省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)では、貨物輸送を委託する荷主にも省エネの取り組みが求められています。
本記事では、省エネ法における荷主の定義、特定荷主の判断基準と計算方法、課される義務、法改正への対応、そして実務の前提となる輸送データの把握体制まで解説します。
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1.省エネ法における荷主とは?基本概念と対象範囲

省エネ法の荷主規制を理解するには、まず自社が法律上の荷主に該当するかを正しく判断する必要があります。本章では、省エネ法における荷主の定義、準荷主との違い、荷主が規制対象とされる理由を整理します。
(1)省エネ法における荷主の定義
省エネ法における荷主とは、契約等において貨物の輸送方法等を実質的に決定している事業者を指します。貨物の所有権の有無は問われません。
改正前は「自らの事業に関して自らの貨物を輸送事業者に輸送させる者」とされており、貨物の所有権が判断基準でした。しかし、貨物を所有しないまま輸送条件を決定する事業形態が増えたことを受け、契約上の決定権を基準とする現在の定義に変更されています。
このため、一般的な商慣習で荷主と呼ばれるかどうかと、省エネ法上の荷主に該当するかどうかは一致しない場合があります。例えば、商品の売買契約において輸送を手配する側が買主であれば、貨物の所有権が売主にあっても買主が省エネ法上の荷主となる可能性があります。
自社の契約実態に照らして、誰が輸送方法・輸送事業者・運賃等を実質的に決定しているかを確認することが判断の出発点です。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/shoene_tebiki_02.pdf
(2)準荷主とは
準荷主とは、貨物の到着日時や到着場所を指示することができる事業者を指します。典型的には、発注者側として納品日時を指定する着荷主が該当します。荷主と準荷主の違いは、課される責務の性質にあります。
荷主には省エネの取り組みに関する判断基準の遵守が求められ、特定荷主に該当すれば報告等の義務が生じます。一方、準荷主に課されるのは、荷主や輸送事業者が行う省エネの取り組みへの協力に関する努力義務であり、報告義務はありません。自社がどちらに該当するかは、輸送契約の当事者であるかどうかで判断します。
輸送契約を締結し輸送方法を決定する立場であれば荷主、輸送契約の当事者ではないものの到着日時等を指示できる立場であれば準荷主に該当します。
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/ninushi_wg/pdf/001_03_00.pdf
(3)荷主が省エネ法の規制対象となる理由
荷主が規制対象とされる理由は、輸送時のエネルギー使用量が荷主側の条件設定に大きく左右されるためです。
貨物輸送のエネルギー効率は、輸送事業者の運転技術や車両性能だけで決まるわけではありません。発注ロットの大きさ、納品リードタイムの長短、配送頻度、納品時間の指定といった条件は荷主が決定しており、これらが積載率や輸送回数、輸送手段の選択に直接影響します。
輸送事業者は荷主の指定した条件の範囲内でしか輸送を組み立てられないため、輸送事業者単独の努力では省エネに限界があります。
国土交通省の調査では、1運行あたりの手待ち時間が1時間を超えるケースが全体の55.1%を占め、発生要因は発荷主・着荷主でほぼ半々(発荷主48.5%・着荷主51.5%)となっています。運送事業者からすると、荷主側の発注条件(ロット・リードタイム・納品時間指定)が変わらない限り、車両や運転の工夫だけでは省エネに限界があるのが実情です。
物流全体のエネルギー使用を合理化するには、輸送条件を決定する荷主側の関与が不可欠であるという考え方に基づき、省エネ法では輸送事業者と荷主の双方が規制対象とされています。
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/ninushi_wg/pdf/001_03_00.pdf
2.特定荷主の判断基準と計算方法

省エネ法上の荷主のうち、一定規模以上の輸送量を持つ事業者は特定荷主として追加の義務を負います。
ここでは、特定荷主の判断基準である3,000万トンキロの考え方、輸送量とエネルギー使用量の算定方法、該当可否を確認する手順を解説します。
(1)特定荷主とは|年間輸送量3,000万トンキロ以上
特定荷主とは、貨物輸送事業者に輸送させる貨物の年間輸送量が3,000万トンキロ以上の荷主を指します。該当した荷主は国への届出を行い、指定を受けた後は中長期計画書の提出、定期報告書の提出といった義務を負います。
3,000万トンキロの規模感は、下図のイメージをご参照ください。

出典:「省エネ法の手引き(荷主編)」(資源エネルギー庁) https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/shoene_tebiki_02.pdf
前年度の輸送量が3,000万トンキロ以上となった場合に届出の対象となるため、荷主に該当する事業者は毎年度、自社の輸送量を集計して基準への該当可否を確認する必要があります。なお、この基準は事業所単位ではなく事業者単位で判定します。
複数の事業所や事業部門から貨物輸送を委託している場合は、全社の輸送量を合算して判定するため、部門ごとの集計だけでは判断できない点に注意が必要です。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
(2)輸送量(トンキロ)の算定方法
例えば10トンの貨物を100キロメートル輸送した場合、輸送量は1,000トンキロとなります。
算定対象には、輸送事業者に委託して輸送させる貨物に加え、自社の車両で輸送する自家輸送の貨物も含まれます。輸送手段はトラックに限らず、鉄道、船舶、航空も対象です。一方、海外での輸送など国内輸送に該当しないものは算定対象外となります。
実務上の課題となるのが輸送距離の把握です。輸送事業者からの請求データには重量が記載されていても距離が含まれないことが多く、発地と着地から距離を算出する作業が必要になる場合があります。全社の輸送を網羅的に集計するには、どの部門がどの輸送契約を管理しているかを整理し、重量と距離のデータを取得できる状態を整えることが前提となります。
(3)エネルギー使用量の算定方法|燃料法・燃費法・改良トンキロ法
特定荷主が報告するエネルギー使用量の算定方法には、燃料法、燃費法、改良トンキロ法の3つがあります。各方法の概要と特徴は次のとおりです。
| 算定方法 | 算定の考え方 | 必要なデータ | 精度 |
|---|---|---|---|
| 燃料法 | 輸送に使用した燃料使用量から直接算定する | 燃料使用量 | 高い |
| 燃費法 | 輸送距離を燃費で除して燃料使用量を推計する | 輸送距離、燃費 | 中程度 |
| 改良トンキロ法 | トンキロに輸送手段別の原単位を乗じて推計する | 貨物重量、輸送距離、積載率区分等 | 相対的に低い |
どの方法を選択するかは、輸送事業者からどのデータを取得できるかによって決まります。燃料使用量の実績を取得できれば燃料法が使えますが、取得できない場合は燃費法や改良トンキロ法で推計することになります。
精度の高い燃料法には、輸送事業者との間で燃料使用量という詳細な実績データを共有できる体制が前提になります。自社の省エネ取り組みの効果を正確に把握する観点からも、より精度の高い方法で算定できるデータ連携体制を目指すことが重要となります。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/institution/
(4)特定荷主に該当するかの確認手順
特定荷主への該当可否は、次の流れで確認します。
- 前年度(4月〜3月)の輸送実績を集計する
- 委託輸送・自家輸送それぞれについて、貨物重量と輸送距離からトンキロを算出する
- 全社合算の年間輸送量が3,000万トンキロ以上かを判定する
基準以上であった場合は、貨物輸送量の届出を行い、特定荷主としての義務対応に移行します。
輸送契約は物流部門だけでなく、調達部門、営業部門、各事業部が個別に締結しているケースがあり、全社の輸送量を漏れなく把握するには部門横断の情報収集が必要になります。判定作業を毎年度実施することを踏まえ、各部門の輸送データを集約する担当と手順をあらかじめ定めておくことが、判定漏れを防ぐうえで重要です。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/ninushi/pdf/Step_by_Step2.pdf
3.特定荷主に課される義務

特定荷主に該当した場合は、省エネ法に基づく計画の作成・提出や定期報告、エネルギー消費原単位の改善に向けた取組が求められます。ここでは、特定荷主に指定された後に必要となる主な義務を、計画・報告・取組体制の観点から整理します。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
(1)省エネ計画の作成・提出義務
特定荷主に指定された事業者は、省エネ計画を作成し、年1回、主務大臣に提出する義務があります。ここでいう主務大臣とは、経済産業大臣および事業所管大臣を指します。
省エネ計画では、荷主の判断基準に示された取組の中から、自社で実施可能な内容を選定します。具体的には、取組方針の作成、輸送方法の見直し、モーダルシフト、積載率の向上、輸送距離の短縮、貨物輸送事業者や着荷主との連携などが対象です。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
(2)定期報告書の提出義務

出典:特定荷主の義務内容 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
定期報告書では、貨物輸送に係るエネルギー使用量、エネルギー消費原単位、省エネ措置の実施状況などを報告します。特定荷主は、前年度の輸送実績をもとに、輸送量やエネルギー使用状況を整理し、報告書に反映する必要があります。
定期報告を行わなかった場合や虚偽の報告をした場合は、50万円以下の罰金の対象となります。また、省エネへの取組が荷主の判断基準に照らして著しく不十分と認められる場合にも勧告、公表、命令、100万円以下の罰金の措置が講じられることがあります。
(3)エネルギー消費原単位を年平均1%低減する努力義務
特定荷主には、委託輸送に係るエネルギー消費原単位を、事業者ごとに中長期的にみて年平均1%以上低減させることが求められます。エネルギー消費原単位とは、委託輸送に係るエネルギー使用量を、売上高や輸送コストなど、そのエネルギー使用量と密接な関係をもつ値で割った指標です。
この指標は、中長期的な改善状況を評価するための基準として位置づけられるため、荷主判断基準に沿った省エネ措置を進めながら、毎年度の定期報告を通じて原単位の推移を把握し、継続的な改善につなげる必要があります。なお、エネルギー消費原単位が年平均1%以上改善できなかった場合には、その理由を定期報告書で説明することが求められます。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
(4)省エネ措置に取り組む義務
省エネ措置としては、エネルギー使用量の少ない輸送方法の選択や、トラック等の積載率向上など、輸送力の利用効率を高める取り組みが挙げられます。
具体的には、モーダルシフトの推進、自家用貨物車から営業用貨物車への転換、共同輸配送の実施などが対象です。また、輸送ルートや輸送量を把握し、実態に即したデータをもとに省エネ効果を確認しながら、取組を継続することも求められます。
参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/obligation/
(5)社内の推進体制を整備する義務
中長期計画書と定期報告書の提出において、継続的に対応できる実務体制が前提となるため、付随して社内の推進体制を整備することが求められます。
省エネへの取組が荷主の判断基準に照らして著しく不十分と認められた場合にも、勧告、公表、命令等の措置の対象となることがあるため、輸送データの把握、計画の策定、取組状況の確認までをサプライチェーン全体で継続的に運用できる体制を整備しておくことが必要です。
4.省エネ法対応を進めるための輸送データの把握体制

特定荷主の判定や定期報告、中長期計画書の作成には、輸送量やエネルギー使用量に関するデータの把握が前提となります。ここでは、省エネ法対応を継続するうえで整理しておきたい輸送データの把握体制を解説します。
(1)輸送量・輸送距離・貨物重量を継続的に把握する
特定荷主への該当可否の判定や定期報告書の作成には、輸送量・輸送距離・貨物重量の把握が前提となります。そのため、日常の輸送実績の段階から、どの貨物を、どこからどこまで、どのくらいの重量で輸送したのかを整理し、ルートごとに記録できる体制を整えることが重要です。
複数拠点や複数の輸送事業者を利用している場合は、部門ごとにデータが分散しやすいため、年度単位で輸送量を集計できるよう、継続的に蓄積しておく必要があります。把握の進め方は、次のとおりです。
| 把握する項目 | 具体的な把握方法 |
|---|---|
| 輸送量(トンキロ) | 貨物重量×輸送距離で算出し、輸送ルートごとに集計する |
| 輸送距離 | 実測距離、輸送計画距離、地図ソフトによる拠点間距離、都道府県庁所在地間距離などを使って把握する |
| 貨物重量 | 実測重量を基本とし、把握が難しい場合は容積や貨物の種類ごとの換算重量で整理する |
| 輸送ルート | 発地・着地・輸送機関ごとに整理し、主要な輸送から優先的に把握する |
| 集計単位 | 貨物ごと、またはルートごとに整理し、年度単位で全社合算できる形で記録する |
輸送量の把握では、まず主要な輸送ルートを抽出し、発地・着地・輸送機関ごとに距離と重量を整理したうえで、トンキロを積み上げていく形が基本です。初回の判定では概算で全体像を把握し、その後は定期報告書の作成に向けて、より実態に即したデータへ精度を高めていく流れになります。
(2)輸送事業者と連携してエネルギー使用量関連データを取得する
燃料法では燃料使用量、燃費法では燃費や輸送距離といった情報が前提になるため、どの算定方法を採るかに応じて、輸送事業者から継続的にデータを取得できる体制を整えることが求められます。
そのため、委託先ごとにどの項目を取得できるかを確認し、定期報告書の作成に必要な粒度でデータを受け取れるよう、あらかじめ連携方法を整理しておく必要があります。
(3)輸送データを集約・管理できる体制を整える
物流部門だけでなく調達部門、営業部門、各事業部が個別に輸送を手配している場合は、必要なデータが社内に分散しやすく、集計漏れや重複が生じるおそれがあります。
そのため、輸送データをどの部門が保有しているかを整理したうえで、発地・着地、貨物重量、輸送距離、委託先、燃料使用量等の項目を共通の管理単位で集約できるようにしておくことが重要です。記録方法は表計算でもシステムでも構いませんが、少なくとも年度単位で全社合算でき、特定荷主判定や報告書作成にそのまま使える形で管理しておく必要があります。
また、
輸送データを集約する際は、年度単位で全社合算できる管理体制を整えるだけでなく、自社が特定荷主の基準に該当するかを正しく判定することも重要です。特定荷主の指定基準や義務内容、企業に求められる対応を詳しく確認したい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

5.まとめ
省エネ法への対応では、まず自社が荷主・準荷主に該当するかを整理し、特定荷主に当たる場合は、輸送量の判定、エネルギー使用量の算定、届出・中長期計画書・定期報告書の提出まで一連の実務に対応する必要があります。継続的な対応には、輸送実績データを日常的に把握し、輸送事業者との連携や社内の集計体制を整えることが重要です。
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