食品ロス問題は、地球温暖化や資源の浪費だけでなく、社会的・経済的課題にも直結する深刻なテーマです。日本での2023年の食品ロスの発生量は約464万トン※であり、食品ロスを削減し、持続可能な社会を実現するためにもサーキュラーエコノミーが注目を集めています。
出典:https://www.env.go.jp/press/press_00002.html
本記事では、サーキュラーエコノミーで進む食品ロス削減やその事例について解説します。
1.サーキュラーエコノミーで進む食品ロス削減とは

サーキュラーエコノミーによる食品ロス削減は、環境保護・企業利益・社会貢献を実現できるアプローチです。
まずは、食品ロス問題の現状やサーキュラーエコノミーの基本概念について解説します。
(1)食品ロス問題の現状と影響
食品ロスとは、本来食べられるのに捨てられる食品を指します。
2023年における日本でも国民一人当たり年間37kg(おにぎり1個分/日)が廃棄されており、自給率38%と輸入依存が高い一方で、大量の食品を捨てており、処理コストは年間2.3兆円にも上ります。
世界でも年間約13億トン(生産量の3分の1)が廃棄され、約7.3億人が飢餓に苦しむ現状があります。人口増加で2054年には約98億人に達すると予測され、食品ロス削減は食料安全保障と環境保全の両面で喫緊の課題です。
参考:https://www.no-foodloss.caa.go.jp/pdf/2025/consumer_education_cms201_250627_03.pdf
(2)サーキュラーエコノミー(循環型経済)の基本概念
サーキュラーエコノミーとは、製品ライフサイクル全体を通じて、資源を循環させて持続的に活用する仕組みを指します。環境負荷の低減と経済合理性を両立できる方法として、近年世界的に注目を集めています。
一方、従来型の「リニアエコノミー(直線型経済)」は、資源を採掘し、大量に生産・消費して、最終的に廃棄するという一方通行の流れに基づいています。両者を比較すると、以下のような違いがあります。
| サーキュラーエコノミー(循環型経済) | リニアエコノミー(直線型経済) | |
|---|---|---|
| 経済モデル | 「資源を循環 → 再利用・再生 → 継続活用」の循環型 | 「資源を採掘 → 製造 → 消費 → 廃棄」の一方通行 |
| 資源利用 | 資源の効率利用・再資源化を重視 | 天然資源を大量に消費 |
| 廃棄物 | 廃棄物を最小化し、再利用やリサイクルで資源化 | 大量発生し、焼却や埋立が中心 |
| 環境負荷 | 温室効果ガス削減・環境保全に寄与 | CO₂排出量増加・廃棄物処理コスト増 |
| 食品ロスとの関係 | 規格外品の活用、賞味期限間近商品の再流通、残渣の堆肥化・バイオガス化などで循環活用 | 規格外品や余剰食品はそのまま廃棄されやすい |
| 社会的価値 | 環境保護・社会課題解決・新ビジネス創出を同時に実現 | 利便性・効率性の追求が中心 |
| 持続可能性 | 資源循環により長期的な持続可能性を確保 | 資源枯渇リスクが高い |
サーキュラーエコノミーの最終目標は、廃棄物を出さない社会を実現することです。
リニアエコノミーが一方通行の経済であるのに対し、サーキュラーエコノミーでは資源が循環し続け、持続可能な社会構築に直結します。
参考:管内自治体・企業におけるサーキュラーエコノミーの取組事例|経済産業省関東経済産業局
(3)食品ロスとサーキュラーエコノミーの関係性
サーキュラーエコノミーの基本原則は、食品ロス削減に直接つながります。食品の生産から消費、廃棄に至るまでの各段階で、以下の3つの視点が重要です。
| サーキュラーエコノミーの原則 | 内容 | 食品ロスとの関係 |
|---|---|---|
| 廃棄物の発生を防止する設計 | 生産・流通の段階で余剰や不良を出さない仕組みを作る | 規格外品の活用や精度の高い需要予測につながる |
| 製品・資源の長期利用 | 一度生産した資源をできる限り長く活用する | 食品の再流通やシェアリング、保存技術の活用 |
| 自然システムの再生 | 廃棄された資源を自然に還元・再利用する | 食品残渣の堆肥化やバイオガス化による循環利用 |
サーキュラーエコノミーは資源循環やリサイクル、製品の高寿命化などさまざまな手法を内包します。
そのため、食品ロス削減を廃棄物対策だけにとどめず、サーキュラーエコノミーは資源の有効活用・環境負荷の低減・社会的価値の創出を同時に実現できるアプローチとなります。
2.企業による食品ロス削減のサーキュラーエコノミー実践事例

(1)三菱ケミカルグループ・ギラヴァンツ北九州|紙コップから野菜へ循環する資源ループの実証
三菱ケミカル株式会社は、Jリーグクラブのギラヴァンツ北九州と連携し、スタジアムを起点とした独自の資源循環システムの実証実験を行っています。この実験の核となるのは、同社が開発した生分解性プラスチック「BioPBS™」を内面にコーティングした紙コップです。従来の紙コップはポリエチレン(PE)でコーティングされているためリサイクルが難しいのに対し、「BioPBS™」製の紙コップは、使用後に食品残渣とともにコンポスト(堆肥化)処理が可能です。具体的には、スタジアムで回収された使用済みの紙コップ(約6,500個)を、試合会場や周辺から出た食品残渣と一緒に堆肥化し、その堆肥を地元の高校や農場で活用して野菜を育てています。そして、収穫された農産物は再びスタジアムなどで販売され、サポーターや地域住民に届けられています。この一連の取り組みによって、「紙コップ→堆肥→農産物→消費」というクローズドな資源ループを構築しており、スポーツイベントにおける廃棄物ゼロを目指すサーキュラーエコノミーの優れたモデルケースとして注目されています。
(2)キユーピーグループ|食品ロスを資源に変える社内連携と再資源化モデル
キユーピーグループでは、サステナビリティの重点課題として「資源の有効活用・循環」を掲げ、食品ロス削減と資源循環をグループ全体で多面的に推進しています。これらの取り組みは、サーキュラーエコノミーの原則である「廃棄物の発生を防止する設計」「製品・資源の長期利用」「自然システムの再生」を網羅しています。
主な取り組み内容は、以下のとおりです。
| 取り組み分野 | 内容 |
|---|---|
| 製造工程でのロス抑制 | 製造ラインの効率化、工程ごとの計量・データ化 |
| 賞味期限延長・表示改善 | 容器包装や製法改良による賞味期間の延長、年月表示への変更 |
| 野菜未利用部の活用 | 加工時に出るキャベツの葉・芯、レタスの外葉などを堆肥・飼料化 |
| バイオガス発電利用 | マヨネーズ等製造過程の残さをメタン発酵させ、発電に活用 |
| 卵の完全活用 | 卵黄はマヨネーズ、卵白は菓子や練り物原料、卵殻は肥料や化粧品原料へ |
| 需給・在庫最適化 | 製造・販売・物流部門の連携強化、ワーキンググループによる在庫最適化 |
特に年間数千トンに及ぶ卵を扱う「卵の完全活用」はグループの代名詞とも言える徹底ぶりです。卵黄はマヨネーズの主原料として、卵白は菓子や練り物原料に、そして通常廃棄されがちな卵殻膜を含む卵殻まで良質な肥料や化粧品原料へと余すところなく利用され、資源の循環を徹底しています。さらに、製造工程においては、製造ラインの効率化を図るだけでなく、AIなどを活用した工程ごとの厳密な計量・データ化によってロスを抑制しています。
このように、製造・流通・副産物活用・エネルギー転換といった様々な切り口でサーキュラーエコノミーを実践していることが特徴です。サプライチェーン全体での在庫の過剰・欠品を防止し、食品ロスそのものを発生させない仕組みを構築しています。
以下の動画では、物流の取り組みとしてキユーピーグループと異業種との協業について、わかりやすくご確認いただけます。
(3)味の素株式会社|副産物活用と循環モデル

味の素グループは、2022年に「TOO GOOD TO WASTE ~捨てたもんじゃない!~」をスローガンに掲げ、サーキュラーエコノミーの視点から食品ロスを価値変換の対象と捉える姿勢を打ち出しています。
たとえば、だし製品をつくる過程で発生するカツオの中骨や内臓は、従来であれば廃棄されていたものですが、現在はカルシウム強化素材や魚醤の原料として再利用されています。これは、「自然システムの再生」と「資源の長期利用」の原則に基づき、未利用資源のアップサイクルを実践するものです。また、国内の主要工場では、製造段階で生じる各種の残さを独自の技術で処理し、有機肥料として地域の農業に還元する仕組みも整備されており、廃棄物を確実に循環資源へと転換する流れが確立されつつあります。
その他にも、同社は消費者への啓発活動にも力を入れており、「製品・資源の長期利用」の観点から、公式サイトやレシピ提案、店頭キャンペーンを通じて、家庭での食材活用や保存方法を広め、消費段階での食品ロス削減を後押ししています。
(4)山崎製パン|パン事業を軸に展開する循環型資源活用
山崎製パンは、製造過程で生じるパン生地の端材や余剰商品、さらには包装材などを捨てるのではなく再資源化することで、徹底して再資源化・再利用することで、ロス削減と経営効率化を両立させる取り組みを促進しています。
この循環モデルの中心にあるのは、パンの切れ端や形が崩れた製品を「廃棄物の発生を防止する設計」の原則に基づき、単に廃棄するのではなく、再加工してラスクなどに生まれ変わらせるサイドプロダクト化です。また、需要変動に応じた生産量の最適化を図ることで、そもそも余剰品を出さない仕組みを強化しています。
さらに、製造工程で発生した食品残渣は、肥料や飼料として活用する「自然システムの再生」への取り組みを積極的に展開しています。これに加え、トレーや包装材についても環境負荷の少ない素材への切り替えや、再生素材の提供など、包装設計までを一体的に見直すことで、製品から包装材に至る全工程で資源循環を実践する包括的な循環モデルを構築しています。
(5)ファミリーマート|店頭回収で広げる家庭から地域への食品循環

ファミリーマートは、「ファミマフードドライブ」という活動を通じて、家庭で余っている未開封の常温保存食品を店頭で回収、地域の子ども食堂やフードバンクなどのNPOや支援団体に寄付する循環モデルを推進しています。
この取り組みは、「製品・資源の長期利用」の原則を消費者の家庭まで拡張するもので、まだ食べられる食品を食品ロスとして廃棄されることなく、必要とする人や場所へと届け、現場レベルでサーキュラーエコノミー的な資源循環を具現化しています。回収できる食品は、品質維持の観点から賞味期限が概ね2か月以上あり未開封、かつ常温保存可能なものに限定されており、消費者が参加しやすいルール設計がなされています。
この活動を通じて、店舗スタッフと地域住民とのコミュニケーションが生まれるだけでなく、地域の子ども食堂や支援団体との強固なネットワークも構築されており、単なる物資の循環にとどまらず、地域との信頼醸成と企業の社会的価値向上に大きく貢献しています。
(6)イオングループ|

イオングループでは、食品廃棄物を半減(2015年度比)という明確な目標を掲げています。
各店舗で「リデュース(削減)」「リユース(再使用)」「リサイクル(再資源化)」の施策を推進し、地域単位で廃棄物を資源として再利用する環境の構築に尽力しています。
具体的には、商品のライフサイクル全体を通して「リデュース」を最優先するため、発注精度の向上や売れ残り品をフードバンクなどの地域内のネットワークを通じて「リユース」する仕組みを強化しています。
さらに、どうしても発生してしまう食品残渣や加工時に出る廃棄物については、「リサイクル」として飼料や堆肥、メタンガスなどとして地域内で可能な限りリサイクル可能な処理に回す仕組みを整備し、焼却・埋立に回る量を大幅に抑えることを目指しています。
また、店頭では、店員と顧客双方に対して廃棄抑制の意識を高めるための積極的なコミュニケーションも強化しており、サプライチェーン全体だけでなく、消費段階を含めた地域単位で食品廃棄を循環させる包括的なモデルを実践しています。
(7)吉野家ホールディングス|玉ねぎ端材のアップサイクル
吉野家ホールディングスでは、主力商品の牛丼に使用する玉ねぎの加工過程で発生する「規格外端材」に着目し、食品資源としてのアップサイクルに取り組んでいます。
この取り組みは、「廃棄物の発生を防止する設計」の原則に基づき、通常であれば廃棄されてしまう玉ねぎの皮や形が不揃いな部分などの端材を、単なるリサイクルではなく、新たな価値を持つ食材へと変換するものです。
玉ねぎ端材を加工適性のある形に整え、加熱殺菌や粉末化などを施すことで、品質や風味・保存性に優れた食材へと変換します。その結果、生まれた玉ねぎパウダーは、牛丼をはじめとするメニューに再利用できるほか、新商品開発や他の食品メーカーとの連携にも活用できるポテンシャルを持っています。これにより、製造工程における食品ロスを大幅に削減し、グループ全体のサーキュラーエコノミーを推進しています。
3.その他の食品ロス削減に関するサーキュラーエコノミーの事例

(1)埼玉県|食のサーキュラーエコノミー

埼玉県は、県内企業による食品廃棄物などを活用してアップサイクル・リサイクル・バイオマス発電など循環型技術を導入するための「食のサーキュラーエコノミー技術導入支援補助金制度」を設けています。
この制度では、補助金を活用して県内製造拠点に新たな設備やシステムを導入し、他企業の参考となるリーディングモデルをつくることを目的としています。
埼玉県の取り組みは、地域の産業基盤を活かしながら、食品廃棄物を資源として循環させるモデルを公的に支援・促進しています。
【事例】過熱蒸煎技術を活用した「ぐるりこ」生産受託|ASTRA FOOD PLAN株式会社
ASTRA FOOD PLAN株式会社は、食品廃棄物を超微細なパウダー「ぐるりこ」に加工する過熱蒸煎技術を活用した生産受託事業の実装で採択されました。
この技術は、規格外野菜や食品製造残渣などの廃棄物を、独自の加熱・乾燥・粉砕プロセスによって、風味や栄養価を保ちながら長期保存可能なパウダー状の食品素材へとアップサイクルするものです。この「ぐるりこ」は、新たな食品メーカーの原料やサプリメントなどに利用されることで、広範囲な食品ロス削減に貢献すると同時に、資源の長期利用と地域企業間の連携を促進するモデルとなっています。
参考:令和7年度食のサーキュラーエコノミー技術導入支援補助金について|埼玉県
(2)京都市|食品ロスゼロプロジェクト
京都市では、飲食店・小売店・消費者・さらには行政を巻き込んで、廃棄食品を抑える仕組みや啓発活動を包括的に設計し、循環可能なまちづくりを目指しています。
市民・事業者・行政が一体となって食品ロス削減を進めることを目的に、啓発活動やフードドライブの実施、飲食店や小売店における食べきり・持ち帰りの推進などを行っています。特に市民向けには、家庭での食品保存方法や賞味期限の正しい理解を広めるための情報発信を強化しており、学校や地域団体と連携した教育活動も展開しています。
【事例】飲食店・宿泊業における「発生抑制」と「リユース」の連携
ホテルグレイスリー京都三条は、IT企業である株式会社コークッキングが運営するフードシェアリングアプリ「TABETE」と連携し、ビュッフェの残りなど、まだ安全に食べられる食事をお弁当に加工してアプリ上で販売することで、「食べきり」を推進しています。また、京都市の「食べ残しゼロ推進店舗」では、多くの飲食店や宿泊施設が、料理サイズの選択肢を設けたり、食べ残しの持ち帰り(ドギーバッグ)を可能にしたりするなど、「リデュース」と「リユース」の工夫を積極的に行っています。
参考:京都市食品ロスゼロプロジェクト「お結び広場」連携事例|京都市
(3)岡山大学|残り福キャンペーン
岡山大学が実施している残り福キャンペーンは、売れ残りが予想される食品セクションをライブ中継や映像配信アプリで消費者に可視化し、来店者の「てまえどり(手前の棚から先に取る行為)」を促す仕組みです。
各参加店に設置されたWebカメラで食品棚の状態を映し、中継映像は「のこり福」専用サイトやアプリに配信されます。消費者はアプリを通じて割引対象商品の情報を確認でき、購入意思を喚起される設計です。
将来的には、こうした手法を広域展開し、小売チェーン全体や地域網に広げていくことで、売場の食品ロスを段階的に抑制するモデルとしての応用が見込まれます。
4.食品ロス削減にサーキュラーエコノミーを導入ポイントと先行事例

食品ロス削減にサーキュラーエコノミーを効果的に取り入れるためには、廃棄を出さない仕組みを設計が重要です。
さらに、こうした取り組みを形骸化させないためには、消費者・企業・自治体がそれぞれの役割を理解し、連携して推進する体制づくりが欠かせません。
ここでは、実践にあたって特に重視すべき5つの視点について整理します。
(1)廃棄物発生を最小化する設計を最優先に
食品ロス削減において、特に重要なことは廃棄物を出さない設計の構築です。企業が取り組むべき具体策は以下のとおりです。
| フェーズ | 具体策 |
|---|---|
| 生産・流通 | 需要予測の高度化(AI・データ分析による需要予測精度向上) |
| 製造・販売 | 保存技術の改良(パッケージ改善・加工技術による賞味期限延長) |
| 調達・加工 | 規格外品の有効活用(不揃い農産物を加工食品・外食に活用) |
食品小売業においてAIを活用した発注・在庫管理を導入した結果、廃棄率は17.7%削減、同時に欠品率も19.0%削減されるという成果が報告されています。
さらに、容器包装や製造工程の改良によって、従来3年だった保存期間を5年6か月に延長した事例もあり、技術革新が食品ロス削減に直結することが示されています。
さらに、調達・加工フェーズでは、規格外品の有効活用を推進し、不揃いな形状の農産物を積極的に加工食品や外食産業の原料として活用することで、生産段階での廃棄物発生を防いでいます。
こうした具体策を段階ごとに組み合わせることで、食品ロス削減は単なるコスト削減にとどまらず、企業の収益性向上・社会的信頼獲得・持続可能な経営基盤の構築へとつながります。
(2)地産地消・地域内循環の推進
食品ロス削減における重要なアプローチの一つが、地域で生産された食品を地域で消費する地産地消を推進し、同時に地域内での資源循環ルートを確立することです。この仕組みは、食品輸送に伴うCO₂排出量を抑えるフードマイレージの削減につながるほか、地元農産物の安定的な消費基盤の構築にも直結します。
先行事例として、社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム「KURADASHI」が挙げられます。
こちらでは、未流通食品をメーカーから協賛価格で預かり、消費者に最大97%OFFで提供するモデルを展開し、売上の一部を環境・社会貢献団体に寄付する仕組みも組み込むことで、経済的なメリットと社会的価値を両立させています。

このようなモデルは、規格外品や余剰品を廃棄せずに地域内で流通させるという設計そのものに、資源の有効活用と地域循環のエッセンスを強く持っており、「製品・資源の長期利用」を促進する重要な役割を果たしています。
(3)食品の持続可能性を考慮
食品ロス削減の取り組みを持続可能なものとするには、食品そのものや包装材のライフサイクル全体を視野に入れた対応が重要です。これには多面的な配慮が求められますが、以下の2つに大別できます。
| 区分 | 具体的な取り組み例 |
|---|---|
| 食品 | ・生産段階での省エネ・CO₂排出削減 ・フードサプライチェーン全体でのトレーサビリティ強化 ・アニマルウェルフェアやフェアトレードなど倫理的調達 ・未利用資源(副産物・規格外品)の再商品化 |
| 包装材 | ・リサイクル可能素材(紙・金属・ガラスなど)の活用・生分解性プラスチックや再生材の導入・保存性を高めるパッケージ設・軽量化や詰め替え容器の導入で資源使用量を削減 ・リユース・リフィル可能なデザイン設計 ・スマートパッケージ(鮮度表示・二次元コード)で消費期限管理を可視化 ・リサイクル工程を前提とした単一素材化 |
納品期限を見直した実証事例では、食品製造・物流センター・小売店頭の各段階で廃棄削減効果が確認され、飲料や賞味期間180日以上の菓子では合計約4万トン(約87億円相当)の廃棄抑制につながりました。
これは、食品関連事業者が排出する可食部廃棄物約330万トンの1.0〜1.4%に相当し、期限設定の改善が食品ロス削減に有効であることを示しています。
(4)消費者・企業・自治体の連携強化
食品ロス削減を本質的な部分から実現するには、企業や自治体の取り組みだけでなく、消費者の行動変容も重要です。2023年における一般家庭由来の食品ロス発生量は約233万トン※であり、事業系食品ロスに匹敵する量が依然として家庭から排出されているため、消費者の行動変容が求められます。
たとえば、小売業では、食品ロス削減月間に合わせた「てまえどり」の推奨ポスター掲示や告知を行い、購入後の食べきりを意識させる消費者の行動変容を促す活動が全国的に進められています。
その他にも、企業側の「廃棄物の発生を防止する設計」の工夫として、水産加工業者などでは、未出荷や返品による廃棄を抑制するため、冷凍真空パックの切り身加工など、付加価値の高い商品を提供しています。これは、長期保存を可能にすることで商品を廃棄せずに販売可能な形で提供し、消費者に必要な分だけ購入する新たな購買機会を提供する優れたリデュースモデルです。
このような食品ロス削減への意識を高める活動によって、企業・消費者・自治体の三者が連携する好循環を創出します。
※出典:https://www.env.go.jp/press/press_00002.html
5.食品ロス削減とサーキュラーエコノミーの動向

食品ロス削減をめぐる取り組みは、従来の廃棄抑制やリサイクルの枠を超えて、テクノロジーや制度、消費者行動の変化を背景に大きく進化しています。
ここからは、食品ロス削減とサーキュラーエコノミーの具体的な動向について解説します。
(1)フードテックとは?海外事例も紹介
フードテック(Food Tech)とは、食品分野における課題を解決するために、AI、IoT、バイオテクノロジー、ブロックチェーンなどの先端技術を活用する取り組みを指します。
食品ロス削減や持続可能な食料システムの構築に直結する分野として、国内外で注目度が高まっています。
たとえば、シンガポールのNext Gen Foodsは、植物由来の代替肉を開発し、設立からわずか2年で1億3千万米ドル以上の資金調達に成功し、シンガポール国内にとどまらず、欧州やアジア各国の投資会社・ベンチャーキャピタルからも注目を集めています。
代表製品の「TiNDLE」は、大豆や小麦グルテン、ココナッツオイルなど自然由来の原料に、本物の鶏肉に近い風味や食感を再現しています。
代替タンパク質の開発は、従来の畜産に伴う温室効果ガス排出や水資源の大量消費といった環境問題に対処する手段として期待されており、持続可能な食料供給の実現に直結する分野です。
(2)日本の食品ロス削減推進法について
食品ロス削減推進法は、令和元年5月31日に公布され、同年10月1日に施行された法律です。本法は、国・地方公共団体・事業者・消費者といった幅広い主体の責務を明確にし、食品ロス削減を総合的かつ計画的に推進することを目的としています。
食品ロス削減推進法に基づく代表的な取り組みは以下のとおりです。
| 主体 | 代表的な取り組み | 具体例 |
|---|---|---|
| 国・自治体 | 基本方針の策定と普及啓発 | 国の「基本方針」に基づいた自治体の地域計画やキャンペーン(例:食品ロス削減月間の啓発活動) |
| 事業者 | 食品ロス削減を前提とした事業活動 | 期限表示の見直し、フードバンク・子ども食堂への寄付、外食での小盛りメニュー導入 |
| 小売・流通 | 流通段階での廃棄削減 | 消費期限間近商品の割引販売(ダイナミックプライシング)、在庫管理の効率化 |
| 外食産業 | 食べ残し削減の工夫 | 食べきり運動の推進、ポーションサイズの選択肢提供、持ち帰り容器の活用 |
| 消費者 | 食べきり・使いきりの意識向上 | 冷蔵庫内の在庫管理、計画的な買い物、適切な保存方法の実践 |
この法律は単なる規制にとどまらず、官民一体となった実践を促すものであり、企業にとってはCSRやESG経営の一環として食品ロス削減に取り組む動機付けとなっています。
食品関連事業者は、自社のフードロス削減施策を社会的責任の観点からも積極的に発信し、ブランド価値の向上につなげていくことが重要です。
参考:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/
【事例】食品スーパーによるダイナミックプライシング|デリシア(長野県)
長野県に店舗を展開する食品スーパー「デリシア」は、ダイナミックプライシング(変動価格制)を導入し、特にデリカ(惣菜)部門で大きな成果を上げています。あらかじめ設定された時間帯や在庫状況に応じて、商品の値引率が自動で提示され、柔軟に価格を改定することで、食品ロス率を約半分にまで改善した事例が報告されています。これは、消費者にとっての購入機会と、企業にとっての廃棄負担軽減を両立させる、デジタル技術を活用した「リデュース」の先進事例です。
参考:ダイナミックプライシングで変わる!スーパー「デリシア」が挑んだ食品ロス削減と生産性向上の最適解|東芝テックCVC
(3)消費者のサステナブル志向拡大
近年、消費者の購買行動において「持続可能性」を意識する動きが顕著に拡大しています。
日本エシカル推進協議会の調査によれば、2022年時点で国内のエシカル消費市場は約8兆円規模に達しており、社会・環境配慮を前提とした商品やサービス選択が既に大きな市場を形成していることが明らかになっています。
さらに、約15.7%の消費者は「環境や社会に配慮しない製品を買わない(ボイコット)」という選択を行っており、積極的な購入行動だけでなく“不買”という形で企業の取り組みを評価する傾向も広がっています。
先進的な企業は、消費者のサスティナブル志向をポジティブに捉え、こうしたニーズを踏まえた商品を展開しています。
参考:https://www.jeijc.org/wp-content/uploads/2024/11/unnamed-file.pdf
6.食品ロス削減にサーキュラーエコノミーを導入するメリット

食品ロス削減とサーキュラーエコノミーの実践によって、環境保全、コスト削減、新たなビジネス機会の創出、さらには社会的信頼の向上といった多面的な効果を生み出します。
ここでは、環境・経済・社会の3つの側面から、その具体的なメリットを整理します。
(1)環境面のメリット

サーキュラーエコノミーで食品ロスを削減することは、環境負荷を大幅に低減する効果が期待できます。国内の食品ロス464万トンを焼却・埋立処理する際に発生するCO₂排出量は年間約2,500万トンに達し、これは約500万世帯分の年間排出量に相当します。
また、食品ロスは経済発展の裏返しであり、廃棄を減らすことは出荷量を維持したまま環境負荷を低減する効率化にもつながります。
実際、リユース・リサイクル・リデュース(3R)の実践を通じて、廃棄食品の焼却を回避し、再資源化することダイオキシンの発生を防ぐ事例も増えています。
つまり、食品ロス削減とサーキュラーエコノミーは、企業にとって環境対応コストの削減とESG指標の強化を同時に実現する、最も効果的な環境戦略のひとつと位置付けられます。
【事例】賞味期限延長とエコ包装で環境負荷を低減|日清食品
日清食品グループは、「おいしいeco麺」プロジェクトを通じ、チルド麺の賞味期限延長と包装の簡素化によって、サプライチェーン全体での食品ロス削減とCO₂排出量抑制に貢献しています。
賞味期限延長による廃棄ロスの抑制
日清食品チルドは、「おいしさ長持ち製法」を独自に開発し、「行列のできる店のラーメン」シリーズなどのチルド麺の賞味期限を、従来の20日から60日へと大幅に延長しました。この延長は、店頭での見切り販売(値下げ)の比率を大幅に減少させ、期限切れによる廃棄ロスを抑制する「リデュース」に直結します。製造に費やされたエネルギーが無駄になることを防ぐため、CO₂排出量の削減にもつながる、環境メリットの大きな取り組みです。
エコ包装と期限表示の工夫
同グループは、一部製品でプラスチックトレーの廃止といったエコ包装も推進しており、プラスチック使用量の削減に貢献しています。さらに、一部製品の賞味期限表示を「年月日」から「年月」に変更することで、店舗の在庫管理にゆとりを生み、廃棄削減効果を期待しています。この表示変更は、物流効率の向上(2024年問題への対応)にも役立っています。
(2)経済面のメリット
サーキュラーエコノミーの導入は、企業にとって環境対策だけでなく、利益構造の改善と新たな市場価値の創出という経済的メリットをもたらします。
まず、最も直接的な効果は廃棄コストの削減です。食品製造・流通の各段階で発生するロスを抑制することで、焼却や運搬にかかる固定費を減らし、収益性を高めることができます。
さらに、こうした取り組みは売上向上や業務効率化にも波及します。
たとえば、回転寿司チェーンの元気寿司では作り置きをやめて注文後に提供する仕組みを確立しています。これにより廃棄量を大幅に削減しただけでなく、寿司や食材のロス管理にかかっていた人件費・処理工数も軽減されました。結果として、廃棄削減と同時に店舗オペレーションの効率化を実現しています。
このような取り組みによって、廃棄の削減だけでなく、間接的な業務効率化を創出することで、多面的な経費削減効果につながっています。
参考:https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/junkan/tabekiri/net-30soukai_d/fil/8.pdf
【事例】「Upcycle by Oisix」による新市場の創出|オイシックス・ラ・大地
オイシックス・ラ・大地株式会社は、本来であれば廃棄される食品に新たな価値を与える「アップサイクル」という手法で、新たな商品カテゴリーと売上を生み出しています。
規格外の野菜や、食品製造過程で出る未利用部位(例:ブロッコリーの茎、カステラの端材など)を、加工して全く新しい食品として販売する食ブランド「Upcycle by Oisix」を展開しています。
従来、廃棄物として処理コストが発生していたこれらの食材を、安価な仕入れ原料として活用することで、製造コストを抑えつつ、サステナブルな新商品として高い付加価値をつけて販売しています。これは、「廃棄コストの回避」と「新たな売上・利益の創出」という二重の経済メリットを実現しており、サーキュラーエコノミーの理想的な好事例です。
参考:第10回食品産業もったいない大賞表彰事例集|食品等流通合理化促進機構
(3)社会面のメリット
食品ロス削減におけるサーキュラーエコノミーの構築は、地域社会の支援や雇用の創出、企業の社会的信頼の向上など、幅広い波及効果をもたらします。環境配慮だけでなく、地域共生や社会的包摂の実現につながります。

たとえば、セブン&アイ・ホールディングスは「GREEN CHALLENGE 2050」を掲げ、2013年度比で食品廃棄物の発生原単位を50%削減、さらに中長期で75%削減を目指す目標を設定しています。このように、明確な数値目標を伴う取り組みは、企業が社会に対して説明責任を果たすうえで極めて重要です。
【事例】食品リサイクル分野における「障がい者雇用」の創出|エフピコ
食品容器メーカーの株式会社エフピコは、リサイクル事業を「障がい者雇用」と結びつけることで、社会的包摂と事業効率を両立させています。
エフピコグループは、食品トレー容器の回収・リサイクルを行う部門で、障がい者が主体となって働く特例子会社エフピコ愛パックなどを設立しています。ここでは、使用済み食品容器の選別・分別や、新品容器の組み立て・梱包といった作業に、多くの障がい者が従事しています。
食品リサイクルは、回収された容器から異物を取り除き、素材ごとに細かく分別する必要があり、手間のかかる作業が多くあります。この作業を、雇用創出を目的として設立した事業所で担うことで、安定した雇用の場を提供し、障がい者の経済的な自立と社会参加を支援しています。
高度な技術が不要な定型作業を、真面目に集中して取り組むことができる人材が担うことで、リサイクル工程の安定的な運用が可能となり、結果的にリサイクル率の向上と事業の持続性を確保しています。
参考:障がい者雇用|エフピコ
7.まとめ
サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れた食品ロス削減は、環境・経済・社会の三側面で持続可能性を高める有効なアプローチです。
食品をより長期的な視点で捉え直すことが、これからの企業経営に求められる視点です。
企業・自治体・消費者がそれぞれの立場で循環の輪を担い、持続可能な社会への転換を進めることが、次世代に誇れる未来を築く第一歩となるでしょう。


