アパレルのサーキュラーエコノミー|事例・サーキュラーファッシ

アパレル業界にサーキュラーエコノミーを取り入れることで、コスト削減や新しい収益モデルの確立が可能となります。本記事では、サーキュラーエコノミーの基本概念や国内外の事例などをわかりやすく解説します。

目次

1.アパレルにおけるサーキュラーエコノミーとは?

2022年には国内で約79.8万トンの衣類が供給され、そのうち約69.6万トンが家庭から手放されていますが、リユースやリサイクルに回るのは35%にとどまり、残りの約65%は廃棄されています。

引用:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_nw/pdf/010_03_00.pdf

大量生産・大量消費に依存する構造の中で資源循環が十分に機能しておらず、結果として衣類由来のCO₂排出や環境負荷は増大しています。
アパレル業界におけるサーキュラーエコノミーはこのような問題を解決する手段として注目を集めています。

ここでは、アパレルにおけるサーキュラーエコノミーについて解説します。

(1)サーキュラーエコノミーとリニアエコノミーとの違い

従来のアパレル産業は、リニアエコノミー(直線型経済)と呼ばれる経済モデルに依存してきました。これは「資源を採取→製造→使用→廃棄」という流れで進み、膨大な資源消費と廃棄物の増加を引き起こします。以下にサーキュラーエコノミーとリニアエコノミーとの違いをまとめました。

サーキュラーエコノミー(循環型)リニアエコノミー(直線型)
資源再利用・再生を前提とする採取して使い切る
製造修繕・リメイクを考慮した設計大量生産が基本
使用長寿命化・シェア・レンタル短期間の消費で終了
廃棄回収・リサイクル・再資源化焼却や埋立てが中心

このように、リニアは「捨てる」ことを前提にしていますが、サーキュラーエコノミーでは「資源を循環させ、廃棄そのものを減らす」ことを目指します。

参考:循環経済(サーキュラーエコノミー)|環境省

(2)サーキュラーファッションとは

サーキュラーファッションとは、製品の設計・製造・流通・消費・回収・再生まで、アパレルのライフサイクル全体を循環型に変える取り組みです。
長く使えるデザイン・修理やリユースの仕組み・最終的な資源再生を組み合わせることで、持続可能な社会づくりに貢献します。

サーキュラーファッションの特徴意味・効果
設計・製造耐久性を高めたデザイン、リサイクル容易な単一素材の採用製品寿命を延ばし、廃棄を削減
流通・消費レンタル・サブスクリプション、リユース市場の拡大資源利用を抑えつつ新たな需要を創出
回収・再生衣類回収プログラム、再生繊維の活用、生分解性素材廃棄物を資源に戻し、循環を強化

このようにサーキュラーファッションは、従来の「使い捨て型ファッション」から脱却し、資源を循環させながら価値を生み出す新しいファッションのあり方として注目されています。

参考:循環型ファッション(サーキュラーファッション)とは?注目される背景とメリット・課題を解説|shoichi

(3)サーキュラーファッションとサステナブルファッションの違い

サーキュラーファッションとサステナブルファッションはいずれも環境負荷の低減を目指す概念ですが、そのアプローチには明確な違いがあります。

観点サーキュラーファッションサステナブルファッション
基本概念資源を循環させ、廃棄を前提としない仕組みを構築する環境・社会に配慮した持続可能なものづくりを行う
注力する段階設計~使用~回収~再資源化までのライフサイクル全体原材料の選定、生産工程、労働環境など製造段階
主なアプローチ長寿命化、修理・リユース、リサイクルを前提としたデザインオーガニック素材や再生素材の活用、省エネ・公正取引
目的廃棄を減らし資源を循環利用する仕組みを確立すること環境負荷を抑えつつ社会的に持続可能な服作りを行うこと
回収プログラムによる古着リサイクル、レンタルやシェアサービスオーガニックコットン製品、フェアトレード認証付きブランド

両者はどちらか一方では完結しない概念であり、サステナブルファッションが「より環境にやさしい服を作ること」を追求し、サーキュラーファッションが「服を廃棄せず循環させること」を仕組み化することで、相互補完的に持続可能なアパレル産業の実現を支えます。

参考:サステナブルファッション-企業・自治体等による好事例|環境省

2.アパレルのサーキュラーエコノミーの具体的な企業事例7選

(1)ユニクロ|RE.UNIQLO

服の廃棄をできるかぎり減らす着なくなった服に新たな役割を与える服の原料や資材として再利用する
引用:https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo/

ユニクロの「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」は、「REDUCE(廃棄削減)」「REUSE(再使用)」「RECYCLE(再資源化)」を柱とした衣料循環の取り組みで、着られなくなったユニクロ製品を回収し、再利用する取り組みです。このプロジェクトは、従来の「作って、使って、捨てる」というリニアエコノミーからの脱却を目指しています。

店舗に設置された回収ボックスで集められた服は、まずリユース可能なものとリサイクル対象のものに仕分けられ、リユース可能な衣類は国内外の難民支援や被災地支援へ寄贈されるほか、洗浄・検品のうえ古着として再販売されます。
リサイクル対象品は、ダウン素材なら新たな服の原料へ、服として再利用できないものは断熱材や防音材といった他用途素材として活用されます。

(2)H&Mグループ|古着回収サービス&リサイクル

引用:https://hmgroup.com/sustainability/

H&Mは2013年から、あらゆるブランド・状態の衣類を回収するサービスを世界規模で展開しています。この取り組みを通じて、顧客は不要な衣類を持ち込むことで、次回のお買い物に使えるデジタルクーポンを受け取ることができ、顧客のメリットも計ることで取り組みがより浸透することを図っています。

回収された衣類は、まず「着用可能なもの(リウェア)」と「再利用・再資源化対象品」に分けられ、リサイクル可能なものは、クリーニング用品やリメイク品などに作り変えられる(リユース)か、繊維素材として再生されるか、自動車用断熱材などの産業用途に転用され、最終的にどのカテゴリーにも適さないものはエネルギー回収へと回されます。

日本では、2022年春から回収の提携先を欧州拠点企業から国内のリサイクル会社であるファイバーシーディーエムへ切り替え、輸送距離や環境負荷の軽減を図る運用へ移行しており、仕組みの段階からサーキュラーエコノミーを構築しています。

(3)BRING(日本環境設計)|循環型ファッションプラットフォーム

引用:https://bring.org/pages/concept

BRINGは、不要になった衣類を回収し、それを再び服に生まれ変わらせることを目指す株式会社JEPLANが運営する循環型ファッションプラットフォームです。ファッション産業における大量生産・大量廃棄の課題解決に貢献するサステナブルな取り組みとして展開されています。

回収は、BRINGと連携する様々なブランドや小売店等の店頭で実施されるほか、オンライン購入時に同梱される回収封筒を利用して行われます。回収された衣類は素材や状態に応じて「再使用(リユース)」できるものと「リサイクル(再資源化)」対象に仕分けられ、特にポリエステル100%の繊維については、独自のケミカルリサイクルを通じて、熱や圧力を加える従来のメカニカルリサイクルでは除去が難しかった色や汚れなどの不純物も分子レベルで分解・精製されます。これにより、何度も繰り返し再生が可能で、石油由来と同等品質の再生ポリエステル原料に変換されます。

この技術を用いた製造プロセスは、石油由来のポリエステル樹脂と比較してCO2排出量を大幅に削減できるという結果も示されています。

このような素材の再資源化、再製品化、そしてリユース流通まで一体的に設計した事業モデルは、衣類を循環させる仕組みにおける先駆的な取り組みとして注目を集めています。

(4)Patagonia|サーキュラリティへの探求

引用:https://www.patagonia.jp/stories/our-quest-for-circularity/story-96496.html

Patagoniaは、創業期から「製品を埋立地で終わらせない」ことを掲げ、不要になったベースレイヤー製品を回収してポリエステル繊維を化学リサイクルし、新たな製品原料に戻す試み(Teijin(帝人)の「Eco Circle」技術との協業)などを取り入れています。このような初期の取り組みに加え、Patagoniaは製品の長寿命化と再利用の促進を活動の核としています。

その他にも製品の長寿命化と再利用の促進を軸に、リペアサービスの提供、中古再販サービス「Worn Wear」の拡充や顧客が中古品を持ち込むとストアクレジットと交換するトレードイン制度の導入、使用済みTシャツを原料とするプロジェクトなどを通じて、製品寿命を通じて発生する廃棄物すべてをPatagoniaが責任を持つコンセプトを掲げています。

これは、単に製品を回収するだけでなく、耐久性の高い素材や修理しやすい構造といった設計から始まる循環性の再考を軸に、多様な取り組みを有することがPatagoniaのサーキュラーエコノミーにおける大きな特徴となっています。

(5)MUD Jeans|リース型デニム循環モデル

引用:https://mudjeans.com/?srsltid=AfmBOoo96jVSYvse9XrPtmh86q8PV4w_rhiBtvkNlTW4tROclywX5jyk

オランダ発のMUD Jeansは、ユーザーは月額料金を支払ってジーンズをリースでき、1年後には“保持”“返却”“交換”を選択でき、その際返却品は再販売、アップサイクル、もしくは再資源化されます。

回収されたジーンズは、状態の良いものはヴィンテージとして再流通させ、それ以外は繊維に戻して新しいデニム素材に再加工されます。リサイクル繊維は有機綿とブレンドされ、23~40%のポストコンシューマーリサイクル綿を含む素材として再生された事例もあります。

リース→回収→再資源化→再提供のサイクルを自社で設計・運営し、製品寿命を延ばし、廃棄を抑制するモデルを実践しています。これにより、ジーンズの所有権を企業が保持し続けることで、製品の資源を確実に管理し、真のサーキュラーエコノミーを実現しています。

(6)アミアズ(Another Address)|衣類循環アップサイクルプロジェクト

引用:https://www.anotheraddress.jp/roop

アミアズ(Another Address)が展開する「roop」は、レンタル事業とアップサイクルを結びつけた衣類循環プロジェクトです。ユーザーが手放した思い入れのある服を回収し、そのまま再利用するだけでなく、プロや学生デザイナーの手でアップサイクルし、新しいレンタルアイテムとして再提供するプロジェクトです。これにより、服の物理的な寿命だけでなく、デザインの価値や物語も再生させています。

衣類回収の際には、レンタル品返却時にガーメントバッグに同梱する形で服を寄付できるようにするなど、日常の流れに組み込みやすい動線を設計しています。

アパレルのサーキュラーエコノミー事例の中でも、回収→アップサイクル→再提供(レンタル)という循環をファッション体験として再構築するモデルとして注目されます。レンタルサービスという特性を活かし、アップサイクル品を多くのユーザーが試せる機会を提供している点も、このモデルの大きな特徴です。

(7)BEAMS|店舗回収・アップサイクル施策

引用:https://www.beams.co.jp/news/3236/?srsltid=AfmBOopwn0DlEjjy6PA8SzT-8ma2zn18I_N9_UIoYxeacwLJdrkXrTGM

BEAMSは「つづく服。」というスローガンを掲げ、衣類の循環を促す複数の取り組みを進めています。店舗に不要衣料回収ボックスを設置し、集められた衣類は回収→再資源化され、新たな衣類や繊維製品へと循環します。

また、流通過程で流通過程で傷が付いたり、トレンドが過ぎたりして販売できなくなったデッドストック品を、元の製品のデザインや素材を活かしながらトートバッグやミニバッグ等に再構成して、新商品化し、廃棄を削減しつつ付加価値を与える取り組みを展開しています。

これらの施策により、BEAMSは回収→選別→再利用・再資源化→アップサイクル・再提供の循環プロセスを段階的に取り入れています。ファッションを楽しみながら資源を大切にするというサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

3.アパレルにおけるサーキュラーエコノミー実現に向けた課題

サーキュラーエコノミーの実現には大きな可能性がある一方、技術やインフラ、消費者行動など多くの課題も残されています。ここでは、アパレル業界が直面する主な阻害要因を解説します。

(1)サプライチェーン全体の協力体制

サーキュラーエコノミーでは、素材メーカー、製造業者、デザイナー、小売業者、消費者までを含む全体の連携が不可欠です。回収・リサイクル・リユースを効率的に進めるには、サプライヤーとの情報共有や共通の目標設定が前提となります。

企業単独では解決できない課題だからこそ、業界横断的な連携が重要な戦略となります。

【事例】PATCHWORKS®(パッチワークス)豊田通商

豊田通商が立ち上げた「PATCHWORKS®(パッチワークス)」は、「2050年までに、廃棄される全ての衣料品が、再び衣料品として生まれ変わる機会を創る」ことを目標とする繊維・ファッション領域のサーキュラーエコノミー推進プロジェクトです。

  • 課題解決へのアプローチ:従来の商社が担ってきたフォワードサプライチェーン(FSC:調達、生産、販売)に加え、リバースサプライチェーン(RSC:回収、再資源化)に積極的に関与しています。
  • 協力体制:豊田通商がハブとなり、国内外のリサイクル事業者(RSC上の事業者)と、アパレルメーカー、小売業、消費者(FSC上の事業者)を繋ぎ、業界全体を横断したサーキュラーエコノミーシステムを構築・推進しています。この共創型のビジネスプロジェクトは、まさに「企業単独では解決できない課題」への解として注目されています。

参考:繊維・ファッション領域のサーキュラーエコノミー推進プロジェクト「PATCHWORKS®」本格始動|豊田通商

(2)リサイクル技術とインフラの制約

アパレル業界でサーキュラーエコノミーを大規模に実現するには、素材の複雑さや回収体制の未整備がボトルネックになっています。

課題の種類具体例
リサイクル技術・混合素材(ポリエステル+綿など)の分離が困難
・繊維の劣化で高品質な再生が難しい
インフラ整備・衣類回収ボックスや物流網の不足
・選別・加工施設の地域格差

このように、技術が未成熟でインフラも整っていない現状では、循環型ファッションを業界全体に広げることは困難です。
今後はリサイクル技術の革新(化学的リサイクル、AI選別など)インフラ投資(地域単位の回収・加工ネットワーク構築)が不可欠となります。

【事例】アパレル製品のリサイクルを容易にするための設計課題|YKK

YKK株式会社は、アパレル製品のリサイクルを容易にするための設計課題を解決しています。同社は、ほぼすべてのパーツがポリアミド(ナイロン)でできたファスナー「VISLON®ナイロンモノプラスチック」を開発しました。このファスナーは、従来のファスナーのように金属や異なる種類のプラスチックで構成されていないため、ナイロン製の衣服から取り外すことなく、衣類まるごとリサイクルすることを可能にします。これにより、リサイクル時の異素材分離の手間をなくし、選別・分解の工程を大幅に簡略化することで、サーキュラーエコノミーにおけるリサイクルの効率と品質の向上に貢献しています。

参考:繊維製品の環境配慮設計に関する事例集|経済産業省(P.4参照)

(3)消費者行動の転換(捨てる衣類サーキュラーエコノミーからの移行)

従来は「着なくなった服=捨てる」が一般的でしたが、これを見直し、衣類を長く使い、循環させる文化を根付かせることが求められています。

従来の行動(リニア型)サーキュラー型の行動
着なくなった服をそのまま廃棄修理・リメイクして再利用
クローゼット整理=ゴミ袋へ寄付や中古市場への出品
ブランドと無関係に処分回収プログラムに参加

企業にとっても、消費者参加型の取り組みはブランド価値の向上につながり、循環モデルを支える大きな推進力となります。

【事例】買い替え割|ZOZOTOWN

ZOZOTOWNの「買い替え割」は、消費者の行動を「購入」と「廃棄」のリニア型から「購入」と「循環」のサーキュラー型へと転換させることを目的としたサービスです。このプログラムでは、以前ZOZOTOWNで購入したアイテムを下取りに出すことで、新しい注文商品の代金からその下取り価格分を即座に割引として受けることができます。

消費者は、新しい服を購入する際に、クローゼットにある不要な服を「ゴミ」ではなく「割引の原資」として活用できるため、経済的なメリットを感じながら手軽にリユースに参加できます。注文商品と一緒に送付用バッグが届くため、それに下取りアイテムを入れて発送するだけで手続きが完了します。

下取りされた衣類は、ZOZOTOWNが運営する中古ファッションサイト「ZOZOUSED」で販売され、次の着用者のもとへと渡ります。これにより、衣類の寿命が延び、ブランドやアイテムの価値が最大限に活かされる循環が生まれます。また、すぐに購入したい商品がない場合でも、アイテムをZOZOポイントに交換できる「いつでも買い替え割」も提供されており、多様な形で衣類のリユースを促進しています。

参考:買い替え割とは|ZOZOTOWN

(4)設計段階での配慮

サーキュラーエコノミーを推進するうえで、設計そのものに再利用のしやすさを組み込むことで、製品寿命を終えた衣類が資源として循環しやすくなります。

設計上の配慮具体例効果
分解性の向上ボタンやファスナーを極力少なくし、取り外しを容易にする回収時に素材分離がしやすく、再資源化コストを削減
単一素材化ポリエステル100%やコットン100%の製品設計混合素材よりもリサイクル効率が高い
リサイクル容易性生分解性繊維やリサイクル認証素材の使用廃棄後も自然循環や再生が可能

このような設計思想を取り入れることで、「作る時点から循環を意識した服づくり」が可能になります。
結果として、企業は廃棄物削減だけでなく、サプライチェーン全体での環境負荷低減を実現できます。

【事例】ケミカルリサイクル技術による循環型設計|帝人フロンティア

帝人フロンティア株式会社は、服を再び服の原料へと戻す「水平リサイクル」の実現に焦点を当てており、特にポリエステル素材に特化したケミカルリサイクル技術を確立しています。

この技術は、使用済みのポリエステル製品を化学的に分解し、石油由来の原料と全く同じ品質の素材として再生させることを可能にします。サーキュラーエコノミーにおける設計段階の配慮として、このケミカルリサイクルの効率を最大限に高めるため、製品の企画・開発時からポリエステル100%などの「単一素材化」を推進しています。

この「リサイクルを前提とした設計」と高度なケミカルリサイクル技術を組み合わせることで、ポリエステル繊維を素材の質を落とすことなく何度でも循環させることができ、最終的に「廃棄衣料品ゼロ」を目指す服づくりに貢献しています。同社は、他社との連携も強化しながら、廃棄衣料品を効率的にリサイクルする「繊維to繊維」の循環システム構築を積極的に進めています。

参考:繊維製品の環境配慮設計に関する事例集|経済産業省

4.サーキュラーエコノミーの導入がアパレル企業にもたらすメリット

サーキュラーエコノミーの導入は、環境対応だけでなく、コスト削減や新しい収益モデルの創出、ブランド価値の向上にも直結します。ここでは、アパレル企業にとっての具体的なメリットを解説します。

(1)資源枯渇リスク対応とサプライチェーン安定化

サーキュラーエコノミーは、環境保護だけでなく事業のリスクマネジメントにも直結します。
特にアパレル産業では、綿花や石油由来の合成繊維など、資源価格や供給が不安定になりやすい素材に依存しており、資源枯渇は大きな経営リスクとなります。

観点リニア型のリスクサーキュラー型の効果
資源調達綿花不作や石油価格の高騰に影響を受けやすい再生素材を活用し、調達依存を分散
コスト構造原材料コストの変動に業績が直結製品寿命を延ばし、調達量そのものを削減
サプライチェーン単一資源に依存し、供給停止で混乱リユース・リサイクル循環により安定性を確保

このように、循環を取り入れることで 「資源価格の変動リスク」や「供給途絶リスク」への耐性が強化されます。
結果として、サプライチェーン全体の安定化につながり、アパレル企業はより強固な事業基盤を築くことが可能になります。

【事例】「RENU®」による再生原料サプライチェーン構築|伊藤忠商事

伊藤忠商事の「RENU®」プロジェクトは、商社という立場からアパレル業界の資源枯渇リスクと大量廃棄問題を同時に解決するため、広範なサーキュラーエコノミーの仕組みを構築した事例です。このプロジェクトは、繊維廃棄物や端切れを原料として、高品質な再生ポリエステル原料・繊維を生産し、それを最終製品の製造・販売へとつなげる垂直統合型のサプライチェーンを確立しています。

同社は、アパレルメーカーや小売業者と協力し、これまで「ゴミ」として処理されていた廃棄物を再生原料として買い取ります。これにより、外部の天然資源に依存することなく、安定した代替資源の調達ルートを自ら確保し、ポリエステル原料の価格変動や供給途絶リスクに強い事業基盤を構築します。RENU®によって高品質な再生原料が安定的に供給されることで、アパレル企業は安心してリサイクル素材を製品に採用できるようになり、産業全体の資源調達リスク低減と循環経済の推進に大きく貢献しています。

参考:「RENU®」プロジェクト|伊藤忠商事

(2)リサイクル・アップサイクルによる素材コスト削減

サーキュラーエコノミーでは、廃棄されるはずの衣類や生地を再活用することで、新品原料の調達コストを抑えられるのが大きなメリットです。
さらに、単なる再利用にとどまらず、アップサイクルによってデザイン性や付加価値を高めることで収益化の可能性も拡大します。

手法特徴コスト・収益効果
リサイクル衣類や繊維を回収し、再び素材に戻して利用新品原料の使用量を削減し、調達コストを低減
アップサイクル廃棄素材を活かしつつ、デザイン性や機能性を加えて新製品化単なるコスト削減に加え、高付加価値商品として販売できる可能性

例えば、再生ポリエステルの利用は新品ポリエステルの価格高騰リスクを緩和し、アップサイクルブランドの事例では「一点物」として高価格帯で市場に受け入れられるケースもあります。

このように、リサイクルとアップサイクルは、コスト削減と新たな収益源の両立を可能にする戦略的アプローチと言えます。

【事例】再生素材の戦略的活用|TSIホールディングス

TSIホールディングスは、グループのアパレル事業において、資源枯渇リスクへの対応とコスト安定化を目的として、リサイクル素材の戦略的導入を推進しています。同社は、紡績段階で出る落ち綿や、ウール製品の裁断端材といった廃棄物をアップサイクルし、「再生ウール」として活用しています。また、ペットボトルから再生した「リサイクルポリエステル」とトレーサビリティが確保されたオーガニックコットンを混紡した素材なども開発し、サステナブルな素材への切り替えを進めています。

これらの環境負荷を考慮した素材は、「CIRCRIC(サーキュリック)」という自社の素材ブランドとして販売されています。再生原料を利用することで、羊の飼育や石油精製にかかるGHG(温室効果ガス)排出量を大幅に削減できると同時に、原材料調達において新品原料(バージン原料)の価格高騰リスクへの依存を抑え、コスト構造の安定化を図っています。この取り組みは、環境対応を経営目標に結びつけ、持続可能なサプライチェーンの構築に貢献しています。

参考:資源循環経済の成長に向けたアパレル産業の取り組み事例|経済産業省

(3)レンタル・サブスクリプション等の循環型ファッションサービス

サーキュラーエコノミーの導入は、単なるコスト削減にとどまらず、新しい収益モデルの創出につながります。
特に「所有から利用へ」という消費者行動の変化を捉えたレンタルサービスやサブスクリプションモデルは、顧客のロイヤルティを高めつつ、企業に継続的な収益をもたらします。

モデル特徴収益・効果
レンタルサービス特別なシーンや短期間だけ衣類を利用顧客接点の拡大、単価の高い一時利用ニーズを獲得
サブスクリプション月額料金で複数の服を定期的に交換できる安定的な継続収益、顧客データを活用した提案が可能
中古売買プラットフォームブランド公式や外部ECを通じた再販廃棄削減とともに「循環ブランド」としての信頼向上

このような循環型サービスは、環境負荷を減らしながら収益機会を広げる二重のメリットを持ちます。
また、利用履歴や顧客データを活用することでパーソナライズ化が進み、長期的な関係性構築にも寄与します。

【事例】ファッションのサブスクリプションと循環|エアークローゼット

エアークローゼットは、日本初の定額制ファッションレンタルサービスとして、「所有から利用へ」というサーキュラーエコノミーの概念を、日常の衣料品に適用し成功させた事例です。このビジネスモデルは、プロのスタイリストがユーザーの好みや利用シーンに基づいて洋服を選定し、月額料金で届けるパーソナルスタイリングサービスを核としています。

同社は、レンタルというビジネス形態を通じて、衣類を長期的に循環・利用し続けることで、衣服廃棄ゼロを達成しています。この循環を実現するため、ユーザーからの詳細なフィードバックをデータとして徹底的に分析し、次回のスタイリングや、仕入れるブランド・アイテムの選定に活用することで、商品の回転率と顧客満足度を最大化しています。また、レンタルアイテムの修繕をサポートする仕組みも提供することで、製品寿命を延ばし、環境負荷を減らしつつ安定した継続収益を確保しています。結果として、このデータ駆動型の循環システムは、顧客との長期的な関係性を築きながら、持続可能な収益モデルを確立しています。

参考:創立10周年を迎える日本初のファッションレンタル・サブスクサービス「airCloset」|サーキュラーエコノミードット東京

(4)ブランド価値向上とサーキュラーファッションブランドとしての差別化

サーキュラーファッションへの積極的な取り組みは、環境意識の高い消費者からの支持を集めるだけでなく、投資家やビジネスパートナーからの評価向上にもつながります。
現代の消費市場では安さや流行性だけでは差別化が難しくなっており、サステナブルを実践すること自体がブランドの新しい競争軸となっています。

観点サーキュラー未対応企業サーキュラーファッションブランド
消費者評価一時的な価格競争に依存環境配慮や倫理性が購買理由となり支持を獲得
投資家・取引先ESG評価が低く、取引条件で不利ESG投資の対象となり、グローバル市場で優位
ブランド価値トレンドに左右されやすい「循環型ブランド」として長期的な信頼を確立

このように、サーキュラーエコノミーを実践することは、市場での差別化戦略そのものです。
結果、ブランドは長期的な顧客ロイヤルティを築き、価格競争に巻き込まれにくい強固な地位を確立できます。

【事例】廃棄衣料を価値ある素材に変える「commpost」|URBAN RESEARCH

アーバンリサーチが展開する「commpost(コンポスト)」は、単なるアップサイクル製品ラインに留まらず、自社および他社の廃棄衣料や繊維端材を新たな資源として循環させるためのプラットフォームとして機能しています。同社は、回収した繊維廃棄物をプラスチック樹脂などと組み合わせて、繊維ボードや再生スウェット生地といった独自素材へと加工しています。

この再生素材は、スマートフォンケースや雑貨、店舗の什器といった衣料品以外の幅広いアイテムに活用され、廃棄衣料の潜在的な用途を大きく拡大しています。また、UCCなどの異業種企業と協力し、コーヒーかすで染めたTシャツを開発するなど、外部の資源循環にも貢献しています。

アーバンリサーチは、この取り組みを通じて、全店舗での衣類回収を実施することで、顧客を巻き込んだサーキュラーエコノミーを推進しています。この「commpost」の製品は、役目を終えた後に再度回収され、再びcommpost生地にリサイクルされるという、完全なクローズドループ(閉鎖循環)の実現を目指しています。これにより、同社は廃棄物を減らすだけでなく、循環型社会をリードするイノベーターとしてのブランド価値を確立しています。

参考:commpost(コンポスト)|SPECIAL|URBANRESEARCHアーバンリサーチ

5.アパレルにおけるサーキュラーエコノミーの今後の展望

ここでは、アパレルにおけるサーキュラーエコノミーの今後の展望について解説します。

(1)DX・AI・トレーサビリティによる循環最適化(デジタルプロダクトパスポート等)

デジタル技術の導入は、サーキュラーファッションを推進するうえで欠かせない要素です。特にDX(デジタル変革)やAIの活用は、リサイクルプロセスや在庫管理を効率化し、資源循環の精度を高めます。

技術領域具体例期待される効果
AI活用使用済み衣類の素材判別、回収データの分析リサイクル効率の向上、仕分けコスト削減
デジタルプロダクトパスポート(DPP)EUで議論が進む製品情報のデジタル化原材料や製造履歴の可視化、トレーサビリティ確保
DXプラットフォーム異業種連携による情報共有基盤の構築サプライチェーン全体の連携強化、循環モデルの拡大

これらの仕組みを導入することで、企業は 「どの素材が、どの製品に、どのように循環したのか」 を明確に追跡できるようになります。結果として、消費者の信頼獲得、規制対応、そして業界全体での循環スピード向上につながります。

【事例】「救衣(sukui)」のDPPによる医療ウェアの循環|ワーキングハセガワ

業務用ユニフォームの企画・販売を手掛けるワーキングハセガワは、サステナブル医療ウェアブランド「救衣(sukui)」を立ち上げ、製品のライフサイクル全体をデジタルで管理する、日本初の取り組みを導入しました。同社は、株式会社chaintopeと共同でデジタルプロダクトパスポート(DPP)システムを開発し、「救衣」のウェアに実装しています。

このDPPは、製品の原材料、製造工程、修理・メンテナンスの履歴、そして最終的なリサイクルの可能性といった、循環に必要なすべての情報をデジタルで記録・追跡できるようにするものです。これにより、医療機関やウェアの着用者に対して、製品がどのように倫理的かつ環境に配慮して製造されたかという高い透明性を提供します。

製品の寿命が尽きた際には、DPPの情報がリサイクル業者に提供されることで、ウェアに含まれる素材や混紡率が即座に判明し、手作業による複雑な選別プロセスを不要にします。結果として、リサイクルの効率が大幅に向上し、ユニフォームのリサイクルをスムーズに行うことが可能となります。このデジタルによるトレーサビリティの確保は、企業の環境に対する真摯な姿勢を裏付け、競合製品との明確な差別化を実現しています。

参考:日本初、医療ウェアにデジタル製品パスポート(DPP)を実装|循環経済パートナーシップ

(2)異業種連携・プラットフォーム構築

サーキュラーエコノミーの実現には、単独の企業努力では限界があります。そこで注目されているのが、異業種間での協力によるプラットフォーム型の取り組みです。
これにより、多様なステークホルダーが知見やリソースを結集し、共通の目標に向けた協力体制を築くことが可能となります。

参加主体役割・貢献協働による成果
素材メーカーリサイクル可能な新素材の開発循環性の高い製品設計が可能に
アパレルブランド消費者との接点・回収プログラム提供回収量の拡大と利用促進
リサイクル事業者素材の分離・再資源化技術廃棄物を新たな原料として再流通
IT企業データ基盤・プラットフォーム提供トレーサビリティ強化と効率的な流通管理

このような連携により、従来は不可能だった「回収から再流通までの循環システム」を産業横断的に構築することができます。
結果として、コスト削減や規模の拡大だけでなく、消費者や行政からの信頼を得やすくなり、業界全体の循環移行を加速させる効果があります。

【事例】トヨタアップサイクルプロジェクト|トヨタ自動車、アーバンリサーチ、豊島

トヨタ自動車、アーバンリサーチ、豊島の3社が連携した「トヨタアップサイクルプロジェクト」は、製造業から排出される廃棄物にアパレルと商社の知見を結集し、新たな価値を創造したサーキュラーエコノミーの好事例です。

このプロジェクトの核心は、本来廃棄されるはずだったトヨタ車のシートカバー製造工程で発生する高品質な端材(残布)を、ファッションアイテムの資源として活用することにあります。

  • トヨタ自動車がシート端材というユニークで耐久性の高い資源を供給し、
  • アーバンリサーチがその素材の特性を活かしたバッグや小物などへの商品企画とデザインを担当し、販売チャネルを提供します。
  • そして、豊島が繊維専門商社としてのノウハウを活かし、端材を製品化するためのアップサイクル技術や加工、生産管理といったサプライチェーン全体を担います。

この連携により、自動車部品に必要な高耐久性と機能性を持つ素材が、サコッシュやドライヤー収納袋といった実用性の高いファッションアイテムとして生まれ変わりました。異なる産業が持つ「廃棄物」と「技術・デザイン」を組み合わせることで、単なるリサイクルを超えた付加価値の高いアップサイクルを実現し、産業横断的な廃棄物ゼロの目標達成に大きく貢献しています。

参考:トヨタ自動車×アーバンリサーチ×豊島が語る、異業種連携のアップサイクル事例とサーキュラーエコノミーのグローバル最前線

(3)消費者教育・啓発

サーキュラーファッションの普及には、消費者自身が循環の担い手になることが不可欠です。そのためには、製品のライフサイクルやリサイクルの意義を正しく理解し、日常の購買・利用行動を変えていくための教育・啓発が重要となります。

教育・啓発の内容消費者に期待される行動企業にとっての効果
製品ライフサイクルの理解長く使える製品を選ぶ耐久性の高い製品需要が拡大
回収・リサイクルの重要性周知回収プログラムやリユース市場への参加資源循環量が増加し、廃棄コスト削減
持続可能な購買行動の啓発修理・リメイク、シェアリングの活用新たなサービスモデル(レンタル等)の利用促進

具体的には、店頭での情報提供、SNSキャンペーン、教育機関との連携プログラムなどが有効です。
こうした取り組みを通じて、消費者の意識と行動を変えることができれば、企業は単なる製品提供者にとどまらず、「持続可能なライフスタイルの提案者」として信頼を獲得することにつながります。

【事例】顧客参加型「グリーン・キャンペーン」による資源の水平循環|オンワード樫山

オンワード樫山が2009年から展開している「オンワード・グリーン・キャンペーン」は、顧客を巻き込んだ自社製品のクローズドループ(閉鎖循環)を構築する、長期的なサステナビリティ戦略の中核です。この取り組みでは、顧客は不要になったオンワード製品(自社製品に限定)を、全国の店頭またはオンライン経由で企業に引き渡します。

回収された衣料品のうち、ウールなどの天然繊維は、高度な技術で解体・再資源化され、再生ウールをはじめとする新しい繊維原料として生まれ変わります。その後、これらの再生原料を用いて、同社は再び新しい「Made by ONWARD」の衣料品を製造・販売することで、資源が外部に流出することなく、「服から服へ」という水平リサイクルを確立しています。

このキャンペーンの成功は、顧客に対して、引き取りの対価として自社製品の購入に使えるクーポンやポイントを還元している点にあります。この仕組みにより、顧客は「愛着のある服を無駄なく活かせた」という満足感を得られると同時に、新しい製品の購入が促され、顧客のロイヤルティ(忠誠心)が強化されます。結果として、オンワード樫山は、リサイクル原料の安定的な供給源を確保しつつ、持続可能なライフスタイルを提案する企業イメージを向上させています。

参考:【オンワード・グリーン・キャンペーン】オンライン引き取り|ファッション通販サイト[オンワード・クローゼット]|オンワード樫山

6.まとめ

企業は、製品設計から回収・リサイクルまで、サプライチェーン全体での革新を推進し、消費者との連携を深める必要があります。

デジタル技術の活用や政策の後押しも、この変革を加速させます。サーキュラーファッションへの転換は、企業の持続可能性を高め、ブランド価値を向上させるだけでなく、地球環境を守るための重要な一歩となるのです。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。