サステナビリティで選ばれる企業になるには?成功事例から学ぶ導入ポイント

サステナビリティは、企業が持続的に成長し、社会から選ばれるための必須戦略です。環境や社会への配慮は、投資家・取引先・顧客・従業員からの評価を左右し、競争力に直結します。この記事では、その重要性と導入ステップ、国内外の成功事例を解説し、自社に活かせる実践ポイントを紹介します。

目次

1.サステナビリティの取り組みは企業競争力を左右する必須戦略

環境や社会への配慮はもはや付加価値ではなく、企業競争力を左右する前提条件です。ここでは、なぜサステナビリティが必須とされるのか、その背景と具体的な要因を解説していきます。

(1)サステナビリティ対応は選ばれる企業になるための必須条件

サステナビリティは、もはや一時的なCSR活動ではなく、企業が市場で生き残るための前提条件です。取引先や消費者は責任ある姿勢を企業選定の基準にしており、投資家もESG評価を重視しています。その結果、以下のように対応の有無が資金調達や株価に直結するケースも増えています。

視点適切に対応した場合軽視した場合
市場競争責任ある企業として選ばれる顧客離れや信頼低下を招く
投資家評価ESG投資の対象となり、資金調達が有利に株価下落や投資機会の損失
法規制コンプライアンス遵守によりリスク回避違反による制裁やブランド毀損

このように、サステナビリティは社会的責任を果たすために留まらず、競争優位性を維持し、長期的に成長するための必須戦略となっています。

(2)投資家・取引先・顧客・従業員から選ばれる企業になるための評価軸

サステナビリティは、投資家・取引先・顧客・従業員といった多様なステークホルダーが企業を評価する際の重要な基準となっています。

ステークホルダー評価の視点
投資家ESG投資の拡大により、持続可能な取り組みが資金調達や株価に直結する
取引先サプライチェーン全体の責任が重視され、環境や人権への配慮が取引条件となる
顧客エシカル消費の広がりにより、サステナブルな企業への支持が強まっている
従業員理念に共感できる企業で働きたい意識が高まり、採用や定着に影響を及ぼす

こうした期待に応えるには、サステナビリティを一時的なCSR活動ではなく経営戦略として組み込み、長期的な視点で事業を進めることが不可欠です。その積み重ねが信頼を生み、企業の持続的成長を支える基盤となります。

参考:ESG投資|年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)

2.企業におけるサステナビリティの取り組み事例

サステナビリティ経営を自社に根付かせるには、先行企業の取り組みから学ぶことが有効です。
ここでは、企業におけるサステナビリティの取り組み事例を紹介します。

(1)グローバル企業の先進事例

①IKEA:循環型ビジネスモデル

いくつものイケアの旗に囲まれた屋外で、チェアを運んでいる人。
引用:https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/climate-environment/transitioning-towards-a-circular-business-pub40dc71c0/

IKEAは、家具の修理・再販サービスや、使用済み製品の回収・リサイクルプログラムがあります。これにより、廃棄物削減と資源の有効活用を実現しています。

さらに、再生可能素材の活用や、分解・再利用しやすい設計を導入し、持続可能な消費と生産を促進しています。こうした仕組みは、環境への配慮と顧客満足の双方を高めるモデルとして注目されています。

参考:https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/climate-environment/transitioning-towards-a-circular-business-pub40dc71c0/

②ユニリーバ:持続可能な生活を普及

引用:https://www.unilever.co.jp/sustainability/sdgs/

ユニリーバは「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を掲げ、環境負荷の低減と人々の健康・衛生の向上、そしてより良い暮らしの実現を目指しています。
この方針は製品開発、サプライチェーン、マーケティングに至るまで徹底されており、事業活動全体を通じて持続可能な消費と生産を推進しています。

特に、プラスチック使用量の削減、水資源の保全、女性のエンパワーメントといった重点分野で具体的な目標を設定し、達成に向けた取り組みを進めている点が特徴です。これにより、社会的責任を果たすだけでなく、企業ブランドの強化にもつながっています。

参考:https://www.unilever.co.jp/sustainability/sdgs/

③ユニクロ(ファーストリテイリング):衣料品リサイクル

服の廃棄をできるかぎり減らす着なくなった服に新たな役割を与える服の原料や資材として再利用する
引用:https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo/

ユニクロは回収した衣料品を難民支援や生活困窮者支援に活用するほか、新たな製品の素材として再生され、資源の有効活用につながっています。

この取り組みは社会貢献と環境配慮を両立させるものであり、ブランドイメージの向上だけでなく、顧客とのエンゲージメント強化にも効果を発揮しています。

参考:https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo/

④トヨタ:環境負荷低減とモビリティ革新

トヨタフィロソフィー
引用:https://global.toyota/jp/sustainability/

トヨタは、自動車の電動化をリードする存在として、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)といった多様な技術の開発と普及を推進し、CO₂排出量削減に大きく貢献しています。以下の動画では、トヨター自動車が開発した液体水素エンジン車についてご確認いただけます。

さらに、コネクテッド技術を活用したMaaS(Mobility as a Service)の展開や、自動運転技術の開発を進めることで、効率的で持続可能なモビリティ社会の実現を目指しています。CASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)への積極的な投資もその一環です。

参考:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/39371976.html

⑤Allbirds:環境配慮素材と透明性

Allbirdsは、天然素材やリサイクル素材を活用したシューズやアパレルを展開し、製品のライフサイクル全体で環境負荷の低減に取り組んでいます。

素材の調達から製造、輸送に至るまで、サプライチェーン全体の透明性を徹底し、環境への影響を開示している点が特徴です。

この姿勢により、消費者は環境に配慮した商品を選びやすくなり、企業としての信頼性も高めています。

資料:https://cdn.allbirds.com/image/upload/v1628100851/marketing-pages/Allbirds_2020_Sustainability_Report_JP.pdf

(2)中小企業の先進事例

①株式会社 Paddy Field:

引用:https://www.smrj.go.jp/regional_hq/kinki/sme/sdgs_cn/fbrion00000063yc-att/a1700039197643.pdf

株式会社 Paddy Field(2015年設立)の特許技術「TAKUMI」は、接着剤を一切使用せずにアクリル同士をジョイントできる画期的な技術です。

その他にもPaddy Fieldは2019年のSDGs勉強会をきっかけに、自社製品がSDGsに直結している気づきを得られ、同社の取り組みによって以下のゴールに貢献しています。

SDGs目標内容貢献の具体例
目標11 住み続けられるまちづくりを災害時にプライバシーを守る仕組みを提供避難所でアクリルパーテーションを組み立て、簡易的な個室を確保。不使用時は分解して保管可能
目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう新しい応用分野を開拓家庭用インテリア、教育用パズル、玩具など多用途展開により産業利用の幅を拡大
目標12 つくる責任 つかう責任資源循環を前提とした設計接着剤を使わない単一素材でリサイクル容易。6面体ボックスでは容積94%削減で保管・輸送可能
目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに輸送効率を高め環境負荷を軽減分解式で大量輸送が可能となり、トラック輸送の排出ガス削減に寄与

この独自技術と上記のような取り組みは、SDGsと事業成長を両立させる好例であり、プラスチック製品メーカーにおける新たな挑戦として高く評価されています。

②谷水加工板工業株式会社

引用:https://www.smrj.go.jp/regional_hq/kinki/sme/sdgs_cn/fbrion00000063yc-att/a1700039197643.pdf

谷水加工板工業は、ISO9001との連動や5S活動を徹底し、社員から積極的な意見が出るようになり、朝礼を単なる指示伝達の場からアイデアを共有する意見交換の場へと進化させました。谷水加工板工業株式会社とSDGsの関連する取り組みは以下のとおりです。

SDGs目標取り組み内容貢献の具体例
目標4 質の高い教育をみんなに社員教育・人材育成の強化全社員参加の研修、ISOや5S活動の徹底、朝礼を意見交換の場に転換
目標5 ジェンダー平等を実現しよう男女平等な働き方の推進賃金・発言権に差を設けず、女性を工場・事務・企画に配置
目標8 働きがいも経済成長も働きやすい職場づくり託児室無料券の提供、リモートワーク導入、福利厚生の充実
目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう防音技術を活用した新製品開発持ち運べる集中デスク「SEREN desk」の開発、コロナ禍のニーズに対応
目標13 気候変動に具体的な対策を災害対応製品の開発組み立て式パーテーションを開発し、避難生活の尊厳を守る
目標3 すべての人に健康と福祉を災害関連死の防止に貢献「軽い・簡単・女性でも」をコンセプトとした避難所向け製品提供

たとえば、「SEREN desk」は、持ち運び可能な集中デスクとして注目されており、自宅やコワーキングスペースでの集中環境を簡単に確保でき、コロナ禍の新たな社会課題に応えています。これにより新しい市場価値を創出し、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に寄与しています。

③株式会社セイバン

引用:https://www.smrj.go.jp/regional_hq/kinki/sme/sdgs_cn/fbrion00000063yc-att/a1700039197643.pdf

株式会社セイバンが本格的にSDGsを意識し始めたのは2020年からで、役員や社員の理解を深めるために『マンガでわかるSDGs』を配布し、勉強会を実施しています。CSRとSDGsの違いを明確にし、自社の活動をSDGsと結びつける取り組みを進めました。

さらに、商品企画にもSDGsの視点が反映されおり、2021年のランドセルカタログでは、従来の「男の子用/女の子用」という分類を廃止し、モデル名ごとにデザインを紹介しています。

性別で選ぶのではなく、好みや個性で選べるようにしたことで、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」への挑戦となりました。一方で、検索ニーズへの対応など新旧のバランスを取る課題にも直面しています。

3.企業がサステナビリティに取り組むメリット

サステナビリティへの取り組みは、企業にとって社会的責任を果たすためだけではなく、競争力を高めるための経営戦略そのものです。投資家・顧客・従業員といった多様なステークホルダーからの信頼を得ることが、企業の持続的な成長を支える基盤となります。
ここでは、サステナビリティがもたらす具体的なメリットについて解説していきます。

(1)企業価値・ブランドイメージの向上|面白い取り組みも紹介

サステナビリティへの積極的な取り組みは、企業が社会的責任を果たしている証として評価され、消費者や投資家からの信頼を獲得する大きな要因となります。

環境問題や人権尊重といった社会課題に向き合い、その姿勢を発信することは、競合との差別化につながります。結果として顧客ロイヤルティが高まり、長期的な関係構築にも寄与します。

さらに、従来のCSR報告にとどまらず「面白い」「共感できる」と感じさせる工夫が、ブランドイメージの強化に効果的です。例えばヤマトグループは、自社のカーボンニュートラルへの取り組みを動画でユニークでわかりやすく紹介しています。

一般消費者からも「面白い」と評価され、幅広いステークホルダーに訴求する事例として注目されています。

(2)ビジネスチャンスの創出|環境問題への取り組みを新ビジネスの創出に

サステナビリティへの取り組みは、単に環境リスクを回避するだけでなく、新しい市場や製品・サービスの創出につながります。再生可能エネルギーやエコ素材を活用した商品開発は、新たな需要を取り込み、企業の成長ドライバーとなります。

引用:https://www.aeon.info/sustainability/

実際に、イオングループでは持続可能な調達方針を掲げ、森林資源や水産資源を守るための取り組みを展開しています。例えば、MSC・ASC認証を取得したサステナブルシーフードを積極的に販売し、環境に配慮した調達と消費者ニーズを両立させています。また、パーム油や紙製品の調達においても、森林破壊を回避する認証品の利用を進め、グローバルなサプライチェーン全体で環境負荷を低減しています。

このように、環境問題への対応を経営に組み込むことは、新市場の開拓やブランド価値の向上に直結し、長期的な競争力強化に大きく貢献します。

【事例】使い捨てをなくす循環型プラットフォーム|テラサイクル

テラサイクル社の「LOOP」は、従来の使い捨て容器をなくし、繰り返し使えるリユース容器で日用品を販売するサービスです。P&Gやネスレといった大手企業と提携し、シャンプーや洗剤、食品などを耐久性のある容器で提供し、使用後に回収・洗浄して再利用する仕組みを構築しました。環境負荷を減らすと同時に、消費者の利便性も損なわないこのサービスは、循環型経済における新たな市場を創出しています。

参考:Loop公式サイト|テラサイクル

(3)人材の採用・定着と社員エンゲージメントの強化

自社の活動が社会課題の解決につながると実感できることは、仕事へのモチベーションを高める大きな要因です。

その結果、社員のエンゲージメントは強まり、離職率の低下や優秀な人材の定着につながります。さらに、このような姿勢は企業文化の形成にも寄与し、長期的に健全で魅力的な組織づくりを後押しします。

【事例】リコーの主な取り組みと効果|リコー

  1. 環境目標と協調した人事評価 リコーは、全社員の業績評価項目に環境目標(GHG排出量削減など)を組み込んでいます。これにより、日々の業務が企業の環境目標達成に直結しているという意識が醸成され、社員は自身の仕事が社会に貢献していると実感できます。
  2. SDGsキーパーソンの活動 リコージャパンでは全国の支社および部門にいる約740名のSDGsキーパーソンが活動しています。社内へのSDGs/ESGの浸透、啓発、活動推進や、お客様のSDGsへの貢献、ESGの取り組みを支援しています。この取り組みを通じて、社員は事業創造に挑戦する機会を得て、企業への貢献意欲と帰属意識を高めています。

参考:人材育成|リコー

参考:SDGs/ESGの取り組み事例|リコー

(4)投資家・取引先から選ばれる企業へ

サステナビリティに積極的な姿勢を示す企業は、優秀な人材を惹きつけやすくなります。
社会的意義のある仕事に関われることは、就職や転職を考える人材にとって大きな魅力となり、採用活動での競争力を高めます。

同時に、投資家も持続可能性を重視した企業を高く評価しています。ESG投資の拡大により、環境・社会に配慮した経営は資金調達や株価評価に直結し、長期的な企業価値の向上につながります。

サステナビリティは社会的責任にとどまらず、企業の成長と市場での競争優位を支える経営戦略そのものです。

【事例】投資家から選ばれる企業|NTTグループ

NTTは、サステナビリティ経営を明確に掲げ、革新的な環境・エネルギー技術「IOWN(アイオン)」を軸に、温室効果ガス排出量の削減目標を策定しています。

  • 取り組み:
    • ESG評価機関からの高評価:NTTは、MSCIやCDPなど複数のESG評価機関から高い評価を獲得し、国内外の主要なESG指数に組み入れられています。
    • グリーンボンド(環境債)の発行:2020年には、日本の通信事業者として初めて、環境技術開発などに使途を限定したグリーンボンドを発行。これにより、ESG投資家からの資金調達を成功させています。

参考:サステナビリティ|NTTグループ

4.サステナビリティ導入の実践ステップ

サステナビリティを経営の中核に据えるには計画的かつ段階的な導入が求められます。ここでは、その具体的なステップを解説していきます。

(1)現状分析と課題の特定

サステナビリティ導入の第一歩は、自社の事業活動が環境や社会に与える影響を正確に把握することです。これにより、解決すべき課題と、将来的な成長につながる機会を明確にできます。以下のような調査・分析が有効です。

分析項目内容
CO₂排出量の可視化自社やサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量を定量的に把握し、削減目標の基盤を整える
サプライチェーン全体の調達・物流プロセスの把握調達から輸送までの流れを可視化し、環境負荷や人権リスクを洗い出す
資源利用や廃棄物発生量の測定原材料使用量や廃棄物の種類・量を把握し、循環型経営に向けた改善ポイントを明確化する

こうしたデータを基に、自社のリスクと改善余地を特定し、優先度の高い課題を整理することが重要です。すでに多くの企業が「環境問題への取り組み事例」としてこれらを実施しており、中小企業にとっても参考となる実践的なステップです。

【事例】サプライチェーン全体のCO₂排出量を可視化

富士通は、サプライヤー12社と協力して、製品単位でのCO₂排出量データを共有するデジタルプラットフォームを構築しました。これにより、原材料の調達から製造、輸送に至るサプライチェーン全体の環境負荷を正確に把握しています。この取り組みは、自社だけでなくサプライヤーと連携して削減目標を達成し、サプライチェーン全体でのサステナビリティ経営を推進する好事例です。

参考:カーボンニュートラルに向けサプライヤー12社と製品のCO2排出量を連携|富士通

(2)目標設定と実行計画の策定

現状分析で特定した課題に対しては、具体的で測定可能な目標を設定することが重要です。数値で示すことで進捗を把握しやすくなり、社内外への説明責任も果たせます。以下のような流れで実行計画を策定すると効果的です。

ステップ内容
数値目標の設定例:「2030年までにCO₂排出量を30%削減」など、具体的かつ測定可能なKPIを設定
技術投資の検討再生可能エネルギー導入、省エネ設備、環境配慮型製品の開発などを計画
オペレーション改善調達や物流の効率化、廃棄物削減、従業員の行動変容プログラムを導入
ロードマップ化年度ごとの達成目標と施策を明確化し、効果測定の仕組みを組み込む

このように、理想論にとどまらず「実行可能で測定できる計画」として落とし込むことで、持続的に成果を積み上げることができます。

【事例】長期ビジョンとロードマップに基づいたGHG削減|AGC

ガラスや化学品を手掛けるAGCは、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げ、具体的なロードマップを策定しています。

  • 中間の数値目標: 「2030年までに、CO₂排出量を2019年比で30%削減」
  • 実行計画:
    1. 技術投資: 高効率な溶解炉の開発や代替燃料の導入など、製造プロセスにおける技術革新に大規模投資。
    2. エネルギー転換: 再生可能エネルギーの導入を加速し、事業活動で消費する電力の再生可能エネルギー比率を高める。
    3. ロードマップ化: 達成状況を毎年公開し、進捗を管理しています。

参考:地球環境を守り、資源を活かす〜持続可能な地球環境の実現への貢献〜|AGC

(3)ステークホルダーとの連携|取り組みを個人にも波及させる仕組み

サステナビリティ戦略を実効性のあるものにするには、組織全体の取り組みを個人レベルにも波及させ、生活や日常行動に根付かせることが持続的な成果につながります。

ステークホルダー主な取り組み例
社員省エネ・リサイクル活動を日常業務に組み込み、個人の意識を高める
取引先認証素材の利用や共同改善を通じて、各担当者が責任ある判断を実践
顧客サステナブル商品の利用を促進し、消費者一人ひとりの行動変容を支援
地域社会教育活動やイベントを通じ、住民個人の参加を促し地域全体へ広げる

このように「組織から個人へ」と広がる仕組みを整えることで、社会課題の解決を共に推進し、企業の信頼性と持続的成長を支える基盤が形成されます。

【事例】地域社会と連携した水育活動|サントリー

サントリーグループは、次世代に豊かな水を届けるため、全国の森で「天然水の森」を育む活動を行っています。社員だけでなく、地域住民や小学生を対象とした体験型プログラム「水育(みずいく)」を提供し、自然の恵みを守る大切さを伝えています。

  • ポイント:企業の事業基盤である「水」をテーマに、地域や子どもたちと継続的に連携することで、社会全体での環境意識の向上に貢献しています。

参考:サントリー次世代環境教育「水育」

5.混同しやすい用語の整理

サステナビリティに関連する概念は多く存在し、混同されやすい点が課題となります。
ここでは、それらの違いを整理し、サステナビリティ経営を進める上でどのように活用できるのかを解説していきます。

(1)CSRとの違い

CSR(企業の社会的責任)は、企業が社会に貢献する活動を指す側面が強く、寄付や地域活動、ボランティアなどが代表例とされます。

一方で、サステナビリティは経営戦略そのものに組み込まれる概念です。両者の違いは以下の表で詳しくご確認いただけます。

項目CSR(企業の社会的責任)サステナビリティ
位置づけ社会貢献活動の一環経営戦略の中核
主な内容寄付、地域活動、ボランティアなど事業活動全体を通じた環境・社会課題の解決
目的社会に良いことをする社会課題の解決と企業の成長を両立
企業への影響直接的な利益に結びつきにくい長期的な競争力や企業価値の向上につながる
ステークホルダーの評価「善意の活動」として評価投資家・顧客・従業員などから選ばれる基準

つまり、CSRが「社会に良いことをする」取り組みであるのに対し、サステナビリティは「社会課題の解決を企業の成長につなげる」包括的なアプローチである点に大きな違いがあります。

(2)SDGsとの関係性

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連で採択された国際目標で、「誰一人取り残さない」持続可能でより良い世界の実現を目指しています。17のゴールと169のターゲットで構成され、環境・社会・経済の幅広い課題を網羅しています。
サステナビリティとSDGsの違いは以下のように整理できます。

項目サステナビリティSDGs
定義企業活動を通じて環境・社会・経済のバランスを取り、持続的な成長を目指す経営姿勢国連が2015年に採択した、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標
範囲各企業が自社の事業戦略や活動全体に組み込む枠組み17のゴール・169のターゲットという国際的に共有された目標体系
役割経営戦略の方向性そのものを示すサステナビリティの実践状況を測る具体的な指標・羅針盤
活用方法事業計画やイノベーション、リスク管理、ブランディングなどに統合自社の活動をどのゴールに貢献できるかをマッピングし、進捗管理や報告に活用
評価投資家・顧客・従業員から「持続可能性を経営にどう組み込んでいるか」で評価ESG評価や統合報告書などで具体的な達成度を示す基準

企業は、自社の事業活動と関連性の高いゴールを選び、その達成に向けて具体的な取り組みを推進することが求められます。SDGsを指針とすることで、サステナビリティ戦略に明確な方向性が生まれ、進捗を客観的に評価することが可能になります。

参考:中小企業に必要なSDGsとCSRの関係|メリットや事例をわかりやすく解説|リコー

6.まとめ

サステナビリティ経営は、もはや社会貢献活動ではなく、企業が持続的に成長し、多様なステークホルダーから選ばれるための不可欠な経営戦略です。環境・社会・経済の3つの側面を統合的に捉え、自社の事業活動に落とし込むことで、企業価値の向上、新たなビジネスチャンスの創出、そして優秀な人材や投資家の獲得へと繋がります。

監修

早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。