サーキュラーエコノミーと脱炭素とは?環境省・経産省の政策と企業事例

脱炭素社会の実現に向け、企業がCO₂排出量の削減を進める中で、新たな潮流として注目を集めているのが「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」です。

本記事では、サーキュラーエコノミーと脱炭素の違いと関係性を整理し、さらに環境省・経済産業省が推進する政策や補助金制度、企業の具体的な取組事例を紹介します。

目次

1.サーキュラーエコノミーと脱炭素の関係とは?

ここでは、両者の違いと共通点、そして企業が理解しておくべき関係性について、基本的事項から整理していきます。

(1)サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルとの違いをわかりやすく整理

サーキュラーエコノミー(循環型経済)と脱炭素(カーボンニュートラル)は、いずれも持続可能な社会の実現に欠かせないアプローチであり、相互に補完し合う関係にあります。
以下の表では目的や対象などの観点から、サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルの違いをご確認いただけます。

観点サーキュラーエコノミーカーボンニュートラル
主な目的資源の循環・廃棄物削減温室効果ガス排出量の実質ゼロ化
主な対象原材料・製品・廃棄物エネルギー・CO₂排出源
手段再利用・リサイクル・リマニュファクチャリング省エネ・再エネ導入・燃料転換
政策主管環境省・経済産業省(資源循環政策)経済産業省・環境省(GX・CN政策)
効果資源効率の向上・廃棄コスト削減エネルギー効率の向上・排出コスト削減

つまり、サーキュラーエコノミーはモノの流れの最適化を通じて脱炭素を後押しする仕組みであり、両者を組み合わせることで、企業は生産から廃棄まで一貫した環境経営を実現できます。

参考:循環経済への移行|環境省

参考:カーボンニュートラルとは|脱炭素ポータル(環境省)

(2)循環型社会に向けて脱炭素だけでは不十分な理由

脱炭素対策は、エネルギー起源の排出量削減に焦点を当てており、資源の採取・製造・廃棄といった物質の流れに伴う環境負荷へはアプローチできません。
そのため、仕組みからアプローチできるサーキュラーエコノミーの採用が強く求められてます。

以下では、それぞれの手法をご確認いただけます。

脱炭素の主な手法サーキュラーエコノミーの主な手法
・再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力など)への転換・省エネルギー設備や高効率機器の導入・EV・FCVなど低排出車の導入や輸送最適化・カーボンプライシング・排出量取引制度の活用・エネルギー起源CO₂の可視化と削減計画の策定・製品設計の見直し(リデザイン)による長寿命化・再利用促進・リユース・リサイクル・リマニュファクチャリングの実施・廃棄物の再資源化や副産物の再利用・シェアリングモデル・サブスクリプションによる使用効率の向上・回収・再配送(逆物流)による資源循環の仕組み構築

脱炭素は二酸化炭素の排出の削減を目的とする一方、サーキュラーエコノミーは資源の循環利用と廃棄物削減を目的とするアプローチです。
この構造転換こそが、真の意味での循環型社会の実現に欠かせない視点となります。

参考:サーキュラービジネスシリーズ 1:サステナビリティ課題解決の鍵を握るサーキュラーエコノミー|PwC

(3)サーキュラーエコノミーと脱炭素の関係

サーキュラーエコノミーと脱炭素を統合的な戦略として設計することで、次のような相乗効果が期待されます。

製造段階再生材やリサイクル素材の活用により、原材料の採掘・精製時のCO₂排出を削減できる。
流通・物流段階製品寿命の延長・リユース促進により、輸送回数や新規製造量を減らし、燃料消費を抑制。
廃棄・回収段階再資源化やマテリアルリサイクルによって、焼却・埋立処分に伴う排出を削減。
企業経営サプライチェーン全体の環境データを可視化することで、GHG削減と資源効率化を同時に推進可能。

このように、サーキュラーエコノミーと脱炭素は、両立してこそ真の持続可能性が生まれる関係です。
企業は製品設計・調達・廃棄の各段階で両者を意識的に統合し、カーボンとマテリアルの両面からの最適化を図ることが求められます。

参考:第7次エネルギー基本計画で求められる「CN×CE」の政策融合|三菱総合研究所

2.環境省・経産省が推進するサーキュラーエコノミー政策

日本では、2050年カーボンニュートラルおよび2030年温室効果ガス46%削減の実現に向けて、国が一体となってサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を進めています。
ここでは、環境省・経産省が推進するサーキュラーエコノミーに関連する施策の概要を解説します。

出典:https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r05/html/hj23010201.html

(1)環境省のサーキュラーエコノミー政策と重点分野

環境省は、脱炭素(GX=グリーントランスフォーメーション)を支える経済構造転換の一環として、サーキュラーエコノミーを国家政策の柱に据える方向性を強めています。以下のような制度改正が掲げられています。

政策・制度名概要
再生資源利用の義務化製品に一定割合の再生資源を含めることを義務化。一定規模以上の製造事業者に対し、再生資源利用計画の提出や定期報告を求める制度を整備。
環境配慮設計の促進(エコ・デザイン認定制度)分解・分別が容易で長寿命化につながる設計を評価し、環境配慮設計を促進する認定制度を創設。資源循環と脱炭素化を両立させる製品設計を推進。
回収・再資源化義務と特例措置回収義務のある製品について、高い回収率を達成した事業者に対し、産業廃棄物処理制度の特例を適用。認定による制度的インセンティブを付与。
サーキュラーエコノミー・コマースの制度化シェアリングやレンタルなどの事業を「サーキュラーエコノミー・コマース」として制度的に位置づけ、資源の有効利用を促す新たな基準・枠組みを整備。

また、環境省が特に注力している分野は、以下のような領域です。

重点分野内容
製品設計・環境配慮設計長寿命化、分解・分別容易性、モジュール化設計など、設計段階から資源循環を前提とした基準を策定し、環境配慮設計を推進。
再生資源の素材利用・活用再生材の利用比率を高める義務化制度を整備し、バージン資源の投入量を抑制。再生素材の市場拡大を促進。
回収ループとリサイクル基盤強化家電・電子機器・モバイル機器などを中心に、回収義務製品の収集・再資源化体制を強化。高回収率の達成を支援。
サーキュラー経済型ビジネスモデル(コマース)シェアリング、レンタル、サブスクリプション、リユースなど、モノの使用効率を高めるビジネスモデルを促進。
再資源化インフラ支援リサイクル工場・分別施設・素材処理技術など、再資源化を支えるインフラ・技術開発への支援と認定制度を整備。

このように、環境省は「設計・素材・回収・ビジネス・インフラ」の5分野を中心に、サーキュラーエコノミーの社会実装を体系的に進めています。

参考:https://www.env.go.jp/press/press_04510.html

(2)経済産業省のカーボンニュートラル政策との連携

経済産業省は、2050年のカーボンニュートラル(CO₂排出実質ゼロ)を念頭に、産業構造転換と技術革新を軸とする「グリーン成長戦略」を中心政策として掲げています。
グリーン成長戦略の詳細については、以下の記事でご確認いただけます。

さらに、経済産業省はカーボンニュートラル実現に向けた産業政策の方向性として、サプライチェーン全体の資源効率化を重視しています。
素材の生産から製品設計、物流、廃棄・再利用に至るまで、サーキュラーエコノミーの考え方を組み込み、エネルギー起源と非エネルギー起源の双方から排出削減を進める姿勢を明確にしています。

(3)サーキュラーエコノミーの補助金・支援制度

自治体によってはサーキュラーエコノミーの補助金・支援金制度を展開しています。ここでは、代表例として東京都と北九州のサーキュラーエコノミーの補助金・支援制度について紹介します。

①東京都

東京都では、ゼロエミッション東京を目標に、プラスチック資源循環・食品ロス削減・地域型資源循環といったサーキュラーエコノミーの社会実装を後押しする複数の補助事業を開始しています。

制度名補助率・上限対象期間・募集期間主な補助対象経費
プラスチック資源循環(2Rビジネス・水平リサイクル)支援・初年度:補助率1/2、上限4,500万円・次年度以降:補助率1/3~1/4、上限3,000万〜2,250万円令和6年5月30日〜令和7年3月31日・リユースカップ製造・洗浄設備・分別設備導入・普及啓発経費など
小売ロス削減総合対策原則補助率1/2(輸送費寄贈は全額)上限額はメニューにより異なる令和6年5月30日〜令和7年12月31日(複数年度枠あり)・デジタル設備導入費・冷凍機・量り売り機器費・輸送・寄贈・コンポスト設備費など
社会実装化モデル補助(地域型資源循環モデル支援)補助率1/2、上限200万円程度令和6年4月1日〜令和7年2月28日(募集:令和6年5月30日〜7月31日)・旅費、通信運搬費、広告料、印刷費・備品購入費、外注費、謝金、保険料など

補助対象や交付率、締切条件は制度ごとに異なるため、自社の取組内容と補助制度との整合性を慎重に確認する必要があります。

【事例】建設現場の廃プラスチック資源循環の取り組み|鹿島建設

鹿島建設は、建設現場から大量に排出される廃プラスチックを、単に焼却処分するのではなく、現場内で資源として循環させるサーキュラーエコノミーの仕組みを構築しています。具体的には、使用済みのプラスチック梱包材など、比較的きれいな廃プラスチックを分別し、高度な洗浄技術を用いることで、高品質の再生原料を確保しています。この再生原料を、建設現場で広く使用される工事用の土のう袋の原料として再利用する実証を共同で進めています。また、別の事例として、廃プラスチックを原料の一部(30%)に配合した工事用バリケードを製造し、再び自社の建設現場で利用する循環サイクルも確立しました。これらの取り組みは、建設業界におけるプラスチックリサイクル率を向上させ、廃棄物削減と脱炭素に貢献する好事例です。

参考:令和7年度プラスチック資源循環に関する先進的社会実装モデル形成支援事業の公募採択事業について|環境省

②北九州市

北九州市は、サーキュラーエコノミーの基盤形成を目的とし、「産業廃棄物の再生利用や減量につながる設備等への補助金」制度を整備しています。

たとえば、再生材の分別・精製設備の導入、リサイクル効率を高める新技術の実証、再資源化に向けた市場性調査など、実務的な取組を幅広く支援しています。補助内容は以下のとおりです。

補助区分補助対象内容補助率・上限額対象者・対象期間
設備導入事業産業廃棄物の再生利用・減量に資する設備の導入(再生材分別・精製設備など)対象経費の1/2以内(上限1,000万円)北九州市内で事業を行う企業等実施期間:交付決定後〜令和8年3月中旬まで
調査研究事業(FS調査)再資源化技術の検証、経済性・市場性調査など、導入前の技術検討対象経費の2/3以内(上限200万円)市内企業・大学等実施期間:同上

この補助金では、再資源化設備の導入支援から、実証・調査段階の研究までを幅広く対象としており、地域内での資源循環を担う企業の取り組みを後押しする設計になっています。

【事例】脱炭素化に向けた廃プラスチックの燃料化およびリサイクル事業|ビートルエンジニアリング

株式会社ビートルエンジニアリングは、北九州市に拠点を置く企業として、脱炭素化に向けた廃プラスチックの燃料化およびリサイクル事業を推進しています。特に、北九州市と連携し、家庭から出るプラスチック資源(製品プラスチック)の中間処理と再商品化を担う新工場(SRC)を稼働させました。この取り組みは、九州エリアで初となる国の「再商品化計画」認定を受けており、回収したプラスチックを市内で細断・フレーク化し、ハンガーや机の引き出しといった身近な製品へ再生する地消・地循環モデルを構築しています。これにより、廃棄物を資源として活用するサーキュラーエコノミーを推進するとともに、工場稼働には再生可能エネルギー100%を活用することでカーボンニュートラルにも貢献しています。

参考:事業再構築補助金採択企業のご紹介(株式会社ビートルエンジニアリング/中小企業・通常枠/事業転換)|北九州学術研究都市

3.脱炭素とサーキュラーエコノミーを両立する企業の取組事例

(1)トヨタモビリティサービス|合成燃料による脱炭素と資源循環

引用:https://news.t-mobility-s.co.jp/magazine/20220822-1/

トヨタは、EV化を主要戦略とする中でも、既存の内燃機関を活かしながら脱炭素を進める手段として、合成燃料(カーボンニュートラル燃料)の研究・実用化に注力しています。

合成燃料は、産業活動で排出されたCO₂を回収し、グリーン水素と反応させて生成する液体燃料です。燃焼時にCO₂を排出するものの、製造時に取り込むCO₂量とほぼ等しいため、大気中の総排出量を増やさない仕組みとなっています。

この合成燃料は、特に航空、海運、トラックなどの輸送部門において、電動化が難しい領域の脱炭素化を可能にする重要な代替手段として期待されています。また、既存のガソリン車や給油インフラをそのまま利用できるため、資源や設備の廃棄を抑制し、長期間活用できるという点で、「モノの長寿命化」というサーキュラーエコノミーの理念とも深く関連しています。

このように、トヨタの合成燃料戦略は、排出物を資源として循環利用しつつ、モビリティの脱炭素を促進する次世代燃料モデルとして、サーキュラーエコノミーの理念とも密接に結びついた実践的なアプローチです。

(2)セブン&アイグループ|店舗運営と循環・脱炭素の統合的取組

energy_saving_ATM.png
引用:https://www.7andi.com/sustainability/theme/theme3/environmental-reduction.html

セブン&アイグループは、環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」の下、店舗運営におけるCO₂排出量を2013年度比で2030年までに50%削減、2050年には実質ゼロ化を目指しており、省エネ・創エネ・再生可能エネルギー導入を三本柱とした施策を推進しています。主な取り組みを以下にまとめました。

取り組み内容概要
省エネ・創エネ設備の導入全店舗でLED照明化、空調効率化、最新冷凍・冷蔵設備を導入。実証店舗ではEMS(エネルギーマネジメントシステム)でCO₂排出を削減。太陽光パネル設置による創エネも推進。
再生可能電力の調達(オフサイトPPA)国内初のオフサイトPPAを活用し、発電所で生み出した再エネ電力を店舗運営に活用。複数店舗で100%再エネ化を目指す。
充電インフラ・水素ステーション併設店舗にEV/PHV充電器を設置し、買物時の充電を促進。宮城県・東京都などで水素ステーション併設型店舗を運営し、燃料電池車の普及を支援。
環境配慮車両・リース車両の切替事業用・配送用リース車両を順次ハイブリッド車へ変更。従来型燃料車比でCO₂排出を削減。
高効率ATMの導入セブン銀行が第4世代省エネATMを導入。従来比で大幅な電力削減を実現し、全国展開中。

このように、セブン&アイグループは店舗運営を舞台に、脱炭素・再エネ導入施策を積極展開しつつ、省エネ設備導入や車両リース活用、食品ロス削減といった資源効率化(CE)の要素を組み合わせることで、脱炭素(CN)と資源循環(CE)を意識的に統合した環境経営の方向性を示しています。

(3)味の素グループ|バイオサイクルと素材循環を核とした脱炭素戦略

引用:https://eri-kawasaki.jp/wp-content/uploads/2024/01/eco-business-forum-20th-03.pdf

味の素グループは、食品・バイオ素材を中心とした事業ポートフォリオを有する企業として、脱炭素と循環型資源利用を融合させるアプローチを明確に打ち出しています。以下に代表的な取り組みをまとめました。

取組内容概要
温室効果ガス削減目標の設定と進捗2030年までにScope1・2排出量を2018年比50%削減、2050年ネットゼロを目指す。Scope3(原料調達・物流など)も含めた削減を推進。
資源循環型アミノ酸発酵生産(バイオサイクル技術)発酵残渣や副生成物を再資源化し、農業残渣などを原料として再利用。廃棄物ゼロを目指す循環型製造プロセスを構築。
持続可能な調達・フードロス削減・プラスチック対策認証調達(FSC、RSPO等)の拡大、食品ロスを2025年までに2018年比50%削減目標。包装材にリサイクル素材を採用し循環性を強化。
サステナブルファイナンス・ESG資金調達脱炭素・資源循環を評価軸とするESG債やサステナブルファイナンスを活用。環境戦略を資金面からも支援。

これらを総合すると、味の素グループはアミノ酸発酵技術(バイオサイクル)という事業特性を活かし、循環素材化・持続可能調達・脱炭素の流れを一貫して構築する構造となっており、資源循環の取り組みが直接的にCO₂排出量削減(CN)に貢献する相乗効果の高い戦略を実行しています。

(4)Apple|サプライチェーン脱炭素と資源循環へのコミット

TKTK
引用:https://www.apple.com/jp/newsroom/2022/10/apple-calls-on-global-supply-chain-to-decarbonize-by-2030/

Appleは、世界中のオフィス・直営店・データセンターを含む自社の事業活動(Scope1・2)を100%再生可能電力で運用しており、サプライチェーン(Scope3)はその次の主要な脱炭素スコープと位置付けられています。Appleは2030年までにサプライチェーン全体をカーボンニュートラルにすることを目標に掲げ、以下の取り組みを推進しています。

取組内容概要
サプライヤーへの脱炭素要請・進捗管理サプライヤーにスコープ1・2の排出削減報告を義務化。200社以上がApple製品の製造に100%クリーン電力を使用することを確約。サプライチェーン全体の進捗を年次で監査。
クリーン電力プロジェクトへの投資・拡張ヨーロッパを中心に30〜300MW規模の再エネ発電プロジェクトを推進。自社オフィス・店舗・データセンターでは100%再生可能電力運用を達成済み。
供給企業支援:教育・技術支援プログラムサプライヤーやパートナー向けにeラーニングや研修を提供。再エネ導入や脱炭素技術の普及を支援し、サプライチェーン全体の能力向上を促進。

このように、Appleは自社の巨大なサプライチェーンに脱炭素圧力をかけることで、クリーン電力への移行(CN)を強制的に推し進めると同時に、リサイクル素材の採用や修理性の向上といった資源循環型(CE)の製造体制を間接的に誘導するという、脱炭素とサーキュラーエコノミーを複合的に推進する強力な枠組みを示しています。

(5)ANAグループ|運航最適化と低炭素燃料

引用:https://www.ana.co.jp/group/csr/environment/operating/

ANAグループは、航空業ならではの構造的ハードル(電動化の困難さなど)があるものの、脱炭素と循環型資源活用を統合する戦略を積極的に展開しています。

取組内容概要
中長期目標の設定2030年度までに2019年度比でCO₂排出量10%以上削減、2050年度カーボンニュートラルを目標。運航改善・技術革新・SAF導入など複数手段を組み合わせて推進。
運航最適化(燃料効率化)離着陸や飛行経路の最適化、地上走行中の片側エンジン停止、APU使用削減などを実施。機体軽量化による燃料消費削減も推進。
低炭素・持続可能な航空燃料(SAF)の導入2030年度までに燃料の10%以上をSAFに置換予定。CO₂回収・再利用型燃料やDACクレジット導入を通じて資源循環型の航空燃料を実現。
高効率航空機・技術改良B787やA320neoなど低燃費機の導入。リブレット加工やAeroSHARK表面技術などにより空気抵抗を軽減し、燃費性能を向上。

これらの取り組みは、航空機の運航という巨大なエネルギー消費構造を見据えており、運航効率の改善(リデュース)とSAFによる資源(CO₂含む)の循環型利用を軸に、脱炭素にとどまらない資源循環型の航空事業モデルへの転換を目指す先進的な例と言えます。

4.脱炭素経営における新潮流

サーキュラーエコノミーは、脱炭素と資源循環を結びつけ、製造・消費・廃棄のすべての段階で環境負荷を減らす仕組みとして注目されています。
さらに近年では、生態系や自然資本の再生を重視する「ネイチャーポジティブ」も新たな柱となりつつあります。

ここでは、これら3つの潮流を環境経営戦略の視点から整理します。

(1)脱炭素(カーボンニュートラル)

脱炭素(カーボンニュートラル)は、企業価値・調達競争力・金融評価に直結する経営課題として捉える必要があります。
政府は2050年カーボンニュートラル実現を掲げ、再エネ比率向上やGX推進法などを通じて企業の脱炭素経営を促進しています。これらを踏まえ、企業が実務で取り組むべきポイントは大きく3つあります。

ステップ取組内容
自社排出量の可視化とKPI設計電力・燃料・物流などのScope1〜3排出量を算定し、短期・中期目標を設定。
再エネ・高効率設備への転換太陽光・地熱・バイオマス等の再エネ導入、省エネ設備やZEB・EV化を推進。
バリューチェーン全体での削減とオフセット最適化調達・物流・販売・リサイクル段階まで排出削減を拡大し、残余分を吸収・除去。

脱炭素経営を事業戦略に活かすには、自社の強みと連動した削減ストーリーを描き、ステークホルダーに説明できる取り組みとして構築することが求められます。
高い実効性を示すためにも、中長期目線の目標設定が欠かせません。

【事例】Scope 3算定の精緻化と排出削減|住友林業

住友林業は、脱炭素経営を推進するにあたり、自社の事業特性を活かしたアプローチを取っています。特に、サプライチェーン全体の排出量、すなわちScope3の算定において、その精緻化に注力しています。具体的には、排出量の算定式に「物量のうち自社ではなく委託先が排出した物量の割合」という独自の要素を加えることで、より実態に即した正確な排出量を把握できるようにしました。この精緻な算定を通じて、削減効果の大きい「ホットスポット」を特定し、効果的な施策を展開しています。また、木材という「カーボンストック」を持つ企業の強みを活かし、調達段階(Scope 3)における低排出係数の資材への変更や、森林吸収量の活用を組み合わせ、事業の根幹と連動した排出削減ストーリーを構築しています。

参考:企業の脱炭素経営への取組状況|環境省

(2)サーキュラーエコノミー(循環型経済)

サーキュラーエコノミーは、脱炭素とも密接に関係しており、資源循環の推進により、原材料採取や廃棄処理時のCO₂排出を抑制できます。
企業では、以下のような取り組みを通じてサーキュラーエコノミーを事業の再構築戦略として捉えることが重要です。

取組領域主な実践内容
製品設計・開発長寿命化、モジュール設計、リサイクルを前提とした素材選定
ビジネスモデルリユース・シェアリング・サブスクリプションなどの循環型モデル導入
サプライチェーン連携サプライヤー・自治体・異業種との協働による循環ネットワーク形成
業種別展開例製造業:部品回収・再利用スキーム小売業:リユースプラットフォーム連携建設業:資材リサイクル・再生材調達

リサイクルや再資源化の仕組みを構築するとしても、自社内だけで完結させず、サプライヤーや自治体・異業種との協働を通じてた資源循環ネットワークを形成することが競争優位につながります。
今後は、製品やサービスの環境負荷を定量化するLCA(ライフサイクルアセスメント)や、リサイクル材使用率などの定量指標を公開する企業が、グローバル市場で高く評価される時代となるでしょう。

【事例】製品開発とリファービッシュを通じたサーキュラーエコノミー|パナソニック

パナソニックは、製品設計の段階から資源循環を組み込むことでサーキュラーエコノミーを実践しています。具体的には、セパレート型コードレススティック掃除機やドラム式洗濯乾燥機などの主要製品において、再生樹脂を積極的に使用し、リサイクルを前提とした設計を推進しています。これに加えて、顧客店舗設備や業務用機器に対してリファービッシュ(再生・修理)サービスやLED照明のリユースサービスを展開しています。これにより、新規資源の消費を抑制するとともに、機器の寿命を延長させ、製品ライフサイクル全体で廃棄物を減らし、資源効率を最大化するビジネスモデルを構築しています。

参考:サーキュラーエコノミー型事業の創出|パナソニック

(3)ネイチャーポジティブ(生物多様性)

ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは、人間活動によって失われた自然や生態系を「保全」するだけでなく、再生・回復させていくことを目指す国際的な概念です。
企業にとってネイチャーポジティブは、リスク管理と事業機会創出の両面を兼ね備えた経営テーマです。

自然資本(森林・水・土壌・生物多様性など)の劣化は、原材料の調達リスクや災害リスクを増大させる一方で、自然再生への貢献は新たなブランド価値や投資評価の向上につながります。

実務上は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく「自然資本リスクの把握・開示」を軸に、事業インパクトを定量化する動きが進んでいます。さらに、森林再生活動や湿地・海岸のブルーカーボン保全、企業敷地の緑化・ビオトープ整備など、事業領域と親和性の高い自然再生プロジェクトを選定・実行することが重要です。

資源循環で環境負荷を減らし、自然再生で戻す仕組みを組み合わせることで、企業全体としての環境正味プラス(Net Positive)を実現することが可能となるでしょう。

【事例】社有林を活用した生物多様性保全|三井物産

三井物産は、全国74か所、合計4.4万ヘクタールに及ぶ広大な社有林を「三井物産の森」として保有・管理し、事業活動の基盤となる自然資本の保全と再生にコミットしています。同社は、持続可能な森林管理の国際的な証明であるFSC認証とSGEC認証の両方を取得しており、この広大な森林を「循環林」「天然生誘導林」などの利用目的に応じて区分しています。中でも、森林全体の約10%を「生物多様性保護林」と定め、積極的な保全活動を行うことで、生態系の再生と維持に貢献しています。このように、三井物産は事業活動で利用する資源である森林を、単に「使う」だけでなく、長期的な視点から「保護・回復」させることで、ネイチャーポジティブ経営を実践しています。

参考:三井物産の森|三井物産

5.リニアエコノミーからの転換が求められる理由

これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とするリニア型の経済モデルは、環境負荷の増大に加えて、資源の価格高騰や供給リスクを引き起こし、企業経営そのものの持続可能性を脅かしています。

ここでは、リニアエコノミーからの転換が求められる理由を解説します。

(1)環境破壊と資源リスクの深刻化

リニアエコノミーでは人間活動の拡大により、気候変動・生物多様性の喪失・資源の過剰利用の連鎖的な進行によって、豪雨災害や猛暑のリスクが高まっています。

こうした異常気象の頻発は工場の操業停止や物流網の寸断を引き起こし、原材料の枯渇や価格変動は調達コストを押し上げます。

地球温暖化の進行と異常気象の関係について科学的に明確化するのは難しいのの、温暖化が災害リスクを高めている傾向は明らかと指摘されています。

参考:https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/pdf/1_1.pdf

【事例】再エネ転換と物流強靭化を通じた環境リスク対応|森永乳業

森永乳業は、気候変動とサプライチェーンのリスクに対応するため、環境負荷低減と事業継続性の確保を統合した施策を推進しています。具体的には、国内の全生産拠点で、購入する電力を実質再生可能エネルギー由来に100%切り替える取り組みを進めており、さらに利根工場にはメガソーラー(大規模太陽光発電設備)を導入することで、年間約570トンものCO₂削減を実現しています。これにより、電力コストや化石燃料依存による排出リスクを低減しています。また、物流面においては、豪雨や猛暑などの異常気象による道路網寸断リスクに備え、盛岡・仙台~神戸間で流動食輸送のモーダルシフトを実施しています。これは、トラック輸送から鉄道コンテナを活用したラウンド輸送へと転換することで、輸送ルートを多角化し、製品の安定供給を確保する強靭なサプライチェーンの構築に貢献しています。

参考:資源と環境|森永乳業

(2)人口増大がもたらす資源需要の逼迫

国連の世界人口推計(2024年版)によれば、世界人口は今世紀中にピークを迎えると見込まれており、長期的には1,030~1,040億人前後に達する可能性が示されています。
人口増加は特に発展途上地域で顕著で、都市化と消費水準の上昇を伴って、食料・水・エネルギー・金属資源などの需要が急激に拡大すると予想されます。

このような環境下でリニア型経済モデルは、以下のような資源の逼迫リスクが現実味を帯びてきます。

影響企業へのリスク
金属・鉱物資源の供給不足スマートフォン・EVなどで使用されるレアメタルやレアアースの需要が急増供給不足・価格高騰によるコスト上昇、製造遅延
食料・水・土地資源の競合激化農地拡大、淡水資源の枯渇、土地劣化などが進行農産物や原料素材の調達難、価格変動リスク
インフラ整備と環境負荷の増大都市化による住宅・交通・エネルギー網への投資拡大大量資源投入による環境負荷・CO₂排出の増加
資源価格変動・調達リスク世界的な需要増加により価格変動が激化調達コスト・在庫リスクの増大、経営計画の不確実性

人口増大は企業の調達・生産・サプライチェーン全体に直結するリスクであり、資源循環や再利用の仕組みを導入することでしか持続的な経営は実現できません。

参考:https://www.ipss.go.jp/international/files/WPP2024_Hayashi.pdf

【事例】製鋼煙灰からの亜鉛回収を通じた資源循環|住友金属鉱山

住友金属鉱山は、資源の枯渇リスクと廃棄物による環境負荷リスクの両方に対応するサーキュラーエコノミーの取り組みとして、製鋼煙灰からの亜鉛回収を行っています。これは、電気炉での製鉄過程で発生する製鋼煙灰を主原料として利用し、コークスなどを用いて処理(還元焙焼)した後、揮発させて回収した亜鉛を含むダストを湿式精製することで、亜鉛(粗酸化亜鉛)を生産するものです。このプロセスにより、本来は廃棄物として処理される物質から有用な金属資源を回収し、新規鉱物資源への依存度を低減させるとともに、資源逼迫リスクの緩和に貢献しています。

参考:非鉄金属の安定供給とサーキュラーエコノミーへの貢献

(3)サーキュラーエコノミーによる企業価値の向上

サーキュラーエコノミーの導入は、環境・経済・社会の3側面から持続可能な成長を支える仕組みとして注目されており、国内外の投資家・顧客・行政からの信頼向上にもつながります。

観点期待できる効果
経済的価値資源の再利用・再設計によるコスト削減、原材料価格の安定化
環境的価値CO₂排出削減、廃棄物削減などESG評価の向上
社会的価値サプライチェーン全体での透明性・責任ある調達
イノベーション価値再生素材・リユース設計による新市場・新製品開発

このように、サーキュラーエコノミーは脱炭素・資源循環・企業競争力を同時に高める成長戦略です。

【事例】給水給湯樹脂配管の水平リサイクル|積水ハウス、ブリヂストン

積水ハウス株式会社と株式会社ブリヂストンは、建設・製造という異なる業界の強みを連携させ、給水給湯樹脂配管の水平リサイクル(クローズドループリサイクル)を日本で初めて開始しました。

積水ハウスは、独自の「積水ハウスゼロエミッションシステム」により、新築施工時などに排出される廃棄物を全国の「資源循環センター」で回収・分別し、リサイクルを進めています。しかし、従来、給水給湯樹脂配管の内管はリサイクルの難しい素材が使われることが多く、主に熱エネルギーとして再資源化されていました。

一方、ブリヂストンは、給水給湯樹脂配管の内管にマテリアルリサイクルが可能な熱可塑性樹脂(ポリブテンパイプ)を使用しており、製造工程で出る端材は再利用していましたが、施工時に出る端材の回収・リサイクルには課題がありました

今回の協創では、積水ハウスが全国の資源循環センターで回収したブリヂストン製ポリブテンパイプの端材を、再生材メーカーでリサイクルペレット化し、ブリヂストンに還元して再び同じ給水給湯樹脂配管の製造に使用する仕組みを構築しました。これにより、積水ハウスの新築施工時に排出される端材の70%超がクローズドループリサイクルされるようになり、他の用途にリサイクルされる端材を含めると、全体でほぼ100%がマテリアルリサイクルされることになります(素材重量比)。

この取り組みは、両社の課題を相互に補完し、建設業界と製造業界をまたいだ資源循環ネットワークを確立することで、原材料コストの安定化廃棄物処理コストの削減といった経済的価値と、資源の有効活用という環境的価値を同時に高めるサーキュラーエコノミーの先進事例となっています。

参考:積水ハウスとブリヂストン、日本初となる給水給湯樹脂配管の水平リサイクルを開始

6.まとめ

サーキュラーエコノミーと脱炭素は、いずれも持続可能な社会を実現するための柱であり、相互に補完し合う関係にあります。

脱炭素は温室効果ガス排出を抑制する結果目標であり、サーキュラーエコノミーはその実現を支える手段・仕組みとして機能します。

今後企業が競争力を維持するためには、サーキュラーエコノミーの概念に基づく製品設計・サプライチェーン・ビジネスモデル全体を循環型へ再構築することが求められるでしょう。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。