環境対策と経済成長の両立が企業にとって避けて通れないテーマとなる中、日本政府はグリーン成長戦略を策定し、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な道筋を提示しています。
本記事では、グリーン成長戦略の全体像に加え、14の重点分野、企業の取り組み事例などについて解説します。
1.グリーン成長戦略とは?定義や背景をわかりやすく

グリーン成長戦略は、環境制約を成長の制約とせず、むしろ新たな産業創出や技術革新の契機ととらえ、経済成長とカーボンニュートラルの両立を目指す国家戦略です。
ここでは、グリーン成長戦略の基本的な考え方と注目される背景について解説します。
(1)グリーン成長戦略の定義をわかりやすく解説
経済産業省を中心に関係省庁が連携し策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、今後成長が期待される14の重点分野について、技術革新・市場創出・制度整備を含む具体的なロードマップが明示されています。
対象分野は、エネルギー、製造、運輸、建設、農業、ライフスタイルなど多岐にわたり、再生可能エネルギーの導入拡大、水素の利活用、資源循環の強化などが主な施策となっています。
これらの取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、企業にとっては次世代の競争力確保や新規事業創出の契機ともなり得る重要テーマです。
政府は各分野に対し、規制改革、税制優遇、研究開発支援、公共投資などを通じて企業活動を後押ししており、民間企業の積極的な関与が求められています。以下の動画では、政府から企業への支援であるグリーンイノベーション基金についてわかりやすく解説しています。
(2)グリーン成長戦略が注目される背景
グリーン成長戦略が企業経営の観点から注目される背景には、以下の4つの要因が挙げられます。
①ESG投資の拡大
ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮する企業に対して、投資資金が集まる潮流が強まり、特に環境への取り組みは企業評価における重要な指標となっています。
企業の評価基準として環境への配慮が重視されるようになったことで、グリーン成長戦略に則った取り組みをする企業は投資家からの評価が高まり、資金調達がしやすくなる傾向にあります。
近年では日本国内でもESGファンドの規模が拡大しており、企業の環境対策が投資判断の重要な要素となっています。
②化石燃料への依存リスク
原油・天然ガスなどの化石燃料は、国際的な政治情勢や需給バランスの影響を強く受けるため、価格が不安定です。
加えて温室効果ガスの排出に対して炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングが導入される中、依然として化石燃料に依存することは、企業コストの上昇を招く構造的リスクといえます。
参考:日本が抱えているエネルギー問題|経済産業省
参考:カーボンプライシングの効果・影響|環境省
参考:カーボン・プライシングの活用に向けた課題|日本総研
③環境問題に対する意識の変化

消費者の購買行動にも明確な変化が表れており、平成24年度に実施した環境省による調査「これまでの大量生産・大量消費型の経済に対する意識」では約80%の人が従来の経済活動から変えていく必要があると回答しています。
従来は価格や機能性といった要素が製品選定の主な基準でしたが、現在では「環境に配慮しているか」「サステナブルな方法で生産されているか」といった観点が、購入判断に大きな影響を及ぼしています。
この流れは今後さらに加速する可能性があり、企業にとっては単なる環境対応にとどまらず、顧客との信頼構築やブランド価値向上の戦略的施策として位置づける必要があります。
ミレニアル世代やZ世代はこのようなエシカル消費への関心が高く、企業の環境対策がブランド選択の重要な要因となっています。
④ビジネスチャンスの創出
電気自動車(EV)や水素エネルギーといった次世代エネルギー分野では、技術革新が加速し、グローバル市場における競争が一層激化しています。これに伴い、車両本体の製造だけでなく、関連するサプライチェーン全体に新たな事業機会が広がっています。
また、水素ステーションやEV用充電設備などのインフラ構築においても、設計・施工・運用・保守といった周辺ビジネスへの需要が拡大しており、機電系エンジニアや施工技術者といった専門人材の確保が急務となっています。
(3)グリーン成長戦略はいつ策定されたのか
日本は2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
策定から現在に至るまで、政府は以下のような支援ツールを総動員することで、民間企業の前向きな挑戦を後押ししています。
- グリーンイノベーション基金(予算)
- 税制優遇
- 金融支援
- 規制改革・標準化
- 国際連携
- 大学における研究推進
- 2025年日本国際博覧会との連携
- 若手ワーキンググループの設置
その背景には、エネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資を通じたイノベーション創出など、従来の取り組みを大きく加速する必要があるという認識があります。
参考:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
(4)2050年カーボンニュートラルとの関係
経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略が策定されました。単に温室効果ガスの排出削減を目指すだけでなく、産業構造やエネルギーシステムの転換を経済成長のチャンスと捉え、成長戦略と環境戦略を一体的に推進することが大きな特徴です。
カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの最大限の導入、電化の進展、次世代型エネルギー(例:水素・アンモニアなど)の普及、カーボンプライシング制度の確立など、多方面での改革が求められます。
2.グリーン成長戦略の14分野について|自動車・水素分野についても詳しく

グリーン成長戦略では、成長が見込まれる14の重点分野が明示されており、これらは産業構造の転換や技術革新、新規市場の形成を促す中核領域として位置づけられています。
ここでは、14の分野の概要を詳しく解説します。
(1)14の重点分野の概要
経済産業省を中心とした関係省庁は、グリーン成長戦略の実現に向け、2050年を見据えて成長が期待される14の重点分野を設定しています。これらの分野では、それぞれにおいて脱炭素化に向けた高い目標が掲げられており、今後の政策・技術・投資の方向性を理解する上で重要な指針となります。
以下では、各分野における代表的な取り組み目標を紹介します。
| 洋上風力・太陽光・地熱 | ・洋上風力:2040年までに3,000〜4,500万kW規模の投資誘導を目指す ・太陽光:2030年を目途に、次世代型太陽電池の普及に向けた研究開発を加速 ・地熱:自然公園法や温泉法の見直しにより開発スピードを向上。 |
|---|---|
| 水素・燃料アンモニア | ・水素導入量:2050年までに最大2,000万トンに増やす ・燃料アンモニア:東南アジアマーケットへの輸出を促進する |
| 次世代熱エネルギー | ・都市ガス:カーボンニュートラル化を2050年までに実現 |
| 原子力 | ・2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立 |
| 自動車・蓄電池 | ・2035年までに国内の新車販売を100%電動車とする目標を設定 |
| 半導体・情報通信 | ・2040年までに半導体・情報通信産業のカーボンニュートラルを実現する |
| 船舶 | ・2025年までにゼロエミッション船の実証事業を開始し、従来の目標である2028年よりも前倒しでゼロエミッション船の商業運航を実現 |
| 物流・人流・ 土木インフラ | ・ドローン物流の本格商用化を進め、地域物流の効率化を図る |
| 食料・農林水産業 | ・2040年までに農林業機械や漁船の電化・水素化などの技術確立を目指す |
| 航空機 | ・水素航空機の実用化に向けたコア技術の開発を推進 |
| カーボンリサイクル・マテリアル | ・人工光合成によるプラスチック原料のコストを既製品並みに(2050年目標) ・「ゼロカーボン・スチール」実現に向けた技術開発と実証を進行中 |
| 住宅・建築物・次世代電力マネジメント | ・中高層建築物の木造化を促進し、都市の脱炭素化を支援 ・デジタル技術と市場機能を活用した次世代電力網の構築を推進 |
| 資源循環関連 | ・技術革新・設備整備・低コスト化を通じて循環型社会の実現を支援 |
| ライフスタイル関連 | ・地域における脱炭素の実践モデルを他地域・海外へと波及させる取り組みを展開 |
さらに詳しく知りたい方は経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をご覧ください。
(2)特に注目すべき3つの分野

14の重点分野のなかでも、以下のような産業構造の転換に直結する以下の3分野が注目されています。
①次世代再生可能エネルギー
再生可能エネルギーの導入拡大は、カーボンニュートラル実現に向けた中核的な施策であり、企業のエネルギー調達コストやサプライチェーンの安定性にも直結する重要分野です。
日本は洋上風力や地熱など、地理的特性を活かした発電ポテンシャルを有しており、グリーン成長戦略では、次世代型太陽電池の研究開発支援や、法制度の見直しによる開発加速などが明記されています。
こうした再エネ技術が社会実装されることで、企業にとっては再生可能エネルギーの調達コスト低減や脱炭素型のブランド戦略強化が期待できるほか、家庭や地域への波及効果によって社会全体のエネルギーコスト最適化にも寄与します。
②カーボンリサイクル・マテリアル
カーボンリサイクルは、CO₂を排出源ではなく資源として捉え直す革新的な技術分野です。CO₂を原料に再合成したプラスチックや燃料、建設資材への応用などが研究・実証段階から社会実装フェーズに移行しつつあります。
企業にとっては、サステナブルな調達や製品設計における競争力の強化につながると同時に、ESG評価や国際的な調達基準にも適応しやすくなります。
③資源循環関連
資源循環の推進は、リニア型経済からサーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換を支える重要な取り組みです。
グリーン成長戦略では、廃棄物由来のエネルギー回収技術や、再資源化におけるコスト削減、災害時の地域エネルギーセンター機能の確立などが重点項目とされています。
これにより、企業は環境負荷の低減と同時に、安定的なエネルギー供給の確保や、非常時のレジリエンス向上といった経営的メリットも享受することができます。
(3)自動車・水素分野の位置づけと重要性

政府は2050年カーボンニュートラルに向けた中間目標として、2030年度の温室効果ガス削減目標を設定しています。
上記のグラフからも分かるように、日本は1990年の排出量990万t-CO₂を基準に、2013年には747万t-CO₂、2019年には582万t-CO₂まで減少させてきました。今後はより一層の削減努力が求められており、特に自動車・水素・再エネ分野での技術革新や制度支援が不可欠となります。
これに伴い、水素ステーションなどの社会基盤整備も重点的に推進される予定です。以下の動画では岩谷産業とコスモエネルギーホールディングスが運営する水素ステーションについて、ご確認いただけます。
水素は、再生可能エネルギー由来の電力で製造すればCO₂を排出せず、発電・輸送・産業利用まで幅広く活用できる特性を持ちます。グリーン成長戦略では、大規模な水素サプライチェーンの構築や、火力発電への水素・アンモニア混焼導入、製鉄・化学など産業部門への水素活用が重点課題とされています。
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility_hydrogen/pdf/001_04_00.pdf
3.グリーン成長戦略の実行と支援策

ここでは、グリーン成長戦略を現実の行動へ移すための実行計画の全体像と、企業や自治体が活用できる支援策のポイントを解説します。
(1)実行計画の全体像
グリーン成長戦略の実行計画は、2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップを具体化したものです。
単なる環境施策にとどまらず、研究開発・社会実装・規制改革・投資支援を一体的に進める産業政策として位置づけられている点に大きな特徴があります。
| 実行計画の要素 | 内容 |
|---|---|
| 重点分野ごとの工程表 | 14の重点分野ごとに研究開発から商用化までのステップを明確化。自動車・水素・再生可能エネルギーは短〜中期で重点的に取り組まれる。 |
| 官民連携による資金支援 | 2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を中心に、民間投資を呼び込みながら長期的な研究開発・実証事業を支援。 |
| 制度改革・規制見直し | 新技術の普及を阻害しないよう規制緩和や標準化を推進。水素ステーションや充電インフラの整備など社会実装を後押し。 |
| 国際連携の強化 | 世界各国と連携し、日本発の技術やビジネスモデルを輸出産業へ展開。特にアジア諸国との協力を強化。 |
実行計画は環境対策を成長のエンジンと捉え、企業が安心して投資・事業展開できる環境を整備することを目的としています。
(2)政府・自治体による補助金制度の活用
グリーン成長戦略を実効性のあるものとするために、政府や自治体は多様な補助金・支援制度を設けています。
| 補助金・支援の種類 | 内容 |
|---|---|
| 再生可能エネルギー設備の導入補助 | 太陽光発電や風力発電など再エネ設備の導入を後押しする補助金。自家消費型や地域エネルギー事業に活用できる場合もある |
| 水素関連インフラの整備支援 | 燃料電池車(FCV)や水素ステーションの普及に向けた補助制度 |
| 省エネ機器・工場設備の更新支援 | 高効率な生産設備や省エネ機器への更新を対象とした補助や税制優遇 |
| 研究開発・実証事業の助成 | グリーンイノベーション基金などを通じて、新技術の研究開発や実証実験を支援する制度が設けられることがある |
こうした補助金制度は、国の方針や国際情勢に応じて毎年度見直されることが多く、制度の内容・対象・申請要件は変動します。そのため、活用を検討する際には、経済産業省や環境省、各自治体の最新情報を確認することが欠かせません。
参考:https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/2025/
(3)企業が取り組む際の具体的ステップ
企業がグリーン成長戦略に沿った取り組みを進める際には、以下のようにいくつかの流れを意識するとスムーズになる可能性があります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 現状把握 | 自社のエネルギー使用量や排出量を確認し、 改善の余地を見極める。 |
| 施策検討 | 省エネ機器の導入、再生可能エネルギー活用、 サプライチェーン効率化など、 実現可能な施策を検討する。 |
| 支援制度の活用 | 国や自治体の補助金・税制優遇を確認し、 自社の計画に適合する場合は活用を検討する。 |
4.企業がグリーン成長戦略に取り組むメリットと課題

グリーン成長戦略への取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、企業の中長期的な経営安定性や競争力強化に直結する重要な経営戦略の一環です。
ここでは、企業がグリーン成長戦略に取り組む具体的なメリットについて解説します。
(1)企業にとってのメリット
①ESG評価での優位性
脱炭素への取り組みや環境リスクへの対応状況は、ESG投資の中心的評価指標とされており、サステナブルファイナンスやグリーンボンドの発行においても重要な要件となっています。
企業がグリーン成長戦略に沿って明確な脱炭素ロードマップを策定し、再生可能エネルギーの活用、省エネ技術の導入、資源循環への取り組みなどを可視化することで、ESG格付機関や投資家からの信頼を獲得しやすくなります。その結果、以下のような金融的メリットを期待できます。
- ESGを重視する機関投資家との対話の深化
- 低金利での資金調達(例:グリーンローン・トランジションファイナンス)
- 株主構成の質的向上および株価の安定化
金融機関もTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に準拠したリスク開示を強化する中、脱炭素に前向きな企業への融資を優先する動きが広がっており、戦略的に環境対応を進める企業には資金面での追い風が生まれています。
参考:企業の脱炭素経営と環境省の取組|環境省
参考:脱炭素経営に向けた取組の広がり|環境省、経済産業省、農林水産省
参考:ESG地域金融実践ガイド3.0|環境省
②コスト最適化
今後、カーボンプライシングや排出規制の導入・強化が進む中、環境対応への遅れは予期せぬコスト負担の増大を招きかねません。
先行的に脱炭素化を進めることは、そうした外部コストの発生を抑制し、コスト予見性の高い経営基盤を築くうえで極めて重要です。経済産業では、脱炭素効果のある設備投資への税制優遇も行っており、以下の動画で概要をご確認いただけます。
また、省エネルギー技術の導入や資源の効率的な活用は、直接的なコスト削減効果をもたらします。たとえば、エネルギー効率の高い設備投資や再生可能エネルギーの導入は、長期的には電力コストの安定化・削減に寄与します。
さらに、廃棄物の削減や再資源化を通じて、処理費用・原材料費の最適化を図ることも可能であり、製品設計段階から循環型モデルを取り入れ、ライフサイクル全体でのコスト効率性を高める企業も増えています。
このようにグリーン成長戦略は「環境投資=コスト」ではなく、コスト最適化と収益性向上を両立させる経営手法として再定義されつつあります。
③顧客接点の強化
環境対策は前提条件となりつつあり、取り組みが不十分な企業は、消費者・投資家双方からネガティブな評価を受けるリスクが高まっています。
グリーン成長戦略を企業戦略に組み込むことで、脱炭素・再生可能エネルギー・資源循環などに沿った取り組みを可視化・発信できるようになり、顧客や市場とのエンゲージメントを強化する手段となります。
また、環境負荷の低減に積極的な姿勢を示すことは、機関投資家との対話の深化やステークホルダーからの信頼確保にもつながり、長期的なブランド価値形成および企業価値向上の基盤となるでしょう。
④新市場・新規事業の創出
とりわけ、再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、水素活用、資源循環といった分野は、政策支援と市場成長が両輪で進行しており、グローバルに見ても中長期的な成長が期待される有望市場です。
こうした動きは、令和6年に閣議決定された「第六次環境基本計画」とも連動しており、循環共生型社会(環境・生命文明社会)の構築を掲げ、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブなどのもと、統合的かつスピーディーな施策展開を打ち出しています。
第六次環境基本計画は、企業・地方公共団体・市民・NGOなど多様な主体が共進化(コ・エボリューション)することの重要性が強調されており、民間企業には社会課題をビジネスチャンスに転換する役割が期待されています。
参考:循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ|内閣府
(2)直面する課題
グリーン成長戦略を進める過程では、多くの企業がいくつかの課題に直面する可能性があります。代表的なものとしては、以下の点が挙げられます。
| 課題の種類 | 内容 |
|---|---|
| 技術的な課題 | 水素利用や再生可能エネルギーの大規模導入など、 実用化・商業化に時間を要する技術もあり、 研究開発や実証実験の段階にとどまるケースがある。 |
| コスト負担の課題 | 省エネ設備や再エネ導入には初期投資が必要で、 短期的にはコスト増につながる可能性がある。 特に中小企業は資金調達や投資回収に不安を抱える場面もある。 |
| 規制対応の課題 | 国内外で環境規制が強化され、基準やルールが頻繁に見直される傾向がある。企業は規制動向を注視し、柔軟に対応する必要がある。 |
これらの課題は一様ではなく、業種や企業規模によって影響の度合いが異なると考えられます。ただし、長期的には技術革新や制度整備によって改善が進む可能性もあるため、慎重に見極めながら取り組む姿勢が求められます。
5.グリーン戦略に関連する日本企業の取り組み・実行事例

脱炭素化などは一部の先進企業にとどまらず、産業全体での競争力確保のテーマとして位置づけられつつあります。ここでは、日本企業の取り組み事例について紹介します。
(1)カーボンニュートラルビジョン2050

鉄鋼業界は、エネルギー多消費型産業としてCO₂排出量が多く、脱炭素化が極めて困難とされる分野のひとつです。
鉄鋼メーカーの日本製鉄はカーボンニュートラルビジョン2050を掲げ、製鉄プロセス全体の抜本的な脱炭素化に向けた取り組みを加速させています。その中核となるのが、水素還元製鉄の実現とカーボンリサイクル技術の開発です。
水素を活用した還元プロセスや排出ガスからのCO2回収・再利用技術の開発が進められており、CO₂排出量の大幅な削減を目指しています。
さらに、製造工程で発生する排出ガスからCO₂を回収し、再利用するカーボンリサイクル型の製造システムの研究開発も進行中です。これにより、従来の大量排出構造から循環型への転換を図っています。
(2)カーボン・ニュートラル・ステーション

関西の大手私鉄である阪急電鉄は、カーボン・ニュートラル・ステーションの構築を通じて、駅施設におけるCO₂排出量の実質ゼロ化を目指す先進的な取り組みを展開しています。
駅舎の屋根に太陽光発電システムを設置し、駅の電力の一部または大部分をクリーンエネルギーで賄うことにより、電力由来の温室効果ガス排出を削減しています。
さらに照明設備のLED化などを通じて電力使用量そのものを削減し、利用者の安全性や快適性を確保しながら、環境負荷の最小化を実現する取り組みが各駅で段階的に進行中です。
このような取り組みは、単なる設備更新ではなく、都市生活者との接点である駅空間を活用したサステナブルな都市づくりへの貢献として、業界を超えた注目を集めています。
(3)環境マネジメント運用体制

味の素グループでは、環境に配慮した事業運営を推進するため、取締役会の下に社外有識者を含むサステナビリティ諮問会議を設置し、経営会議の下にはサステナビリティ委員会を設けています。
環境監査や環境アセスメントを実施することで法令遵守や環境リスク低減を図るほか、ISO 14001認証の取得やその考え方に基づく運用を推進しています。
さらに、環境教育の充実や、サステナブルファイナンスを活用したGHG排出削減投資などを通じて、2030年度までに環境負荷を2018年度比で50%削減する目標の達成を目指しています。
6.まとめ
グリーン成長戦略は単なる環境政策ではなく、産業の未来を決定づける重要な指針となっています。企業はこの流れを好機と捉え積極的に取り組むことで、持続可能な経営を実現できるでしょう。
今後の動向や政策の変化を注視しながら脱炭素社会への対応を加速させることが、次世代のビジネスモデルを確立する鍵となるでしょう。


