これにより、段階的な回復を経て、2015年には約250ヘクタールまで再生しています。
漁獲量の回復につながったほか、アマモ場が水温調整などを通じて牡蠣の生存率を高めるなど、牡蠣養殖との相乗効果も生まれています。さらに、アマモ場再生をテーマとした体験型プログラムや環境学習が実施されており、地域外からの交流人口の拡大にも寄与しています。

(3)北海道寿都町・室蘭市:水産廃棄物を活用した海の森づくり

引用:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp/pdf/materials/01_jp_1.pdf

北海道の寿都町や室蘭市では、海洋生態系の回復とブルーカーボン創出を同時に実現する取り組みとして、水産廃棄物木質チップ下水汚泥などを活用した堆肥分解性ブロックを開発し、海中に投入する施肥事業を開始しました。この施肥により海藻の成長に必要な栄養素を補給し、藻場の再生を促進しています。

一方、室蘭市を含む北海道各地では、鉄鋼産業の副産物である鉄鋼スラグを活用した藻場再生の取り組みが進められています。鉄鋼スラグには海藻の生育に必要な鉄分や栄養成分が含まれており、これを海中に設置することで海藻の成長を促進し、藻場の回復を図る技術が開発されました。
この技術は大学や研究機関との共同研究により安全性や有効性が確認されており、北海道ではコンブ藻場の回復ウニ資源の増加など、水産資源の回復効果が報告されています。

製造業や水産業の副産物を環境保全活動に活用することで、廃棄物処理コストの削減環境価値の創出を同時に実現できる可能性があり、企業のサーキュラーエコノミー戦略とも親和性が高い取り組みといえます

(4)三菱商事・三井物産等:閉鎖循環式養殖への投資

引用:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/team-up-for-a-sustainable-world/230130/

三菱商事は、食品大手マルハニチロと共同で、富山県入善町にサーモンの陸上養殖事業を展開する合弁会社「アトランド」を設立しました。
この事業では、循環型養殖システムを活用し、海面を利用せずにサーモンを養殖する生産モデルの確立を目指しています。施設は年間約2,500トン規模の生産を想定しており、2027年の出荷開始を計画しています。

さらに同事業では、AIやIoTを活用した飼育環境の最適化にも取り組んでおり、黒部川の伏流水や富山湾の海洋深層水といった地域資源を活用することで、冷却エネルギーの削減など環境負荷の低減も図られています。

海面養殖が赤潮や台風、病原菌などの自然環境リスクを受けやすいのに対し、陸上養殖は水温や給餌などを精密に管理できるため、安定的かつ効率的な生産が期待されています。

こうした閉鎖循環式養殖は、海洋生態系への負荷を抑えながら食料供給を拡大できる点にも注目されており、ブルーエコノミーの中でも成長分野と位置付けられています。

(5)日本財団・商船三井グループ:水素燃料電池船によるゼロエミッション航行

引用:https://www.mol.co.jp/info/article/2025/0523.html

「HANARIA」は、日本初の水素燃料電池を搭載した旅客船として開発され、水素燃料電池リチウムイオンバッテリーバイオディーゼル発電機の3つの電源を組み合わせたハイブリッド型電気推進船です。水素燃料電池とバッテリーのみを使用する運航ではCO₂を排出しないゼロエミッション航行が可能であり、環境負荷の低減と安全性を両立する次世代船舶として注目されています。

同プロジェクトは、2050年までに海運分野のCO₂排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げ、水素などのクリーン燃料を活用した船舶技術の確立を目的としています。

水素燃料船は洋上風力施設へのアクセス船としての活用が想定されており、水素エネルギーのサプライチェーン構築海洋エネルギー産業との連携など、次世代海洋ビジネスの可能性を示す取り組みとして注目されています。

5.ブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーの相乗効果

サーキュラーエコノミーとブルーエコノミーは、持続可能な資源利用という共通理念を持ちながら、海洋というフィールドにおいて融合し、新たな産業機会を生み出す関係にあります。
ここでは、ブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーの相乗効果について解説します。

(1)リスク対応から資源循環戦略への転換

これまで、海洋プラスチック問題廃棄物処理への対応は、法規制への適合レピュテーションリスクを回避するためのコストとみなされてきましたが、サーキュラーエコノミーを統合することで、この構造は企業の中長期的な資源安定確保戦略へと転換されます。

サーキュラーエコノミーの設計段階から廃棄物を出さない構造へとビジネスモデルを転換することで、環境貢献を超越した経済的メリットが生まれます。

コスト削減従来の焼却・埋立処理コストを劇的に低減。資源を再定義することで、原材料利用の効率を最大化する
新市場の創出再生素材製品は、サステナビリティを重視する市場で強く支持される。既存製品との差別化や、プレミアム価格の維持が可能
事業継続性の証明将来的な規制強化や炭素税導入への適応能力を証明。ESG投資の呼び込みや、資金調達コストの低減に直結する

こうした転換は、不確実なグローバル市場において自社のサプライチェーンを強靭化し、持続的な利益成長を担保するための経営の高度化そのものとなります。

【事例】アディダスとParleyの海洋プラスチック再生

アディダスは2015年から環境団体「Parley for the Oceans」と提携し、 海岸や沿岸地域で回収されたプラスチック廃棄物を高性能な糸へと再生する 「Parley Ocean Plastic」を製品ラインアップに導入しています。 当初はコンセプトモデルからのスタートでしたが、2020年には年間で 1,500万足以上のリサイクル素材シューズを製造する規模へと拡大させ、 「廃棄物」をブランドの象徴的な「資源」へと完全に再定義しました。 この取り組みは、単なる環境保護の枠を超え、サステナビリティを重視する 消費者の支持を強力に集めることで、既存製品との差別化と新市場の創出に 大きく貢献しています。2024年までには製品に使用するポリエステルを バージン素材からリサイクル素材へ100%切り替えるという野心的な目標を 掲げ、循環型ビジネスモデルへの転換を経営戦略の核に据えています。 スポーツの力を通じて海洋汚染の解決に挑む、グローバルな好事例です。

参考:アディダス:サステナビリティ(地球のための取り組み)
参考:Parley for the Oceans

以下の記事では、プラスチックのサーキュラーエコノミーについて詳しく解説しています。

(2)未利用資産の最大活用による新収益源の創出

ブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーが融合する最大の結節点は、海域から得られる未利用資源における価値の再定義にあります。
従来、水産加工の過程で発生する残渣(皮、骨、内臓等)は多額の処理費用を要する廃棄物でしたが、これらを高付加価値な原材料として再資産化することで、新たな収益源へと転換可能です。

さらに資源を多段階で活用するカスケード利用は、物理的な残渣や海洋ビジネスの過程で生じる副産物を、独自の競争優位性を持つ資産へと進化させます。

資産化の切り口具体的な貢献内容期待できるインパクト
エネルギー・農業への循環回収された残渣をバイオ燃料や高品質な有機肥料へと加工地域のエネルギー自給や農産物の付加価値向上に寄与し、地域共生型ビジネスを確立
排熱・深層水エネルギーの多目的活用排熱や海洋深層水の冷熱を陸上養殖や空調システムへ供給エネルギーコストの削減に加え、供給事業としての外販収益(新規事業化)を実現
データの資産化海洋テックを用いて収集された海象・生物データの外販損害保険、研究開発用データとして外部販売可能な高付加価値データ資産の構築

これらの取り組みは、企業の売上構成(ポートフォリオ)の多様化に直結します。
既存事業の副産物から非連続な新ビジネスが創出されることで、原材料価格の変動に左右されにくい、強固かつ持続的な収益基盤の構築が可能となります。

【事例】はごろもフーズの水産資源完全循環モデル

はごろもフーズは、シーチキン等の製造過程で発生する魚の頭、骨、内臓といった 水産残渣を単なる廃棄物とせず、高度な処理技術によって100%有効活用する 資源循環システムを確立しています。自社工場内の蒸煮・圧搾プロセスを経て、 これらは高タンパクな飼料や肥料の原料となるフィッシュミール、および バイオ燃料や食品原料となるフィッシュオイルへと再資産化されています。 特に抽出された魚油の一部は、工場のボイラー燃料として自家消費されており、 廃棄物処理コストの削減とエネルギー自給率の向上を同時に実現しています。 また、皮や骨から抽出されるコラーゲンやカルシウムといった成分についても、 健康食品や化粧品原料としての価値を見出し、多段階的なカスケード利用を 推進することで、既存の加工事業を超えた新たな収益源を創出しています。 「自然の恵みを大切にする」という経営理念のもと、未利用資産を最大化し、 環境負荷低減と持続的な経済成長を両立させるブルーエコノミーの好事例です。

参考:サステナブルな社会の実現のために|はごろもフーズ

(3)ネイチャーポジティブによる市場競争力の強化と企業価値向上

ブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーの相乗効果が最終的に結実するのは、企業の市場競争力財務価値の向上であり、グローバルな資本市場やサプライチェーンにおいて選ばれる理由を構築するための戦略的投資となります。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)等の国際的な枠組みにより、企業の海洋生態系への貢献度が可視化されることで、以下の相乗効果が生まれます。

リスク耐性の評価将来の規制や資源枯渇リスクの低減として投資家に高く評価される
資金調達の最適化海洋環境へのプラスの影響をKPIとした、有利な条件での資金調達が可能となる
ブランド価値の根源的向上企業のブランド価値を競合他社と差別化する強力な武器となる
優秀な人材の獲得環境意識の高い優秀な人材を惹きつけ、組織のエンゲージメントを高められる

このように、ブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーの相乗効果を最大化しネイチャーポジティブを推進することは、目に見えない自然資本を具体的な財務・ブランド価値へと転換する高度な経営判断に直結します。

【事例】キリンHDの自然資本経営とTNFDへの挑戦

キリンホールディングスは、酒類・飲料メーカーとして自然の恵みに深く依存 している事業構造を背景に、世界に先駆けてTNFD(自然関連財務情報開示 タスクフォース)の枠組みを用いた情報開示を実践しています。 具体的には、スリランカの茶園や国内のブドウ畑において、生物多様性の 回復が農産物の収量や品質の安定化(レジリエンス)にどう寄与するかを 科学的に分析し、自然資本のリスクと機会を定量的に可視化しています。 この「ネイチャーポジティブ」への先進的な取り組みは、気候変動対策と 連動した統合的な環境戦略として国際的に高く評価されており、 ESGファイナンス・アワードでの金賞受賞など、具体的な財務・信頼性の 向上に直結しています。2026年には「技術イノベーションセンター」を 新設し、持続可能な資源循環と独自のバイオ技術を掛け合わせることで、 自然資本を基盤とした非連続な成長とブランド価値の最大化を加速させています。

参考:2022年6月にTNFDの事務局長トニー・ゴールドナー氏とキリンホールディングスのCSV戦略担当役員が対談しました|キリンホールディングス

6.ブルーエコノミー参入への壁をどう突破するか

ここでは、企業がブルーエコノミー分野へ参入する際に直面しやすい課題を整理するとともに、それらを乗り越えるための具体的な戦略実務的なアプローチについて解説します。

(1)海洋事業特有の高コスト構造

海洋ビジネスは、陸上事業とは比較にならない物理的制約により、初期段階での不確実性と高コスト構造が常態化しています。

過酷な自然環境と技術的難易度高水圧、塩害、強い波風などから、開発・運用のコストが陸上事業の数倍から数十倍に膨らむ傾向にある
莫大な初期投資と長期の投資回収海洋インフラの整備には巨額の資金投入が必要であり、実証実験(PoC)には年単位の時間を要する場合がある

上記のような障壁は、一企業が単独で抱え込むにはリスクが大きすぎるため、官民連携によるリスク分担自治体と共生する地域循環共生圏の構築が参入における前提戦略となります。

【事例】海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)の産官学連携

一般社団法人海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)は、海洋温度差発電 などの次世代海洋エネルギーを商用化するため、民間企業と自治体、そして 研究機関を繋ぐ強力なプラットフォームとして機能しています。海洋事業は 初期投資が莫大で技術的リスクも高いため、一企業での参入は困難ですが、 同機構は佐賀県や沖縄県久米島などの実証フィールドを核に、複数の企業が 共同で知見と資金を出し合うコンソーシアム形式での開発を推進しています。 国からの予算措置や補助金の獲得を支援し、行政と連携して海域利用の権利 調整を円滑に進めることで、企業側の参入障壁を劇的に引き下げています。 また、発電後の深層水を陸上養殖や農業へ二次利用するカスケード利用の モデル構築も手掛けており、海洋エネルギーを軸とした地域共生型の 持続可能なビジネスモデル(ブルーエコノミー)の社会実装を加速させています。 日本が持つ海洋技術の粋を集め、経済安全保障に資する国産エネルギーの 確立を目指す、官民連携によるリスク分担戦略の象徴的な成功事例です。

参考:海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)

(2)制度整備

技術以上にボトルネックとなるのが、海域利用を巡る権利関係の調整と、未整備な法規制への対応です。
海域には漁業権を持つ漁業者、自治体、海運業者など、多様なステークホルダーが複雑な権利・利益を共有しています。新たな領域では既存法の想定外となるケースが多く、複数省庁にまたがる煩雑な許認可手続きが、迅速な経営判断を阻害する要因となっています。

さらに国境をまたぐ事象(航路、資源管理、炭素市場)については、国内法のみならず国際的な条約基準との整合性が求められ、コンプライアンス維持のためのコストと専門知識の確保が必須となります。

これらの調整・制度対応の遅れは、プロジェクトのリードタイムを直接的に長期化させるため、官民協議会への参画ルール形成を通じた予見可能性の確保が求められます。

【事例】日本郵船の次世代燃料船と国際ルール形成

日本郵船は、海運業界の脱炭素化を牽引するため、アンモニア燃料船や 水素燃料船といったゼロエミッション船舶の技術開発を加速させています。 単に船を造るだけでなく、次世代燃料の安全性基準や運航ルールが未整備な 領域において、国際海事機関(IMO)等への提言を通じて世界標準の 策定を主導している点が、同社のグローバルな戦略の大きな特徴です。 アンモニアを燃料とするタグボートの実証や、世界初の液化水素運搬船の 運航で得られた知見をルール形成に反映させることで、法的・技術的な 不確実性を排除し、業界全体の社会実装を先導する役割を担っています。 また、自動運航船の開発においても、国際的な安全基準の構築に官民一体で 参画しており、技術と制度の両面から海洋ビジネスの予見可能性を高める 取り組みを推進しています。これらは、経済成長と環境保全を両立させる ブルーエコノミーの実現に向けた、日本発の極めて戦略的な事例です。

参考:海運業界における環境規制動向と 日本郵船の取り組み

(3)地域合意

社会的受容を軽視した強硬な進め方は、企業のブランド価値を致命的に毀損するリスクを孕んでいます。
例えば、企業が中央主導のトップダウンで事業を進める際、地元住民や漁業者に海の独占・収奪と受け取られる懸念があります。

特に初期段階でのコミュニケーション不足は、一度拗れると修復に数年単位の時間を要し、プロジェクトの凍結に直結する場合があるため、地域における雇用創出や、地元企業との連携といった目に見える共生策の提示が不可欠です。科学的データに加え、丁寧な対話を通じた情緒的な信頼醸成を同時並行で行う高度な合意形成能力が求められます。

地域合意は、持続可能な事業継続のためのリスクマネジメントそのものとなるため、地域住民を価値を共に創出する戦略的パートナーと定義し直すガバナンスの転換が求められます。

【事例】戸田建設の漁業協調型洋上風力発電

戸田建設は長崎県五島市において、国内初となる浮体式洋上風力発電の 商用化に向け、漁業者との徹底的な対話を通じた合意形成を成功させました。 一方的な開発ではなく、風車の浮体基礎が「人工魚礁」として魚を集める 効果を科学的に証明し、漁場としての価値を高める「漁業協調モデル」を 提示したことが、地元住民や漁業関係者の信頼獲得に大きく寄与しています。 さらに、風車の保守・点検業務に地元の漁船や人員を積極的に雇用する 仕組みを構築し、地域に新たな産業と雇用を生み出す実利的な共生策を 実現しました。自治体が主導する協議会に初期段階から参画し、利害を 調整しながら「島全体のエネルギー自給」というビジョンを共有することで、 海洋事業の最大の壁である社会的受容性の問題を克服した好事例です。 地域を事業のパートナーと定義するこの手法は、国内外の海洋ビジネスにおける 標準的なガバナンスモデルとして、今や高い注目を集めています。

参考:五島洋上ウィンドファームの再エネ電気を活用した「地産地消モデル」の運用を開始|戸田建設
参考:五島洋上ウィンドファーム|戸田建設

7.ブルーエコノミー事業化に向けた3つの経営判断軸

ここでは、企業がブルーエコノミー分野への参入を検討する際に重要となる3つの経営判断軸を整理し、事業化の可能性を評価するための基本的な考え方を解説します。

(1)財務価値と非財務価値(TNFD対応)の統合評価

従来のROIのみに依存した判断では、海洋事業の真の価値を見誤るリスクがあります。
事業が海洋環境に与える影響と、海洋環境の変化が自社の財務に与える影響の両面を評価軸に組み込むなど、目に見える収益と目に見えない自然資本への貢献をセットで評価するスキームの構築が不可欠です。

あわせて、ネイチャーポジティブへの寄与を企業の格付けを維持・向上させるための財務戦略として位置づけます。
将来的なプラスチック規制や炭素税、生物多様性オフセットなどの導入を先読みし、現時点で海洋保全・資源循環に取り組むことが、将来の座礁資産化を回避するための先行投資であると再定義します。

【事例】SMBCグループのブルーファイナンス戦略

三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)は、海洋環境の保全と持続可能な 利用を促進するため、金融の側面から「ブルーエコノミー」の普及を強力に 支援しています。日本初となるブルーボンド(海洋保全特化型債券)の 発行支援や、独自の「ブルーファイナンス・フレームワーク」を構築し、 海洋プラスチック削減や持続可能な水産資源の確保に取り組む企業に対し、 有利な条件での資金調達機会を提供しています。これは単なる社会貢献ではなく、 将来の環境規制や資源枯渇に伴う財務リスクを評価軸に組み込むことで、 投融資先のネイチャーポジティブな活動を企業の「格付け」や「信用力」に 直結させる戦略的な試みです。目に見えない自然資本の価値を、金利や 資金調達コストという具体的な財務指標へと転換させることで、企業の 持続可能な成長と地球環境の再生を両立させる金融システムを目指しています。

参考:自然資本の保全・回復への対応(TNFDへの取組)|三井住友フィナンシャルグループ

(2)地元の漁業関係者・自治体との「共生・共創」スキームの有無

やはり海洋事業において、地域社会は事業の成否を分かつ共同経営パートナーです。参入判断においては、地域と利益を分かち合う具体的なスキームが設計されているかを重視します。

なお、補償金は、短期的には有効でも、中長期的なレピュテーションリスク追加コストの火種となる場合があります。地域が自社の事業を応援する理由がロジックとして完結しているかが、Goサインを出すべき決定的な判断軸となります。

【事例】秋田洋上風力発電(AOW)の地産地消型モデル

秋田洋上風力発電株式会社(AOW)は、丸紅を筆頭とする大手企業連合と 秋田銀行などの地元有力企業が結集し、日本初の大型商用洋上風力事業を 秋田港・能代港で実現しました。このプロジェクトの最大の特徴は、 単なる大手資本の進出に留まらず、建設から保守点検に至るまでの 広範なサプライチェーンに地元企業を積極的に組み込んだ点にあります。 地元企業を共同出資者やパートナーとして迎えることで、海域利用に伴う 「外部による独占」という懸念を、「地域産業の育成」という期待へと 鮮やかに転換させ、強固な地域合意と社会的受容性を確保しました。 風車を地域の資産として位置づけ、能代港を拠点としたメンテナンス体制を 構築することで、長期にわたる安定的な雇用と経済循環を生み出しています。 地域と利益を分かち合う「共生・共創」のロジックを事業構造そのものに 組み込んだこの事例は、日本の海洋ビジネスにおける理想的なガバナンスの あり方を示しており、持続可能な地域共生型事業の先駆的なモデルです。

参考:秋田洋上風力発電株式会社(AOW):地域との共生

(3)既存事業との技術・資源シナジーと将来の拡張性

海洋事業を自社が持つ既存技術アセット顧客基盤を再定義し、非連続な成長に繋げられるかを判断の決定打とします。素材技術や遠隔操作などの陸上や他分野で培った自社の強みが、海上で唯一無二の価値に昇華するかを現実的な観点から精査します。

そのうえで、既存事業で排出されていた廃棄物や排熱を海洋事業の原材料に、あるいは海洋事業の副産物を既存事業のエネルギー源にといったブルーエコノミーとサーキュラーエコノミーの相乗効果を検証します。
これにより、原材料価格の高騰や外部調達リスクに左右されない、強固な自律型サプライチェーンを構築することが可能です。

【事例】古野電気の水中技術による海洋DXの推進

古野電気は、世界初となる魚群探知機の実用化で培った超音波技術を中核に、 過酷な水中環境を可視化する独自のセンシング技術を陸上から海洋へと 深化させています。単なる漁業支援に留まらず、海底の地形や地質を 高精度に把握するマルチビーム音響測深機などの先端デバイスを提供し、 海底資源探査や洋上風力発電の基礎点検といった新領域へ進出しました。 自社の無線通信・画像処理技術を水中ドローンや自律型無人潜水機に 応用することで、海洋インフラの維持管理コストの低減と安全性の向上を 同時に実現しています。また、観測データのデジタル化を通じて海洋環境の 変化を定量的に捉え、持続可能な漁業や海洋保全に貢献する「海洋DX」を 先導しており、既存技術を非連続な成長分野へと適合させた好事例です。 長年築いた船舶ネットワークを基盤に、深海から宇宙までを見据えた 統合的なデータ活用により、強固な自律型ビジネスモデルを構築しています。

参考:船舶のデジタルトランスフォーメーションへ|古野電気

8.まとめ

企業がブルーエコノミーに挑む最大の意義は、既存事業の延長線上にはないゲームチェンジの創出にあります。
そのシナジーの深さと、10年、20年先を見据えた拡張のロードマップが描けているかが、最終的な経営判断の拠り所となります。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、複雑に絡み合う要素を整理し、長期的な視点でのロードマップ策定を強力に支援します。ブルーエコノミーの実装にお悩みの際には、ぜひご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。