デジタルで高度化するサーキュラーエコノミー|企業戦略と事例

IoT・AI・デジタルツインなどのデジタル技術進展により、資源の可視化や回収、再資源化プロセスを高度に運用できる環境が整い、サーキュラーエコノミーの実現可能性は大きく広がっています。この記事では、サーキュラーエコノミーの基本と主要領域を整理したうえで、デジタルがもたらす高度化のポイントなどを体系的に解説します。

こうしたデジタル技術と現場の実務を融合させ、確かな資源循環を実現するのが、五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」です。廃棄物データの可視化を起点に、テクノロジーを駆使したサプライチェーンの再設計と、構造的な企業変革を一貫してプロデュースします。デジタルの力を「確かな経営成果」へと変換し、次世代の循環型経営を構築したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

目次

1.サーキュラーエコノミーの基本と4つの領域

サーキュラーエコノミーは、従来型の「つくる・使う・捨てる」という直線型モデルから、資源を循環させて価値を継続的に引き出す経済モデルへ転換する考え方です。
まずは、サーキュラーエコノミーの基礎的な概念と、近年特に重要視される4つの領域を整理し、後続のデジタル活用・戦略設計を理解するための前提を明確にします。

(1)サーキュラーエコノミーの基本知識

サーキュラーエコノミーは廃棄を前提にしない点が特徴であり、リユース・リペア・リサイクルといった個別の施策だけでなく、以下のような設計段階から循環を前提にした仕組みを組み込むことが重要になります。

観点内容
設計段階での工夫寿命延長、分解しやすい構造、再資源化しやすい素材の採用など
使用後の資源循環使用済み製品を廃棄物とせず、資源として次のサイクルに戻す前提で運用する
サービス化モデルへの転換回収・再利用を前提としたサービスモデル(PaaS等)である
バリューチェーン全体の再設計調達・製造・物流・販売・回収まで全プロセスを横断して見直し、資源循環しやすい仕組みを整える必要がある。
回収フローの重要性回収スキームや再資源化の体制が整わないと循環モデルが成立しないため、回収プロセスの確立が不可欠となる。

参考:循環経済への移行|環境省
参考:サーキュラーエコノミーをわかりやすく、行動しやすくするサイト|経済産業省

(2)サーキュラーエコノミーが重視する5つの領域

サーキュラーエコノミーは、製品設計・利用・回収・再資源化までのバリューチェーン全体で循環を組み込むことが求められます。特に以下の5つの領域が、循環型モデルを成立させる中心的な要素として位置づけられています。

領域内容
① 製品のサービス化(Product as a Service)製品を売り切りではなく使用権として提供し、企業が回収・再製品化まで担い、利用期間の最適化や資源消費の抑制につなげる
② 所有からシェアへの転換(Sharing Platforms)製品を複数ユーザーで共有して稼働率を高める
③ 製品寿命の延長(Product Life Extension)修理・保守・アップグレードなどで寿命延長により新規素材の投入を抑え、廃棄量削減にもつながる
④ 代替燃料(Alternative Fuels)EV・水素など環境負荷の低いエネルギー源への転換を進め、化石燃料依存からの脱却を促し、脱炭素化につなげる
⑤ 原材料の循環(Circular Supplies)再生素材やバイオ素材を活用し、使用済み資源を再び原材料として循環させ、資源採掘の削減と環境負荷低減を両立する

上記のような循環を前提とするビジネスモデルの構築こそが、サーキュラーエコノミーにおける資源効率の最大化と収益機会の創出を同時に実現します。

【事例】タイムズカーにおける「所有からシェアへの転換」の事例
タイムズカー(タイムズモビリティ)が提供するカーシェアリングサービスは、「所有からシェアへの転換(Sharing Platforms)」というサーキュラーエコノミーの核心的な領域を体現しています。自家用車を個人が所有する代わりに、複数ユーザーで車両を共有利用することで、車両一台あたりの稼働率を大幅に向上させています。これは、「クルマの効率的な利用」を促進し、社会全体での資源消費の抑制に貢献する取り組みです。
具体的には、自家用車が保有者の生活様式によっては稼働率が極めて低い状態にあるのに対し、カーシェアリングは多数のユーザーによる利用により、車両の「製品寿命」や「価値」を最大限に引き延ばしています。これにより、新規の車両製造に伴う原材料の採掘や投入、そして廃棄物の発生を抑制し、結果的に環境負荷の低減と脱炭素化に貢献しています。さらに、サービス提供企業として、車両の適切なメンテナンスと管理を行うことで、資源がより長く、より有効に活用される循環型のビジネスモデルを成立させている点も重要な特徴です。
参考:タイムズモビリティのサステナビリティ

2.デジタルで高度化するサーキュラーエコノミーの仕組みと事例

(1)IoT|使用状況の可視化とメンテナンス最適化

IoTを活用することで、製品や部品の使用状況・稼働データをリアルタイムで収集でき、故障予兆の検知最適なメンテナンス計画が可能になります。これにより、製品寿命の延長稼働効率の向上を実現し、循環を前提とした設計・回収プロセスとも連動しやすくなります。

サーキュラーエコノミーでは、回収率向上や再利用判断の精度向上にも直結する基盤技術として位置づけられています。

引用:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shinsangyo_kozo/pdf/003_04_00.pdf

MICHELINは、トラック向けタイヤを“売り切る”のではなく、走行距離に応じて料金を支払う「Tire-as-a-Service」へ転換したビジネスを展開しています。

車両に搭載したテレマティクスとセンサーで走行距離・摩耗状態・温度などのデータを常時収集し、メンテナンス時期の最適化や故障予兆の検知を実現。これにより顧客はタイヤ管理の負担を軽減でき、MICHELIN側はタイヤ寿命を最大化する運用が可能になります。

さらに、使用済みタイヤは100%回収し、リトレッド加工によって再生タイヤとして再利用しており、欧州では90%を超える再利用率を達成するなど、サービスモデルとIoT基盤を組み合わせることで、資源利用の最小化と新たな収益モデルの両立を実現しています。

引用:https://sanki.komatsu/komtrax/

小松製作所(コマツ)は、建設機械に搭載した独自のIoTシステム「KOMTRAX(コムトラックス)」を活用し、サーキュラーエコノミーに貢献しています。

このシステムは、機械の稼働時間、位置情報、燃料消費量、そして故障情報などのデータをリアルタイムで収集・分析する基盤です。このデータを活用することで、コマツは建設機械のメンテナンスを最適なタイミングで実施することが可能になりました。

具体的には、故障が発生する前に予兆を検知し、計画的な部品交換や修理を行うことで、機械の突然の停止を最小限に抑えています。これにより、製品である建設機械の高稼働率と長寿命化が実現しています。また、詳細な稼働履歴が残ることで、中古市場においても機械の透明性が高まり、再販価値の向上に寄与しています。これは、製品の価値を長く維持し、資源効率を高めるというサーキュラーエコノミーの理念を、デジタル技術を用いて実現した好事例と言えます。

(2)AI|需要予測・素材循環の最適化

AIは、需要予測や在庫最適化、素材の回収・再資源化プロセスの最適化に活用され、過剰生産や廃棄の最小化に寄与します。大量のデータを解析することで、資源フローの偏りや循環のボトルネックを特定し、効率的な循環設計を実現できます。

サーキュラーエコノミーでは、生産・供給・回収を一体で最適化する意思決定基盤として重要な役割を果たします。

引用:https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/shigen/2025/senbeturobo20250718.files/senbeturobo.pdf

横浜市では、早稲田大学小野田研究室、株式会社イーアイアイ、伊藤忠マシンテクノス株式会社と連携し、家庭ごみ(缶・びん・ペットボトル)の選別工程をAIで自動化する実証実験を進めています。AI画像認識とロボット制御を組み合わせることで、人手に依存していた選別作業の精度向上と省力化を同時に実現しています。

素材ごとの分別精度が高まることで再資源化率の向上が期待され、自治体レベルでの循環型社会の実装に資するモデルケースとなっています。

引用:https://www.family.co.jp/company/news_releases/2025/20250710_01.html

株式会社ファミリーマートでは、サーキュラーエコノミーにおける重要な課題である食品ロス(フードロス)の削減を目指し、AI技術を積極活用しています。この取り組みは、店舗における弁当や飲料などの日配品の発注業務にAIを導入するというものです。

具体的には、過去の販売実績に加え、曜日、時間帯、気温や天候、さらには近隣のイベント情報など、売れ行きに影響を与える複雑なデータをAIがリアルタイムで解析します。AIはこの分析結果に基づき、商品ごとに最も適切な発注数を自動で推奨します。これにより、従来の従業員の経験や勘に頼っていた発注精度が大幅に向上しました。結果として、必要以上の商品を仕入れることによる売れ残りや廃棄が大幅に削減され、廃棄コストの削減とともに、貴重な食料資源の有効活用が実現しています。

このAIによる発注の最適化は、サプライチェーン全体における資源効率を高める好事例です。

(3)デジタルツイン|環境負荷・資源フローのシミュレーション

デジタルツインは、製品・設備・工場などの実体をデジタル上に再現し、資源フローや環境負荷を仮想空間でシミュレーションできる技術です。循環型設計の改善点や回収ルートの最適化を事前に検証できるため、実装コストやリスクを抑えながら最適解に近づけます。
サーキュラーエコノミーでは、循環モデル全体の効果測定やシナリオ比較を行う際の基盤として活用が進んでいます。

引用:https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/technology/corporate/review/2025/02/1-1.pdf

東芝では、空調・照明・人流・気象などのデータをリアルタイムに取得し、設備の状態をデジタル空間上に再現しています。消費電力や温度の推移を複数パターンでシミュレーションすることで、最適な運用方法を事前に検証できる仕組みを構築しています。
また、照度や空調を作業内容に応じて自動調整する個別制御も導入され、過剰なエネルギー使用を抑制しつつ快適性の確保にもつなげています。

従来は試行錯誤が必要だった運用改善を効率化し、建物全体での省エネ効果と持続的な資源利用の最適化につなげた好例です。

(4)ブロックチェーン|トレーサビリティと偽装防止

ブロックチェーンは、素材の調達から生産・流通・回収までの履歴を改ざんできない形で記録し、サプライチェーン全体の透明性を高めます。
製品の真正性を保証できるため、偽装防止や不正流通の抑制に加え、環境配慮型素材の証明にも活用できます。サーキュラーエコノミーでは、回収率向上や再資源化の信頼性確保に直結する技術として注目が高まっています。

引用:https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/case/article/detail_20231121_4.htm

三井化学株式会社をはじめ、日本アイ・ビー・エム株式会社や石塚化学産業株式会社など複数の企業が連携し、廃プラスチックリサイクルにおける信頼性と透明性を高めるための重要な実証販売を行いました。このプロジェクトの核となる目的は、使用済みのプラスチックが排出された時点から、回収業者、再生加工業者を経て、最終的に再生材として製品メーカーに引き渡されるまでの全プロセスを追跡することにあります。

特に重要な技術として、ブロックチェーンが活用されており、この分散型台帳技術によって、記録されたデータが改ざんされない高い信頼性を確保しています。これにより、市場で流通する再生プラスチックの品質と出所を正確に証明することが可能になります。情報偽装のリスクを排除し、企業が安心して再生材を調達・利用できる環境を整備することは、プラスチック資源循環の市場を拡大し、サーキュラーエコノミーを加速させる上で不可欠な要素となります。本実証実験は、日本国内でのプラスチック資源循環の課題を解決し、持続可能なサプライチェーンを構築するための重要な一歩として大きく注目されています。

(5)クラウド基盤|データ統合と運用の標準化

クラウド基盤は、製品データ・使用データ・回収データなどを一元的に管理し、部門や拠点をまたいだ情報共有と運用標準化を可能にします。サーキュラーエコノミーでは、循環設計・需要予測・回収計画を連動させるために、分断されたデータを統合する基盤として不可欠です。

複数のデジタル技術(IoT・AI・ブロックチェーン等)を組み合わせ、循環モデルを実装するための“土台”として機能します。

引用:https://www.hitachi.co.jp/products/it/finance/innovation/ESG/index.html

株式会社日立製作所は、サーキュラーエコノミー推進の土台となるデータ連携を実現するため、「サステナビリティデータ統合・活用サービス」を提供しています。

このサービスは、企業のサプライチェーン全体で発生する多岐にわたる環境データ、具体的にはCO2排出量、水使用量、そして資源利用量などの情報をクラウド上で一元的に収集し、統合管理することを可能にします。これにより、従来、部門や取引先ごとに分断されがちだった環境データが統一され、データの信頼性向上と分析の加速が実現します。

統合されたデータを活用することで、企業は資源利用の効率が悪いボトルネックを正確に特定でき、サーキュラーエコノミーを実現するための新たなビジネスモデルへの転換に必要な、データに基づいた意思決定を支援されます。このクラウド基盤は、企業のサステナビリティ戦略の策定や、環境情報開示を支援するうえで、中核的な役割を担っています。

3.サーキュラーエコノミーの潮流と企業が取るべき戦略

企業の循環型経営はリサイクル推進だけでなく、製品設計・ビジネスモデル・サプライチェーン全体を巻き込んだ「循環を前提とする仕組みづくり」へと進化しています。ここでは、近年の潮流を整理したうえで、企業がどのような視点で戦略を構築すべきかを解説します。

(1)循環型を前提とした製品設計

2023年の循環型社会形成推進基本計画では、天然資源の採取・加工工程が世界の温室効果ガス排出の50%以上を占めるとされ、資源効率と循環性の向上が気候変動・生物多様性・環境汚染の三領域に共通する対策であることが示されています。こうした背景から、製品設計段階で循環型モデルを組み込むことが企業に求められています。

具体的には、耐久性を高めて使用期間を延ばす設計、分解しやすく再資源化しやすい素材選定、リユースやリマニュファクチャリングを前提としたモジュール構造の採用などが中心です。計画では「設計段階から3R+再生可能資源(Renewable)を統合する」方向性が明確に示されており、上流での設計最適化がサーキュラーエコノミー実現の鍵と位置づけられています。

使い捨て型のビジネスから、長期利用・回収・再資源化を前提とする設計へ移行することは、資源コストの削減のみならず、ESG要件への対応力向上や事業リスク低減にもつながります。

参考:https://www.env.go.jp/content/000215498.pdf

【事例】オカムラにおけるオフィス家具のリマニュファクチャリング設計
株式会社オカムラは、サーキュラーエコノミーの実現に向け、オフィス家具の設計段階で「リリユース対応設計」を導入しています。
これは、製品を単にリサイクルするのではなく、回収後に新品同様の状態に再生するリマニュファクチャリング(再製造)を前提とした設計思想です。具体的には、オフィスチェアやデスクの主要部品に容易に分解・交換が可能なモジュール構造を採用しています。この構造により、使用後に回収された製品は、分解して部品単位で検査され、劣化度に応じて必要な部品だけを交換したり、外装を再塗装したりすることで、製品寿命を大幅に延長できます。
このように、製品の価値を最大限に維持して再供給することで、新規の原材料投入量を最小限に抑え、資源の効率的な循環を実現しています。これは、耐久性と再利用性を設計の最優先事項とすることで、長期的な資源コストの削減にも貢献する好事例です。
参考:製品・サービスにおける環境配慮|オカムラ

(2)シェアリング・リユース・サービス化が広がる事業モデル

環境省によると、シェアリングエコノミー市場は2024年に3兆1,050億円を超え、2032年には15兆1,165億円規模に拡大すると予測されており、消費スタイルの変化にとどまらない事業機会として注目されています。
消費全体としても、家具・家電・乗り物のシェアリングやリユースプラットフォームを通じて、「複数回/複数者で使い続ける」設計にシフトする動きが加速しています。

たとえば、家具のシェアサービスでは売り切り型と比較して廃棄物38%削減という実証効果も示されており、ビジネスモデルの変革が環境と収益の両立を可能にしています。

企業としては、こうしたモデルへの対応を通じて、資源コスト削減と新たな収益源の獲得とを同時に果たせます。さらに、消費者・利用者の価値観が「所有」から「利用」へと変わる中で、競争優位を確立するためには、サービス化・リユース・共有を前提にしたビジネス設計を早期に進めることが不可欠です。

参考:https://www.env.go.jp/content/000308700.pdf

【事例】ヤマダデンキにおける家電のレンタル・サービス化モデル
株式会社ヤマダホールディングスが展開する家電のレンタル・サブスクリプションサービスは、サーキュラーエコノミーが重視する「所有から利用への転換」を具体化した好事例です。
同社は、洗濯機や冷蔵庫、テレビといった主要な家電製品を、顧客に一定期間貸し出すサービスを提供することで、製品を売り切るビジネスモデルからの脱却を図っています。これにより、企業が製品の所有権を持ち続け、利用期間終了後に回収・メンテナンス・リユース・リサイクルまでの一連の責任を担う循環型のビジネスモデルを確立しています。
この仕組みは、製品の長寿命化と高頻度な再利用を前提としており、新規製造に伴う資源の採掘や投入を抑制し、環境負荷の低減に直結します。利用者は初期費用を抑えられる利点がある一方、ヤマダデンキ側は回収後の高価値なリユースを通じて新たな収益源を確保し、環境と経済性の両立を実現しています。
参考:ヤマダビジネスレンタル|ヤマダホールディングス

(3)サプライチェーン全体での資源最適化の重要性

経済産業省の資料では、GX(グリーントランスフォーメーション)型サプライチェーンの構築が資源循環分野での投資戦略の柱として明記されており、企業がサプライチェーン全体を見据えて資源最適化に取り組む必要性が強く打ち出されています。

たとえば、製造段階での副次材発生や流通段階での過剰在庫、使用後の回収の遅れといったボトルネックを放置すると、資源再投入のタイミングは遅れ、環境インパクト・コストともに増大します。
したがって、調達・製造・流通・回収・再資源化を一元的なシステムとして設計し、データに基づいた最適化を図ることが、次世代の循環型ビジネスモデルに求められます。

また、政府戦略では、2025年~2030年にかけて「資源循環対応型サプライチェーン」へ移行するための国民・産業間の投資規模・時間軸が提示されており、これは企業にとっても傾向ではなく必然という位置づけと捉えられます。

参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/003_06_00.pdf

【事例】日用品業界によるプラスチック容器の水平リサイクル協働
花王株式会社、ライオン株式会社、カネボウ化粧品といった主要な化粧品・日用品メーカー各社は、サプライチェーン全体での資源最適化を目指し、業界の垣根を越えた協働プロジェクトを推進しています。
この取り組みは、使用済みプラスチック容器を、単に別の用途にリサイクルするのではなく、再び新しい製品容器へと戻す「水平リサイクル」を実現することを目的としています。従来、個別企業での対応が困難であった消費者からの容器回収フローや、高度な再生加工インフラについて、共通のサプライチェーンとして整備・最適化を図っています。
これにより、高品質な再生プラスチックを安定的に確保し、各社がそれを製品に利用することで、新規のプラスチック資源(バージン素材)の使用量を大幅に削減しています。業界全体での共同戦略を通じて、プラスチック資源循環の課題解決を加速させる、次世代のサプライチェーンモデルです。
参考:花王とライオン、使用済みつめかえパックを協働で水平リサイクル 再生材料を一部に使用したつめかえパックを初めて製品化
参考:「化粧品プラスチック容器の水平リサイクル」本格実装開始

(4)企業への要求水準の高度化

EUでは2024年7月、製品の環境要件を包括的に規定する「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」が施行され、企業に求められる循環性・透明性の水準が大きく引き上げられています。ESPRは従来のエコデザイン指令と異なり、エネルギー関連製品に限定せず、域内に流通するほぼすべての製品(部品・中間製品を含む)を対象に拡大している点が特徴です。

同規則では、耐久性・修理可能性・リサイクル素材の使用率といった循環性要件を満たすことに加え、その情報をデジタル製品パスポート(DPP)で開示することも求められます。また、企業に対しては、売れ残り在庫の廃棄禁止(まず衣類・履物から開始)が導入され、在庫・回収・再資源化までを含む責任範囲が拡大しています。
今後は、鉄鋼・アルミ・繊維・家具・タイヤ・ICT機器など、優先度の高い製品群から委任法令による具体的な要件が段階的に規定される見込みであり、企業はより厳格で詳細な循環性基準への対応が必須になります。

こうした規制動向から、「循環型設計」「情報開示」「在庫管理・回収体制」まで一体で高度化することが企業の競争力に直結する段階に入っている といえます。

参考:https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/f2af2bb5a7f33a8e.html

【事例】フィリップスにおける修理可能性の評価と循環型移行
フィリップスは、EUで施行された「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」などの要求水準高度化を見据え、製品の修理可能性と耐久性を戦略的に強化しています。同社は、全製品ポートフォリオを対象に、耐久性や修理のしやすさといった循環性に関する独自のスコアを算出し、これを製品開発の設計段階で改善することを義務付けています。この取り組みは、製品の寿命を最大限に延長し、新規資源の投入を抑制するサーキュラーエコノミーの核心です。
特に、高価で複雑な医療画像診断装置などの分野では、使用済み機器を回収して部品単位で検査・修理し、品質を保証した再生品(リファービッシュ品)として再供給するモデルを確立しています。さらに、ESPRが要求する透明性に対応するため、修理マニュアルやスペアパーツの提供期間を積極的に開示しており、将来的なデジタル製品パスポート(DPP)導入への体制整備も進めています。
参考:ビジネスの未来の形|フィリップス

4.サーキュラーエコノミー×デジタルの戦略導入時の注意点

ここでは、サーキュラーエコノミーの導入企業がつまずきやすい代表的な課題を整理し、プロジェクトを持続的に運用するための注意ポイントを明確化します。

(1)初期段階ではROI(投資対効果)が見えにくい

IoTセンサの導入やデータ基盤の構築、回収スキームの立ち上げなどは費用先行型となり、早期に収益へ反映されにくい傾向があります。

また、事業全体で循環モデルを設計し直す必要があるため、効果が現れるまでに数年単位のスパンが必要になるケースもあり、長期視点でKPIを設定し、段階的な成果を可視化する枠組みの整備が重要です。

(2)回収フローの設計・運用が最も難易度が高い

サーキュラーエコノミーを実装する際、使用済み製品を確実に回収する仕組みの構築が大きな障壁となる場合があります。設計段階で循環性を高めても、実際に製品が戻ってこなければリユース・リサイクル・リマニュファクチャリングは成立しません。

さらに、回収対象が一般消費者に広がるほど回収率は低下しやすく、製品特性や利用シーンに応じた回収ポイント付与や下取りなどのインセンティブ設計が不可欠となります。
また、回収後の仕分け・検品・再資源化プロセスを外部事業者と連携して構築するケースも多く、サプライチェーン横断の調整コストが大きい点も課題です。

(3)データ整備不足によりデジタル活用が機能しない

IoT・AI・デジタルツイン・ブロックチェーンなどを導入しても、データの形式がバラバラであったり、製品情報・使用情報・回収情報が部門ごとに分断されている状態では、循環設計や回収計画に活用できません。

品目コードの統一・属性データの標準化・品質データの整備といった基本的なマスタ整備が不十分な企業では、予測モデルの精度が上がらず、回収・再資源化の効率も改善しにくくなります。サステナビリティ要求の強まりとともに、企業にはより高精度な循環データの開示が求められており、データガバナンスの確立は循環型モデルの前提条件といえます。

(4)社内の部門横断体制が整わないとプロジェクトが進まない

サーキュラーエコノミーとデジタル活用は、調達・設計・製造・物流・販売・回収・情報システムなど複数部門の連携が必須です。特に、回収スキームの設計やデータ統合は複数部門の協調なしには成立しないため、部門ごとの目的がズレたままではプロジェクトが停滞します。

また、循環型モデルでは売り切りからサービス化などによる利害関係の変化も伴うため、従来の評価指標や業務フローに合わず、現場で抵抗が起きやすい点も課題です。

これらを解消するには、経営層のコミットメントのもと、横断チームの設置や責任範囲の明確化、データ・プロセス標準化の推進が欠かせません。

5.まとめ

サーキュラーエコノミーは、従来の直線型モデルから脱却し、資源を循環させながら価値を最大化する経済モデルとして、国内外で急速に重要性が高まっています。企業に求められるのは、循環型設計・回収スキームの構築・需要予測・再資源化といった個別施策を単体で導入することではなく、デジタル基盤を活用してバリューチェーン全体で最適化する視点です。

こうしたデジタル活用と現場の実務を融合させ、サーキュラーエコノミーを経営成果へと繋げるのが、五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」です。廃棄物データの可視化を入り口に、テクノロジーを駆使したサプライチェーンの再設計と、構造的な企業変革を一貫してプロデュースします。デジタルの力を「持続的な稼ぐ力」へと変換し、次世代の循環型経営を実現したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。