規制強化や投資家からのESG開示要求が高まる中、輸送能力の維持と脱炭素化という、一見相反する二つの命題を同時に解決することが重視されています。本記事では、物流分野におけるESGの考え方を体系的に整理したうえで、荷主企業・物流事業者それぞれに求められる具体的な取り組みと、ESG経営が企業にもたらす競争優位性を解説します。
五十鈴株式会社の「次世代運行管理システムAIR」は、鋼材・重量物輸送の現場実績を持ち、自動配車・動態管理・自動日報・勤怠・請求のワンストップカバーにより、CO₂排出量の可視化や輸送効率化、労務管理の適正化を通じて、物流領域におけるESG対応体制の構築を支援します。セミオーダー型カスタマイズで自社の中長期戦略に合わせた導入が可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
1.物流におけるESGの考え方|E・S・Gそれぞれの取り組み

物流は、サプライチェーン全体のCO₂排出量・労働環境・コンプライアンスに直結する領域です。ESGの三要素それぞれが物流現場とどう結びつくのかを理解することが、実効性ある対応策の出発点となります。
(1)Environment(環境)|CO₂排出量削減と脱炭素化
日本の運輸部門におけるCO₂排出量は我が国全体の約18%を占めており、そのうちトラック輸送をはじめとする「貨物輸送」が約4割(全体の中では約7%)を占めています。政府が掲げる2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)という野心的な目標を達成する上で、物流分野の脱炭素化は避けて通れない最優先課題です。
2026年4月には改正物流効率化法が全面施行され、一定規模以上の荷主や物流事業者に対してエネルギー消費の抑制(中長期計画の策定など)が義務化されました。これにより、物流の環境対応はボランティアから事業を継続するための必須要件へとフェーズが変わっています。
改正物流効率化法では、2025年4月の第一段階施行で全荷主・物流事業者に努力義務が課された後、2026年4月の第二段階施行により、一定規模以上の荷主は「特定荷主」として国土交通大臣等から指定を受け、物流統括管理者(CLO)の選任、中長期計画の作成・提出、定期報告が義務化されました。特定荷主に指定された場合、中長期計画は5年に1度(変更があればその都度)の提出が必要となり、対応が不十分な場合は指導・助言から勧告・公表、命令、罰則へと段階的な行政措置が取られる仕組みです。
参考:https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/

(2)Social(社会)|労働環境改善と持続可能な輸送体制
物流におけるS(社会)の核心は、深刻化するドライバー不足と労働環境の改善です。2024年問題以降、トラックドライバーの時間外労働への規制が厳格化されましたが、高齢化や若手不足による担い手不足は依然として続いています。
国土交通省の資料(総務省「労働力調査」H27をもとに作成) によれば、道路貨物運送業では就業者の45.2%を40〜54歳が占めており、全産業平均(34.7%)と比較して高齢化が著しく進んでいます。一方、若年層(15〜29歳)の割合は全産業の16.3%に対して9.1%にとどまり、世代交代が進んでいない実態が浮き彫りになっています。
女性ドライバーの比率も道路貨物運送業では2.5%と極めて低く、多様な人材の参入が進んでいない現状も課題です。

国がグリーン物流の推進において輸送効率化を掲げる背景には、ドライバーの拘束時間や荷待ち時間を削減し、労働環境の適正化を図るというSの目的も内包されています。持続可能な労働環境を整えなければ、どれだけ優れた商品・サービスを提供していても市場に届けられない悪循環に陥るリスクに直結します。
参考:https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/15/150427/04.pdf
(3)Governance(ガバナンス)|法令遵守とリスク管理体制の構築
物流のG(ガバナンス)で求められるのは、コンプライアンスの遵守と、災害時でも物流を止めないBCPの構築です。2026年現在の法改正により、荷主・物流事業者ともに経営直下に物流の統括責任者を置くなどの内部管理体制の強化が迫られています。
さらに、下請け企業への適正な運賃の支払い(取引の適正化)や、不祥事の防止など、自社内だけでなくサプライチェーン全体のガバナンスを効かせることが、企業価値を守るために不可欠となっています。
物流効率化法の施行に先立ち、荷主企業・物流事業者は経済産業省・農林水産省・国土交通省が策定したガイドラインに基づき、業種・分野別に「自主行動計画」を策定・公表する取り組みを進めてきました。ガバナンス強化の土台として、自社の自主行動計画と中長期計画の整合性を確認しておくことが重要です。
参考:https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
参考:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/jisyukoudoukeikaku.html
2.荷主企業に求められるESG対応と事例
荷主企業はこれまで、物流をコスト管理の対象として捉えてきた傾向がありますが、ESGの観点からは物流を戦略的に設計・管理すべき経営課題として位置づける必要があります。
(1)CO₂排出量可視化と管理体制構築
自社の輸送活動に伴うCO₂排出量(Scope3カテゴリ4:上流の輸送・配送)を把握・開示することは、上場企業を中心に実質的な必須対応となりつつあります。
まずは輸送委託先から輸送距離・積載率・燃費データを収集し、排出量を算定するデータ基盤を整備することが第一歩です。
● 事例

三井倉庫ホールディングス、三井倉庫ロジスティクス、野村総合研究所の3社が共同で実施した実証実験では、トラックに記録計を取り付けて実際の走行距離や走行時間、ルート、さらには燃料消費量といった一次データをリアルタイムに取得するシステムを構築しました。
従来は一律で計算されていた倉庫や配送先での待機時間、戻りや準備ルートにかかる排出量までを網羅した、製品単位での実態に即したCO₂排出量算定が可能であることを実証しました。
(2)発注・納品体制の抜本的見直し
多頻度小口配送やタイトなリードタイムは、積載率の低下とドライバーの長時間労働を招く構造的な要因です。改正物流効率化法や食品の納品期限ルール見直しを背景に、発注頻度の削減・ロット納品への切り替え・リードタイムの延長に取り組む荷主企業が増えています。
具体的なアプローチとして、まずは従来行われていたバラ物の小口納品をケース単位などのロット納品へ切り替えるほか、日々の発注量に応じた発注頻度自体の見直しが進められています。
● 事例

大手小売チェーンの事例では、発注の早期確定により配送便の集約や空車回送の削減が実現したほか、製造メーカー側でも予測生産の精度向上により原材料廃棄ロスを年間約190トン削減した実績が報告されています。
発注・納品体制の見直しは自社の業務効率化にとどまらず、サプライヤーの食品ロス削減(E)と物流事業者の計画的な労務管理(S)を同時に達成できる、サプライチェーン全体への波及効果が大きい施策と位置付けられます。
(3)輸送効率化の推進
経済産業省の資料によると物流の2024年問題への対応として、積載率の向上と荷待ち・荷役時間の削減の2点が重点課題として位置づけられており、22社・30サービスのヒアリング調査をもとに具体的な解決策が整理されています。
● 事例

ラストワンマイル配送に特化したAI配車システムを導入した大手卸・小売企業では、AIが全国数十万台分の実走行データを解析して最適ルートを算出する仕組みにより、配車担当者の属人的なノウハウに依存することなく、常に高水準の積載効率と走行効率を維持することが可能となっています。
車両台数を48台から44台へ削減し、1人あたりの配送時間を2時間短縮、総走行距離を9.7%削減する成果を達成しました。
輸送効率化は自社コストの削減にとどまらず、CO₂排出量削減(E)とドライバーの労働時間適正化(S)を同時に達成できる、ESG経営における最も費用対効果の高い施策のひとつです。
3.物流事業者に求められるESG対応と事例
物流事業者にとってESG対応は、顧客(荷主)からの選別基準となりつつあると同時に、優秀な人材確保のためにも不可欠な取り組みです。
(1)労務管理DXによるドライバーの労働環境改善
ドライバーの労働時間管理をアナログで行っている事業者は、2024年問題以降、法令違反リスクと人材流出リスクの双方を抱えることになります。デジタルタコグラフ・勤怠管理システム・点呼システムの導入により、労働時間のリアルタイム把握と適切な業務割り当てを実現することが、労務管理DXの第一歩です。
● 事例

食品やペットフードを運ぶ菱木運送株式会社では、スマートフォンやドライブレコーダー、デジタコと連携して正確な運行・勤怠管理を行うクラウドサービスを導入しています。システムはあくまでサポート役であり運転手を管理するものではないという点と、運転手の労働環境改善に繋がるという点を真摯に伝え続けることがスムーズな導入につながっています。
運行中も管理者からリアルタイムで指示を出せるため、運行管理者の労働時間削減にも繋がっており、可視化した待機時間を基に事務所から荷主へ直接改善依頼が可能となり、待機時間の削減にも繋がっています。
(2)低炭素輸送への転換
EVトラック・ハイブリッドトラックへの段階的な切り替えは、物流事業者の環境対応における中心課題です。初期導入コストや充電インフラの整備が課題となるケースも多いですが、国や自治体の補助金制度を活用することで導入ハードルを下げることができます。
● 事例

石川県の運輸事業者である株式会社浜庄運輸は、補助金を活用して8トン未満のEVトラック1台を導入しました。EVトラックは従来のディーゼルトラックと比較して一回の走行距離が短くなるため、走行距離を短く設定し直すとともに、ドライバーの昼休憩中に充電を行うなど時間を有効活用する運用へ変更しました。
これにより、車両由来のCO₂排出量は導入前と比較して約3割にあたる年間約3トンの削減を達成し、油から電力へエネルギーを切り替えたことで、エネルギーコストを約6割に相当する年間約26万円削減することに成功しています。
(3)安全管理の徹底と多重下請け構造の是正
交通事故・労災の発生は、社会的信用の失墜と法的リスクを直接もたらします。安全管理体制の強化は、ESGのS・G両面に関わる取り組みであり、安全教育の定期実施・ドライブレコーダーによる運転挙動分析・健康起因事故防止のための健康管理強化が基本的な施策です。
● 事例

総合食品物流を手掛けるアサヒロジスティクス株式会社では、セイフティレコーダを採用してドライバーの安全運転とエコドライブの度合いを得点化して客観的に評価する仕組みを構築しました。さらに、社員満足の充実には家族とのコミュニケーションも重要であると考え、夏休みの休日に社員が家族連れで楽しめるイベントであるアサフェスを開催しています。
これらの取り組みの結果、安全運転評価の全社平均値が上昇傾向で推移しており、やさしい運転が安全に繋がるという意識が現場に浸透しました。また、家族を対象としたコミュニケーションの確保によって、家庭内からもドライバーに対する事故防止への働きかけが行われるようになるなど、安全管理と社員満足の双方において確実な成果を上げています。
4.ESG物流が経営にもたらす4つの競争優位性

(1)ステークホルダー(投資家・大手取引先)からの評価獲得
物流を含むサプライチェーン全体のESG管理が求められる中、大手荷主企業が物流委託先の評価においてESG対応を重視する動きが広がりつつあります。 ESG対応を積極的に進める企業は、こうした取引選別において優位に立つことができます。
特に、CO₂排出量データの開示やドライバー労働環境の改善実績は、取引先・投資家双方に対して具体的な評価材料として機能します。
(2)物流コストの最適化
燃費改善によるエネルギーコストの削減、労務管理の適正化による残業代・事故対応コストの低減、共同輸送による固定費の分散など、ESG対応は財務的なリターンとも両立します。短期的にはシステム投資や設備投資が必要となる場合もありますが、中長期的なコスト最適化の観点から費用対効果を評価することが重要です。
補助金・税制優遇の活用を含めた投資計画を策定することで、財務インパクトを抑えながら着実に取り組みを進めることができます。
(3)運べなくなるリスクを克服するレジリエンスの強化
ドライバー不足・燃料高騰・自然災害・感染症といった複合的なリスクが顕在化している現在、ESG物流の推進はこうしたリスクへの耐性を高めることに直結します。例えば、モーダルシフトの推進によって特定の輸送手段への依存リスクを分散させられ、労働環境の改善はドライバーの定着率を高め、安定した輸送力の確保につながります。
ESG対応を通じて構築した強靭な物流体制は、競合他社が「運べない」状況においても安定したサービスを提供できる差別化要因となります。
(4)サステナブル企業としてのブランド価値向上
ESG物流の取り組みを社内外に積極的に発信することは、企業ブランドの向上と優秀な人材の採用・定着に寄与します。特に物流事業者においては、環境認証(グリーン物流パートナーシップ会議等)の取得や、CSR報告書・統合報告書を通じた取り組みの開示が、差別化の有効な手段となります。
「サステナブルな物流パートナー」としての認知を確立することは、価格競争からの脱却と高付加価値なサービス訴求を可能にします。
5.まとめ
ESG物流とは、環境・社会・ガバナンスの三つの視点から物流を再設計し、持続可能な輸送体制を構築する取り組みです。2024年問題を契機に物流の脆弱性が広く認識された今、ESG対応は経営上の必須戦略へと変化しています。
五十鈴株式会社の「次世代運行管理システムAIR」は、自動配車・動態管理・日報管理などを通じて、輸送効率の改善、労務管理の適正化、運行情報の一元管理を支援します。ESG物流を見据えた運行管理体制の見直しをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。


