急速な市場変化や技術革新に直面する現代では、事業転換は企業存続と成長の両立に欠かせない戦略です。従来の成功体験に固執することはリスクとなり得ますが、環境変化を先取りし、自社の強みを再定義して新たな事業に挑戦することで、新市場の獲得や競争優位の確立につながります。
この記事では、事業転換を成功に導く戦略的アプローチと、成果を上げた企業の事例、そこから得られる学びを解説します。
1.事業転換とは?成功事例が注目される背景

これまでの事業だけに依存していては成長が難しいため、持続的な競争力を確保するためには、事業転換が欠かせません。
まずは、そもそも事業転換とは何を指すのか、その定義と基本的な考え方を整理する必要があります。ここでは、事業転換の定義や注目される背景を解説します。
(1)事業転換とは?定義と基本的な考え方
事業転換とは、企業がこれまでの事業を見直し、新たな分野に挑戦する経営戦略のひとつです。一般的には既存事業の縮小や撤退を伴うケースもあり、新規事業の追加や多角化とは異なり、企業の存続や成長を左右する大きな転機となります。
経済産業省の定義によれば、事業転換とは「新たな製品やサービスを提供することで、主たる業種を変えずに、主たる事業を変更すること」を指します。ここでいう「主たる業種」「主たる事業」は、総務省の日本標準産業分類に基づいて区分され、直近決算期における売上高構成比が最も高い産業が基準となります。
| 要件 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 製品等の新規性要件 | 新しい製品やサービスを製造・提供すること | 単なる改良や既存製品の延長ではなく、新規性が求められる |
| 市場の新規性要件 | これまで参入していなかった新しい市場に進出すること | 既存市場の延長ではなく、新規市場での展開が必須 |
| 売上高構成比要件 | 3~5年後の事業計画において、新たな事業の売上高が最も高い割合を占めること | 新分野が将来的に主力事業となる計画を立てる必要がある |
つまり事業転換とは、単なる方向転換ではなく、新規性と成長性を備えた計画性ある挑戦であり、企業が持続的に競争力を確保するための重要な経営判断だといえます。
参考:https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/shishin_tebiki.pdf?0515
参考:事例から学ぶ!「新事業展開」|ミラサポplus!(中小企業庁)
参考:ビジネスモデル転換事業の補助金で採択された事例を紹介します|神奈川県
(2)成功事例が注目される背景
事業転換の成功事例が注目される背景には、少子高齢化や人口減少、デジタル技術の進展、グローバル競争の激化などにより、従来の収益構造だけでは持続的な成長を維持することが困難になっていることが挙げられます。
また事業再構築補助金をはじめ、事業転換に関する制度的要件が整備されていることも、成功事例が広く取り上げられる理由の一つです。
さらに製品や技術だけでなく、事業の仕組みそのものを革新できた企業ほど、新しい顧客価値を生み出し、模倣されにくい競争優位を築くことが可能です。
このように、社会的要因と制度的支援、そして競争優位性の確立が重なり合うことで、事業転換の成功事例は強い関心を集めています。
参考:[関西おもしろ企業事例集]KIZASHI|経済産業省近畿経済産業局
(3)事業転換の代表的なアプローチ
事業転換を成功させるには、自社の強みや資源を活かした戦略的なアプローチが不可欠です。
企業が採用しやすい代表的なアプローチには次のようなものがあります。
| アプローチ | 特徴 | 代表的な事例イメージ |
|---|---|---|
| 新分野展開型 | 既存の技術やノウハウを活かし、異なる市場や用途に応用する方法 | 自動車部品メーカーが医療機器分野に進出 |
| 業態転換型 | 提供方法や収益モデルを抜本的に変える方法 | 飲食店がデリバリーやEC販売にシフト |
| 事業再編型(ポートフォリオ転換) | 不採算部門を縮小・撤退し、成長分野へ経営資源を集中させる方法 | 大企業が成熟事業を整理し、新エネルギー分野へ投資 |
| 発想の転換型 | 既存の枠組みを超え、新たな価値提供の仕組みを構築する方法 | 製品販売から「サービス化」「サブスクリプション化」へ |
成功事例に共通しているのは、自社の強みを再定義し、それを新しい市場や仕組みに適合させている点です。上記のアプローチはいずれも、事業の仕組み全体を見直す点に特徴があります。
【事例】段ボール製造から物流請負への転換|パック・ミズタニ
この企業は、元々自動車部品向けの段ボール製造が主力事業で、自動車メーカー向けの補給部品の包装・梱包・庫内物流請負を並行して行っていました。
しかし、顧客の現地拠点新設による輸出向け段ボールの減少や、顧客の内製化による物流請負事業の売上減に直面しました。
そこで、既存事業を縮小し、「ハコ」(段ボール)を作る事業から「ハコブ」(物流)のノウハウを活かした庫内物流事業を本格的な主力事業へと拡大。
資材の入出庫管理、梱包、組立て、在庫管理までを担うサプライチェーン領域に進出しました。
これは、既存事業の技術(梱包)を応用し、ビジネスの主軸を製造からサービスへと転換した「事業転換型」の好事例であり、新たな収益源の確保に成功しました。
2.事業転換に成功した企業事例15選|大手・中小で紹介

(1)大手企業
①富士フイルム:写真フィルムから医療・高機能材料へ

富士フイルムは、かつて「写真フィルム」の製造が主力事業でしたが、デジタルカメラやスマートフォンの普及により写真フィルム市場が縮小する中、新たな市場へ積極的に参入する必要性がありました。この動きは、事業転換の「市場の新規性要件」に合致します。
同社はフィルム製造で培った「精密塗布」「製膜技術」「機能性分子」のノウハウを応用し、ディスプレイやタッチパネル、半導体材料、機能性フィルムなど、精度と機能性が要求される産業分野での製品開発に参入しました。特に、液晶・有機ELディスプレイ用の反射防止フィルムや、半導体製造に用いられるフォトレジスト材料、さらに医療分野の検査薬や産業用途の圧力測定フィルムなどは、従来技術を新市場に展開した代表例といえます。
また、ディスプレイ・半導体・医療といった複数の成長領域にわたって事業を展開することでリスク分散を図り、安定的な成長基盤を確立しています。こうした既存技術の応用と複数市場への展開により、富士フイルムは新たな競争優位を築き、事業転換の代表的な成功例とされています。富士フイルムの成功モデルは、「自社の核となる技術(コアコンピタンス)を棚卸し、成長市場へ転用する」という、国が中小企業に求める事業転換の模範といえます。
参考:https://www.fujifilm.com/jp/ja/about/corporate/field/highly-functional
②日立造船:造船からインフラ・環境分野へ

日立造船は、市場変化や競争激化を背景に、造船で培った重機・構造技術やプラント設計のノウハウを活かし、「環境・プラント」「機械」「社会インフラ・防災」へと事業をシフトしました。これは「製品・市場の新規性要件」に合致する典型的な事業転換です。
ごみ焼却発電や海水淡水化プラント、防災インフラなど、社会課題解決に直結する事業を国内外で展開し、需要拡大につなげています。2018年には「SDGs推進方針」を策定し、企業理念とSDGsを一体化。グリーンボンド発行による資金調達など、環境・社会課題への対応を強化しました。
こうした取り組みにより、日立造船は産業構造の変化に対応するだけでなく、循環型社会のソリューションプロバイダーとして新たな競争優位を築いています。
この抜本的な事業の転換を象徴するものとして、同社は2024年10月に商号をカナデビア株式会社へと変更し、長年親しまれた「造船」の名を外しました。これは、企業のアイデンティティと主たる事業を環境・インフラへ完全に移行させ、国内トップクラスのごみ焼却プラント技術を武器にグローバル市場での地位を強化する、「事業再編型」の成功事例と言えます。
参考:https://www.asahi.com/ads/sdgs2030/pickup/hitachi.html
③トヨタ自動車:自動車製造からモビリティサービスへ

トヨタ自動車は、従来の「クルマを作る会社」から、CASE(Connected/Autonomous/Shared/Electric)という四つの領域で技術革新を促進させた移動・暮らし・都市のあり方を含めたサービス設計までビジネスモデルを拡張することが不可避と判断しています。
たとえば、個人向けの新車販売だけでなく、商用車・官公庁・法人用途への展開、また、単体のクルマではなく「使い方とシステムを組み合わせて売る」提案を強化しています。
仲間と協業すること、特許や技術を開放することも含め、従来の閉じた開発モデルからオープンで共有型の発想へと転換しています。
参考:https://global.toyota/jp/company/messages-from-executives/details/
④ソフトバンク:通信から投資・ITサービスへ

ソフトバンクは、従来の通信事業が中心だったビジネスモデルを根本から見直し、「Beyond Carrier(ビヨンド・キャリア)」という成長戦略を掲げ、通信以外の非通信事業を拡大しています。これは「製品・市場の新規性要件」に合致する事業転換の例です。
決済サービス「PayPay」をはじめとするフィンテック分野、AI/IoT/プラットフォームサービスなどを次々と立ち上げ、通信ネットワークだけでなく、それを活用したIT基盤やユーザー接点を強化しており、5Gなどの通信技術を「プラットフォーム」と位置づけ、複数のサービスをつなぎ合わせることで、通信のみでは提供できない付加価値を生み出そうとしています。
こうした動きによって、ソフトバンクは単なる通信提供企業から、「総合デジタルプラットフォーマー」への変貌を図っており、新たな事業領域が将来的に売上の主要な柱となるよう転換を進めています。
⑤LINE:メッセージアプリから多角的サービスへ

LINEはもともとメッセージングアプリとしてのスタートでしたが、現在では「コミュニケーション」領域を超えて、広告・販促・データ活用を含む法人向けサービスを次々と拡大しています。これは新たな市場・製品の新規性要件を満たす事業転換の例です。
「LINEヤフー for Business」というプラットフォームを通じて、企業や店舗がユーザーとコミュニケーションを図るだけでなく、チラシ・ポイントADといった販促機能、Yahoo!広告との連携、データを使ったマーケティングソリューションなど、多面的なサービスで収益の柱を増やしています。
こうした構造変化を通じて、LINEは「メッセージを送る・受ける」だけのアプリケーション企業から、企業と消費者の接点を支える総合マーケティング/ビジネスプラットフォーム企業へと主力事業を再定義しつつあり、将来的にこれら法人向けサービス群が収益の中心となる方向でシフトを進めていることがうかがえます。
⑥DeNA:ゲームからヘルスケア・ECへ

DeNA はかつてモバゲーなどのソーシャルゲームを主力とする会社でしたが、近年はその枠を超えて、ヘルスケアや EC(電子商取引)など新しい領域への挑戦を強めています。これは、「製品・市場の新規性」の観点からみた事業転換の一例といえます。
たとえば、『OpenQuest』という社内ジョブプラットフォームや『OpenQuest Lounge』というピッチイベントを通じて、ゲーム領域からヘルスケア領域に異動する社員が増えており、異なる事業部門間での知見やノウハウの移転が活発になっています。
特に、ヘルスケア事業では、ゲームで培ったデータ解析技術やユーザーエンゲージメント(顧客を惹きつけるノウハウ)を応用し、健康増進や医療支援サービスを提供しています。これは、単に新市場に進出するだけでなく、既存事業の強みを活かして事業の仕組みそのものを革新し、新しい顧客価値を生み出す「新分野展開型」の典型です。
こうした社内制度・組織文化の改革を通じ、リソース(人材・ノウハウ)を異なる成長領域へ戦略的に流し込むことで、DeNAは収益の多角化を図り、将来的な新たな収益の柱を育てようとする戦略的な動きが特徴です。
⑦任天堂:花札からゲーム産業へ

任天堂は1889年、京都で花札の製造からスタートし、プラスチック製トランプの製造やテレビゲーム機、さらにNintendo Switchなどの新しい娯楽の形にシフトすることで、「製品・市場の新規性要件」を満たす事業転換の成功例となっています。
このビデオゲーム産業への参入は、花札という成熟市場からの戦略的な「事業再編型」のシフトであり、経営資源を成長分野へ集中させた結果です。この過程で、ゲーム&ウオッチやファミリーコンピュータといった当時としては革新的な遊びの仕組みを次々と生み出しており、単なる製品変更ではなく、「発想の転換型」のアプローチを取った点に大きな特徴があります。
また、オンラインサービスやストーリーテリング、ブランド事業の拡張(オフィシャルストアやテーマパークなど)も進めており、単なるゲームソフト/ハードの販売から、顧客体験全体を提供するエンターテインメント企業へと主力事業を再定義しています。
こうした変化を通じて、任天堂は伝統的な遊戯用品メーカーからデジタルエンターテインメントのパイオニアとしての地位を確立しています。
参考:https://www.nintendo.co.jp/corporate/history/index.html
⑧ヤマハ:楽器から音響機器・事業多角化へ

ヤマハは1887年に琴・風琴などの楽器製造から始まり、電子楽器や音響機器、プロオーディオ機器まで製品領域を拡大し、さらにその他の事業として産業用機器や部品事業、電子デバイス、通信機器への部材供給など、楽器・音響以外の技術応用分野にまで広げています。
この広範な事業転換の背景には、楽器製造で培った木材加工技術、音響・振動制御技術、および電子制御技術といったコア技術の戦略的な応用があります。例えば、PA用スピーカーやミキシングコンソールの展開に加え、自動車部品や電子デバイスなど産業用途への供給も行っています。これは「製品・市場の新規性要件」を満たす典型的な事業転換です。
特に、ヤマハは不採算事業を整理し、経営資源を成長分野へ集中させる「事業再編型」のアプローチを取り続けてきました。この結果、音楽市場で確立した高いブランド力と信頼性を、音響機器や産業用部品といった新市場へ持ち込み、多角的な収益の柱を築いています。こうした多角化は、ヤマハにとって既存の技術・ブランドを活かしつつ、音楽と産業の両市場で成長を確保する戦略的な事業転換であり、新たな競争優位を確立する動きといえます。
参考:https://www.yamaha.com/ja/ir/investor-digest/business/
⑨JSR:ゴム事業からデジタルソリューション事業へ

JSRはこれまで主にゴム・合成樹脂やディスプレイ材料などの化学素材メーカーとして知られてきましたが、近年は健康(ライフサイエンス)分野への注力を強め、さらに事業ポートフォリオを抜本的に転換する動きを見せています。これは、「製品・市場の新規性要件」に合致する戦略的な事業転換の一例です。
この転換の最大の焦点は、従来の石油化学系事業から、デジタルソリューション分野とライフサイエンス分野という二大成長領域への経営資源の集中です。特にデジタルソリューション分野では、半導体製造に不可欠なフォトレジスト材料で世界トップクラスのシェアを誇るなど、超精密化学技術を活かした「新分野展開型」を推進しています。
2025年4月、JSRは体外診断用医薬品およびその材料事業を子会社の医学生物学研究所および JSRライフサイエンスを含む新設会社へ吸収分割により承継させ、その新設会社の株式をトクヤマへ譲渡することを決定しました。
これによって、JSRは素材化学分野の技術力をバックグラウンドに、ヘルスケアや体外診断医薬品といった高成長かつ社会貢献が期待される領域で新たな競争優位を構築しつつあります。
参考:https://www.jsr.co.jp/news/2025/20250422.html
(2)中小企業
⑩株式会社鳥越樹脂工業 :自動車部品製造から健康グッズの開発

株式会社鳥越樹脂工業は、自動車用樹脂部品や各種プラスチック製品の設計・デザイン・試作・量産・品質保証を一貫して手がけてきた企業です。
これまで製造拠点を支えてきた「車依存」体質を転換するために、自社の樹脂加工技術を活かし、健康グッズ分野での自社ブランド商品の開発を行っています。たとえば、女性の骨盤のゆがみを和らげるクッションや、美顔ローラーなど。現在は健康グッズの品揃えを30種まで拡大しており、通販や商社を通じて販売しています。
このような転換で既存技術を応用しながら市場を拡げることで、将来的に新しい製品群が売上構成の重要な柱になることを見据えている点が特徴です。
参考:https://www.japia.or.jp/files/user/japia/gyoumu/CN/23CNshinjigyousoushutsujigyoutenkanjireishu.pdf
⑪メイラ株式会社:自動車分野から航空・宇宙、医療分野へ

メイラ株式会社は自動車用のボルト・ネジ・ファスナー類の開発・製造・販売を主力事業としてきましたが、この技術を活かし、航空・宇宙分野や医療分野へ事業領域を拡大しています。
たとえば、同社は超高強度ボルト/ナットなど航空宇宙での使用を想定した精密ファスナー、エンジン構造材や操縦系統に用いられるロッドASSYなどを手がけており、「H-IIAロケット」や国際宇宙ステーションでの締結部にも採用されるなど信頼性が求められる用途に応えています。
このような転換により、メイラは単なる自動車部品メーカーではなく、高精度・高付加価値な締結ソリューションプロバイダーへと主力事業を再定義しつつあり、将来の競争優位性を確立する動きを明確にしています。
参考:https://www.japia.or.jp/files/user/japia/gyoumu/CN/23CNshinjigyousoushutsujigyoutenkanjireishu.pdf
⑫佐藤精機株式会社 :輸送用機械器具製造から超高速鉄道用部品製造へ

佐藤精機株式会社は、自動車分野を中心とする既存の技術・実績をベースにしながら、未知の分野である超高速鉄道用の部品製造への参入を試みています。これは、まさに製品・市場の新規性要件を満たす事業転換の例です。
具体的には、事業再構築補助金を活用して、超高速鉄道で使用される部品を新たに製造する体制を整備することを決定しました。この新しい領域には、材料や形状、加工プロセスが従来と異なるものが含まれ、自社としては未経験の仕様や品質保証、トレーサビリティ、および情報管理体制の整備が不可欠とされています。
このように、佐藤精機は自動車分野で培った加工ノウハウを土台に、超高速鉄道の締結部品や構造部材といった新市場に挑戦しています。既存技術を新しい分野に適応させることで競争力を発揮し、単なる製造業から超精密・高信頼性部品メーカーへの転換を実現しつつあり、事業転換の成功例として注目されます。
参考:https://www.japia.or.jp/files/user/japia/gyoumu/CN/23CNshinjigyousoushutsujigyoutenkanjireishu.pdf
3.ベンチャー企業の新規事業成功例

ベンチャー企業の事業転換や新規事業立ち上げは、大企業とは異なり限られた資源の中で迅速な意思決定や外部人材との連携が求められます。特に資金調達や市場開拓、専門ノウハウの不足といった課題をどのように克服するかが、成功の分かれ目になります。
ここでは、独自の強みを活かした戦略を通じて、新たな事業領域への展開したベンチャー企業の新規事業成功例を紹介します。
(1)亀信ビジネスサービス株式会社:金融機関による地域商社事業の立ち上げ

亀信ビジネスサービス株式会社は金融機関の補助業務が中心でしたが、新たに「地域商社事業」を立ち上げ、地域特産品の販路拡大やブランド化に挑戦しました。
プロ人材の支援を受けることで、スケジュールを管理しながらプロジェクトを着実に進められ、また多角的な視点から検討を行い、計画の精度を高めることができました。その結果、地域商社の立ち上げに必要な計画を整備し、同時にチームが新規事業立ち上げに関するノウハウを習得しました。
現在は、新会社(地域支援事業)の設立に向けて準備を進めています。事業内容を磨き込み、優先順位を明確化し、アクションプランを策定しながら、当局からの認可取得を目指しています。
(2)株式会社イーズワン:太陽光蓄電器ベンチャーの資金調達支援

株式会社イーズワンは、太陽光蓄電器の企画・開発・販売を手がけるベンチャー企業であり、2019年に設立されました。
同社の製品は東京都の認定商品に選ばれ、自治体への積極的な販売が期待されています。すでに多くの注文が寄せられており、量産化に対応するための資金調達が大きな課題となっていました。
この課題に対処するため、資金計画や事業計画の策定に加え、金融機関とのネットワークを持つ外部のプロ人材を招聘しました。取り組みの結果、資金調達に必要な書類や計画を整備し、融資獲得に向けた具体的なステップを進めることができています。
参考:https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/venture/data/r4case.pdf
⑮株式会社ドローンフロンティア

株式会社ドローンフロンティアは、2017年に設立され、ドローンを活用したマンションの赤外線調査・点検事業を展開しています。
この事業に協業した建築士により、同社は調査における具体的なポイントを整理し、効率的かつ低価格でのサービス提供が可能になりました。
今後は、新たに始まるマンション管理計画認定制度を追い風に、ドローン調査の有効性を積極的に提案し、管理士や関連団体への導入促進を進める方針です。ドローンを活用した調査の社会的意義を強調しながら、事業の拡大を目指しています。
参考:https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/venture/data/r4case.pdf
4.GX・サーキュラーエコノミーを軸とした事業転換

近年、温室効果ガス削減や循環型社会の実現に向け、GX(グリーントランスフォーメーション)やサーキュラーエコノミーを軸とした事業転換が国内外の企業で加速しています。
ここでは、環境配慮型の取り組みを事業戦略の中核に据え、社会的要請と企業価値向上を両立させた企業の先進的事例を紹介します。
(1)スターライト工業|バイオマスプラスチック製品の展開

スターライト工業は、従来の化石原料由来プラスチックに代えて産業用ヘルメット分野で植物由来のバイオプラスチックを用いたバイオマスプラスチック製のヘルメットを2022年6月に発売しました。業界初の製品で、「GX・サーキュラーエコノミー」を重視した事業転換の一例です。
バイオマスプラスチック製のヘルメットは、傷つきにくく美観が長持ちすること、発泡スチロール不使用で通気性が良く、丸洗い可能であることなど、従来品にない機能も備えています。さらに、梱包袋にもでんぷんを配合したバイオマス素材を使用するなど、製品だけでなく資材まで環境配慮を徹底しています。
こうした取り組みは、製品の新規性(植物由来素材の採用)・市場の新規性(環境配慮製品の需要拡大)双方を備えており、事業転換の成功事例として評価できます。スターライト工業は、環境負荷の低減を図るとともに、ブランド価値と差別化を図って持続的な競争優位を構築しつつあります。
バイオマスプラスチックについては、以下の動画でわかりやすくご確認いただけます。
(2)花王・ライオン|再生プラスチックの活用

花王株式会社とライオン株式会社は、使用済みのつめかえ用パックを水平リサイクルして、再生材料を一部に使ったつめかえパック製品を共同で製品化しました。これは、環境負荷の低減や資源循環を目的とするGX(グリーントランスフォーメーション)に沿った好例です。
再生材料の使用比率は約10%で、その内訳としては回収されたつめかえパック由来の再生素材が1%、残り約9%は製品化過程で出た未使用パックから採取した材料を利用しています。
また、回収はイトーヨーカドーウーストアやウエルシア薬局などで実証実験が行われ、消費者参加の仕組みづくりも進行中です。
この取り組みは、「製品の新規性要件」と「市場の新規性要件」の両方を満たしており、植物由来化素材や再生素材の活用という新素材の導入、消費者や小売店を巻き込んだリサイクル市場の拡大という新市場の創出が行われています。
参考:https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20230516-001/
(3)アールプラスジャパン|2Rビジネス

アールプラスジャパンは、使用済みプラスチックの再資源化を推進する共同出資会社として2020年に設立されました。
食品・飲料メーカー、商社、金融機関など業種を超えた幅広い企業と連携し、プラスチックの回収から再資源化、再び製品化するまでの循環スキームを構築しています。2024年にはハウス食品グループが新たに資本参加し、業界を超えた取り組みが一層広がりました。
このような2R(リデュース・リサイクル)ビジネスは、従来廃棄・焼却されていたプラスチックを資源として再循環させることで環境負荷を減らすと同時に、新たな産業機会を生み出しています。アールプラスジャパンの活動は、GX・サーキュラーエコノミーを軸とした事業転換の先進事例として注目されています。
5.事例から学ぶ!発想の転換と失敗を防ぐコツとは

ここまで紹介してきた大手企業・中小企業・ベンチャー企業、そしてGXやサーキュラーエコノミーを軸にした事例からは、既存の技術や強みを新しい市場へ応用し、外部のパートナーや制度を柔軟に活用することで新たな収益源を確立してきました。その一方で、市場ニーズの過小評価や資金・人材面の不足といった要因は失敗の温床になりやすく、事業転換の難しさを物語っています。
ここでは、成功事例に共通する発想の転換のポイントをまとめます。
(1)成功事例に共通する発想の転換
事業転換に成功した企業には、共通して発想の転換が見られます。
既存の技術を新分野に応用する視点、外部パートナーや異業種との協業、そして社会課題をビジネス機会へと変換する柔軟な姿勢が事業転換の成功につながっています。
| 視点 | 具体例 | ポイント |
|---|---|---|
| 既存技術や強みを異分野に応用 | 富士フイルム:写真フィルム製造で培ったコーティング技術をディスプレイ材料や医療分野へ展開 | 自社資産を「未来の事業資源」として再定義 |
| 外部パートナー・異業種との連携 | 日立造船:SDGsやグリーンボンドを活用し、環境・防災分野へ進出 | 協業により不足リソースを補完し、新市場を開拓 |
| 社会課題をビジネス機会に転換 | 花王・ライオン/アールプラスジャパン:プラスチック廃棄問題を循環ビジネスへ転換 | 社会的要請と収益モデルを結び付け、持続的成長を実現 |
これらの事例に共通するのは、「自社技術の再定義」「協業による補完」「社会的要請との接続」の3点です。これらを組み合わせることで、企業は持続的な競争優位を築き、事業転換の成功へとつなげています。
(2)失敗につながりやすい典型的な要因
事業転換は成長の大きなチャンスである一方、失敗に陥るリスクも少なくありません。典型的な要因を理解すると同時に、具体的な防止策を実行することが重要です。失敗につながりやすい典型的な要因として、収益構造の読み違いや短期的成果を急ぎすぎる姿勢などが挙げられます。
このような典型要因は、事業計画や組織体制に潜む小さなほころびから発生することが多く、早期に把握・対策を取らなければ事業転換全体を失敗に導きかねません。失敗を防ぐための主なアプローチは以下のとおりです。
| アプローチ | 具体例 | 成果につながるポイント |
|---|---|---|
| 事業計画と売上構成比の明確化 | 経済産業省の定義に沿って、新事業が売上の中心となる計画を策定 | リソース配分や投資判断を誤らずに済む |
| 小規模実証(PoC)の積み重ね | 新市場参入前に小規模で需要や顧客反応を検証 | 仮説を修正しながら段階的に拡大できる |
| 外部知見・制度の積極活用 | 専門人材の招聘、異業種協業、補助金制度の活用 | リソース不足を補い、リスクを抑えて挑戦可能 |
このような典型的要因は、事業計画や組織体制に潜む小さなほころびから発生することが多く、事前に把握・対策を取らなければ事業転換全体を失敗へと導きかねません。
【事例】老舗旅館のDXによる事業転換と競争優位の確立|陣屋
倒産寸前の危機にあった神奈川県の老舗旅館「元湯 陣屋」は、経営再建のため先進ICTによる抜本的な業務改革を決断しました。
同旅館は、従来の非効率な紙ベースの管理を打破するため、自らクラウド型ホテル管理システム「陣屋コネクト」を開発・導入しました。
これにより、予約・顧客情報・勤怠・原価管理といったバックヤード業務の劇的な効率化を実現し、従業員は接客などの「おもてなし」に集中できるようになりました。
結果、わずか3年で黒字転換を達成し、離職率の大幅な低下や週休3日制の実現など、旅館業の常識を覆す成果を上げました。
さらに、自社の成功ノウハウを凝縮した「陣屋コネクト」を他の宿泊施設へ外販し、システム事業という新たな収益の柱を確立。
これは、「業態転換型」と「新分野展開型」を組み合わせ、IT技術で旅館ビジネスの仕組みを革新した成功事例です。
参考:導入事例|陣屋公式サイト
(3)失敗を防ぐための実践的アプローチ
事業転換を成功へ導くには、潜在的なリスクをあらかじめ想定し、計画的かつ柔軟に対応することが重要です。特に「計画の明確化」「段階的実証」「外部活用」の3点を押さえることで、失敗リスクを最小化できます。
| アプローチ | 具体例 | 成果につながるポイント |
|---|---|---|
| 事業計画と売上構成比の明確化 | 経済産業省の定義に沿って、新事業が売上の中心となる計画を策定 | リソース配分や投資判断を誤らずに済む |
| 小規模実証(PoC)の積み重ね | 新市場参入前に小規模で需要や顧客反応を検証 | 仮説を修正しながら段階的に拡大できる |
| 外部知見・制度の積極活用 | 専門人材の招聘、異業種協業、補助金制度の活用 | リソース不足を補い、リスクを抑えて挑戦可能 |
このように「計画の精緻化」「小さな成功の積み重ね」「外部リソースの活用」を組み合わせることで、事業転換における不確実性を管理し、持続的な成長につなげることが可能です。
【事例】無人店舗ソリューションの実証(PoC)|東芝テック
東芝テックは、少子高齢化に伴う小売業の人手不足や利便性向上への対応として、無人店舗ソリューションの商品化を目指しました。
同社は、本格的な市場投入のリスクを抑えるため、自社グループの従業員を対象に小規模な実証実験(PoC)を実施しました。
実証では、スマートフォンや各種センサー、AI技術を組み合わせ、非接触での自動決済(フリクションレス体験)や不正検知など、多岐にわたる検証を行いました。
このPoCにより、実際の利用環境に近い形で技術の有効性や課題を抽出し、商品の機能改善や市場ニーズへの適合性を高めています。
この取り組みは、新サービスを開発する際、「小規模実証(PoC)の積み重ね」によって、不確実性を管理しつつ段階的な事業転換を図る好事例です。
参考:PoCとは? 意味・やり方・ポイント・事例10選|ソフトバンク
(4)発想の転換を持続可能な競争優位へ
単なる多角化では競合に模倣されやすいため、持続可能な優位性を築くには「社会的要請」と「企業の強み」を重ね合わせる視点が求められます。
特に近年は、GX(グリーントランスフォーメーション)やサーキュラーエコノミーといった環境・社会課題が世界的に注目されており、これらをビジネス機会に変えることが企業の競争力を左右します。それぞれの背景と企業に求められる動きを以下に整理します。
| 観点 | GX(グリーントランスフォーメーション) | サーキュラーエコノミー |
|---|---|---|
| 背景 | 脱炭素社会の実現に向けた国際的要請(2050年カーボンニュートラルなど) | 資源枯渇や廃棄物問題への対応、資源循環型社会の実現 |
| 企業に求められる動き | 再エネ導入、省エネ化、EVシフト、脱炭素投資 | リデュース・リユース・リサイクルを軸とした事業モデル転換 |
| ビジネス機会 | 省エネ技術や再生可能エネルギー市場の拡大 | 再生素材・リユース製品・リサイクル技術の需要増加 |
| 競争優位の要素 | 脱炭素と成長戦略を同時に実現 | 環境配慮と新たな市場価値を両立 |
このように、事業転換を単発の施策として終わらせるのではなく、社会的課題への対応と企業戦略を結びつけ、持続的に競争力を強化していくことが、真の成功につながります。
【事例】異業種協創によるプラスチック循環ビジネス|アールプラスジャパン
アールプラスジャパンは、花王、ライオン、サントリーなど、消費財、化学、エネルギー分野の12社を超える日本を代表する企業が共同で出資・設立した企業です。
これは、深刻化するプラスチック廃棄物問題という社会的課題に対し、異業種が連携することで解決を目指すという、発想の転換から生まれた事例です。
同社は、使用済みプラスチックを高度な技術で効率的に再資源化する新しいビジネスモデルを構築。
これにより、各企業は再生プラスチックの安定供給を受けられるようになり、サーキュラーエコノミー(資源循環)の実現を加速させています。
競合企業同士が協業することで、自社単独では解決できない業界共通の課題を克服し、環境配慮と新たな市場価値を両立する持続可能な競争優位を築いています。
6.まとめ
変化の激しい現代において、事業転換は企業が持続的に成長するための生命線です。
今回ご紹介した事例は、大手から中小、ベンチャー企業に至るまで、それぞれの状況に応じた戦略と実行力をもって変革を遂げた証です。自社の強みを再定義し、時代の変化に柔軟に対応することで、新たな成長機会を掴むことができるでしょう。


